木彫りの重厚な扉の前に5人は再び立っていた。重たい鉄のノッカーがまるで彼らを威嚇しているかのようだ。
グレートヒェンは信じられなかった。
信じたくなかった。
あのヴァルターが背信者であるなど。親代わりに守ってくれたヴァルターが自分を裏切るなどと。
しかし、その意に反して彼女の頭脳は冷静に状況を分析していた。考えてみればヴァルターしかいないのだ。リリアーノを屋敷から逃し、ヨアヒムらならず者に彼女の奪取を命じる。そんなことが誰にも気づかれずに行える者など、ヴァルター以外に誰がいる。
商人ギルドの布告の話もこれで辻褄が合う。恐らく前もって計画を話していたのだろう。その計画とは大筋このようなものの筈だ。
ヨアヒムらの一味によるわたしの誘拐と同時に、秘密裡にリヒトシュタイン家との交渉が始まる。勿論、両者ともに結果を知っている出来レースだ。それによって
最後だけは公式に記録に残るが、それ以外は闇の中だ。誰も疑問には思うまい。リヒトシュタイン家の当主といえば、とても市政には参加できない少女なのだから(実際は社交界に出ないので、自分の評判は分からないが)。
ただ1つ理解できないのは、ヴァルターのメリットだ。彼は何年も、それこそ彼の一生のほとんどをリヒトシュタイン家のために捧げている。なぜ今この安泰な場所を捨てて、商人ギルドにつく? 商人ギルドが何を約束したとて、彼にそれに応じる危険を犯すほどの利益があるのか?
こう考えるのは自分がヴァルターに去って欲しくないからだ、グレートヒェンはそう思った。
実際、まだ信じられないのだ。ヴァルターは、ヴァルターだけは自分の味方をしてくれる、唯一の人間だと思っていたのだから。
私はきっと信じてしまうだろう。
ヴァルターが出てきて、「お嬢様、そんな世迷い言を信じになられたのですか?」なんて言ったとしたら。
なぜ、みな──わたしの愛するみな──はわたしを捨てて去っていくのだろう?
「どうする?」
アルブレヒトに尋ねられ、我に返った。
「俺達が片付けてくるまでここで待っていてもいいんだぞ?」
「わたくしも行きましょう」
グレートヒェンに迷いは無かった。結果がどうあれ、わたしにはそれを見届ける義務がある。たとえ苦しい真実が明らかになろうとも、それを覆い隠したまま毛布にくるまり生きるのは死ぬのと同義だ。
既にグレートヒェンは闘う覚悟と意志を持っていた。たった半日という短い時間も1人の人間を変えるには充分なのだということを、彼女は知った。
「そうか」
アルブレヒトもそれ以上は聞かなかった。
扉に近より、ノッカーを叩く。ゴンゴンという暗く重い響きが轟いた。
靴音。人の気配。
「……どうぞ」
ドアを開いて現れたのは先ほどは見なかったメイドだった。アルブレヒトが振り返った。グレートヒェンは頷いた。
「彼女は我が家の使用人です」
「そうか。執事はどこにいる?」
メイドへの質問だ。
「ご、ご案内致しますッ」
彼女は心なしか緊張しているようだ。
メイドは一行を先導して歩き出す。広間を横切り、階段を登る。アルブレヒト達4人にとっては本日2度目の道。廊下を下り、契約を交わした部屋へと導いた。
「ヴァルターはあちらの部屋におります。わたくしはここまで、と言われておりますので」
「ありがとう。下がっていいわ」
メイドが目を見開いてグレートヒェンを見つめた。彼女が自発的になにかを命じるのを聞くのが、余りに意外だったからだろう。当のグレートヒェンは集中していて気にも止めなかった。
一礼してメイドは部屋からいなくなった。
さて、考えなければ。なぜヴァルターはここにわたし達を呼んだ? 理由がないとは考えられない。隣は広間。戦闘にはもってこいだが、大勢が待ち構えている雰囲気は感じられない。
どちらにせよ同じか。やることに変わりはないんだから。
扉のノブに手をのせたグレートヒェンにアルブレヒトが声をかけた。
「1つ言っておくことがある」
──────────────
扉が開く。
明かりが差し込む。外からは立夏の祭の喧騒が聞こえてくる。うららかな春の午後。事情が事情でさえなければゆったりと穏やかに過ごせただろうか。
いや、もう夢見るのはやめたのだ。穏やかな日々も。安全な場所も。全てはわたしの夢だったのだ。春の日差しが見せた幻だったのだ。
窓際に立つヴァルターがゆっくりと振り返った。
「どうかなさいましたか。お嬢様?」
他に人はいない。ヴァルターだけだ。
「ヨアヒムという与太者にわたくしの拉致を依頼したのはヴァルター、あなたですわね?」
執事は何十年ものその経歴を偲ばせるような見事な一礼をした。
「その通りでございます」
ああ。
だめだ。グレートヒェンは目をそらした。とても正対できる相手ではない。わたしはこの男を心の底で軽んじていたのだ。自身の悪事がばれたとしても、顔色ひとつ変えずに対応する。それほどの人間だとは、とても……思わなかった。
「失礼ですが、お嬢様」
ヴァルターが続けて言った。
「わたしがなぜこのようなことを行ったかお分かりでしょうか?」
グレートヒェンは答えなかった。いや、答えられなかった。ヴァルターは構わず後を続けた。
「この街を発展させるためですよ。お嬢様。この街ヴュッペルタルには近隣のどの都市よりも立派なシグマー神殿がありながら、旧ドワーフ街道から外れているために巡礼者は他の都市に奪われ結果的に市の商業は停滞、参事会は依然として守旧派の貴族の手に握られたままです。
さてここでどうするか、ですよ、お嬢様? 答えは『商業ギルドに参事会員権を与える』です。商業ギルドが市政に携わるようになれば、より商業に重きを置いた進歩的な政策がとられるようになり、巡礼者も増加するのです。お分かりですか?」
「わたくしはそのための駒だというわけですか?ヴァルター」
グレートヒェンの声は震えていた。
ヴァルターは再度腰を折って一礼する。
「その通りでございます。貴族家一つで街の発展が買えるならば安いものでございましょう?」
グレートヒェンは自身の膝が震えるのを感じた。いけない、ここで怯んでは。わたしはもう過去のわたしではないのに。ここで言わなくては。
「ヴァルター、あなたに本日限りで……暇を出します。長い間ご苦労でした」
グレートヒェンは震えながらもゆっくりと声を出して明朗に単語を発音した。
「今引くのなら無傷でここから抜け出せるでしょう。あなたの組んだ連中に慈悲を乞うのもあなたの自由です。しかし無理に戦おうというのなら、容赦はしません。選びなさい!」
ヴァルターはしばし沈黙した。
「……どうやら今朝より少しだけ成長したようでございますね。しかしあなた様もまさかわたしがこのような場合を想定していなかった、などとはお考えになりませんでしょうな」
グレートヒェンはそこで気づいた。先程自分達が入ってきた部屋とは違う側のドアの向こうから荒い息が聞こえるのを。ヴァルターは手を叩いて大きな音をたてた。
「フェログサさん! 仕事です!」
ドアがゆっくりと開く。しかし向こうを見ている暇はない。グレートヒェンは素早く壁へと飛ぶと架かっていたフォイルとマンゴーシュをとり、構えた。
「な、なんだ……コイツは……」
後ろでアルブレヒトの驚愕の声。グレートヒェンは振り向きそして
それは身長10フィートを越える巨体のオウガだった。
大きなドアを身を屈めてくぐったそのオウガは歩くたびに床を揺らしていた。体重は軽く見積もって600か700ポンドはあるだろう。拳だけでグレートヒェンの頭より大きそうだ。腕の太さはグレートヒェンのウエストよりは確実に太い。おそらくヒップやバストよりも。身につけている服は色とりどりのおそらく人間の服を切ったり貼ったりして作ったシロモノだろう、おそろしく不恰好だった。
東の最果て山脈をその由来とするオウガという種族は多数が麓のエンパイアに下ってきている、と言われる。大部分は傭兵として。しかし、オウガをそう易々と見られる土地は滅多に存在しない。何より彼らは大食らいでその地の食料を根こそぎ食い荒らしながら移動しているのだから。
グレートヒェンはオウガを見るのは人生で初めてだった。人食いオウガの出てくる絵本を読んだ夜にはトイレに行けずおねしょした。オウガは恐ろしい。それはグレートヒェンの脳裡に深く刷り込まれた。膝の震えが止まらない。手に持った剣を落とさないよう握るので精一杯だ。
「な、なんだこの野郎は……」
アルブレヒトが後ずさりながら呟いた。どうやら彼もオウガを見るのは初めてらしい。その時オウガが口を開いた。
「やああぁろおおぉじゃああぁねええぇ!!」
牙だらけの口から耳をつんざく胴間声が響いた。思わずグレートヒェンはマンゴーシュとフォイルを持った手で耳を塞ぐ。
「アぁタシは女だあああぁぁ!」
え?
思わず目を疑う。
よくよく見ると確かに胸が膨らんでいるように見えないこともない。巨大な太鼓腹でほとんど分からないが。
「フェログサさん。その4人は頼みましたよ」
「たりめえぇぇだぁぁ! ボッコボコにしてやるぜえぇぇ!!」
叫び声でビリビリと服と鼓膜が震える。しかしグレートヒェンはオウガが喋るのを聞き、思わず微笑んでいた。なんだ。なにが化け物だ。わたしと
「何を笑っているのです?」
ヴァルターがめざとく気づく。
「その程度の戦力とは、わたくしも舐められたものですわね」
「ほう」
「この笑みは勝利を確信した笑みよ、ヴァルター! わたくしの勝利を!」
ヴァルターは表情を変えずに、素早い動作で背後からダガーを抜く。わたしはフォイルをヴァルターに突きつけた。
さあ、戦闘開始だ!!
──ウオォォォォ!!
アルブレヒトは叫び声を上げて目の前の巨体のオウガに斬りかかった。女だかなんだか知らないが油断すればこちらが死ぬ。フェログサとかいったオウガは手に持った頑丈そうな棍棒を振り上げ正面から突っ込んで来た。
「ハアッ!」
右からアルブレヒト、左からベルトルドが駆け抜けざまに斬りつける。アルブレヒトの剣は腹の脂肪を、ベルトルドの革裁ち刀は顔の肉を、それぞれ切り取るが全く致命傷にはなっていない。
そして、イムラクは少し遅すぎた。
「おらあっ!」
彼の肉斬り包丁は届かないどころか、フェログサの棍棒に真正面からぶつかったのだ。ゴシャという音が響く。
「イムラク!」
アルブレヒトが叫んだ。
「わしゃあ大丈夫じゃ!」
イムラクの声が棍棒の影から聞こえた。次にゴフッと咳き込む音。強がってはいるが、どうやらかなりこたえたらしい。
「
後ろからルディガーの声。先ほどの戦いでも用いていた魔法らしい。その名の通り持ったものを落とさせる呪文か。
フェログサの握っていた棍棒がズルズルと滑り落ちていった。アルブレヒトは思った。よし、得物がなくなれば大分楽になる。
その時アルブレヒトは信じられないものを見た。
「ふんっ!!」
フェログサはなんと滑り落ちる棍棒を握力の力で無理矢理押さえ込んだのだ。棍棒からミシミシという音が響く。音をたてて軋む棍棒はやがてフェログサの手の中に元のように収まった。
「見たかあぁ!」
フェログサは勝ち誇り、ブルンブルンと棍棒を振る。
「
再びルディガーの声。棍棒はスポンッと手から飛び出し、4人の背後の壁に激突した。フェログサは呆気にとられた。
「あん?」
「よくやったルディガー」
アルブレヒトは後方に叫ぶと、剣を振りかぶり斬りかかった。その途端、目の隅から太い棒が飛んできた。
それはフェログサの腕だった。剣を握った右腕ごと体がもっていかれる。グシャという音は彼の耳には聞こえなかった。肺の空気が一気に抜ける。
──しかし、その隙をベルトルドは見逃さなかった。相手の胴体に得物を突き立てる。厚い脂肪で致命傷にはならないと計算しての行動だ。しかし、脂肪はベルトルドの予想以上に厚かった。致命傷どころかほとんど有効打にすらならない。
──イムラクは腹より上に自分の武器が届かないことを確信し、腹には届いても刃が通らないことも知った。残るは、足だ。
身を少し屈めて、肉斬り包丁を足に叩きつける。ドスッという音とともに、刃は突き刺さった。
「いでぇぇぇ!!」
フェログサの叫び声。足の傷跡から血がドクドクと流れた。
イムラクの誤算は彼が先の一撃で弱り全力を叩きこめなかったこと、そして素手のフェログサの力をみくびっていた点だった。
彼はフェログサが次にくり出した拳を避けることができなかった。真正面からの拳は彼の意識と肉体を打ち抜いた。
ドスッッッ。
鈍く、それでいて鋭い音が鳴り響く。
──剣を支えに立っていたアルブレヒトはその旅の中で初めて、イムラクが敵に膝をつくのを見た。口から血が溢れていた。口を切ったなどというものではない。あれは臓物の血だ。
頭が真っ白になる。
自分でもわけの分からぬ声をあげアルブレヒトは目の前の巨体に立ち向かった。拳での一撃。左に動き間一髪で避けた。……いや、避けたと思った。
胴体をかすった。かすっただけなのにも関わらず彼は吹っ飛んだ。とてつもない筋力。アルブレヒトは生涯初めて自分より大きい相手、自分より強い圧力を持つ敵と戦っていた。
彼の一撃は空を斬った。巨体の相手との戦いは彼の人生には無かった。それも巨体と抜群の耐久力を併せ持つ敵との戦いなど。届かない攻撃、自分以上の間合い。素手のオウガは剣を持った人間以上だった。武器さえ無ければ、などというのは彼の誤算だった。
──そして、フェログサにも誤算があった。
ドワーフを、
──イムラクは足を踏み出した。まだアルブレヒトもルディガーもベルトルドも闘っている。なぜ今自分だけが倒れられるというのか。そんなことはない。そんなことは許されない。まだ動ける。まだ闘える。
フェログサの驚愕の表情。拳を横薙ぎに振る。イムラクは"大きな連中"相手の場数なら嫌というほど積んでいる。彼は決して避けるのが上手いわけではない。ただ、耐えて耐えて勝機が来るのを待ち構えるだけだ。そして武運は今やイムラクにあった。
上体を大きく伏せる。フェログサの腕は頭上の遥か上を通り過ぎた。そして脚を守るものはなにもない。巨体ゆえの弱点。それは体重を支えるための脚。イムラクは伏せたまま、肉斬り包丁を脚に叩きつけた。今度こそは本気で。
──叫び声。
耳がガンガンする。しかし、ここが正念場。勝利の第一歩だ。ここで自分がやらなくては。
ルディガーは飛び出し、杖を振るった。相手の利き腕をしたたか打ち付ける。勿論平時なら効かないだろう。しかし今は話が別だ。今このオウガに必要なのは少しの間腕を痺れさせること。
かくして比類なき巨体と無双の腕力を誇ったオウガは無力化された。
ルディガーの誤算は、肉体的に限界がくればオウガは闘うのを止めるだろうと無意識に考えていたこと。その計り知れない闘争本能を計算に入れていなかったことだった。
──舐めやがって。
フェログサは思った。
舐めやがって。ぶっ殺してやる。このフェログサ様を舐めた野郎がどういう目に会うかってことを脳味噌に叩き込んでやる。
フェログサは拳を振り上げた。
まさにその時だった。一つの声が上がったのは。
──さあ、戦闘開始だ。
グレートヒェンは床を蹴って飛び出した。オウガはあの4人に任せておいて大丈夫だろう。駄目ならその時はその時だ。
様子見で一定の距離まで近づく。ヴァルターもまた、ゆっくりと歩を進めてきた。未だに信じられない。自分が執事と剣を交えることになろうなどと。
グレートヒェンはうっすらと微笑んだ。剣を交える、か。お笑い種ではないか。背信した執事を成敗するのを、剣術稽古と同列の言葉で評するとは。
まあいい。とにかくわたしは負けるわけにはいかない。自分の生きる道は自分で切り開く。そう学んだのだから。
「ハッ!」
大きく踏み込み、鋭い突きを放つ。先ほどまでの重たい剣ではない。鋭く軽いフォイルならではの攻撃。しかし、ヴァルターは目前に迫ったその刃を右手に持ったダガーで弾く。金属音。
今度はヴァルターの攻撃だ。闘いというのは手番がある。相手の動きを読み、自分の手を考える。相手を動けなくさせるような手を打ち、詰ませたら勝ち。闘いとはカードに似ている。
グレートヒェンは身を大きく引いた。ヴァルターの首を狙った攻撃は一瞬遅かった。剣に迷いがない。やはりただ者ではない。グレートヒェンは確信した。惜しい。余りに惜しい。
グレートヒェンはフォイルを突き出す。狙い澄ました左脇へと。ダガーを突きだした今、ヴァルターに刃を止める術はない。過たず、刃は刺し貫いた。血が飛び散る。深紅の絨毯をさらに紅く染め上げる。
そしてグレートヒェンは既に踏み込んでいた。ヴァルターの間合いへと。そのダガーの充分届く距離へと。ヴァルターはダガーを突き上げた。その白い肌の無防備な首へと。
金属音。
グレートヒェンは刹那の間に左手のマンゴーシュで迫り来るダガーを止め、そして弾いた。くわえて流れるような脚さばきで執事の懐へと入り込む。全てが彼女の計算内だった。ここまでくれば非力なグレートヒェンでもヴァルターに止めを刺せる。
ヒュッという空気を斬る音。切り裂かれた執事の装束とともに血が舞い散った。グレートヒェンも顔に鮮血が飛ぶのが分かる。執事は片膝をついた。
今なら容易に止めを刺せる。
しかしやはり
グレートヒェンは剣を床に突き立てた。絨毯とその下の床板をやすやすと貫いたフォイルはビィンと音をたてて揺れた。
「わたくし相手にここまでやるとは流石は我がリヒトシュタイン家の執事です。やはり父の人選は間違ってはいなかった」
ヴァルターは目を見開きグレートヒェンを見上げていた。
「今再び、あなたをリヒトシュタイン家の下で雇用します。わたくしのみの為に忠義を尽くしなさい、ヴァルター!!」
「な……」
ヴァルターは絶句した。背後で闘っていた連中も動きを止めて彼女の次の言葉を待っている。
「あなたがわたくしを本当に傷つけるつもりがないのは分かっていました。アルブレヒトら4人を雇ったのも、わたくしを拉致させた後、その損害を請求するためなのでしょう。ならず者には傷をつけるな、と指示を出し、商人ギルドに対する条件はわたくしを成人まで扶養すること、でしょうか?」
これらは全てこの部屋に入る前アルブレヒトが指摘したことだった。
──いいか、と彼は言った。
「あの執事は全てあんたの為に行動している。それを忘れるな。あんたが恨みを持ってやつに相対するのは勝手だが、あの執事は恐らく……」
──あくまであんたのみに忠義を尽くしている。アルブレヒトはそう言った。
「そう。ヴァルター、あなたの狙いはこの街の発展などではなかった。あくまでもリヒトシュタイン家の行く末だった。多分、商人ギルドへも他に様々な条件を出しているのでしょう? あなたは商人ギルドに市の参事会の席を与えることでリヒトシュタイン家だけは守ろうとした。放っておいてもやがて参事会と市政は商人ギルドが握る。その前にあなたは他の貴族家を出し抜き、リヒトシュタイン家だけ、それだけは是が非でも守ろうとした。しかしわたくしを差し置いてその様なでしゃばった行動をとるのはあなたの矜持が許さなかった。違いますか?」
ヴァルターは答えなかった。
「だからこそあなたは今回の計画を仕組んだ。二重三重の罠を張り。全てはリヒトシュタイン家のため。あなたはことが済んだなら自分から職を辞すつもりでいたのでしょう」
グレートヒェンは喉が渇くのを感じた。人前で演説したことなどないのだ。しかし止めるわけにはいかない。
「あなたの誤算はここにいる彼らの存在だったのですか? いや、それすらも計算に入れて、あなたはオウガを手配していた。恐るべき知略です。今までそれを日々の雑務で燻らせていたのなら、それほど勿体ないことはないでしょう」
アルブレヒトには感謝しなくては。わたしが気づきすらしなかった可能性を指摘してくれたのだから。胸の底から熱い気持ちが浮き上がってきた。
グレートヒェンは続けた。
「その頭脳、リヒトシュタイン家の未来のためにのみ使いなさい。わたくしがこの部屋に入ってからずっとあなたはわたくしを"お嬢様"と呼んでいる。気づかないとでも思っていましたか? それはわたくしが当主となる前の呼称ですね。あなたは今までわたくしをリヒトシュタイン家当主とは認めていなかったのです。しかし、わたくしは証明しました」
これが最後の台詞だ。
「わたくしこそが、リヒトシュタイン男爵家第23代当主、グレートヒェン=フォン=リヒトシュタインです!! その才能、わたくしの為に使ってもらいましょう!」
ヴァルターは雷に打たれたような顔をしていたが、ハッと気づき、グレートヒェンに対し深々と頭を下げた。
「
──アルブレヒトは立ち上がる執事に声をかけた。
「なあ、あんたのお嬢様がこんなに変わるってのも、実はあんたの計算だったのか?」
「ハテ、なんのことで御座いましょう」
執事は
フンとアルブレヒトは鼻を鳴らした。
「それとも、あんたにとっちゃ"嬉しい誤算"だったのかな」
草稿では「執事は本当に裏切っていたが、グレートヒェンはその頭脳を利用するため引き留める」という話にするつもりでした。どうしてこうなった。書いてる内にこうなった。
>戦闘に関して
手番やら因果関係やらは小説内ではよりスムーズに手直ししてますが、与えたダメージと部位は変えてません。ちゃんと戦闘してます。
>敵データ
フェログサ (オウガの【漂泊者】)
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃38┃22┃49┃43┃21┃17┃33┃17┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃3┃24┃4┃4┃6┃0┃0┃2┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能:〈威圧〉〈大酒飲み〉〈言語:グランバース語、ライクシュピール〉〈常識:オウガ、キスレヴ〉〈負傷治療〉〈忍び歩き〉〈値切り〉〈秘密言語:野人語〉〈大道芸:物語り〉〈方角案内〉〈野外生存術〉
異能:《威圧感》《恐れ知らず》《強靭》《夜目》《特殊武器:両手用》《方向感知》《野育ち》《旅慣れ》
鎧:なし
A ・ P:頭部0、両腕0、胴体0、両脚0
武器:棍棒(片手用武器)
ヴァルター(人間の【執事】)
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃36┃33┃29┃22┃40┃44┃41┃47┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃1┃14┃2┃2┃4┃0┃0┃0┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能:〈言語:ライクシュピール〉〈常識:エンパイア〉〈世間話〉 +10%〈学術知識:系統学紋章学〉〈察知〉〈値切り〉〈値踏み〉〈無駄話〉〈読み書き〉〈捜索〉
異能: 《魔法耐性》《冷静沈着》 《交渉力》《低姿勢》《礼儀作法》
鎧:なし
A ・ P:頭部0、両腕0、胴体0、両脚0
武器:ダガー