いや、ほんとありがたいです。感謝感激。
ヤル気マシマシになったんで投稿します。
イムラクはドンドンと叩かれる扉の音で眼を覚ました。
「―――!」
ムックリと寝床代わりの木の椅子から起き上がり、眼を擦った。大あくびをして、脇の下をボリボリと掻く。その間にも扉の外の何者かは騒ぎ続けていた。
「――ろ!」
自分の背負い袋から革でできた水筒を取り出すとグビッとあおる。本当は寝起きにはビールの一杯が合うんだが。朝一番どころか四六時中ビールのことを考えている癖にそんなことを思ったイムラクは、漸く扉の音へと注意を向けた。
「―けろ!」
ノッソリと立ち上がり、よたよたと扉へと向かう。途中、ベルトルドにルディガー、イザベルや昨日腰を抜かして結局アルブレヒトに担がれて帰ったフィートといった連中の横を通り、両開きの分厚い教会の扉の前に立った。
「開けろ!」
太い
「開け、うわっ」
扉の前に立っていた人物は、勢いよく開いた扉に当たってもんどり打ってスッ転んだ。地面に倒れ手足をジタバタさせて、「何しやがる!」
「お主がそう言ったんだろうが」
しれっとそう言って見ると、地面の上で無様に短い手足をバタつかせているのは、鮮やかな服を着た栗色の髭を生やしたドワーフだった。
「俺は突き飛ばせ、なんて言ってねえぞ!」
額から湯気を立てて、そのドワーフは怒鳴った。イムラクはウンザリしたようにため息をつくと、「そんなのは分かっとるわ。お主が開けろと言ったからわしが開けたんじゃろ」
「だったらどうしてもっと早く開けねえ!?」
「聞こえるように言わん方が悪いわ」
ドワーフは漸く起き上がると、青筋をたてて「ほう、そっちがその気ならこっちにも考えが……」
「やめい!」
一喝したのは最初のドワーフの後ろにいたドワーフ──腰まで伸びる白い髭が綺麗に三つ編みに編まれている。髭がその者の立派さを示すドワーフ社会において相当の人物と見ていいだろう──だった。マントを羽織り、肩には袋を担いだ旅装だが、膝まで覆う鎖帷子と背中の袋に差した鉄砲が剣呑だ。
「若い衆がすまんな。出来れば入って話したいのだが、宜しいか?」
イムラクはゴクリと唾を飲んだ。恐らく目の前のドワーフは相当の実力者だろう。下手に刺激すればただでは済まないだろう。ここは穏便に接しなければ。
「おう、入れ入れ!ガハハ」
イムラクの「低姿勢」と一般のそれとには大きな隔たりがある。本人は気づいていないが。白髭のドワーフはイムラクの傍若無人な態度にも無頓着だった。案外慣れているのかもしれない。
「うむ。入るぞ」
教会へと足を踏み入れる。イムラクの頭からはこの時、「本来教会への訪問者を迎えるのは本来司祭の役目である」という常識はスッポリ抜け落ちていた。
「ガリルはどこだ?」
白髭のドワーフは長椅子に座り、荷物を下ろすと、開口一番にそう言った。
「ガリル? 誰じゃそれは」
イムラクの勘さえよければここで気がついてもよさそうなものだが、勿論このドワーフにそんな察しの良さは期待できない。
「ここにいると思ったのだが……。焦げ茶色の髭を生やしたドワーフで、毛皮のマントを着ていた筈なのだが……知らんか? なにか面倒に巻き込まれていると思うのだ」
イムラクの頭の中でなにかが繋がった。険しい顔になると、三人のドワーフ──白髭のドワーフの後ろにもう一人ドワーフがいた──に手でこちらへ来いと合図をする。奥の扉を開け、司祭の部屋へと入る。続く二間が司祭の住まいらしいのだが、その手前の部屋の長テーブルを斬り殺されたドワーフの死体が占めていた。昨夜、その場ではどうすることもできないので、取り敢えず司祭室へとドワーフを運び入れたのである。他の者達はなんやかやと話していたが、やがて一人また一人と眠りに落ちたようだった。
机の上で静かに眠るドワーフを目にした白髭は机に歩み寄ると、死体にすがって号泣した。
「おおぉぉぉぉぉぉ。ガリル、お前か。お前なのか。おぉぉぉ」
髭につく大粒の涙が窓から入る朝陽に当たってキラキラと光った。
「何事です。誰ですか、あなた方は」
先程からの騒々しさに眼を覚ましたのか寝ぼけ眼の司祭が隣の部屋から出てきた。
「おお、すまない。あなたがガリルをここに安置してくれたのだな。礼を言う。少ないがこれを受けとってくれ。出来ればガリルを懇ろに弔ってくれないか」
白髭のドワーフから革の小袋を渡された司祭は、表情を一変させて実に厳粛な顔になると「解りました。この死者の御遺体は私が責任を持って祝福の儀を執り行っておきましょう。モール神の庭園にも私から連絡を。……ところで、誰が彼の服を脱がせたのですか、ご存知ですか?」
ハッとイムラクが気づくと、確かに昨夜運び込んだ時には着ていた、死体の衣服がすっかり無くなっている。つまり死体は全裸ということで、それに気がつかないイムラクもイムラクなのだが、それは今更言っても無意味だろう。
何、と白髭のドワーフは眼を剥いて「あなた方が脱がせたのではないのか?……つまり、ガリルは聖別される為に衣服を脱がされたのではなく、辱しめの為に服を剥ぎ取られたと?」
イムラクは眼を白黒させて返答を考えるが、良い答えを思いつくなどということは勿論ない。
「なんだ?何騒いでる? もう全員起きてしまったぞ……服はどうした?」
イムラクが見ると、アルブレヒトが戸口に立っていた。
白髭のドワーフが会話の口火を切った。
「わしの名はラグナル。グンナルの子、ラグナル。グレンツシュタットのドワーフ達を束ねておる。右のがモルドリンで左がブロックだ」
モルドリンはすっと頭を下げる。ブロックは騒々しく、「ブロックだ! 宜しく!」
ドワーフ達と相対する形で長椅子に座るのは人間達。目の前の闖入者に対し不審の視線を隠そうともしない。
「で、グレンツシュタットってのはどこにあるんだ。あんたらがあのドワーフの身内なのか?」
ラグナルという名の白髭のドワーフは綺麗に禿げ上がった頭を撫でながら「まあ、待て。物事には順序というものがある。──お主らの中に『アンデルス=グートマン』という名を聞いたことのある者はいるか?」
ベルトルドは隣のイザベルがフィートと眼を合わせるのを見た。ルディガーは扉の横に立つ二人のならず者が囁くのを確認した。そして、全く周囲に気を配っていない者も一人。
「知らん。聞いたこともない」
純朴に質問に答えるイムラクを流して、ラグナルは人間達の顔を一つ一つ端から視線で薙いだ。
「グレンツシュタットで成功した美術商、という風に伺っております。お名前はかねがね」
沈黙に耐え兼ね、商会主のゴットフリートが答えた。
「その通りじゃ。そしてわしらの宝を盗んだ極悪人でもある」
ゴットフリートは怪訝そうに、「どういうことでしょうかな?」
話についていけていないアルブレヒトはベルトルドに耳打ちした。
「おい、グレンツシュタットってのはどこにある?」
ベルトルドも囁き返して、「アヴァーランドの東、古ドワーフ街道沿いにある鉱山街だ。ドワーフが多い」
ラグナルはゴホンと咳払いをして話し出した。
「元々グレンツシュタットは
そして、ドワーフは一拍おいて、「恐らくはここにその手の者がいる」
沈黙の中、アルブレヒトは落ち着いた表情で「どうして分かる?」
「こちらも何も当て勘でものを申しているわけではない。確証がある。わしらはその盗人を追ってきたのだ。盗まれたのはドワーフの古金貨86枚。取引の相場から言えば帝国の金貨で500から1000枚にはなろうという代物じゃ。それをむざむざ見過ごす訳にはいかん。グレンツシュタットから
「それは結構な話だが、どうしてその盗人がここにいると分かる? そもそも既にそのなんとかいう商人の手に渡っているんじゃないのか」
アルブレヒトは当然の疑問を発した。
ラグナルは顎髭をしごいて、「それはない。盗難に気づいたわしらは同族をあげてグートマンの周囲を張り、盗人の行方を追った。それに気づかぬグートマンでもない。不審な旅人がグレンツシュタットを馬で出奔した、という報告を関所の仲間から受けてすぐさまわしは気づいたよ。グートマンは盗人に直接取引をさせる気なのだとな。辛うじて馬の足跡からここまで追ってきたが、漸くあと少しで追いつくという段になって其奴馬を捨ておった。つまりは取引の場所はもうすぐそこだということじゃ。その矢先のこの事件じゃったがな」
ベルトルドは司祭室の方を指して、「あのドワーフは誰だい?」
司祭室では司祭がシグマー教徒の流儀に従って、死体を祝福し、埋葬への手続きを進めているところのはずだった。
「ガリルはわしらの先導を務めて、ほぼ一日分の距離を一人だけ先行していた。足跡追跡が得意だったその技能のお蔭もあって、わしらは盗人に肉薄できたのじゃが、そのガリルの乗っていたポニーがわしらのところに戻ってきたのが昨日の夜。その時点でガリルになにかあったのだと察して馬を駆けさせてきたのじゃよ」
ラグナルは人間達を見渡すと、「こっちの話は終わりじゃ。次はそちらの人間達、お主らが誰で昨晩は何をしていたのか、話してもらおうか」
ベルトルドがおずおずと話し出した。
「俺はベルトルド。こっちはルディガー、そこの背の高いのがアルブレヒト。ドワーフがイムラクだ。訳があって旅をしてるが、昨夜は偶然ここに泊まったんだ。昨日の夜はそこのイザベルと一緒に──アルブレヒトは除いてだけど──村の酒場で飯を食ってた。亭主も覚えてる筈だ。これでいいかい?」
ラグナルは首を回してアルブレヒトに、「お主は昨日は何を?」
「獣を捕るための罠をしかけてから、少し考え事をしていた。そうしたらいつの間にか暗くなってたんで、帰ろうとした時に叫び声を聞いたんでな、現場に駆けつけた」
そこにフィートが発言を重ねた。
「叫んだのは、僕です。あっ、名前はフィートと言います。このゴットフリートさんの商会の見習いです。昨日は持ってきた糧食を食べてから散歩してたら
ゴットフリートも頷いて「ふむ、わたしは少し耳が遠くてね。よく聞こえなかったのだが、このフィートの馬鹿でかい叫び声で漸く事件の現場に辿り着いた次第ですよ。おっと紹介が遅れました。わたし、ナルンで小さな商売を営んでおりますゴットフリートと申します。アヴァーランドには商品の買い付けに参りました」
イザベルも肩をすくめて、「わたしたちはいいんじゃないの。それよりあっちのお二方に質問してよ」
そこでラグナルは壁際に立つ二人の男に目をやった。
「そこの二人、できればこっちに来てもらいたいんだが」
頭にスカーフを巻いた小柄な男は口を開くなり、「嫌だね!」
フードと口を覆ったスカーフで顔を隠し昨日は着ていなかった毛皮を羽織っている、背の高い方も「俺たちが協力する意味が分からん」
ラグナルは別段慌てずに、「ほう、なにか後ろ暗いところでも?」
小さい方がそれに答えて、「俺はドワーフが嫌いなんだよ!」
「ドワーフが嫌いだから、殺したのか?」とラグナルの横に控えるブロックが気勢をあげる。
「違ェよ! なんでそうなるんだよ!」
ラグナルは落ち着き払って、「取り敢えず二人の名を教えてくれんか?」
「俺がイシドーロ、こいつがゲルハルトだ」
そう答えたのは背の高い方だった。
「ちょっと待て」
口を開いたのは、いままで喋っていなかったモルドリンだった。
「背の高い方、お前の着ている毛皮を見せてみろ」
イシドーロは慌てる様子もなく、毛皮のマントをかざした。
「そいつは……ガリルの着ていた……」
ブロックが絶句した。
「お前かァ、ガリルを辱しめたのは!」
腰のナイフを抜こうとするブロックを押し止めて、ラグナルは、「答えろ。イシドーロとやら。お前がガリルを殺したのか? ガリルの衣服を剥いだのか?」
イシドーロは沈黙した。
「……違うね。昨日は俺とゲルハルトは二人で外で酒飲んでたんだ。酔ってたから他の連中が騒ぎ出すまで、殺しには気づかなかったぜ。このマントだが……死人に衣服は要らないだろうが。もっとも俺が貰ったのはこのマントだけで、血のついた服を剥いだやつは他にいるけどよ」
ラグナルは少し黙ると「本当にお前が殺したんじゃないのか?」
「くどいね。違うよ」
ラグナルはもう一度人間達を見渡すと、「これで全員か。他にこの村に最近入ってきたやつはいないか?」
そこで気づいたアルブレヒトは「いや……もう一人いたんだが、どこに行ったんだか……」
何、もう一人いたのか、というラグナルの言葉が終わらぬ内に、扉のそばから声が聞こえた。
「服、見つからんなぁ。案外本当に盗まれたのかも」
そこにいたのは古参兵風の男。ベルトルドと、アルブレヒトがすれ違った男だった。その男を見た瞬間、白髭のドワーフの眼が見開かれた。
「ライナルト…………!」
ライナルトと呼ばれた男も気がついたように、「お前……ラグナル? ラグナルか?」
「面倒くさいことになってきたなあ」
ベルトルドの呟きが聞こえたのはルディガーだけだった。
>今話
ヤル気マシマシ話カラメ?
というか、登場人物増やしすぎた可能性が微レ存ならぬ巨レ存。
>駄文
火蓋は開けるもので、口火はつけるもので、誰だ「火蓋を切る」だの「口火を切る」だのいったやつは。なんでもかんでも切りすぎなんだよ。13代目石川五右衛門かよ。
>アンデルス=グートマン
サプリ「シグマーの後継者」通称「帝国本」の中に掲載されているNPCです。ほぼシナリオフックに過ぎないのですが、名前だけでも出したくて考えたシナリオなのです。