第五話プロローグ「酒場『眠る牡牛亭』で」
それは、どう見ても一軒の酒場だった。
壁には眠る牛の絵が書いてあった。看板が下ろしてあるということは、今日はもう閉店したということか。しかし、中からは明かりと騒がしいざわめきが漏れ出ていた。
「ここが、どうかしたんですか?」
「黙れ。いいからこれを持て」
ユリウスはフェリックスに、馬車に積んであった袋から
「袋の中からボルトを取って装填しろ。残りのボルトも持ってこい」
フェリックスは言われた通り、
「なにを……」
「
「なっ……」
「お前らにも手間賃は払う。一人銀貨1枚だ。いいな?」
フェリックスは絶句した。男の過激さに恐れをなした。魔狩人がこう言う以上、本当に酒場の中の人間を全員殺すつもりなのだろう。おざなりの略式裁判すらせずに。それを咎めるつもりはフェリックスにはさらさら無かった。下手に口に出せば、この男の危険きわまりない矛先はこちらに向くだろう。それは勘弁してほしい。
それより、フェリックスにとってはこの男の提示した金が魅力的だった。
「俺らはなにすりゃいいんですか?」
「俺とカルロットが前衛だ。お前らは
「……分かりました」
「そうか。じゃあ行くぞ」
ユリウスはそう言うと、扉の前に息を潜めて忍び寄った。隣のカルロットは得物を点検している。フェリックスは北で何度か南からの軍が使っているのを見た、連射式クロスボウである。今見るそれは金属部分が黒光りしており、故郷で見たより上等な代物なのだと推察できた。少なくとも並の軍曹や騎士が持っているべき武器じゃない。ユリウスは懐から投げナイフを数本抜き取った。カルロットが連射式クロスボウにボルトの入った弾倉を装填した。
ユリウスは扉に脚を掛けた。低い声で呟く。
「邪教徒に裁きの鉄槌を……」
その時、フェリックスの本能が彼に告げた。今からこの酒場で
「ブチ噛ませ!!」
ユリウスが勢いよく扉を蹴り開けた。折れた木材が中に舞う。開いた隙間から素早く2人の魔狩人は、酒場の中に踏み込んだ。
それは至って普通の酒場の風景だった。16人ほど、3つの机に別れ、笑い合い、騒ぎ合う男たち。仲間内で開いた宴に紛れ込んでしまったかのような違和感。魔狩人は躊躇せずにそれぞれの得物を発射した。
ユリウスの放った3本のナイフはそれぞれ3人の男の腕に突き刺さる。女は1本のボルトを打ち出すと、すぐに手元のレバーを操作して次のボルトを弾倉から送り込む。引き金を引けば、弦がボルトを打ち出す。最初のボルトは、1人の男の腕に刺さり、その男はもんどり打って転倒した。次弾は男の胴体をえぐって机に突き刺さる。
それが一瞬の出来事だった。
フェリックスは引き金を引けなかった。自分が闖入者であり、殺人者になると感じたから。彼の引き金を引いたのは、彼の意志でなく、彼が目の前の魔狩人に雇われた金の重みだった。打ち出されたボルトは未だ事態を把握できていない男たちの間を掠め、壁に刺さった。
そして、無限とも思える時間が過ぎ去り、叫び声が訪れた。
「グワアァァァァッッ!」
「痛ェェェェェェ」
「腕が! 腕がァァ!」
「魔狩人だ!!」
「魔狩人かッ」
「殺される前に殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
男たちの叫び声が酒場を覆った。男たちは腰の剣を抜いた。いや、
「遅ぇ」
間髪入れずにユリウスの手から、ナイフが離れた。その内一本は先ほど右腕にナイフが刺さった男の左腕に刺さる。切れた動脈から血が吹き出た。男は口を開け絶叫した。
「がああああァァァァァァ」
その開いた口に見えるのは、ギラギラと輝く牙だった。男は叫び、倒れた。血がドクドクと絶え間なく床に流れた。もう男は虫の息だろう。
カルロットの撃った2撃の内、1本は顔の下半分を布で覆った男の脚に刺さった。
「わああっっ」
叫んだ拍子に顔の布が外れた。豚のように突き出た鼻が酒場の明かりの下にあらわになった。
もう1本は1人の男の頬から刺さり、顎を砕いた。男は目をギラギラと光らせ、吼えた。
「ファァァァァ」
顎が砕かれ声にならないが、その闘争心は明らかだ。懐から抜いた手には刃のように鋭い爪が光った。椅子を蹴り、男は頬にボルトが刺さったまま、魔狩人に突進した。
バンッ。
男の眼窩にボルトが突き立った。頭蓋が砕ける音がした。男は仰向けに倒れ、ビクビクと震えた。撃ったのはフェリックス。禍々しい姿に変わった人間を目の当たりにして、ようやく自身の行為を正当化できた男の撃った一撃が、変異した男をモールの下へと叩き込んだ。
「ウワアァァァ」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
「魔狩人に死を!」
「死を! 死を! 死を!」
男たちの内4人が2人の魔狩人に殺到した。爪を光らせた者が2人、涎を垂らし鋭い牙を剥き出しにした者が1人、そしてもう一人の男のズボンが裂けると、そこから鋭い棘のついた尻尾が姿を現した。
「死ね!」
2人の男の爪がカルロットに刺さる。左腕と胴体。甲高い音がフェリックスの耳を貫いた。切り裂かれた服が床に落ちる。
「くそ!」
男たちの剣のように鋭い爪も、カルロットが服の下に着込んでいた鎧を貫くには力不足だった。金属を引っ掻いた爪の音で頭が痛くなる。
ユリウスは牙を剥く男を蹴り返し、鞭のようにしなり迫る尻尾を避けると、一瞬で剣を抜いた。そのまま斬りかかる。
「ぎゃああっ」
それぞれ右腕と胴を斬られた男が悲痛な叫びをあげた。
カルロットは爪を生やした男たちには全く怯まず、クロスボウのボルトを連射した。男の背後に控えていた、豚鼻の男の左腕と、もう1人の胴体に刺さった。豚鼻の男は泣き、豚鼻から鼻水をダラダラとこぼしながら、くず折れた。胴体にボルトが刺さった男は痛みに顔をしかめるも、叫びはあげない。見れば、その肌は革のように鈍く光っていた。
「くそ! くそ! くそ! 死ねぇぇ!」
爪を生やした男らは無闇やたらと切りかかるが、全て鎧を切り裂くことはできない。しかし折れもしないことから、その爪の強靭さがうかがい知れた。
フェリックスの打ち出したボルトが男の左脚に突き立つ。体勢を崩した男が落とした帽子の下には、赤い鶏冠が生えていた。ゲイルが撃ったボルトが倒れ込んだ豚鼻の男の腹を貫いた。男は鼻水と涙と血と胃液をを、目と鼻と口から溢しながら頭から床に倒れた。腸が背中から漏れていた。人糞の臭いがした。
ユリウスは剣を振るい、目の前の3人の
そして、ユリウスの正面にいた牙を生やした男は、ユリウスが目にも止まらぬ速さで繰り出した剣を腕で受け、真っ二つにされた。
カルロットは固い肌の男にボルトを打ち込み、顔をえぐるも、男は意に介さない。えぐれた窪みからはその肌と同じように鈍く光る血がポタポタと、したたった。
後方のフェリックスやゲイル、ゴイルが
男の額には3つ目の目が爛々と光を放っていた。男は、ユリウスに斬りかかるがうまく当たらない。尻尾の棘がユリウスの右腕に当たるが、ユリウスはそれを鎧で弾いた。お返しとばかりに爪の男の腕を斬り飛ばす。爪の男はユラユラとふらつき、壁に当たってズルズルと滑り落ちた。
今度は腕がカニのハサミと化した男が迫ってくる。
「ワァァァァッ!」
やけくそに叫びながら、ボルトを革肌の男の左腕に突き立てたカルロットに切りかかった。カルロットは上体を反らして避け、全弾撃ち尽くした連射式クロスボウを投げ捨てた。
新手の爪の男がユリウスの右脚に爪でしがみつき、その隙に三つ目の男は剣でユリウスを胴切りにする。左腕の鎧で受け、爪を振り払ったユリウスは、口の端を歪め、血をペッと吐いた。
「はっ。面白くなってきたぜ」
ユリウスは三つ目の男の剣を持つ腕を斬り刻むと、尻尾の男の右脚を薙ぎ払い吹き飛ばした。男は尻尾でバランスをとろうとするも、転倒して血だまりの中でもがく。なんとか腕と尻尾で這おうとしたところを、カルロットの剣が男の左腕を斬り飛ばした。男は顔面からビチャリと血だまりに突っ込み、ビクンビクンと震えた。
フェリックスは次のボルトを装填しながら考えた。いつ終わる? この血の宴はいつ終わるんだ? いつから戦っていた? いつまで戦えばいい? 俺はどこにいる? アヴァーランドか、それともオストランドか? あの地獄へと逆戻りしちまったってのか?
彼は頭を振って、一瞬浮かんだ非現実的な考えを振り払った。日常の中で、いきなり殺し合いに遭遇したからそんなことを考えるだけだ。目の前のことに集中しろ。
カニバサミの男は腕を振るって、カルロットの頭を狙った。カルロットはそれを抜いた剣で間一髪弾いた。男がまた1人、ユリウスに突きかかった。一見なんともないようだが、耳が本来の耳の後ろにもう一枚生えている。男の剣はユリウスが体を覆った右腕に突き立った。
「グッ」
ユリウスが声を殺した呻き声をあげた。ミュータントたちは色めき立った。
「やった!」
「見たか、魔狩人め!」
「殺してやる! 殺してやる!」
ユリウスは俯き、上目使いでうっすらと笑った。
「あんまり調子にのるなよ……ッ」
ユリウスは腕を振るった。あまりの速さに、攻撃は全て同時に見えた。
一撃。この期に乗じようと突進した男の右腕がバッサリと斬り裂かれる。ちぎれた服の隙間から、男の腕にビッシリと生えた吸盤が見えた。
二撃。三つ目の男の脚の腱が断たれ、男は血だまりの中に転倒した。痛みのあまり悶絶した。
三撃。三つ耳の男の顔が斜めにパックリと割れる。鋭い傷口はすぐには出血しない。一瞬のちに、男の叫び声とともに鮮血の噴水が酒場の入り口を赤く染め上げた。
「ハアッ!」
カルロットの叫び。振った剣はハサミ手の男の胴体に当たる。血の噴出とともに、衝撃であばら骨が3、4本折れる音がした。
「ガッハッ」
男が尋常でない量の血を吐き、カルロットは力を抜かない。そのまま腕の筋肉を限界まで活動させる。
「ハアァァ……ハッ!!」
剣で力まかせにハサミ手の男を吹き飛ばした。男の骨と皮と血が宙に舞う中、男は床に激突し、肺から血を吐いて動かなくなった。
フェリックスの撃ったボルトは革肌の男の脚を突き破った。腕、胴体、脚と3本のボルトを身体に突き立てた男は床にくず折れると、呻きながらズルズルと手足を伸ばして這いつくばった。
新手として出てきたのは三つ目の男。しかし追加の目は額ではなく、顎の下、喉からその大きな
「死ねぇッ」
いきり立ってかかるも、はた目からも相手にならないと分かる。カルロットは兜の中から宣告した。
「死ぬのは、お前たちだ」
剣を振る。男の剣を握った右腕がザックリと斬られる。腱を断たれ、腕がダラリとぶら下がった。剣が手から滑り落ち床に突き刺さった。
「無垢の者を苦しめる、お前ら混沌だ……ッ」
「やめ──」
カルロットは剣で男の言葉と身体を薙ぎ払った。男の腕がちぎれて宙に舞った。ボトリと床に落ちる。既にカルロットに腕ごと、肺を含む上体を真っ二つにされていた男はグラリとゆれ、血しぶきをあげ、倒れた。喉の目は血の涙を流していた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
やけだとばかりに突っ込む男たち。その攻撃は魔狩人に届くことすら、ない。
「ハハハッ」
嘲笑うユリウスの連撃。吸盤の男のズタズタになった腕が吹っ飛ぶ。吸盤男はクルクルと旋回すると、血だまりの中にぶっ倒れた。剣をついて立ち上がった額目の男はユリウスの突きを腕で庇うも、右腕は魚の開きのようにパックリと割られ、額の目に剣が突き立てられる。
「あぶふっ」
剣が抜かれると、男は再び倒れ、二度と立ち上がらなかった。顔を裂かれた三つ耳の男はユリウスが剣を振った瞬間顔を覆うも、胴体がパックリと開かれる。のけ反ったために腹の傷口が大口を開け、血潮と腸が飛び出した。さらにのけ反った男の上半身は、背骨がボキッと音をたてて折れた後、下半身と二つ折りになり、仲間の死体の仲間入りを果たした。
──イカれてやがる。
フェリックスは思った。やっぱり魔狩人はイカれてやがる。いくらミュータントとは言え、こんなに無惨に、しかも笑いながら殺せる連中がマトモなわきゃねぇ。トンでもねえ連中に目をつけられちまった。
「クソがぁぁぁぁ」
人数は断然減ったものの、まだ魔狩人側より多い男たちが数に任せて勢いよく突っ込んだ。フェリックスにも、男たちにも分かる。勝ち目など、はなから無かったということが。魔狩人に踏み込まれた時点で詰んでいたのだ。
男が剣を上段から振り下ろすも、ユリウスに受け止められ、弾かれる。その刹那に、男の左腕は肩から垂れ下がる肉塊と化した。叫ぶ男。血とともに、ちぎれた吸盤がピチャピチャと血だまりに跳ねる。
男の背中から腕の上部にかけて生え揃った吸盤。そのせいで、男は今殺されかけているのだ。それだけが、男とフェリックスを隔てている壁なのだ。フェリックスは男のグロテスクな姿を、嫌悪した。理由など、ろくにない。ただ、自分たち"正常な人間"と違うから、殺す。
カルロットの剣は、新手の豚鼻の男の顔を、眉から頬にかけて一直線にバッサリと斬り開いた。男の豚鼻が、斜めに裂け、血が噴き出した。止まらない流血。慌てる男を冷徹な目で見つめたカルロットは、剣を握り直し、振りかぶった。
「わっ!」
突如、残った男たちのうち誰かが叫んだ。カルロットは、視線をとっさにそちらに向ける。ユリウスの前から男の1人が背を向け逃げ出すところだった。その隙に豚鼻の男も、顔を押さえたまま駆け出した。男たちが目指すのは、酒場の裏口。店主がドアを抑え、「早く逃げろ!」と叫んだ。
──ブスッ。
ゲイルの撃ったボルトが店主の胸に突き刺さった。衝撃で店主はドアに当たり、ズルズルと滑る。顔を手で覆った。その手のひらには眼球が一つ、大きな目をひんむいていた。その手をゴイルのボルトが貫く。勢いのままに、眼球を潰したボルトは店主の頭に突き立った。一撃で砕けた頭蓋骨から、脳味噌が露出した。ドクドクと流れる血の中のピンクの脳味噌はさながら潰れた果実のようだった。
男らは既に自分たちの仲間の死体を乗り越え、なんとか自分だけは助かろうと、酒場の裏口めがけて急ぐ。
ユリウスが剣をしまい、腰のホルスターからピストルを抜いた。既に弾はこめてある。右目で狙いをつけ、男の1人めがけて発射した。
──バンッ。
爆音とともに、鉛の弾丸は男の後頭部から入り、頭蓋を粉砕し、脳味噌を駆け抜け、男の額から再び飛び出した。男が血の中に倒れ込む。鶏冠の生えた男は後頭部に黒い穴をぽっかりと開けたままビクビクと2、3回跳ね、動かなくなった。
カルロットは同じく剣をしまい、腰のクロスボウ・ピストルを抜き、片手で構えるとボルトを射出した。
ボルトは仲間の死体を乗り越えようとした男の左脚に刺さった。男は倒れるが、なおも這って死体を越えようとした。肌が黒光りしている。革に変わり、丈夫になっているようだ。そこにカルロットのナイフが飛ぶ。左腕に刺さり、男の腱を断った。男は左脚と左腕を失うも、なおも逃亡への意欲は失わない。ズルズルと片手片足で這い、扉を目指す。カルロットのナイフが脇腹に刺さるも、固い肌で意に介さない。全身にボルトとナイフを突き立てたまま、扉に手をかけた。
そこでゲイルのボルトが肩に刺さった。肺を貫かれた男はゴボゴボと血でむせ、大量の血を吐きながら右腕で空を掻く。しばらく悶絶した後、男は白目をむき、自らの血で窒息して動かなくなった。
ユリウスはピストルの弾を籠めるのではなく、より手っ取り早く仕留めるためにナイフを抜いた。投げたナイフは豚鼻の男の右腕に刺さる。もう一投すると、男の耳を貫き、頭に食い込む。ギャッと一声叫んだ男は後ろを向き、怯えた顔で頼んだ。
「殺さないでくれ。頼む。俺は忠実な帝国臣民だ。この鼻は生まれつきなんだ。頼む。なあ、なにかの間違いだよ」
「撃っても?」
ゴイルはユリウスに尋ねた。ユリウスは驚いて、振り返る。
「当然だろ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なあ一旦待ってくれよ。話せば分かるってさ、なあ──」
男の声は途中で途切れた。ゴイルのボルトが顔の真ん中、ちょうど男の豚鼻を貫いたからだ。男は衝撃で吹っ飛び、床に倒れビクンと身体を揺らした。既に顔の原形は留まっていない。男の顔はより醜くなり、見られるものではなくなった。
その隣ではカルロットのナイフが男の腹をかっさばいていた。内臓が飛び出す。男はしゃがみこみ、嗚咽した。なんとか腹に腸を押し込もうとするものの、指の間から再現なく腸がはみ出てしまう。男は諦めて、顔をあげた。
「おい。どうしてくれるんだよ。おい。たかが吸盤が少し生えてきちまっただけだろう。どうして俺がこんな目に会わなくちゃいけないんだ、教えろよ」
「それはお前が混沌と交わったからだ」
カルロットは、言いながら新たなナイフを抜いた。その目には一片の慈悲すら、ない。憐れみも、感動も、悦びもない。ただ、強い怒りと復讐心が、冷然とした仮面の下で沸き立っているだけだ。
投げたナイフが男の脇を掠めた。動脈が斬れ、血が噴き出す。男は必死に傷ついていない右腕で抑えようとするも、腹の傷もあり、助からないのは一目瞭然だ。男は腕を押さえたまま、カルロットを睨みつけた。
「あんた、順番が違うぜ。俺は混沌と交わったから、吸盤が生えたんじゃない。吸盤が生えて、
男は血を流しすぎたためにふらつき、床に倒れた。ゼーゼーと荒い息を吐きながら、なおも視線は外さない。
「分かるか? お前らが悪いんだよ。始めに仕掛けたのは、お前らの側だ。俺は思っただけだ。『こんな国なんてなくなっちまえばいい』ってな。違うか!? お前らみたいな人を人とも思わない糞は死ねばいい!
肺の空気を全て使って叫ぶと、男の頭はガクッと落ち、床の血だまりに浸かった。酒場に、動く人間はいなくなった。
カルロットは酒場に脚を踏み入れ、ブーツで血と臓物を踏みしめながら、最後に死んだ男に近づいた。
「黙れ」
脚をあげて、勢いよく踏みつけた。ブーツの鉄鋲が男の頭部に食い込み、ゴシャッと音をたてた。
「黙れ」
再度脚をあげて踏みつける。
「黙れ」
3度目。足の下でバキッと頭蓋が割れる音が鳴った。しかし、女魔狩人は止めない。
「黙れ」
既に誰の目にも死体と明らかな男を、カルロットは踏みつけ続ける。徹底的に。
「黙れ。黙れ。黙れ。黙れ。黙れ。黙れ」
6度目で男の頭蓋が砕けた。脳味噌が飛び散る。それでもカルロットは止めない。脳漿のついたブーツで、男の
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」
「虫の息のやつがいるだろ。探せ」
ユリウスはカルロットを放っておいて、フェリックスに声をかけた。こうなったカルロットは暫く元には戻らない、それを知っていたからだ。
「なんでです?」
「一応、話が聞きたい」
フェリックスはため息をついた。血みどろの酒場の中に入るのですら嫌なのに、ミュータントの死体を掻き分けるだと? 俺が変異したらどうしてくれるんだ? 嫌だ嫌だ。下っぱはこれだから。
「こいつ、生きてやすぜ」
探し出してすぐに、ゴイルが声をあげた。男は指に爪が生えていた男だ。腕を斬り飛ばされた男は、壁にもたれ掛かり、焦点の合わない虚ろな目をしていた。
「起こせ。酒をぶっかけろ」
フェリックスが残ったテーブルから取ってきた酒を頭からドバドバかけると、男は顔をふって目を覚ました。
「くそ! なんだ!」
ユリウスは男の前に立ち言った。
「お前らの教団の上層部はどこにいる?」
男は事態を把握すると、口の端を歪めて笑った。
「ハッ! たとえ知ってたとしても、魔狩人に教えるわけが──」
──グシャッ。
ユリウスのブーツが、男の顔を蹴り抜いた。男は顔面からボタボタと血をしたたらせ、喘いだ。
「ぐふぉっ、ぐほっ」
「あんまり手間取らせるなよ」
男はいきせききって喋りだした。しかし歯が大半折れていて言葉にならない。
「ふぁ、ふぁへほえふぁふぁひふぉひ──」
「なに言ってるか分からん」
ユリウスが抜き放った剣が、男の首から上を斬り飛ばした。男の生首は、ゲイルの足元へと吹っ飛び、ゲイルがヒッと声をあげ飛びすさる。
「次だ」
なんともないように、ユリウスは言った。
他に生きている者を探すのには少し手間取った。なんとか、尻尾の生えた男に辛うじて息があるのを見つけ、酒を浴びせて目を覚まさせる。男は、先程と同じユリウスの質問を聞くと、少し考えて言った。
「俺らは知らねえ。知ってるのはもっと上の"ナーグル神"の信者さ。俺らはいいように使われる木っ端でしかねえ。とかげの尻尾さ」
ヘッヘッと笑って男は尻尾を振った。
「ああ。お前らももうおしまいだよ。俺らミュータントを何人殺したところで問題にもならねえ。"尊父ナーグル"は偉大だよ。お前らみたいなやつらに対抗するための人材をきっちり用意してくれてんだからさ」
「それは誰だ」
「"聖母"さ。名前は知らねえ。[汚穢の修道会]の導き手、尊父の加護篤き俺らの癒し手さ。お前らはもうおしまいだ。"聖母"の計画は始まってる。俺らにゃ全部は理解できねえが、あの声を聞いてりゃ分かる。俺らは選ばれなかったが、"聖母"の周りには"選ばれた連中"がウヨウヨいるぜ。お前らはおしまいさ。この街も、この国もな。ハッハッハッハ──」
ユリウスの剣が、男の首を断ち、最終的な裁きを下した。
「不愉快な奴だ」
ユリウスはフェリックス、ゲイル、ゴイルに向き直った。
「後のやつらに一応止め刺しとけ」
そして、ユリウスは酒場の外へと歩み出た。ちょうど革鎧を着た警備隊の一団が向かってくるところだ。
「こっ、ここここれは何事かアッ」
男たちの内、帽子に羽をつけた部隊長らしき男が叫んだ。ユリウスはニッと笑って、応対した。
「お勤め御苦労。アヴァーヘイム警備隊の諸君。俺は魔狩人のユリウス=イェーガー。突然だが、この酒場で混沌教団の密会が開かれていたので、シグマーの教えに従い突入し、これを殲滅した。シグマーの鉄槌は振り下ろされ、正義は執行された。しかし、諸君らの執行する正義も残っている。この酒場の死体に止めを刺して片付けて頂きたい」
早口で、それだけ言うと後ろを向きフェリックスらに怒鳴る。
「おい、お前ら。もうあがっていいぞ! 残りはここにおられる方たちがやって下さるからな」
ありがてえありがてえと酒場から出てくるフェリックスたち。警備隊の部隊長は、黒コートに特徴的な帽子というユリウスのいでたちから魔狩人だということは把握したものの、警備隊に連絡せず独力で事を為したことを咎めるかどうか迷っていた。その時、ユリウスが部隊長の肩をポンポンと叩いた。
「じゃ、頼むわ。
部隊長はギリギリと歯噛みした。舐められている。彼は、悔しさを噛み締め、部下に号令を出した。
「早く死体を片してしまえ! この酒場は明日には燃やすぞ!」
「カルロットはどうしてる?」
ユリウスは馬車の脇に立ち、フェリックスに問いかけた。
「俺が出てきた時はボウッと突っ立ってたぜ」
「そうか」
フェリックスは口を開くと、「なあ、あの女が帽子を着けてないのはなんでなんです? その帽子、魔狩人の特徴じゃないのか」
「ああ……。戦いの時まで、
「……?」
よく分からないといった風なフェリックスに、ユリウスは、「お前には関係のない話さ」
「じゃあ賃金を」
フェリックスはそう言うと片手を差し出した。ユリウスはニヤニヤしたまま、立っている。
「まとめて払うさ」
「まとめてって?」
「一度に銀貨1枚だろ?
「なっ……」
フェリックスは絶句した。冗談じゃねえ! 今日みたいなことが、またあるだと?
「……どうして俺たちなんです?」
フェリックスは恨みがましく尋ねた。ユリウスはどこ吹く風だ。
「お前らが忠実なシグマーの信徒か知りたかったんでな。まあ、使えることが分かったから、またお前らで人数を補わせてもらうわ」
「俺らを試したのか」
「まぁ、そう気を荒立てるな。お前らが後ろから俺たちを狙ったら、斬ってた。それぐらいの話さ」
この男は、はなからフェリックスの誓いなど信じていなかったのだ。魔狩人は自分の親や子すら疑う。その言葉をフェリックスは噛み締めた。
「分かりました」
「おうよ」
「すいません。戻りました」
カルロットが酒場から出てきた。ブーツに絡みついた毛髪と脳味噌を見た警備隊の1人が、怯えたように後ずさった。
「まあいいさ。今日は充分働いたからな。宿に戻るか。お前も兜を脱ぎたいだろ」
「そうですね。まぁ明日から忙しくなるでしょうしね」
ユリウスは馬車に乗り込むと、フェリックスに「乗ってけよ。宿まで送ってやる」
「あ、ども」
馬車が走り出すと、ユリウスが呟いた。
「……しかし、"聖母"か」
カルロットが聞き咎めた。
「なんですか、それ?」
「奴らの親玉さ。そいつをぶっ殺してこの街での仕事は終わりだ」
カルロットはガントレットを握りしめた。
「そいつは"黒医者"と関わりがあるんでしょうか?」
「分からんな。だが、可能性はある。その臭いを辿るのが、猟犬の仕事さ」
「そうですね。猟犬の……」
兜の中の目は、既に獣のそれになっていた。
馬車は夜の闇を走る。二匹の猟犬を乗せて。
>グロ描写
明らかにくどすぎる。まあ、人間失敗から学ぶものですし(などと意味不明な供述をしており…
>ナーグル
なーぐる様。慈愛に満ちた尊父。混沌四大神の内もっとも相手の戦う気を削ぐお方。
>戦闘
ウォーハンマーでも、鍛えを入れた戦士が鎧と飛び道具を持っていれば数倍のザコ相手ぐらいには無双できる。
>経験点と成長
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