「……であるので、この薬草を煎じつめることで得られる薬液には、患者の発熱を抑える作用があり、また、この薬草の近くに生えているこちらのドクダミ科の草には、腫れ物の炎消作用がある。分かったかね、諸君?」
ルディガーは教壇に立ち滔々と語る教授の講義を、粗末な長椅子に座りながら最大限聞き漏らすまいと集中していた。
「……と、こうした手順が、市場で売られている一般的な『癒しのドラフト』の作製手順である。この薬液を飲むことで、極めて重篤な患者以外の者は肉体的な疲労は回復し、肉体に基本的に備わる治癒作用が活発化するであろう。では、各自それぞれ『癒しのドラフト』を精製すること。完成した者から授業は終わりとする」
長椅子に座る学生たちは、各々のすり鉢やすりこぎ、天秤といった器具を取り出した。ルディガーも大慌てで、支給されたそれらの品を机の上に出す。そうしながら、先ほど教授が喋っていた「癒しのドラフト」の作製手順と、その材料、分量を思い出していた。羊皮紙にメモを取ることすら許されてはいないが、ルディガーの卓越した記憶力ならそらで覚えられる。
しかし、他の生徒たちはそうでもないようで、何をすればよいものやらと途方に暮れる者、すり潰さなければならない薬草を煮立てる者、隣の者にしつこく尋ねて嫌がられる者等々、頓珍漢な振舞いをする者ばかりである。
ドラフトを作りながら、ふと横を見ると、革エプロン(危険な薬品も取り扱うので、着用必須である。ルディガーはベルトルドが元々使っていて、アルブレヒトに渡ったものを借用している)を着た少女と目があった。少女はニコリと微笑んだ。
「みんな変だね。君は大丈夫?」
ルディガーはコクリと頷くと、自分の作業に集中し出した。
━━
「それじゃあ、明日から通えよ。俺はシュトライッセン市立大学校の神学部の生徒だから、お前とは違うけど、医学大学校の方にも仲間が通ってるからさ。というか、今誰も通っていないのは医学大学校の薬学部だけなんだ。もう、若くて字が読めるやつが"スリ横丁"にいなくてね」
ラルフがやれやれと肩をすくめた。
「まあ、だから責任重大ってやつさ。"親方"も、薬学部が怪しいって睨んでるぜ」
「なにを?」
ラルフは慌てたように頭を掻いた。
「あちゃあ。それを言ってなかったか。……今、このシュトライッセンはさ、かな~り大変な状態なのよ。"過激派"だとかいう連中やら、"シュトライッセン現代史研究会"だとか、"鉄仮面"だとか……とにかく正体の分からないやつらだらけさ。その中でも一番"親方"が危ないと思ってるのは、その"過激派"って連中。で、どうやらその頭は学生らしいって噂が流れたんで、それを確かめるために俺たちが大学に通っているのさ」
「……分かっただ」
現実感はあまりないものの、取り敢えず話は了解したルディガーは頷いた。なんにせよ、学ぶ機会があるのは嬉しいことだ。任務はともかく、勉強することがルディガーは嫌いではなかった。聞けば、授業に要る教科書や道具の類いも"スリ横丁"が出してくれると言うではないか。まさしく天の与えてくれた幸運だと、ルディガーは思った。
が、そんな気分は、教科書の間に挟まれていた本の切れ端(シャリアの女司祭を描いたもの。かなり扇情的で、現実に極めて忠実に描写されている)を見つけるまでだった。
「こいつは、巷で流行りの
覗き込んだラルフの注釈が入った。
「タイトルは確か、『シャリア司祭、昼下がりの憂鬱~彼の体に堕ちるまで~』。悩ましく熟れた体を持つが、その戒律ゆえに男との交渉を持たないシャリア信者が、逞しい肉体──色んな意味の、な──を誇る主人公に会い、肉欲の悦びを教えられ、どんどんと知らない快楽に夢中になりながらも、神に仕えた身ゆえ、と葛藤するという筋の、まあ普通のポルノグラフィーさ。もっとも挿し絵がそそるんで結構売れたがね。その出版社の新作が『秘密の園のタール信者。その行動と記録~快楽を覚えて~』だ。こちらの方も絵師がイイんで売れた」
「く、詳しいだな……」
ククッとラルフは笑った。
「まあ、高尚な殿方の趣味ってやつよ」
「もっとも、その出版社は幾つかの宗教組織と魔狩人、行政組織に目をつけられてアルトドルフでは大変な騒ぎになっているって話だ」
「そ、そうだか」
ルディガーは自分の教科書に目を落とした(挿し絵の切り抜きはラルフにあげた)。前の持ち主がいるということは、恐らく盗品かそれに類する品物だろう。順当に故買屋を通して買われた可能性もあるが、盗賊ギルドがそんな真面目に物品を支給するだろうか。
ルディガーは頭を振ってその考えを追い払った。どちらにせよ、今の自分はその盗賊ギルドの後ろ楯を得て薬学を学ぶのだ。魔術師ともなれば、秘薬の調合なども行わねばならない。そういった場合の予行練習にもなるだろう。彼は意気込んで、家へと向かった。
アルブレヒトはグレタと共に情報収集に去ったので、今ルディガーはラルフと二人きりである。ラルフが"スリ横丁"とルディガーたちとの連絡係になる関係上、その仮住まいの場所を覚えておくというので、一緒に向かっているのだ。
石造りのアパートメントに着くと、細い階段を住人の一人が降りてくるところだった。バーレンホルツ家のイリスの話では、この建物は値段も手頃で住み込むのに身分もとやかく言われないため、市の外からの人間に人気が高く、また入れ替わりも激しいという。
「あ、どうも今日は。二階に住み始めたアデレイド、アデレイド=レルヒェです。よろしくお願いします」
少女、せいぜい16ぐらいとみれる短髪の少女が手を差し出した。ルディガーはそれを握る。
「……ルディガーだよ。よろしく」
「へええ。中々の別嬪だね。俺はラルフ。といってもここの住人じゃないが。君、学生?」
アデレイドと名乗った少女は、ラルフの言葉に少し顔をしかめるも、丁寧に答えた。
「ええ。わたしは、シュトライッセン市立医学大学校の薬学部に通いに来ました」
「残念だ。俺は神学部でね。君と違う校舎なんだ。でも、こっちのルディガーは薬学部だからさ。是非親しくしてやってくれよ」
「ええ。今後ともよろしく。では、お店が閉まる前に薬を買っておきたいので」
アデレイドは足早に歩き去った。短い髪といい、薄い胸といい、後ろ姿はまるで少年のようだ。
「ふむ、可愛らしい娘だ。十年後はさぞや絶世の美女になるだろう」
したり顔で寸評するラルフを置いて、ルディガーは二階に上った。
部屋に入ると、エプロンをしたイリスが出迎えた。他の仲間たちはまだ帰っていないようだ。
「お帰りなさいませ。夕食が出来ていますけれど」
ラルフが後ろからルディガーを小突いた。
「こんな美人の召使いを雇うなんざ、憎い野郎だ、全く。贅沢にもほどがある」
「……この人はバーレンホルツ家の召使いで、おらたちが雇ったわけじゃないだよ」
ラルフのイリスを見る目が変わった。
「へええ。あんたが、バーレンホルツ家の、ねえ。ほほう。さぞや、いいご身分なんだろうねえ。農民から成り上がったにしちゃあ充分だ。あの変態の──」
「やめてください!」
イリスが目に烈火を宿らせて叫んだ。しかし、ラルフは怯まない。
「まあ、いいや。じゃあな、ルディガー。明日から大学には行けよ。夕方は"会館"に来い。他の連中との顔見せはそこで、な」
そう言ってしまうと、口笛なぞを吹きながらさっさと帰っていった。イリスがルディガーに近寄る。
「ルディガーさん。言うのが遅れましたが、他の人たちの前であまりバーレンホルツ家の名前は口に出さないよう、お願いします。敵意を抱く人々も少なからず居りますので」
そう言うと、木を編んだ小さなカゴを持ち戸口へと向かった。
「では。わたしは毎日夕方に参りますので、捜査の進捗はそのつど、わたしがお訊きします。なにかありましたら、バーレンホルツ家まで参ってください。パンとベーコンにソーセージが用意してありますので、お食べを。……事実、バーレンホルツ家は並の市民よりかは格段に恵まれているのです。何者とも知れない流浪者に、毎日食事を恵んでも痛くも痒くもないんですから」
ドアがバタンと音をたてて閉められた。ルディガーはため息をつく。おのれの無自覚な言葉が不和を引き起こしたのが、嫌だった。
市場が閉まる合図の鐘が鳴った。これからは夜の時間。帯剣して通りを歩くことも許されない、危険な時が街を支配するのだ。
アデレイドという名の少女は薬が買えただろうか、とルディガーはふと思った。
━━
「では、諸君、『癒しのドラフト』ができたか、吾輩が確かめてしんぜよう」
教授が、教鞭をとって左手に等間隔に降り下ろしながら生徒たちの長椅子の後ろを歩き出した。一瞥して、鋭い批評を繰り出していく。それに合わせて、パシンパシンと教鞭が鳴る。
「ダメだ。手順が出鱈目だ。殺鼠薬でも作っているつもりか?」
パシン。
「なっていない。舐めてみろ。舌が痺れるだけで済めば幸運だ」
パシン。
「なぜその薬草を使う? 君には暗殺者の才能があるな」
パシン。
「火事を起こす前に、早く火を消してしまわんか。馬鹿者め」
パシン。
「料理を作りたいのなら、吾輩ではなくハーフリングに教わることだな」
パシン。
「独創性に溢れている。パトロンがいれば、いい芸術家になれるかもしれん」
パシン。
「患者の前に、その黒いドロドロを差し出すつもりか? 告発されるぞ」
パシン。
と、ここでルディガーのところに教授が辿り着いた。
「煮立てる時間が長過ぎる。無意味に苦い薬を患者は好まん」
パシン。
少々の沈黙。
「完璧だ。何も言うことはない」
パシン。
ルディガーは隣の少女──昨日知り合ったアデレイド──を見る。アデレイドは目を合わせて、またニコリと笑った。彼女の机の上のガラス瓶の中の薬液は、ルディガーのものよりも多少薄い碧色に透き通って、窓から入る陽光に輝いていた。
「……凄いだな」
授業が終わり、片付けをする生徒たちの中で(
普段そんなことをしないルディガーが、敢えてその時話しかけたのは、なにも下心があったわけではなく、単純に相手がたった一度言われただけの薬の製法を完璧に再現してみせるという離れ業をやってのけたからだ。純粋な賛辞に、アデレイドは少しはにかんだ。
「ええと、はい。わたし、前に薬師に弟子入りしていたことがありましたから」
「それでも、大学に?」
「え、ええ。ちゃんと学び直したかったので」
ルディガーは感心して頷いた。自分よりも若いようだが、自分より賢いのかもしれない。分からないことがあれば、是非教授してもらおう。ルディガーは教えを乞うのに年齢を気にするような男ではなかった。
「そう言えば……」
と、ルディガーはここで自分の任務を思い出し、「アデレイド、"過激派"ってなんだか知ってるだか?」
「"過激派"? いいえ。わたし、知りません」
「俺は知ってるぜ」
首を横に振るアデレイドの隣に、一人の男子学生が腰を下ろした。
「それに興味があるのかい? あんた、名前は?」
「ルディガーだよ。教えてくれるだか?」
「まあね。言っておくが、警備隊のイヌじゃあねえよな? それだったら、ただじゃ済ませられねえぜ」
男は首を掻き切るフリをした。ルディガーは慌てて首を振って否定した。
「ならいい。"過激派"ってのは、体制側の呼称だな。俺たちは、"シュトライッセン革命団"って名乗ってるぜ。"革命団"って呼んでくれりゃあいい。あんた、入団希望者?」
ルディガーは少し考え込んだ。どうしようか。
「……それのリーダーの人って誰だか?」
「おいおい。そいつは入ってもいないあんたには、教えられないな」
「……じゃあ入るだよ」
結論を出すのは早かった。たとえ、盗賊ギルドといえど、学問をさせてくれ、高い器材を貸与してくれているのだ。恩義は返さねばならないだろう。
「ちょっと待てよ。なにも俺はあんたに強制してるわけじゃあないぜ。俺たちは皆、自由意志で入団したんだからさ。もうちょい、やる気ってものを……」
「……ダメだか?」
男はチッと舌打ちして、頭を掻いた。
「まあいいや。今はなにより頭数が欲しいからな。あんた、力は……なさそうだな。じゃあ、授業が終わったら、波止場の『難破船亭』って酒場に来いよ。そこで集会があるんだ。みんなも来いよ! 今こそ圧政に立ち上がる時だぜ! パンフレット欲しいやついるか?」
何人か、立ち上がって男にパンフレットを貰う。全体の何割かは興味があるようだ。比較的多い方だろう。
「ええと、リーダーの人って来るだかね?」
「ん? ああ、多分、来ると思うぜ」
ルディガーはひとまず安心して、パンフレットを一部貰った。男は既に他の学生たちと熱心に会話している。"体制"だとか"資本家"だとか、ルディガーにはちんぷんかんぷんな言葉が飛び交っていた。
「ねえ、その集会っていうもの、わたしがあなたと行ってもいいですか?」
アデレイドがルディガーに話しかけた。
「いいだよ」
ルディガーは特にその発言の真意を確かめるでもなく、承諾した。目の前の少女も、一人では酒場に行きたくないのだろう、ぐらいに考えていた。
講義が全て終わり、学生たちが一斉に立ち上がる。全員晴れ晴れとした顔をしている。ルディガーには不思議で仕方ない。彼にとっては、書物の前に座り、講義を訊いている方が、酒場の喧騒に晒されるより心地よいのだ。
アデレイドは別の意味で浮かない顔をしている。どうやら講義や授業の内容に不満があるようだ。既に薬師に弟子入りしていたほどの人物なら当然かもしれない。今、ルディガーやアデレイドが受けているのは、薬師になるための初級の訓練なのだから。試験を受けて合格すれば、上級に進めるらしい。それが嫌で(あるいは合格出来ずに)、初級に留まっている者も幾らかはいるようだった。
「じゃ、行くだか」
「ええ。はい」
ルディガーとアデレイドは連れだって大学を出た。周囲から好奇の目線が向けられ、冷やかしの声がさざめく。残念ながら、ルディガーにはその声は全く聞こえていなかったが。
ルディガーは色恋に興味がなかった。というと、嘘になるかもしれない。しかし、当の本人がその可能性を完全に諦めているという点では結果に変わりはなかった。
魔術師は、常人とは、決して、分かり合えない、分かり合おうとしてもならない。
それは不文律。魔術師、常人、双方の、だが。
ゆえにルディガーはそんな希望を心の底にしまい込み、いつしか忘れ去った、と自分で自分を騙してしまった。不幸な愛の結末を避けたいがために。幼い頃の苦い記憶を、できるだけ思い出さないようにするために。
彼が自らにかけた楔を外し、もう一度その感情を知るようになるのは、もう少し先の話である。
「なにを考えているんですか?」
アデレイドの問いに、ルディガーはハッとした。市の中心部、市庁舎のある広場(ここで放射線状に延びる三本の主要な通りが交わる)を過ぎて、北のアヴァー川に接する波止場地区に入るところである。
「ええと、……今年の夏はよく陽が照って作物が沢山実るといいなあって思ってただよ」
「へえ。愉快な方ですね」
アデレイドはルディガーの答えを、ユーモアの一種と受け取ったようだった。上品な素振りで、口に手を当てて笑った。
川の水音や、立ち働く港湾労働者の声が聞こえるようになり、周囲は格段と騒がしくなった。積み荷を山と載せた荷馬車が行き来する。監督官の指示のもと、筋骨隆々とした荷役人足たちが樽を担いで列を成している。
そしてそんな中で一際目立つ建物が、酒場「難破船亭」だった。
風雨に曝されボロボロになったマストが、倉庫の群れの中に聳え立っていた。要するに、「難破船亭」とはその名の通り、廃船をそのまま陸上に引き揚げ、改修して転用している酒場だったのだ。河川でよく使われるスピードの出る平底舟とは違い、海での航海にも耐えられる大きなガレオン船だ。太い丸太が何本も、倒れないよう横から船を支えていた。
「す、凄いだな……」
ルディガーは目を丸くして驚いた。内陸のスターランド出身なので、大きな船をあまり見たことがないというのもある。それでも、アヴァー河やスタール河など
「なんだ。あんたら、見たことないのか?」
隣の男が話しかけてきた。羽のついた帽子を被ったきざな男だ。首や腕は筋肉で太く、力強く膨らんでいる。船員という風体ではないが、なにをしにここにいるのだろうか。
「この『難破船亭』は元々、さる大商人の持ち物だったのさ。だが、ここの船着き場に停泊している間に積み込んだ火薬の樽が爆発して、ほれ、横っ腹に穴が開いちまった」
男が指す通り、その船の船腹部分には黒こげた大きな穴の
「それでその大商人は船を手放す羽目になったんだが、船長以下船員一同は船を離れたがらなかった。そういうわけで、今その連中は船を買い戻して、陸の上で船乗りや人足に酒と飯を振る舞っているのさ。偉いもんだよな」
男はひとりごちて、空樽で作られた扉へと登る階段に足をかけた。ルディガーとアデレイドと視線を合わせ、その後を追った。
男が開けた扉が閉まる前に、船倉を改造した酒場へと滑り込んだ。途端に、溢れるような熱狂の渦が二人を襲った。一呼吸ついてみれば、それはどうやら彼らの前に入った男を迎え入れる歓喜の叫びらしかった。
船がまだ河の上で交易に熱をあげていた頃にはあったであろう船倉を区切る床や天井、仕切りの類いは全て取っ払われている。すり鉢状になった船倉に幾つかの階が設けられ、階段で上り下りができるようになっていた。しかし出入り口は一つだけだ。不便といえば不便に違いない。
歓声を浴びる男は、鷹揚な仕草でそれに答えながら、酒場のもっとも底に降りていった。特に当てのないルディガーたちもそれに続く。男は様々な人物に肩を叩かれ、そのたびに何言か言葉を交わしていた。この酒場では相当な
「どうだい、ベネディクト。俺たちの稼ぎはいつよくなるんだ?」
「待ってな。もうすぐ、穴蔵暮らしとはおさらばだからよ」
「おい、ベネディクト。次の"運動"はいつやるんだい?」
「二三日中には仲間が計画を練る筈さ。そうしたら助太刀を頼むから」
「任せろって」
「よお。ベネディクト。お前は頭でっかちの学者どもと違って度胸があって気に入るぜ。今度の"花火"はドデカイのを頼むぜ」
「期待してな」
彼を取り巻く輪の中にいた男の一人がルディガーの姿を認めた。
「よお。あんたか」
彼を誘った医学大学校の生徒である。
「よく来たな。歓迎するぜ」
そう言って右手を差し出す。ワンテンポ遅れて、ルディガーはそれを握った。
「みんな、聞いてくれ! こいつが俺たちの新しい同志、ルディガーだ!」
彼は、周囲にそう宣言する。返ってきた反応は予想以上に冷淡なものだった。
「おいおい。そんな若造が使えんのかあ?」
「遊びに行くんじゃねえぞお。俺たちは"体制"と闘ってんだからよお」
「いざってときに、母ちゃんのおっぱい恋しさに逃げ帰るようなやつぁ、お呼びじゃねえってのな」
「それよか、隣の娘っ子の方がなんぼか度胸あるんじゃねえのかあ?」
ガハハハハと巻き起こる豪快な笑い声。男たちの一人が調子に乗って、アデレイドの質素な色合いのスカートを捲ろうとした。
「なあ。嬢ちゃんよお。酒注いでくんねえ、可愛がってやっからよお」
アデレイドはキッとして、傍のテーブルに置いてあったジョッキを相手の顔に浴びせかける。周囲は大爆笑の
「やっぱり、そこの餓鬼よか使えんぜ、こりゃあ」
誰とも知れない声がそれを混ぜかえした。
「着てる服入れ替えた方がいいんじゃあねえの?」
「違ぇねえ、違ぇねえ」
ルディガーが止める間もなく、アデレイドが両側から腕を掴まれる。周囲は止めようとする者もいない。酒場の雰囲気はまるで、悪意によって操られているかのように熱狂によって掻き立てられ二人に対して牙を向いた。
「や、やめるだ!」
ルディガーは途端にハッとして、駆け寄ろうとするも、別の水夫に後ろから抱きすくめられる。懸命にもがくが、何人もの腕に邪魔をされ、押し込められる。羽交い締めにされ、服に手をかけられた。
「おらは、おらはええ! アデレイドを、その娘を離しでやんねえか!」
ルディガーは必死の思いで叫んだ。アデレイドの叫びが人の壁の向こうから聞こえた。
「やめ……やめてください! てっ──」
「やめないか!!」
男の怒声が、場を突き刺した。一斉に男たちは動きを止め、ぎこちなく後ろを振り向く。
そこには額に青筋をたてたベネディクトが、仁王立ちで睨みつけている姿があった。怒気を孕んだ声で、彼は言った。
「お前ら、やるべき時と場所と相手を間違えてるんじゃあねえのか? 罪もねえ娘をいたぶって楽しむようなやつは俺の仲間にはいらん」
そう裁断を下されてしまうと、男たちといえど立つ瀬がないようで、きまり悪げに隣の者と顔を見合わせてうつむいてしまった。
「おい、お前。前に出ろ」と、ベネディクトは群衆の一人に目をつけ、「お前がみなを焚きつけたな?」
「そ、そんな……滅相もねえ」
そう弁解する男を一瞥して、ベネディクトは汚ならしそうに吐き捨てた。
「蛆虫め」
次の瞬間、ベネディクトの拳が男の顔面を直撃する。いつの間にか彼の拳には、鉄の
「これで勘弁してやる。次はその怒りは貴族や代官ども……"支配者"、"簒奪者"、"寄生虫"どもにぶつけるんだな」
床に這いつくばった男は、血のまじった胃液を吐き出しながら、懸命にコクコクと頷いた。
「おめえらもだ!」
「へ、へえ!」
男らはベネディクトの剣幕に恐れをなして叫んだ。ベネディクトはその答えに満足した様子を見せると、ルディガーに歩み寄った。
「本当にすまないことをした。俺でよければ、いくらでも殴ってくれ」
「そ、そんな……。止めてくれてありがたいだよ」
「そうか。そう言ってくれると嬉しい」
ベネディクトは立ち去り、今度はアデレイドのもとへと向かった。
「本当に申し訳ないことをした、
「……そうならば、仕方ありません。今度は、相手を確かめてからにしてください」
「厳命しよう」
ルディガーはそれを聞いた。アデレイドが立ち上がるのを見た。男たちが一斉に下がった。アデレイドは彼の方に近寄り、手を差し伸べた。
「助けようとしてくださり、ありがとうございます」
「い、いや……。おらこそ、助けられなくて、すまないだ」
アデレイドは少し笑った。
「あれでは誰でも仕方ありません」と、周囲を一瞥し、「こんな荒くれどもが相手じゃ」と言った。
当の荒くれどもは、小さくなってテーブルの前で縮こまっている。
屈強な水夫の格好をした給仕が酒を注いだジョッキを持ってきた。
「ベネディクトさんからだ。お詫びに奢るそうだ」
見るとベネディクトは酒場から出ていくところのようだった。目が合うと、帽子を取って挨拶をした。
「今日は帰るぜ。顔見せだけの積りだったし、お前らが面倒を起こすから、すっかり気分が冷めちまったい。今度来る時までに高めとくんだな!」
酒場に居た50人ほどの男たちにそう宣言すると、颯爽とベネディクトは去っていった。
「格好いいぜ。"革命家"ってのはああじゃなくっちゃな」
誘った同級生がそう呟いた。ルディガーが目を向けるとドギマギして視線を逸らす。
「す、すまなかったな。止められなくてよ」
「あんたが、あの時一緒になって騒ぎ立ててたのは、おら見てただ」
ルディガーは冷静にそう言うと、ジョッキのエール酒を一息で半分ほど胃に流し込んだ。普段は好きでもなんでもない酒が、今はやたらと欲しかった。
「でも、おらはあんたを責めないだよ。注意を怠ったおらが迂闊だっただ」
またジョッキをあおると、空になったそれをテーブルに叩きつけるように置いた。彼が怒っていたとしたら、それはもっぱら彼自身のためだったのだ。どんな時にも注意を怠るな、とあれほど師匠に言われていたのに!
「そ、そうか……。おい、給仕、エール酒もう一杯だ」
「少しいいですか?」
アデレイドが学生に尋ねた。
「な、なんだ?」
「この街の酒場には、他にどこがありますか?」
男は呆気にとられた。
「ええと、酒場だろ? ここ、波止場の『難破船亭』に、東の商業地区にある『オークの生首亭』、西の職人街にある『熊と金貨亭』、『あか……っと、はもう無いから、あと、"スリ横丁"にある『笑うされこうべ亭』に、市庁舎の近くの高級酒場『グリフォンの輝く羽亭』、街外れの『折れた三本の矢亭』ってとこかな。『笑うされこうべ亭』と『折れた三本の矢亭』は薦められねえな。『グリフォンの輝く羽亭』に行くには金が足りねえ。『オークの生首亭』にはいけ好かねえトンカチ頭どもがいやがる。『熊と金貨亭』はなんだか、一見お断りな空気が気に入らねえ。結局ここが一番さ」
アデレイドは男を無視して、質問を重ねた。
「その中で、
「ええと、
「ありがとうございます」
丁寧に礼を言うアデレイドに、かえって男が恐縮した。
「そ、そんな堅くなるなよ。……お、おい、給仕! 弱い果実酒一杯持ってきてくれ!」
「じゃ、じゃあ、"一騒ぎ"するときはまた声かけるから、そん時は頼むぜ」
帰りがけに男は言った。
「あのベネディクトって人が"革命団"のリーダーだか?」
「ああ、そうだぜ! 見た通りおっかない人だけど、腕っぷしは強いし、俺たちを率いる時はそりゃあ頼もしいのさ。あの人が前に立っててくれるなら、貴族だろうと魔狩人だろうと恐くねえって気になるもんな!」
よほど心酔しているようだ、とルディガーは見抜き、これが当たりだろうかと重ねて訊いた。
「あの人、大学の学生だか?」
男は、なにを馬鹿な、と憮然とした表情を見せた。
「そんなわけないだろ! あの人はそういう知識だけあって行動をしない人間を軽蔑してるんだぜ! あの人は賢い。でも、それを学問じゃなくて、俺たちみたいな報われない民を圧政から救うために使ってくれるんだよ!」
「……そうだか」
ルディガーは仕方なくそう答えた。じゃあ、ラルフが言っていたのはなんだったのか?
帰る途中でアデレイドとは別れ、彼は"スリ横丁"へと報告のために向かった。
胸を抑え、懐に確かに財布が入っているのを確かめる。
最早その中には、彼の師匠が託した手紙だけでなく、混沌の陰謀を暴くための手紙すらも入っているのだ。
ルディガーは、今、盗賊ギルド──"スリ横丁"──のためだけに働いているのではない。それよりも彼自身のため、彼の守る掟のため、帝国魔法規約のため、彼がそれを自らに守ると課した掟のためにこそ、動いていた。混沌の企みを打ち砕くために。
━━━━
一日前。宿で。
「俺の文章を読む力じゃあ、間違いがあったかもしれない。ルディガー、最後に一度読んでみてくれないか」
ベルトルドの言葉に、ルディガーはひどく考え込んだ。今、
他の三人は言葉にしては頼まなかった。必ず、ルディガーなら分かってくれると信じていたから。
ルディガーは根負けして、俯いた。その羊皮紙の束を取る。
「絶対に、後悔しないだな?」
答えは分かっているものの、一応尋ねた。後悔はするに決まっているのだ。後悔しても、やり遂げなければならないことがあるだけで。
ルディガーは、漆喰を塗った壁の外へと声がほんの少しでも洩れるのを恐れ、小さな圧し殺した声でその手紙を音読した。
手紙は全部で何枚かある内の、二枚だった。読んでみると、どうやら前にあった部分と続きの部分があるらしいからだ。ゆえに、宛名も送り主も分からない。それをグルグル巻きに束ね、あのドワーフはずっと握りしめていたのだ。まるで、絶対に手を離してはならないかと、言うように。
「と貴女と私の立場は、確かに異なっており申す。(と、手紙は途中から始まっている)しかし、
即ち、今我々がすべきこととは、帝国が混沌の嵐にて弱体化した、今この時という機会を捉え、過たず帝国の喉元に突き付けられた短剣を、その喉首目掛けて力の限り押し込むことであります。さすれば、自然弱体化した帝国のこと、南部一州が滅べば、全国に散らばり網の目を成した我らの同胞たちが立ち上がることで、いとも容易く、完膚無きまでに抹消され、歴史には名も残らぬことでありましょう。その後は、我々が心の底から望んだ楽園、あの悦ばしき混沌の世界が広がるのであります。貧しき者も富める者も、醜き者も美しき者も、強き者も弱き者も、ありとあらゆる垣根は取り払われ、優れた者だけが生き残る世界がやってくるのです。
(ここで三枚目になる)失礼致しました。つい取り乱して、乱筆、申し訳ない。とにもかくにも、我々はそのための尖兵となることを
計画をより具体的な段階へと進めましょう。既にこちらの手筈は整っております。後は、ただ火を着けるだけで、火縄は燃え、火薬樽は盛大な花火をあげることでしょう。その様、ぜひ御覧にいれたいものですが、貴女には貴女の花火もあることですし、無理強いはしますまい。
此方はアヴァーヘイムで、貴女方の主神ナーグルの賜られた、ナーグルの腐れ病が猛威を
そう言えば、貴女が紹介して下すった黒医者は重宝しております。先程申し上げた最後の手段というのも、その方のもたらした知識によるもので、彼との唯一の連絡員も目下この街におります。
貴女方に人数でこそ劣りますが、我々の教団も武力では遜色ないでしょう。人員も多彩であり、なにより特筆すべきこととして(ここで手紙は途切れている)」
>シャリアとタールの薄い本
公式設定です。公式設定です。大事な話(ry
詳細は救済の書参照。そんな記述まであるなんて、流石ウォーハンマーだぜ!(惑乱)
タイトルはオリ設定です。一応。
>パーティ能力値
アルブレヒト
(人間の【無法者】、元【小作農】)11回成長
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃35┃37┃35┃46┃37┃33┃41┃35┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃2┃13┃3┃4┃4┃0┃2┃2┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能:〈言語:ライクシュピール〉〈常識:エンパイア〉〈世間話〉〈忍び歩き〉〈野外生存術〉〈職能:弓職〉〈てなずけ〉〈水泳〉〈姿隠し〉〈賭博〉〈魅惑〉〈罠設置〉
異能:《強靭》《冷静沈着》《野育ち》《特殊武器:スリング類》
鎧:軽装鎧(レザー・フード)
A・P:頭部1、両腕0、胴体0、両脚0
武器:ソード(片手用武器)、ボウ、盾、スリング
イムラク
(ドワーフの【密偵】、元【召使い】)11回成長
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃53┃33┃36┃46┃38┃36┃45┃38┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃1┃16┃3┃4┃3┃0┃0┃1┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能:〈言語:カザリッド語、ライクシュピール〉〈常識:ドワーフ〉〈職能:鍛冶屋、料理人〉〈察知〉〈世間話〉〈捜索〉〈打撃回避〉〈手先の早業〉〈値踏み〉〈無駄話〉
異能:《怨恨》《肝っ玉》《頑健》《ドワーフの技》《魔法耐性》《夜目》《逃走!》《強靭》《スタミナ》《反射神経》
鎧:なし
A ・ P:頭部0、両腕0、胴体0、両脚0
武器:肉切り包丁(片手用武器)、盾
ルディガー
(人間の【薬師】、元【見習い魔術師】)11回成長
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃26┃28┃27┃34┃31┃41┃46┃37┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃1┃13┃2┃3┃4┃1┃0┃2┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能: 〈言語:ライクシュピール、古語〉〈常識:エンパイア〉〈世間話〉〈学術知識:魔術〉 〈察知〉〈捜索〉〈秘術言語:魔法語〉〈魔風交信〉〈魔力感知〉〈読み書き〉
異能:《強靭》《精神安定》《エーテル順応》《分別》《初歩魔術:秘術》《呪文動作迅速》
鎧:軽装鎧(レザー・ジャーキン)
A ・ P:頭部0、両腕0、胴体1、両脚0
武器:クォーター・スタッフ
ベルトルド(人間の家内工業人)6回成長
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃37┃36┃32┃41┃41┃31┃37┃37┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃1┃14┃3┃4┃4┃0┃1┃1┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能: 〈言語:ライクシュピール〉〈常識:エンパイア〉〈世間話〉+10% 〈察知〉〈職能:靴屋、仕立て屋〉〈操縦〉〈値切り〉〈値踏み〉〈秘密言語:ギルド語〉〈読み書き〉
異能:《魔法耐性》《精神安定》《交渉力》
鎧:軽装鎧(レザー・ジャック、レギング)
A ・ P:頭部0、両腕1、胴体1、両脚1
武器:革裁ち刀(片手用武器)