火と鋼の道で   作:ナナヒカリ

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これで第一話も終わりです。












第一話第二幕・2「旅立ちは夜に」

 4人は村をはしる街道に沿って歩いていた。まだ日は沈んで間もないとはいえ、燃料は貴重だ。いくつかの手工業を営む者以外の家は既に暗闇の中に溶け込んでいる。しかし、アルブレヒトは気付いていた。村が寝静まってなどいないことを。村人にとってよそ者同士のいさかいは絶対に巻き込まれたくない厄介事と同時にこの上ない見世物でもあるのだろう。

 アルブレヒトは、ベルトルドがそれを承知で出てきたのだと思った。

 

「アルブレヒト」

 ベルトルドが呼ぶ。

「もう話してくれてもいいんじゃないか、あんたの故郷で何があったか」

 

 アルブレヒトは考え、思い出す。そしておもむろに語り出した。

 

「俺は故郷のウィッセンランドの片田舎で農夫をやってた。実入りは良くなかったが、堅実にやれば食っていけたし、体を動かすのは嫌いじゃなかった。周囲の連中ともうまくやってたし、俺は死ぬまで農夫だと思っていた。

 

その村、というか農園には代官が一人いて、デカイお屋敷に住んでいた。とりわけ寒い日やら暑い日は違ったが、そうじゃないときは畑を見回って俺達の作業を監督していた。俺は何も疑問には思わなかった。物心ついたときから代官はそいつでそういうものだと思ってたし、そいつには俺には出来ない何か仕事があるんだと思ってたからな。

 

ある日代官が何を思ったか、お屋敷の庭の自分の木を切り倒そうと思いついた。召使いだけじゃ人手が足りないってことで、農夫の中から俺が選ばれた。

昼になって少し休憩があったとき、俺はふと屋敷の勝手口が開いているのに気が付いた。他の召使い達はお屋敷の中で休んでいて周囲には誰もいなかったし、今まで一度も入ったことの無かったお屋敷の中を見たいという好奇心もあった。俺は迷わず中に入った。

 

中は広かった。俺は圧倒されて、ただ奥へ奥へと進んだ。誰かに見つかっても、休憩が終わったから作業を始めたいと言えば済むと思った。しかし、どこかの階段を登って、廊下を曲がった途端、自分が今どこにいるか分からなくなった。俺の家と比べて余りにも広かったからな。俺は戻ろうとして道を間違えたらしくいつの間にか全く見覚えのないドアの前に立っていた。中に人の気配がしたんで、俺は帰り道を教えてもらおうと思ってドアを開けて中に入った。

そこで俺は見たんだ」

 

 ベルトルドは話に引き込まれて訊ねた。

「見たって何を?」

 

 アルブレヒトはただ前を向いて、歩きながら淡々と語った。

「その代官が人の皮を被った豚野郎ってことの証拠だ。いや、豚野郎だったのはそいつだけじゃない、屋敷の召使いどもやら、俺の仲間の中にも知ってて何もしなかった奴はいくらでもいた。

 

とにかく、俺はその部屋を出た。帰り道は分からなかったが、興奮していたこともあって無我夢中で屋敷の中を歩き回った。俺は初めに会った野郎のつらを殴り倒そうと思っていた。俺にとって幸運だったのは、その野郎が屋敷で料理人をしていたイムラクだったってことだ。

 

その屋敷の代官は味音痴でな、どんな肉でもビールで煮込めば食ったもんだ。お蔭でこいつが料理人として雇われてた訳だが(ここで、イムラクの『なんじゃと!? わしが料理が下手だとでもいうのか!』という怒声が入る)。

 

そのときの俺はイムラクにくってかかった。そしたら、こいつはこいつで代官の野郎は腹に据えかねると言うから俺はイムラクと手を組むことにした。

 

イムラクに帰り道を教えてもらい、何食わぬ顔で作業に戻った。その日の夜に村の連中にその話をした。結果はかんばしくなかった。俺の仲間は皆代官を怖れて、触らぬ神になんとやらって態度なんで、俺はそのときは諦めたふりをして機会を待った。

 

その間はひと月ほどだったか、俺はお屋敷の雑務を可能な限り引き受けてイムラクと連絡をとり、作戦を練った。

季節は冬に入ろうとしていて、代官は領主の貴族にその年の収穫について報告するために屋敷を離れるということを知った。決行はその夜になった。

 

過程はともかく、何とか成功して、俺達は先手をとって街へ逃げた。村に留まっても俺が無用心に連中に喋ったから、誰かが密告すると分かっていた。

少々カネはちょろまかしてたから、それで食いつないでいたんだが、もう追っ手が来るとはな」

 

 ベルトルドは微妙に腑に落ちない顔をした。

「なんか肝心なトコがぼやかされてて分かんないんだが、結局お前は何を見て何をしたんだ?」

 

 アルブレヒトは答えずに、ただ前方を指した。気がつけば、松明の明かりはもうすぐそこまで迫っている。松明は二つ、それぞれガタイのいい男が持っており、その間の男は何やら手に構えている。どうやらマイヤー老人が言っていた(クロスボウ)らしい。

 飛び道具を持たれるとキツいな。アルブレヒトは思った。

 

 腰を下ろして投石器(スリング)を取り出すと、道端の石ころを一つ装填し、残りの幾つかをポケットに入れる。

 隣ではイムラクが愛用の肉斬り包丁を荷物から出す。ベルトルドは鞄から革裁ち刀を取り出していた。ルディガーは何を考えているのか、無表情で立っている。

 

「準備はいいか?」

 アルブレヒトは3人に訊ねる。そのまま先に立って行こうとすると、ベルトルドとイムラクが前に立ち塞がった。

「なんだ?」

 アルブレヒトが訊くとベルトルドが答える。

「あんたは重傷だ。前衛は任せられねえ」

「これは俺の問題だ。俺が前に立つ」

 今度はイムラクが答える。

「これはわしの(・・・)問題でもある。お前だけに任せられん。引っ込んでおれ」

 

 言葉が悪いが、言いたいことは分かった。アルブレヒトは自分の意見を押し通そうとも思ったが、ルディガーが味方しないのも分かっていた。彼は一回鼻を鳴らすと、先に行けという身振りをした。

 

 

 さらに近付くと相手もこちらに気付いたようで、真ん中の男が手に持った(クロスボウ)をこちらに向けた。4人が松明によって照らされている範囲に足を踏み入れ何歩か進むと、その男が叫んだ。

「そこで止まれ! 歩けば射つ」

 4人は顔を見合わせ止まる。

 

 相手の男は背後から照らされているため顔は影になって見えないが、声からするとまだ若いようだった。

「先に聞こう、そちらはどこの誰だ?」

 アルブレヒトが声をあげた。

 

 男はクックッと引き笑いをした。

「分かってるんだろォ~えェ? アルブレヒトォ。お前んとこの代官様に頼まれてお前をふん縛りに来た賞金稼ぎよ。罪人風情に名乗る名前は持ってねェが特別に教えてやる。俺はフェリックス。俺の右のがゴイルで左がゲイルだ。」

 男はあごで背後の2人の顔をしゃくった。見るとどちらも瓜二つの顔である。

 

「おっとォ、お前らは名乗らなくていいぜ。調べはついてんだからよォ、奥のノッポがアルブレヒトォ、その横の黄色いモシャモシャ髪がルディガァ~、手前ェ魔術師なんだってなァ、おかしなマネすんじゃねェぞォ。狙ってッからな。そんで手前の赤い髭生やしたチビ、お前がイムラクだ。ここまではマックロ、犯人確定、有罪メンツな。しっかしまだグレーがいんだよなァ、靴屋のベルトルドォ~?」

 男は語尾を引き伸ばした嫌みな物言いで4人をいちいち羅列してみせた。どうやら情報はすべて相手に回っているらしい。

 

「お前ェに関しちゃあ、俺様の情報網もあんまり働いてなくてよォ、まだよく分かんねェのよ。どうだ?お前、そいつらが何モンか知ってて付き合ってんのか?え?」

 ベルトルドは特に動揺もせずに答えた。

「ウィッセンランドで代官から逃げたんだろ?」

 男は嬉しそうにニヤニヤしだした。

「ほっほ~う、そいつを知ってるってことは限りなくクロに近いなァ。最低でも逃亡幇助だ。で?そいつらが何したか知ってんのか?」

 

 ベルトルドは黙った。先刻のアルブレヒトの話の時に聞けなかったものを推測で答える訳にもいかない。

 フェリックスは露骨にガッカリした。

「なんだよ、知らねェのかよ。せっかく共犯者もう一人見つけたと思ったのによォ。教えてやるよ、アルブレヒト。俺様はな、代官様からお前と共犯者一人につき、捕まえたら金貨15枚戴ける契約してんだよ、逃亡を手助けした者は5枚。大盤振る舞いだよなァ? よっぽど頭にきたんだろうな?」

「そんなことはいい! こいつ、何やったんだ?」

 ベルトルドは強引に話の腰を折る。フェリックスは不機嫌そうになるが、口の端を歪めて笑うと言った。

 

「ヘッヘッヘ。そいつはな、代官様の大切な"女"を逃がしちまったのさ、ご丁寧にお屋敷で盗んだカネまで与えてな」

 

 フェリックスは喋りながら、興奮してさらに饒舌になる。

「そりゃあよォ、誉められた趣味じゃねぇよ? 他州やら他所の村やらから女引っ張ってきて、部屋に囲うなんてのはなァ。その上、女にガキができりゃあ、召使いに"払い下げ"なんてのはなァ? でもよォ、俺らにゃ関係ェない事なんだぜ? そいつはよォ。ブスな嫁さんに息子が二人もいて、それでも二十も年下の女に手を出すやつなんて、そりゃア~、ろくでもねェやつだぜ。でもよ、それは俺らとは無関係なことなんだよな。俺はよ、そういう正義面して他人の懐引っ掻き回すやつが大嫌いなんだよなァ、どうせ女に色仕掛けで頼まれたんだろォ? えェ? アルブレヒトォ」

 アルブレヒトは先刻フェリックスが話し出したときから、ずっと無表情である。しかし、その固く握られた拳が彼の意志を語っていた。

 

 フェリックスは言い終わると、(クロスボウ)ベルトルドに(・・・・・)構える。

「だからよ、俺は自分がとびきり満足する方法でやらせてもらうぜ。おいベルトルド!」

 

 呼ばれたベルトルドは緊張して筋肉を固くする。

 

「おめぇはこいつの事件を知らねェ、持って帰っても銭になりにくいやつだ。そいつら3人はウィッセンランドに帰りゃあ、間違いなく惨殺だ。代官様の怒りを一身に受けて死んでも死にきれねェ目に合わされる。でも、お前がそうなると言っちゃあ、いくらシリング貨幣でお前を売った連中だってゴネかねねェ。だからよ、お前ェにチャンスをやる」

 

 フェリックスはベルトルドに狙いをつけた。

 

 

 

「今からアルブレヒトをお前の武器でボコボコに痛めつけろ。そうしたら、お前はそいつらの仲間じゃねェ、しなかったら、そいつらの仲間として今ここで射ち殺す、死ななくてもウィッセンランドに連れてって殺す」

 

 

 フェリックスは叫んだ。

「選べェ、ベルトルドォォ!!」

 

 

 

 

 アルブレヒトにはベルトルドのゴクリと唾を飲む音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「選べェ、ベルトルドォォ!」

 

 フェリックスの声が夜の闇に響いた。やはり松明の光で顔は影になっている。

 

「いくつか、いいか?」

 発言したのはベルトルドではなくアルブレヒトだった。

「俺を捕らえたとしても、ルディガーは関係ない。放してやってくれ。それと、あの女は無事なのか?」

 

「まだ喋っていいなんてて言ってねェぞ!」

 フェリックスは唇を歪めて怒鳴った。

 それから口の端をひん曲げて笑う。

「ルディガーァ~? 放すわけねェッだろ、大事なメシの種をよォ。あー、あと女だったか?」

 そこでクックックッと引き笑いをする。

「代官様はあれだ、コネがあるからよ、女追うより手に入れる方が早ェんだよ、もう一人いるみたいだぜ? お前らの努力も無駄だったなァ? いいじゃねェかよ、女はカネと安泰な将来が持てるんだからよ、恵まれてるぜ?」

 

 アルブレヒトは無表情を貫いていたが、拳はプルプルと震えていた。

「鎖で両足をベッドに繋がれた人間が、"恵まれてる"訳ないだろうが」

 

 しかしフェリックスは聞く耳を持たない。

「ああ、お前ェ部屋の中見たんだっけか、羨ましいぜェ? 代官様自分一人で楽しんで俺にゃ見せてくんねェんだからよ」

 フェリックスは左手で頭をボリボリと掻くと、いきなり叫んだ。

「つぅかよォベルトルド! さっさと決めねェか!! お前がつくのは俺様か、そこの頭干上がったバカか、どっちだ!」

 

 依然、(クロスボウ)の先はベルトルドに向いている。アルブレヒトの目に、ベルトルドが手に持った革断ち刀を強く握るのが映る。

 

 世の中には、曲がったものを見たときにそれを直さなくては、という義務感に駆られる者がいる。また、それから目を背けることが"できてしまう"人間がいる。

 アルブレヒトは前者でベルトルドは後者であった。

 

 そして、ベルトルドは口を開いた。

 

 

 

「答えは始めから決まってんだよ。お前につくぐらいだったら馬のウンコ食った方が100倍マシだ、糞野郎」

 

 

 ベルトルドはついでにつけ加えた。

「あ、糞野郎だとウンコに失礼か」

 

「死ッねやァ、ゴミがァ!」

 フェリックスの叫びがこだまする。

 

 ベルトルドは冷静だった。冷静に激昂していた。それは、さっきのフェリックスの話を聞いた時からずっと。

 世の中には、不正に対する義務感を持つ者と持たない者がいる。そして、義務感を持たない者の中には、義務感を持つ者の志に呼応して自らを高みに上げる者がいる。

 ベルトルドは正にそういう人間だった。

 

 ベルトルドは自分が特に正義感が強いとは思わない、現にさっき村の者が自分の情報を売り渡したと聞いても、怒りは湧かなかった。なぜなら、例え聞かれたのが自分でもそうすると思ったから。しかし彼は、アルブレヒトの不正に対する怒りをバカにする者は許せなかった。

 別に、自分を追って結界に入ってくれたことへの礼ではない。そんなことではなく、彼はアルブレヒトのその性格をこの数時間の間に気に入ったのである。常に冷静であり的確な判断を下すが、仲間のこととなると利益を度外視する損でしかない性格を"気に入って"しまったのである。

 ただ、それだけだった。

 

 

 そして、同時にベルトルドはフェリックスの性格をも把握した。多弁で情緒不安定、自分の優位を誇りたがるその性格を、声を聞くままの"ガキ"のそれだと看破していた。そして、ガキは挑発すれば必ずノってくる。

 

 フェリックスが叫ぶ瞬間、ベルトルドはイムラクに視線を合わせた。イムラクは目で、分かったと答える。

 

「死ッねやァ、ゴミがァ!」

 フェリックスは叫び、(クロスボウ)の引き金に指をかける。その時、彼の頭にチラリと、ここで挑発にノってしまうのはもしかすると相手の思うつぼではないのか、という考えが浮かんだ。

 

 しかし、フェリックスは自分の直感を信じるには余りに幼く、経験不足だった。

 引き金を引くと、(クロスボウ)の弦がボルトを高速で押し出す。

 

 

 その時、フェリックスが(クロスボウ)の引き金を引いたその時、ベルトルドは勢いよく地面を蹴って駆け出していた。ボルトは一瞬前にベルトルドがいた空間を貫き、闇の中へ飛んでいった。

 

「な?!」

 

 フェリックスは驚く間もなく、ベルトルドがすぐそこまで迫っていることを知る。

「ゲイル! ゴイル! 俺を守れ!」

 両脇の拳鍔(ナックルダスター)を着けた護衛に叫ぶ。しかし、言い終わらない内にベルトルドがその手の刃を振り上げていた。

 

「ひイィィ」

 ザクッという音をたて、本来硬い革を切り裂くための刃はやすやすとフェリックスが庇うためにつき出した左腕に突き刺さった。

「ぎゃああアァァァ!」

 フェリックスの悲痛な叫び、それもその筈。ベルトルドが刃を引き抜くでも押し出すでもなしに、力任せに横に切り抜いた(・・・・・・・)のだから。

 傷口は広がりピンク色の肉が裂けた部分から顔を出している。切れ味のいい刃物で斬られたので瞬時に血は出ない。プツプツと血の小さい蕾が肉の表面にできたかと思うと、プシャッという音とともに満開の花を咲かせた。

 傷口を唖然として見つめるフェリックスの顔に鮮血が降りかかる。間近で見るフェリックスの顔は、やはり若者のそれで、頬にはニキビ、鼻に小さい傷痕があった。すぐに、真っ赤な血で彩られ見分けがつかなくなったが。

「あアアアァァァァァ」

 麻痺して感じなかった痛みに突如襲われたフェリックスが絶叫した。

 

 ゴイルがベルトルドを倒そうと駆け出した瞬間、イムラクが弾丸のようにとんできて割って入る。

「邪魔はさせんぞ!」

 右手の肉斬り包丁を振り抜いて、左の盾で守りを固める。ゴイルは距離をとらざるをえない。

 

 その時ベルトルドが叫んだ。

「聞け! これ以上俺達に手出しすることは許さん! 拾った命を大事に使え! 以上! とっとと、帰りやがれ!」

 

 それを聞くと、フェリックスは大急ぎで言った。

「ゲイル、ゴイル、退くぞッ」

 ゲイルとゴイルは目を見合わせて、走り去る。

 フェリックスも逃げようとするが、ベルトルドもただで帰す訳にはいかなかった。そうするほど、彼は親切でもお人好しでもなかった。逃げるフェリックスに追い打ちで一発くらわせる。フェリックスは足をもつらせて勢いよくバッタリ倒れる。

 

「早く起きやがれ! これに懲りたら二度と近寄るんじゃあねぇぞ!」

 すぐに立ち上がり、振り向いたフェリックスの目は憎悪に燃えていた。

 走り去るが、松明を持って主を待つ護衛に叫ぶ。

 

「構わねェから、火ィつけちまえ!」

 

 その光景、自分が代々のご先祖から受け継いだ家に火のついた松明が投げ入れられる光景がゆっくりとベルトルドの目に入る。

火はすぐさま家の板壁に燃え移り、屋根の藁に広がる。フェリックス含む3人はそれに乗じて闇の中に消える。

 彼はそれを思考の外で眺めていた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「すまんな」

 いつの間にか後ろに立っていたアルブレヒトが言う。

 

 ベルトルドは茫然自失として、今なお燃えている愛しの我が家を見つめていた。

 

「やつの狙いは俺だったのに、何もできずに助けてもらい、こんな迷惑までかけてしまった」

 そして言い繋いだ。

「俺に出来ることなら何でも協力しよう。家の再建も、仕事も。勿論金は要らない。どうすれば償える?」

 

 ベルトルドはゆっくりと振り向いた。

「償い? そんなのどうだっていい」

 

 

 そしてゆっくりと微笑んだ。

「仕事を頼んだのは元々俺の方だったし、必要以上に助けてもらった。これ以上望むことなんてない。ただ一つ気がかりなのは、約束の靴をあんたに作ってやれなくなったことだ。道具は家の中にあったんでね」

 

 さらに言う。

 

「こちらからもお願いがある。もう家も財産も焼けちまった。俺をこの土地に縛りつけるものは何もない」

 

 

「俺を旅の仲間に入れてくれないか?」

 

 

 アルブレヒトは目を見開く。後ろの2人に目をやる。最初に口を開いたのはドワーフだった。

「さっきの一撃は見事だったぞ、ベルトルド」

 そう言って右手を差し出す。ベルトルドは腰を屈めて手を握りながら言う。

「ありがとよ」

 

 アルブレヒトはルディガーに聞く。

「ルディガー、お前は?」

「馬……」

 黄色髪の魔術師はボソッと呟いた。

「何だって?」と、アルブレヒトは問い直す。

「さっきの集落で、馬見なかったもんだから、そういえば馬は無事かなあって、おらそればっか考えてただ。それで何の話してたんだっけか?」

 

 アルブレヒトは苦笑いする。そしてベルトルドに向き直ると言った。

「俺に断る理由はない。決まりだな」

 そして荷物を肩に担いだ。

「そうと決まれば急ぐぞ。面倒に巻き込まれない内にこの村を出たい」

 

「ふっふっ、アヴァーランド人には酔狂が多いそうだが、本当だったようだな」

 イムラクがベルトルドに話しかける。

「俺がかぁ? 嘘だろ? こんな真人間がか?」

 ベルトルドは露骨にびっくりしたという顔をした。そして、思い出したように水筒を取り出した。

「そういえば、あんたとの約束は守れるぜ、俺水筒にビール入れてきたもの。これでドワーフのビールとどっちが旨いか決めてくれよ」

 でもちょっとヌルくなってるかな、というベルトルドの発言を待たずに、イムラクはベルトルドの水筒をひったくると、ランタンを持っていない方の手でラッパ飲みし始めた。

 

 ベルトルドは笑いながら後ろを向くと、器用にステップを踏みながら彼の"元"隣人達に呼びかけた。

 

「じゃあなぁ、俺は出ていくけど気にすんなよお、もう靴直してやれないけど大目に見てくれよお、何もあんた達が悪いわけじゃねえ、あんたらは昔の俺とおんなじにただ普通に生きてるだけさ、でもよぉ、俺はあんたらのその"普通"ってもんに嫌気が差しちまったのさぁ、じゃ元気でやれよお」

 

 闇の中から返事は無かった。

 

 これだけを一息で言ってしまうと、ベルトルドはもう未練はないという風に前に向き直り、振り返らなかった。

 

「なあ」と、アルブレヒトに話しかけた。

「お前ああ言ってたけど実際さ、俺があいつとやりあってた時、本当に何もしなかったよな」

 アルブレヒトは心外だ、という顔をする。

「まさか、後ろで投石してたぞ」

「気付かなかったなあ、その石どこに飛んだんだ?」

 

「明後日の方向」

 アルブレヒトは事も無げに言い放った。

 ベルトルドは、くっくっと笑う。

 その横ではイムラクが口に泡をつけて、ドワーフビールとアヴァーランドビールの違いについて力説しており、ルディガーが相変わらず何を考えているのか、ぼおっとして歩いている。

 

 

 闇はなお、深まるばかりである。

 

 

 

 

 

 





>敵データ


フェリックス(人間の【賞金稼ぎ】)
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃36┃32┃35┃29┃43┃41┃35┃35┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃1┃13┃3┃2┃4┃0┃0┃3┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能: 〈言語:ライクシュピール〉〈常識:エンパイア〉〈世間話〉 〈足跡追跡〉〈威圧〉〈察知〉〈忍び歩き〉〈捜索〉〈尾行〉〈野外生存術〉
異能:《分別》《第六感》《気絶打撃》《強打》《特殊武器:絡みつき》《野育ち》
鎧:軽装鎧(レザー・ジャーキン、レザー・フード)
A ・ P:頭部1、両腕0、胴体1、両脚0
武器:クロスボウ、剣(片手用武器)、ネット

ゲイル、ゴイル(人間の【用心棒】)
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃武┃射┃筋┃頑┃敏┃知┃志┃協┃
┃31┃34┃44┃37┃25┃26┃25┃37┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃攻┃耐┃+┃+┃移┃魔┃狂┃運┃
┃1┃13┃4┃3┃4┃0┃0┃0┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
技能: 〈言語:ライクシュピール〉〈常識:エンパイア〉〈世間話〉〈威圧〉〈察知〉〈打撃回避〉〈負傷治療〉
異能:《低姿勢》《スタミナ》《剛力》《気絶打撃》《ケンカ慣れ》《特殊武器:受け流し類、投擲》《武器落とし》
鎧:軽装鎧(レザー・ジャック)
A ・ P:頭部0、両腕1、胴体1、両脚0
武器:バックラー、ナックル・ダスター、スローイング・ダガー×2


>経験点と成長
50xpを獲得
アルブレヒト:【耐】+1
イムラク:【協】+5%
ルディガー:【協】+5%
ベルトルド:【耐】+1
フェリックス:50xp



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