咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第九話 目的

夜、竹井久が風呂に髪の毛をバスタオルでわしゃわしゃ拭いているとベッドの上の携帯電話が鳴り出した。

 

「ん?こんな時間に誰かしら?はいもしもし~」

「もしもし久?元気してるか?」

 

電話の相手はいつになく上機嫌な従兄弟(いとこ)の上埜天斗であった。

 

「なーに兄さん急になんか随分機嫌がいいけどなんかあった?」

「お、よくわかったな!!ついに俺にも彼女ができ、」

「はいはい冗談はいいからいいから」

「ひどっ!!まあ実は今日…」

 

そして天斗は本日大河たち百目木中学麻雀部の監督になった出来事について久に話始めた。

 

「って事なんだよ」

「ふーん」

「ふーんってあんまり驚かないな?」

「まあ兄さんは昔から変なところでお人よしだからねーまったく…」

「まあ最初は受けるつもりはなかったんだけどな…そいつらの目がお前そっくりだったんだよ」

「私に?」

「そう、麻雀をしたくてたまらないのにできない…久に似たどこか寂しそうな目でさ…」

「……」

「そんな寂しそうな目をしている奴を見たくないんだよ俺は…だから俺が教えられる事ぐらいは…な?」

「あーもうまったくわかったわよまったく…どこまでお人好しなんだか…」

 

久は天斗の言葉を聞いてそのお人好し加減に呆れていたが電話越しの声はどこか嬉しそうであった。

 

「久、俺らも頑張るからお前ももう一年踏ん張ってみろ?そうしたらきっと麻雀の神様からとんでもない贈り物が来るかもしれないぜ?」

「ふふふじゃあ期待して待ってみるわ」

「おう、あ、あと夏お前のところに練習試合にいくからよろしく頼むわ」

「はいはいじゃあね…ええ!?清澄に来るの?いつ!?ってもう切れてるし…」

 

大事ことを聞き逃してしまったが近くになったらまた連絡が来るだろうと思い久は考えるのをやめ携帯をパタンと閉じた。

 

 

どうも麻雀初めてやっと二ヶ月が経ちました千条白兎です。

本格的に部活が開始してからなんと麻雀部も部室をゲットしました。といっても使われてない空き教室を借りただけなんですけど…それでも手積みの麻雀牌で放課後部活に(いそ)しんでいます。私も最近では綺麗に牌を積めるようになって来たんですよ、三回に一回は失敗しますが…

それはともかく麻雀部設立してからついに初めての夏休みを迎えました。これからたくさん遊べるぞ!!という私の希望は一日持たずに打ち砕かれ、夏休みに入ってそうそうコーチである天斗さんの提案で合宿を行うことになり現在生まれて初めての新幹線に乗って目的地の長野に観光ではなく麻雀をするために向かっておりますところです、はい。

 

「あー疲れたーやってきました長野!!」

「ううババ抜き一回も勝てませんでした…晶ちゃん強いよ」

「…ポーカーフェイスは基本」

「ほら十和さん長野についたわよ、起きて」

「うあここどこや…」

「よし!!とりあえず旅館に荷物を置いたら早速目的地に向かうから」

「…そういえば合宿の内容全く聞いてないんですけど、どこに練習しに行くんですか?」

「ん、それはついてのお楽しみ~」

 

雪奈が天斗に尋ねてみると天斗はなにやら企んでいるような笑みを見せながらも目的地は教えずに一行はそのまま駅をあとにした。

 

 

竹井久は今、目の前の状況に驚いて…いやもう驚きを通り越して呆れていた。

従兄妹の天斗から電話で教え子を連れてくるとは言っていたのでてっきり高校生かと思っていたがまさか女子中学生を五人も連れてくるなんて思いもしなかった。若干怪しいとは思っていたがやはり…

 

「はぁ…今日まで知らなかったわ…まさか兄さんが真性のロリ」

「だからちげーって!!」

「ふふ冗談よ…まあ最初は軽く自己紹介からね清澄高校麻雀の部長やってる竹井久よ。よろしくね」

「んでわしが部員その一の染谷まこじゃ今日はよろしく頼むのう」

「「よ、よろしくお願いします!!」」

 

全員が普段見せないような緊張した表情で目の前の高校生二人に挨拶をする。

大河達五人には高校生を相手とした対局など全く予想外であり普段仲間内やたまに雀荘のおじさんたちと打つくらいの経験しかない五人にとって年が近く、ましてや年上の高校生の相手など初めての経験であった。

 

「久とは従兄妹同士でな、お前たちも俺よりも年が近い人と打った方が何かと学ぶことが多いと思って今日お願いしたんだよ」

「まさか高校生が相手やなんて…」

「やばい…ちゃんと打てるかしら」

「でも、逆に高校生相手にいい勝負できればインターミドルの夢も近くなるってことだよね!!」

「おおおさすが先輩!!そこに気づくとは何者ですか!?あなたは!!」

「…単純…あの二人は強化系か?」

「さあ席について今日はとことんやるわよ。こっちも久々の四人で卓囲めるからでウズウズしてるんだから!!」

 

五人が口々に喋っていると大河達以上に早く麻雀が打ちたいのか、久はセーラー服の袖をまくり肩口まで伸びた髪の毛の左右を髪留めで縛り俗に言うお下げの形にして準備万端とばかりに屈託(くったく)のない笑顔で対局相手を待っている。

 

「そうじゃなそろそろ二人麻雀は飽きとったしのう」

「久々ってほかの部員の人はいないんですか?」

「そうね…今は私たち二人しかいないわ。でも来年には五人揃えて全国に絶対行くの!!そのためにも今は少しでも打って強くならないとね?」

「ヒーサー…」

「ほら時間が勿体いないわ最初は誰が相手してくれるのかしら?」

 

その時の久の話を聞いて大河は一年生の頃の自分と久を重ねていた。

必死で部員を探し回っても誰も集まらずに諦めかけていたあの頃の自分と…でも今は違う辰美が転校してきてくれて、晶と白兎が入部してくれて、そして最後に雪奈が協力してくれた。

 

--------------行くんだこの仲間たちと…

--------------一緒に絶対に…

--------------全国の舞台に行くんだ!!

 

「よろしくお願いします!!」

 

再び固い決心を心に決め大河は大きな声で返事をした。

 

 

 

「つ、強い…さすが高校生」

「あはははは!!まだ負けないはわね~」

「所々危ないところはあったがの」

 

結果だけ言ってしまえば惨敗。

皆いいところまで行く場面はあるもののやはり経験の差もあり後一歩のところで久の悪待ち、まこに勢いづかれての猛攻にやられてしまった。

 

(そうねみんないいもの持ってるけど…今の状態ではあの子が一頭抜けてるみたいね。)

「あーあやっぱり高校生は強いわ~」

「あの単騎待ちに振り込まなければ…ッ!!」

 

そういって久が視線を送ったのは小学校の時ジュニア大会で全国ベスト8まで上り詰めた大道寺雪奈であった。今回の対局ではセオリーから外れた久の悪待ちに見事にハマっていたが時折見せる氷のような的確な闘牌を見ると正直一番敵に回したくない相手であった。

 

(それともう一人…)

「やったよ晶ちゃん!!今の半荘一回もチョンボしなかったよ!!えらい?」

「いやそれが当たり前だから…」

「えー少しは褒めてよー」

(あの子…麻雀を初めて二ヶ月っていってたけど今日一度も大きな直撃を受けてない、私の単騎待ちや地獄待ちなんかは彼女に当たり牌を止められてたし…もしかすると…)

「ねえ?ヒーサー」

 

白兎の打ち筋について考えていると久のスカートの裾がちょいちょいと引っ張られ誰かと思うと大河であった。

 

「ん?なにかしら?」

「あの悪待ちってもしかして…」

 

久と打っているの時に五人全員が感じたであろう疑問--------------

多面待ちを捨てあえて単騎の待ちを選ぶ戦法、その打ち方は日ごろから自分たちの指導をしている天斗の打ち筋そのものであった。

 

「そう私のここ一番って時の悪待ちはこの人をトレースしてるのよ」

「…やっぱり」

「そのありえへん打ち方する人がまさかもう一人いるなんて世界は広いな~」

「あんなありえない打ち方を真似するなんて…はぁ頭が痛いわ…」

「まあ私もここ一番って時だけだし、流石に毎回悪待ちにするのはどうかと思うわ」

「おい、聞こえてるぞーお前らー久まで俺の打ち方馬鹿にするなんて…まあ別にいいけどねーこれで勝ってるからー別に悔しくないしー」

(女子高生と女子中学生に涙ぐまされる人が日本のアマのトップクラスとは…大丈夫かのう日本の麻雀界は…?)

 

そういながらも天斗の目には涙が浮かんでおり、このやりとりを見て日本の麻雀界の未来を危惧(きぐ)するまこであった。

 

 

 

 

「「ありがとうございました!!」」

「いやいや、こちらこそ楽しかったわ」

「またいつでも打ちにきんさい、いつでも相手したるからのう」

 

楽しかった清澄高校麻雀部との練習試合は終わりを迎え、旅館行きのバスが来るのを百目木中学の五人は待っていると久とまこの二人もバス停まで見送りに来てくれ最後に全員で今日一日分のお礼を込めてお辞儀をする。

 

「ヒーサー…あのね…」

 

バスが到着し次々と乗り込む中大河が久に何か言いたげな様子でもじもじとしている。

 

「ん?なにかしら」

「戦う舞台は違うけど、私たちも絶対来年全国に頑張って行くから!!ヒーサーとマコもインターハイに出て今度は東京で麻雀打とうね、新しい部員の人たちも一緒に!!」

「…ええ絶対、約束するわ!!必ず全国の舞台で」

「うん!!じゃあまたね!!」

 

その後大河が満面の笑みでバスに乗り込み出発したバスを久とまこは見えなくなるまで見送っていた。

 

「こりゃあ意地でも全国に行かないといけんな?」

「ええきっと…まだ見ぬ後輩と一緒に…よーし待ってろ!!!インターハイ!!」

 

その一年後、清澄高校には新入部員が4人入部し見事団体戦出場することができ全国に清澄高校の名前が知れ渡るのはもう少し先のお話……

 

 

清澄高校との練習から一夜明け、大河達一行は長野から千葉に戻ってくるとある場所に急いで向かっていた。

 

「もー最悪ーなんでこうなるのよー」

「タカトーのせいじゃん!!」

「お前だって思いっきり寝てたんだろうが!?」

「皆さん早く見に行きましょうよー」

 

目的地は今年インターミドルの予選が行われる会場。予定ではお昼前に到着するはずだったのだが天斗と大河が電車内で寝過ごしてしまったため既に時刻は夕方になってしまっていた。

 

「そや、ここで争ってもなんにも…ん?どした晶ちゃん?」

「先輩あれ…」

 

晶が指差す先には予選会場があるのだがそこからたくさんの学生が一斉にでて来ていた。

 

「ってことはもしかしてもう終わっちゃった…?」

「そんな…」

「まあ仕方あらへんな」

「ターカートー罰としてみんなにご飯奢りね!?」

「よーしどっか飯でも食いに行くかー今日は奢ってやるぞー大河以外な」

「うわーんごめんなさいー、ん?あなたどちら様?」

「ねえ?あんたたちなんで試合に出てないの?なんで?」

 

会場を後にしようとする天斗を大河が追いかけよるとすると急に後ろから裾を掴まれた。後ろを振り返ると小学生くらいの背丈で夏祭りにでも行ってきたのか狐のお面を横に被り、着ている浴衣は髪の色と同じ水色で見ているだけでこちらも涼しくなるようだ。

 

「もしかしてこの子お姉ちゃんが試合に出とってその応援にきたんやない?」

「なるほど…私達今年は出れなくても来年は絶対に優勝してみせるから今のうちに私のサインあげよっか?」

「ふーん…じゃあ来年は退屈せずにすみそうかな?よかったよかった」

 

そういって一人で納得したような素振りを見せるとスタスタと走って行ってしまった。

 

「あっちょ私のサインは!?」

「大河のサインなんて貰ってもしょうがないでしょう…」

(あの校章…)

 

雪奈は彼女とすれ違う時にその少女の浴衣に付いている校章が目に入ってきた。

 

「大河…あの子」

「なにユッキー?あの子がどうかした?」

「あの子館山女子だ…」

「え?うそ!?」

「館山女子って…?」

「なんですか?」

 

驚いている大河と裏腹に転校してきたばかりの辰美と初心者の白兎は頭の上に?マークが浮かんでいた。

 

「インターミドル出場回数千葉県ナンバーワンの強豪校…」

「いやでもあの子が館山女子だとしてもただの応援とかじゃない…?」

「いやそうじゃないらしい、」

 

そこまで大河がいうと会場の方から天斗が神妙な顔で歩いてきた。

 

「タカトーそれどういうこと?っていうか会場に行ってたの?」

「ああちょっと用を足しにな。そうしたらさっき会場から出てきた人の話が聞こえたんだ」

「どんな話だったんですか?」

「館山女子の大将が一半荘で他の学校を飛ばしたそうなんだが飛ばされた子は彼女の事を化物だと言って試合が終わったあとも怯えていたそうだ。その館山女子の大将ってのが水色の浴衣と狐のお面をつけた子らしい…」

「それって…」

 

その話を聞いた5人全員が先ほど走り去っていったあの少女がとても恐ろしい物に思えてきた。

 

「しかもその子は今年一年生の新生ルーキー、インターミドルを目指すなら絶対に倒さなくちゃならない相手だ。名前は確か…命尾(めいお)

 

 

 

---------------命尾伊鞠(めいおいまり)

 

 

 

 




一週間試験の関係で投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
次回から県予選編になるのでなるべく早く書けるように頑張ります。
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