咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第十話 前夜

一年後、六月-------------

しとしとと雨に降られながらも夏の訪れを感じさせるこの季節は大抵の人が憂鬱になる季節であるが日本の麻雀部に所属する中学生には待ちに待ったインターミドルの地区予選が開催される時期である。ここ百目木中学麻雀部もこの季節の訪れを一年間待っていたこともあり練習に取り組むの姿勢にも気合が滲み出ている。

 

「さあ明日はいよいよ団体戦だ、コーチから最後のアドバイスっとその前に…二人は本当に個人戦はでなくていいんだな?」

 

団体戦から二週間後に開催される個人戦に白兎と晶の二人はエントリーしなかった。明日が個人戦出場のエントリー締切とあってもう一度最後に二人に意思を確認するが意思は変わらないようだった。

 

「…はい」

「私達は来年もあるから、今年は先輩たちにとって最初で最後の大会だから団体戦に集中しようって晶ちゃんと決めたんです。ねー」

「…うるさい」

 

晶は顔を真っ赤にしながらで白兎の頭をパコンと叩く。

 

「痛っ!!なんで!?」

「…なんとなく」

「じゃあ個人戦は三年生の三人で」

 

今年三年生になり中学校最初で最後の大会…後輩たちの気遣いを受けより一層真剣味が増した顔になった三人はこくりと頷く。

 

「よーし明日はいよいよ待ちに待ったインターミドルの予選が始まる。オーダーや細かいことは明日にするから今日は早く帰って明日に備えるように解散!!」

「解散する前にちょっとみんなコレを見て欲しいの」

「なんやこれ?麻雀雑誌?」

 

そう言って雪奈が取り出したのは麻雀雑誌であるウィークリー麻雀トゥデイであった。

 

「このページ見て」

「んなになに?『インターハイとインターミドルに現れた二柱の女神』なにこれ?」

天照大神(あまてらすおおかみ)天鈿女命(あめのうずめ)か…」

「なにタカトー知ってるの?」

「ああこの間プロの人に聞いたんだよ高校生と中学生にとんでもない能力を持った子達がいるってな…」

「で、それがなんで神様と関係あるの?」

「全員の名前…」

 

晶が何かに気づいたのかポツリと呟く。

 

「そう、今年インターハイとインターミドルで活躍しそうな人から一文字ずつをとっていくと天照大神と天鈿女命になるってわけ」

「ハクトーわかった?ちなみに私はさっぱりわからなかった!!」

「私も全くわかりませんでしたよ先輩!!」

 

大河と白兎の二人は分かっていないのにも関わらず何故か得意げな表情をしている。

 

「二人共威張ることじゃあらへんやろ」

「た、たとえばこの天照大神はインターハイでの期待値が高い選手の文字をとってるの。去年MVPの天江衣とかチャンピオン宮永照とか鹿児島の神代小蒔そして今年一番期待値が高いのが大星淡ってこの雑誌に書いてあ…る…」

「……」

「大河…」

 

写真に写っている大星淡の顔を見たとき晶と大河以外の全員が息を飲んだ。そっくりなのだ大河と大星淡が…その写真を見てしばらくの沈黙の中天斗が痺れを切らして大河に尋ねる。

 

「なあ大河…ひょっとしてこの大星淡って」

「い、いやー誰だろうねーで、で天鈿女命の方はインターミドルの人なんだよね?」

 

うまく話をはぐらかされてしまいそれ以上その話については誰も追求しようとはしなかった。

 

「え、ええ東東京の天千尋(てんちひろ)、岐阜の御堂鈿(みどうかんざし)、京都の早乙女小夜(さおとめさよ)、そして千葉の…命尾伊鞠(めいおいまり)

「ん?その子って確か…」

「そう去年会場で見かけたあの子が全国の魔物の一人なのよ…明日は特にこの命尾に注意ね?みんなわかった?」

 

全員黙って頷くとその場はこれで解散となった。

 

 

 

 

「ついに明日大会かー緊張するね」

「まあ少しは…」

「命尾さんって私たちと同い年なんだよね?なのにこんなに有名人なんてかっこいいな~サインもらおうかな?」

「ねえ…そういえば白兎はなんであの時麻雀部に急に入ろうって思ったの?」

「……」

「白兎?」

「私ね鈍くさいから今まで部活とかそんなことやったことなくて麻雀部に入部した時もね、本当は晶ちゃんが困ってたから名前だけ貸すだけのつもりだったんだ…私なんかいても役に立たないしさ…」

「でも天斗さんや先輩達、そして晶ちゃん…みんな麻雀初心者でしかも覚えの悪い私のことも本当に必要としてくれて…私もみんなと麻雀打ってると楽しくなっちゃってやめる機会が見つからなかったんだよね。もう新しい部員も来ないしこのまま続けちゃえーって…本当嫌なやつだよね他人の迷惑考えないでさあ…ごめんね晶ちゃん…」

「……」

「ご、ごめんね急にこんな話して縁起悪いよね…?大会前なのに、よ、よし明日は頑張るぞー、おー」

「…許さない」

「え?」

「白兎はみんなのこと嫌い?」

「そんなことないよ!!みんなみんな大好きだよ!!え?」

 

その言葉を聞くと立ち止まっていた白兎に向かって晶は思いっきり抱きついた。

 

「ちょ、ちょっと晶ちゃん」

「うるさいバカ白兎…」

 

自分の胸の中にいる晶の顔を見るといつものクールな表情ではなく目頭を真っ赤に腫らし泣いていた。一年間ほぼ一緒に過ごして来た白兎でも晶の泣きじゃくれた顔を見るのはこれが初めてだった。

 

「好きなら…好きならどうしてそんな悲しいこと言うの?みんなだって白兎のこと迷惑なんて絶対思ってない!!だって大切な…たった五人しかいないチームのメンバーなんだから…」

「…晶ちゃんごめん…」

「…だめ許さない。私に涙を流させたから罪はさらに重くなった…」

「ええええ!?じゃ、じゃあどうしたら許してくれるの?」

 

白兎がオロオロしている間にすっと晶は白兎の胸から離れ袖で涙を拭きそして表情が見えないように背を向けると独り言のように小さな声でつぶやく。

 

「…明日の大会みんなで優勝したら許してあげる…」

「うん!!」

「あ、あと大沼プロのレアカードもよろしく…」

「大沼プロ?ああ、晶ちゃんの好きなあの気難しそうなお爺」

「あ?」

「す、素敵なプロの人だよね、もし麻雀煎餅で当たったらね…」

「よし…」

 

小さくガッツポーズをする晶を尻目に白兎はもう二度と晶に大沼プロのことでは茶化すまいと心に固く決心した。

 

 

(ついに明日か…)

「ただいまー」

 

雪奈が家に帰宅するといつもは顔も見せない意外な人物が玄関で出迎えてくれた。

 

「お帰りお姉」

「雪乃…」

 

大道寺雪乃---------

雪奈の二つ年の下の妹で千葉県第二シードである私立作草部(さくさべ)中学の入学早々、強豪麻雀部に入部して一年生ながらレギュラー入りを果たしている。いつもは練習で帰りが遅いので帰宅するとすぐに寝てしまう妹が本日はこんなに早い時間に帰宅している。

まあ理由は私と同じといったところか…

 

「お姉、明日の大会まさか出るつもりじゃないよね?」

「だったらなに?」

「お遊びはよそでやってくれる?思い出づくりのために出られちゃあ迷惑なの。」

 

その言葉にイラついた雪奈はは自分の部屋に向かおうとする足を止め雪乃の目の前にまで行って小さいながらもよく通る声で冷たく答える。

 

「思い出作りかどうか明日の大会でみせてあげるわ」

「ふーんまあいいけど優勝するのは作草部中学って決まってるし~あ、お姉私は副将で出るからもし当たったらよろしくね~あと先輩達もきっとお姉に会いたがってるよ。きっとね…特に楓先輩とか」

「……」

 

雪乃の皮肉めいたセリフに雪奈は言葉がでなかった。作草部中学は打倒館山女子を掲げジュニアで活躍している選手を積極的に取り入れている強豪校でありレギュラーとして活躍している選手にはかつて雪奈がジュニア時代ともに戦った仲間達がいる学校である。

その中に彼女が…溝口楓(みぞぐちかえで)がいる…その名前を聞き下唇を噛みながらも雪奈は明日に備えるために自分の部屋の扉を開き眠りについた。

 

 

 

 

暗がりのなか石段を一段一段確認しながら登る人影が二つ。

ひとつは大星大河、もう一つは十和辰美のものであった。

 

「ついに明日かーなんかあっという間だったような中学生活」

「大河ちゃんまだ終わっとらへんやん、それに地区大会のあとは修学旅行もあるし楽しみはまだまだたくさんあるで」

「そうだね奈良京都!!タツミー大阪にいたんだからガイドお願いね?」

「任しといてなーきっちり穴場スポット案内するさかい」

 

辰美がポンっと自信満々に自分の胸を叩いているのだろうが暗いのでぼんやりしか見えない。しかし簡単にその姿を想像できてしまい大河はくすりと笑ってしまう。

そんなことをしているうちに石段を登りきり頂上にある鳥居をくぐるとそこには小さな神社が建っていた。

なんでも勝負事の神様が祀ってあるらしくご利益があるから行って来いと美香に言われたのだ。

 

「明日で全部が決まる…うち正直怖いわ、大河ちゃんは?」

「怖くないって言ったら嘘になるかな?下手したら一年間みんなで頑張ってきた時間がパーになっちゃうってことでしょう?それを考えると手が震えてくる…」

 

そう言って自分の手を前にだした瞬間、スッと暖かいモノが大河の手を包み込んできた。何かと思うとソレは辰美の両手であった。

完全に日が落ちていないので手を握った方も握られた方も赤くなった顔をお互いにうっすらと見えながらも手を振りほどこうとはしなかった。

 

「大丈夫、大河ちゃんは虎や、そんでうちが(りゅう)、この世の強い生物二匹が揃ってるんやそれにほかにも頼もしい仲間もおる負ける要素なんてどこにもないやろ?」

「ぷっ、あっはははははは!!!」

「な、なんで笑うん!?」

「だ、だってタツミーどう見ても辰って感じしないし、せ、せいぜいハムスターだよ!!」

「ハムスターって…」

「はあ…でもありがとう元気出た明日絶対勝とうね!!」

 

そう言って大河はお参りをせずに鳥居の方に歩き出し石段を降りようとする。

 

「当たり前や!!って大河ちゃんお参りせんでもええの?」

「うん、私には神様よりも頼もしいハムスターがついてるって分かったからいいの」

「だからうちは辰がええのーー!!」

 

 

 

----------------インターミドル千葉県予選会場

ついに今日この場所でインターミドルの予選が開催される。

どこの学校も皆目指すものは同じ全国への切符ただ一枚。しかしその切符は一校分しか用意されていない…それを手に入れるために各学校の選手たちがこの日を待ち望んでいた。

あと予選開始30分前となり各校の様子も慌ただしくなる中大河たちも試合前最後のミーティングを行っていた。

 

 

「さてお前たちはこの一年間この日のために頑張って打ってきたわけだが…正直言って最初はここまで着いてこられるなんて思わなかった。その年頃だ、最初はタダの遊び半分だろうと…さっさと誰か辞めるだろうと…でもお前たちは本気だった。ただひたむきに強くなることに必死で努力して花の女子中学生だってのに手をマメだらけにしてまで…」

 

喋っているだけで目頭が熱くなってうまく言葉が出てこない。こういう時に自分のボキャブラリーのなさには心底嫌になる。

 

「あー俺が何を言いたいかというとだなー」

「大丈夫ですよ天斗さん、私たち全員言いたいことわかってますから」

「せやなー天斗さんは顔に出やすいからなー」

「私のこと言えませんよ~」

「そんなでよく勝てると不思議なくらい…」

「まったく締まんないなーじゃあそのあとの言葉、観客席で私たちが優勝するまでにちゃんと考えてよね?タカトー」

「お、お前らなあ」

 

まったく緊張していないのかそれとも心配させまいと強がっているのか真意は定かではないがいつもの様子の五人を見ていると安堵する。

そして天斗は一度大きく深呼吸してオーダーを読み始めた。

 

「まったく…じゃあオーダーを発表するぞ先鋒、十和辰美」

「まっかせて~な!!」

「次に次鋒、千条白兎」

「おまかせあれ!!」

「中堅笹森晶」

「…善処する」

「続いて副将大道寺雪奈」

「…はい」

「そして最後に…大将大星大河」

「はい!!」

「以上百目木中麻雀部、よし!!お前ら思う存分暴れてこい!!」

 

『まもなく一回戦が開始されます。出場各校の生徒たちは速やかに指定の対局室まで移動してください』

 

アナウンスが会場中に流れ全国麻雀中学生大会千葉県予選開幕!!

 

 




次回から予選大会編です。
頑張って書いていくので応援よろしくお願いします
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