咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第十四話 奪略

辰美はトイレで蛇口から勢いよく流れ出る水が制服に飛び散ることも気にせずに思いっきり顔をばちゃばちゃと洗っていた。

 

(はあ何やっとるんやウチは…)

「十和先輩…」

「タツミー…」

 

あれから辰美は聴牌した手もダブロンされた時の記憶が脳裏をかすめ他者に聴牌の気配があるとすぐに手を崩しベタオリを続けていた。そしてそれを知由にダマテンで一度狙い撃ちされたことでプラス分がもうほとんどなくなってしまっていた。そんな情けない打ち筋をしてはみんなと合わせる顔がないと後半戦が始まるまでの休憩時間みんなのところに戻らないでいると後ろから心配そうに辰美のことを呼ぶ声が聞こえてきた。振り返るとそこには今一番顔を合わせづらい麻雀部のメンバー4人の姿があった。

 

「みんな…」

「心配でみんなで見に来たんですよ…」

「あはは…みんな心配かけて悪いな‥次の半荘で絶対にまた稼いで来たるからな」

「タツミー…」

「辰美どうだった?決勝の舞台は?」

「雪奈ちゃんの言ってた通りやみんな死に物狂いで点数取りに来てる‥もちろんウチもそのつもりやそのつもりやけど…」

「周りの必死な空気に飲まれちゃったのね…あのダブロンを喰らってからあなたの打ち筋からいつもの聴牌速度ものびのびとした打牌も消えてたわよ…」

「ほんますいません…次は絶対に」

 

これ以上点数を減らしたくないという気持ちから前に一歩踏み出せない------------我ながらなんと情けない姿だろうか…どんな罵声も覚悟していた辰美であったが雪奈から出た言葉は意外なものであった。

 

「ねえ辰美…私たちってそんなに頼りないかしら?」

「そんなことない!!」

 

雪奈が尋ねたことを辰美は即座に否定する。

 

「ならそんなに背負い込まないでもっと私たちを頼りなさいよ。もし次の半荘あなたがたとえマイナスで終わろうとも私たち四人で絶対にフォローする。チームってそういうものでしょう?」

「雪奈ちゃん…」

「百目木の影の部長であるこの私を差し置いてなーに部長っぽいこと言ってんのユッキー」

「う、うるさいわねチームなんだから当たり前でしょう!!それになによ?その影の部長ってダサッ」

「それにはひどく同意…」

「うわーんアッキ一とユッキーのバーカ!!ハクトーはかっこいいと思うでしょう?」

「うーんあはは…」

「あにそのイケると思ったけどやっぱりダメでしたみたいな苦笑は!!」

「あはは」

 

いつものみんなの会話を聞いているといつも間にか先程までの気持ちが晴れて自然と笑みが辰美から(あふ)れていた。すると同時に後半戦開始を告げるアナウンスが放送された。

 

『まもなく先鋒後半戦を始めます選手の皆さんは速やかに対局室へ移動してください。』

「ああ呼ばれた…じゃあ行ってくるわ」

 

アナウンスがかかり辰美が対局室に向かおうとすると大河が後ろから大きな声で呼びかける。

 

「タツミーガンバ!!」

「うんおおきに!!」

 

 

一方その頃三島佳菜子はこの休憩時間に自分のチームである木更津女学院の控え室に戻っていた。

 

「三島さん前半戦お疲れ様はいお茶どうぞ」

「ありがとうございます剣崎部長、見てました部長?まだ麻雀初めて2ヶ月の私が作草部や館山女子みたいな強豪と戦えてるなんてすごくないですか!?」

「そうねテレビで見ていたわ立派な打ち筋だったわよ」

 

興奮気味に話す佳菜子に対して親身になって聞いてくれている人は木更津女学院部長の剣崎葵(けんざきあおい)である。こんなにおおらかで優しい聖人君子(せいじんくんし)のような人が千葉県のトップクラスの打ち手とは…本当に人は見た目によらないとこの人を見ると佳菜子はつくづく思う。

 

「えへへそれで後半はどうすればいいんですか」

「それはね…」

 

そう言うと佳菜子の耳元で葵は後半の作戦を(ささや)いた。

 

「分かりました部長の言うとおりにします!!」

「ごめんなさいね本当はもっと自由に打ちたいでしょうに…私の我が儘で…」

「いいえ私なんて部長のアドバイスがなければ何していいのか分かんなくてあの場にいるだけで緊張で気絶しちゃいますよ」

「うふふ、本当にあなたと桜庭さんが入部してきてくれて良かったわ。最後に本当のチームとして団体戦のこんな大舞台にたてたんですもの…」

「何言ってるんですか部長は個人では全国っていうもっとすごい舞台に立ってるんでしょう?それにそんなこの試合が最後みたいな言い方したらきっと桜庭のやつ怒りますよ?そういえばほかの先輩や桜庭は…」

「そうね気をつけなくっちゃね?みんなならこれなら安心だってお昼を買いに行ったわよ私と三島さんの分も頼んであるから安心して」

「まったくのんきな…じゃあ私もそろそろ行ってきます」

「ええ…頑張ってきて」

 

部長--------------あなたほど強い人が初心者である私に毎日丁寧に指導してくれたおかげで私はこの舞台に立つことができました。私は…あなたに恩返しがしたい!!全国への切符という最高のプレゼントを部長に送るために後半戦頑張ってきます!!

 

 

東1局 ドラ{白}

作草部中学 秋山知由  (東)95300

百目木中学 十和辰美  (南)106100

木更津女学院 三島佳菜子(西)90100

館山女子   星奈朱夜 (北)108500

 

『さあ先鋒戦もついに後半戦、プラスの収支で次にタスキを繋ぐのはどの学校か?』

「リーチなの」

朱夜:{1234487二三四②③④}

『館山女子の星奈選手またしても先制リーチだ!!前半戦の流れは消えてないのか!?』

(くっ…この手を崩すのは惜しいが今はとりあえず点棒が欲しい…これか…?)

知由:{77四五六七七①②③⑤⑥⑦} 打{6}

「ロン!!リーチ一発平和、裏無しで3900」

「はい…」

(よし!!親が流れたのは痛いがこれで星奈に当てられることはなくなった)

 

これで後半戦自分が当てられることはないとほっと安堵のため息をついた知由であったがこれから本当の『吸血姫』星奈朱夜の恐ろしさを知ることとなる。

 

東2局 ドラ{1}

 

(ウチの親か…気持ちはみんなのおかげで気持ちは楽になったけど配牌はキッツいなこれ…)

「リーチなの」

(よし張った!!ここは私も一緒にリーチをして木更津か百目木のどちらかにダブロンしてやる!!)

知由:{1234三四⑤⑥⑦発発発南} ツモ{1} 

 

9巡目に朱夜がまたもやリーチを宣言する。朱夜がリーチをしたことで同巡知由も聴牌をしリーチをしようと{南}を切った時だった。

 

「よし私もリー」

「ロン」

「え?」

「リーチ一発一盃口ドラ1で8000」

朱夜:{778899三四五[五]五南南}

(へ、変則系!?)

「ふふふ…誰もずっと待ちが一緒なんて言ってないの…」

 

驚く知由を尻目に八重歯を見せにやりと笑う朱夜の姿はまるでおとぎ話や漫画の世界に登場する吸血鬼のようだと3人は連想した。

 

(ふう…部長ありがとうございます…部長が後半はベタオリを重視しろと言ってくれたおかげで助かりました。)

 

葵が言っていたアドバイスのおかげで振り込まずにすんだ佳菜子は胸を撫で下ろすと卓のサイコロを回すスイッチを押した。

 

東3局ドラ{⑤}

 

佳菜子:{123一二三九九①②③[⑤]⑦⑧}

(よし大物手!!先輩はここからは守りに徹しろって言ってたけどここは親だしいいよね?でも…それにはこの{[⑤]}を切らなくちゃいけない…)

(でも大丈夫だよね作草部の人が切ってるし…少しでもチームのために稼ぐんだ!!)

 

朱夜が早々に場風である{東}をポンし既に聴牌しているようだが知由が1巡前に同じく{[⑤]}を切っても大丈夫だったことで佳菜子は葵の作戦とは違い更に点数を稼ごうとリーチを宣言する。

 

「リーチ」

佳菜子:{123一二三九九①②③⑦⑧} 打{[⑤]}

「ロン東ドラ4で8000なの!!」

朱夜:{11123五六七⑤⑤ ポン東東東}

(また変則待ち!?)

 

その後の東四局は誰も聴牌しないまま流局となり東場は朱夜の和了だけで終わってしまった。

 

 

放送席でもこの星奈の連続和了の様子を実況していた

 

「後半が始まってから星奈選手の連続和了だけで東場が終了するという大変な事態になっております。」

「あの変則待ち…あれこそが『吸血姫』星奈朱夜の真骨頂ですね」

「確かに変則待ちは普通の待ちと比べて読みにくいですがそれにしても星奈選手がリーチをすると他の選手の手の進み遅くなるのはなんでなんですか?変則待ちといっても普通より牌が見えているんだから普通他の選手の手が早くなりそうなものですが…」

「確かにそうですがなまじ見えすぎるのも問題なんだと思います」

「というと?」

 

ひろゆきの言ってる意味が理解できずにアナウンサーが聞き返す。

 

「普通相手の待ちが捨て牌が少なくてわかりづらい時は自分の直感で牌を切っていきます。しかし星奈選手の場合、もう一人同じ待ちをとる選手がいることで河が逆に見えすぎてしまっているため他の選手の直感が麻痺してしまうんです。」

「はあ…直感が麻痺ですか?」

「簡単に言えば直感よりも先に理屈を考えてしまうんです。この牌は筋だから通るとか他の人が捨ててるから大丈夫とか、麻雀の本質はギャンブルです。直感を信じられずに理屈を求めて行動するということは星奈選手のペースにハマって格好の獲物になってしまうのではないでしょうか…」

「でも世の中にはデジタル打ちという直感よりも理屈を優先する打ち手の方もいらっしゃいますよね?去年の個人戦優勝した原村和もそうでしたし…」

「確かに完全なデジタル打ちなら星奈選手のペースに飲まれることもないでしょう。しかし中学生でデジタルのような完全に自分の意思を殺したような冷静な打ち筋が打てる子は非常に稀です。現に原村選手も去年の決勝でミスをする場面がいくつかありましたし中学生で完璧なデジタル打ちを会得するのは非常に困難でしょう。ならば先も見えない暗い道(直感)よりも少しでも安全で(理屈)に照らされている道を選んでしまうのは当然ですそれがたとえ吸血鬼が用意した甘い罠だとしても…」

 

ひろゆきはこの時『あの人』ならこの対局を見てこんなことを言うんじゃないかと考えていた。

 

----------焼かれながらも人はそこに希望があればついてくる

 

そうですよね?赤木さん…

 

 

テレビでのひろゆきの解説を館山女子の控え室でも視聴していた。

 

「さすが『神眼』の井川プロもう星奈の力を見切ったか…」

「結構顔に似合わずえぐい麻雀打ちますもんね星奈先輩…」

「あの変則待ちに完全に対応できるのは千葉県内では木更津の剣崎くらいなものだろう」

「でもどうして最初から先輩は最初から本気で打たなかったんでしょうか?」

 

一年生の弓塚が最もらしい疑問を尋ねるとその答えをさも嫌そうに水谷響が答える。

 

「星奈曰く、最初から本気だと段々他の連中が慣れて対応してくるかもしれないから最初は手を抜いて最後に本気を出すんだとさ…」

「へー」

「まあそれは建前で…本当はいたぶりたいだけなんだろうな…」

「あんな可愛い顔してドSですからね星奈先輩…」

「まあアイツが味方でホントに助かったよ手間はかかるけどな。このあとの局は星奈がどれだけ和了するかになりそうだな。木更津は一発当てられてから亀みたいに守り一辺倒(いっぺんとう)だし、他二人も自分が切る牌が星奈の当たり牌なんじゃないかと疑心暗鬼になって正確な判断ができなくなってる。そんな勝負もできない奴のところに麻雀の神様は微笑まないさ…」

 

 

南1局 ドラ{発}

 

「ロン、1000点」

辰美:{34二三四七七⑤⑥⑦ ポン中中中} ロン{2}

「はいはーい」

 

南場始まって早々、知由の最後の親番を朱夜から辰美が安手で上がり速攻で流す。

 

(くっ…また即効で流されてしまった…また始まるのか?)

(百目木の連続和了)

(ふーんいいよまた取り返してあげるから)

 

南2局 ドラ{④}

 

「いい手なんだけどドラが重い…」

知由:{34[5]678七八④④白白東}

 

知由は一向聴ドラ3のいい手なのだが辰美の連続和了を阻止するためにはもっと早い手でいいのだ。特急券である{白}が鳴くことができれば…と考えていた時だった。親である辰美から簡単に{白}が出てきたのだ。

 

「ポ、ポン!!」

「ロン7700」

「はい」

 

そして知由は{六、九}待ちの聴牌となった。そして次巡、辰美が{九}を切って知由に振込み警戒した割になんともあっけなく辰美の親が流れてしまった。

 

(なんかあっけないな…)

(フーンまあいいけどねこれで一番厄介な親番流せたし~)

「さあ残り2局いくで!!」

 

しかし辰美の目を見た朱夜は辰美が勝負を諦めてしまった目ではなく確かな闘士が宿った目をしていることを感じていた。

 

南3局

 

「ツモ、300.500です」

「はい…」

(また安手で…しかも今の手は待てば三色に伸びる手なのでは?)

 

またしても南3局で辰美が安手で上がり皆辰美の真意が読めないまま勝負は朱夜の親のオーラスを残すのみとなった。

 

 

南4局 ドラ{西}

作草部中学 秋山知由  (南)90800

百目木中学 十和辰美  (西)100500

木更津女学院 三島佳菜子(北)81600

館山女子   星奈朱夜 (東)127100

 

「チー」

辰美:{六七八}

「ポン」

辰美:{八八八}

(なんだ?ここに来て見え見えの染め手?)

(少しでも館山の手を遅らせようとしてるのかな?)

(ふふふ…百目木が鳴いてくれると私にさっきから赤ドラがいっぱい来るの!!ってこれは…?)

朱夜:{34[5]三[五]九九九②②③④[⑤] ツモ九}

「カンなの!!」

 

萬子は辰美が染め手の気配なので切ることができない。少し考えた後に朱夜はにやりと笑うと四つの{九}を暗槓する。そして新たな新ドラはなんと{②}であった。

 

朱夜:{34[5]三[五]②②③④[⑤] カン九九九九} ツモ{五}

 

(よしカンドラが乗った!!!ドラだけで満貫確定でも…三色にしたいのはやまやなんだけどこの{五}は切れない…でもリーチすれば18000…なら)

 

朱夜が嶺上牌からツモってきた牌は{五}であった。普通なら三色聴牌の手を崩すわけにはいかないのでツモ切りだがは{五}は辰美にとって最も危険な牌である。朱夜はもう一度辰美の河を見て{三}が捨られてることを再度確認しリーチをかける。

 

辰美捨て牌:{9北⑧⑦西三177西北白⑥2}

「リーチ」

朱夜:{34[5]五[五]②②③④[⑤] カン九九九九} 打{三}

『館山女子星奈選手(とど)めのドラ爆親っパネリーチだ!!』

(ここでで親リー!?これ以上は振り込めないし…あんな怖いのベタオリしかないよね?)

(くっ…こんな時に聴牌…でも降りるしかってちょっと待ってなんかおかしくないこれ?)

知由:{222五五678②②⑥⑦⑧}

 

知由シャボ待ちの聴牌になってしまいこれでは朱夜とお互いの当たり牌を持ちあったままの状態になってしまった。これならば知由が切らない限り上がり牌は出てこない。なぜこの状態でリーチをしてしまったのか?知由は疑問に思い改めて卓を見るとはっとした。

 

(星奈は何度も百目木の河を見ていた。萬子の染め手だから唯一河に捨ててある{三}を切った。そして嶺上牌からツモってきた{五}で仕方なく役なしのシャボ待ちとしてリーチしたのか…)

 

しかし何故彼女はこんなにも急いでリーチしてしまったのだろう?少し待てばせめてシャボ待ち以外の待ちにはできたはずなのにと朱夜リーチの意図を探っていた知由であったが我に返り急いで捨てる牌を選ぶ。

 

(今はそんなこと考えてる場合じゃない!!でもこれで星奈はこれからツモ切りしかできない。ならゆっくりと手を作らせてもらおうか)打{2}

 

それから知由の予想通り朱夜は上がることができずにただツモ切りを続けていた。

 

「なんなの?全然出ないどうしてそんな…あっ!!」

 

そして朱夜がツモってきた牌はなんと初牌の{四}であった。危ないとわかっていても朱夜にはただツモ切りすることしかできなかった。

 

「ロン清一色(チンイーソー)8000」

辰美:{一一一二三六六 ポン八八八 チー六七八}

「ロン6400」

知由:{2277五五②②⑥⑥⑨⑨四}

 

『ダ、ダブロン炸裂!!!なんと最後の最後で今までのお返しとばかりに星奈選手に十和選手と秋山選手がダブロンを決め激闘の先鋒戦終了-----!!』

 

 




闘牌描写を書くのが難しすぎる…他の咲の小説を執筆している人たちのように上手く書ける日は来るのだろうか?

あと作品オリキャラが多いのであとがきにキャラ紹介とか書いたほうがいいでしょうか?
ご感想お待ちしてます。
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