咲-saki-episode タイガー&ドラゴン 作:武田兎
「はあ…」
前半戦が終了し館山女子の次鋒弓塚茜は自分の学校の控え室の扉の前で体育座りでしゃがみこんでいた。前半戦の半荘では一度も上がれず焼き鳥となってしまい先鋒の朱夜が作ったリードをほとんどなくしてしまった。自分が名門立山女子の看板に泥を塗ってしまったと思い控え室に入れずにいるとギギギっと控え室の扉が開く。茜は自分の膝にうずめていた顔を上げるとそこにはキャプテンの響の姿があった。
「どうしたそんな浮かない顔で?」
「せ、先輩!?」
「まったく…迎えに行こうとしてみれば扉の前で…まあいい、ほら中に入れ」
「で、でも…私は…」
「いいから」
「ちょ、ちょっとあ、星奈先輩…」
「……」
そういって茜のことを強引に起こし控え室に連れ込むとそこにはいつもの可愛い顔に不釣合いな無合いそうな表情をした朱夜の姿があった。きっと怒られる…そう思い目があった瞬間に深々と茜は頭を下げた。
「す、すいませんでした!!先輩のリードを私が焼き鳥のせいで」
「別にそんなことで怒ってないの」
「え?」
あっけない返答に間の抜けた声がでてしまう。
「茜はまだ一年生なんだしこれからどんどん強くなる為の経験なんだから、それよりも私が茜にもっとリードして繋げられなかったことが悔しいの」
「星奈先輩…」
「そういうことだ弓塚、私たちがそんなに頼りないか?」
「一年生がいっちょ前に先輩の心配なんかしなくていいの、私達二三年が何とかするから」
「藤林先輩…」
朱夜以外の他の二人も微笑みながら茜の頭を撫でる。
「先輩たち…ありがとうございます!!」
「ふっ…さてさっそくだが後半戦の話に入る。弓塚南雲の能力は覚えているな?」
響はチームの成長を実感し軽く笑うと気持ちを切り替え強い口調で弓塚に尋ねる。
「はい、確か南雲さんが上がった局では後続の東雲さんも同じ役で上がれる…でしたよね?」
「そうだ、だが全く同じわけではないんだ」
「え?」
「茜、食い下がりはわかるよね?」
館山女子の頭脳とも言える副将の芽衣子が茜に尋ねる。
「はい、チーやポンで鳴いても作れる役だけど鳴くと翻数が下がっちゃう役…あ」
「そう、今まで南雲は面前で上がれる可能性がある配牌もすべて鳴いて早上がりにしていた。それは南雲が早上がりを重視するタイプではなく本来の目的は…」
「東雲さんを面前で上がらせるためにあえて食い下がりにしていた…ってことですか?」
「そう、それが彼女たちの限定条件だろうな、南雲が面前で上がった役は東雲には影響しない。そして南雲が上がったのは東場での三色、チャンタ、混一の三つだ。これが中堅戦では面前での上がりになるだろう。まあここまではいい…肝心な話はここからだ」
そこまで響が話すと芽衣子がパソコンを持って茜の前に来た。
「私が調べたデータだと南雲には上がらせちゃいけない役があるんだよ。」
「上がらせちゃいけない役ですか?」
「まあシンプルな答えなんだけど…茜もし鳴き下がりのない三暗刻や三槓子を南雲が上がったらどうなると思う?」
「えーと…まさか…」
茜は少し考え込みひとつの予測をたてた。この答えはなるべく当たって欲しくないが恐る恐る芽衣子の顔を見てみるとどうやら答えはその最悪の予想通りらしい。
「そのまさかが今回もありえるかもしれない。そうならないためにも後半戦全力でね?」
「茜頑張ってなのー」
「はい、いってきます!!」
◆
館山女子とは裏腹に百目木中学の控え室には白兎が自信満々な顔で扉を開け入ってくる。
「ただいま戻りました!!どうですか皆さん!?私の活躍ちゃんと見てましたか…ってえええええ!!!!!」
暖かく迎え入れてくれるヴィジョンを予想していた白兎であったが目の前に広がった光景はむしゃむしゃとピザを夢中で食べている四人の姿がであった。
「あー大河あんた私のエビマヨとったでしょ!?」
「えーユッキーの名前なんか書いてなかったよー」
「あ、あんたね…返しなさいよ!!」
「だが断る!!」
「モグモグ…やっぱりマルゲリータが一番‥」
ピザに夢中で白兎がきたことに気づかない三人対しみんなの分のお茶を淹れていた辰美だけが気づき言葉通り空いた口が塞がらない白兎のもとへとパタパタと向かっていく。
「白兎ちゃんお疲れ~ピザの出前とったんやけど何にする?」
「あ、あの辰美先輩このピザどうしたんですか?」
「ああさっき大河ちゃんがな上埜さんとこに行ってお腹減ったからピザが食べたいーって言ったらな…まあほとんど集りに行ったようなもんやったけど…」
「ええっと皆さん私の活躍見てましたか?」
「みふぅでぇたぁよお」
「大河口にピザ入れたまま喋らない!!まったく…大丈夫よ白兎私はちゃんと試合を見て…あっ!?大河シーフードは私の!!」
やっと白兎に気がつき口いっぱいにピザを頬張りながら行儀悪く返事をする大河に雪奈が叱りつけるとまた大河とのピザの争奪戦に戻ってしまった。
「ぐすん私の…頑張りがぁ…ピザに負けた…」
半泣きになる白兎の肩をポンポンと誰かが叩く。振り返るとそこにはもぐもぐとピザを頬張る晶の姿があった。
「うん白兎…グッジョブだった…」
「うう晶ちゃん…えへへもっと褒めて褒めて」
「あんまりおだてると何かやらかしそうだからいやだ…」
「ひどっ!?」
「でも南雲と白兎があったのはラッキーだったわね。あのコンビはジュニア時代から有名で上がりだしたらもう手がつけられないのよ。ん~美味しい~」
もう争奪戦は終了したのか雪奈は戦利品のピザ(シーフード)を美味しそうに食べている。
「白兎のおかげでだいぶ上がりを防げた…」
「せやな流石や今回も絶好調やな白兎ちゃんの『兎』は」
白兎の能力『兎』-----------相手の危険牌を察知することができる能力であり彼女の前には筋引掛けや迷彩なども全く通用しくなる非常に強力な能力である。現に百目木の5人の中でも白兎の放銃率は圧倒的に低く彼女から自家取りするこは困難を極める。しかし防御面ではとても優れた能力であるが攻撃性は皆無で主に辰美の作ったリードを保ったまま次に繋げるのが白兎の役目となっている。
「えへへ任せてください私の『兎』はまだまだ走れますよ~」
◆
「くそなんなのよ!!あの銀髪!!」
東場でこそ上がれたものの南場に入ってからは一度も上がることができないという予想外のことに文は苛立ちが募っていた。
負けるわけにはいかない…もし今年も負けてしまえばなんの結果も残せないまま東雲先輩とのコンビはまた解散となってしまう。
「大丈夫次こそは…つぎこそは…」
そう言って自分に強く言い聞かせると後半告げるアナウンスが流れ文は再び対局室へと踵を返した。
後半戦東一局
百目木中学 千条白兎(東)111500
木更津女学院 矢附陽子(南)79600
館山女子 弓塚茜 (西)106100
作草部中学 南雲文 (北)102800
始まってまだ数巡にもかかわらず文は鳴き一通を聴牌。
(さてテンパイだけど…)
文:{45679③④⑤東東 チー123}
(~♪)
白兎:{22345四五六六⑥⑦⑧⑧}ツモ{8}
文の当たり牌である{8}をまたしても白兎がツモリその様子を解説席でも実況する。
「さあここで千条選手またしても南雲選手の当たり牌を引いてしまった。」
「上家が{5}を同順で切っていますからおそらく出てしまうのではないでしょうか?」
実況席でひろゆきはさっきのがまぐれでなければここで{8}を切ってしまう、そう予想していたが白兎が切った牌をみて再び頭が混乱してしまう。
「え…」
「こ、これは…一体?」
なんと白兎が切った牌は{2}であった。この意図が読めずに解説席だけでなく会場もざわつくなか百目木の控え室だけはその白兎の真意を理解していた。
「あのバカ…抑えたのはいいけどなんでわざわざシャンテン数も落としてんのよ!!」
「まあ白兎らしいけどね」
「安定の素人っぷり」
「そんな安定いらないわよ!!」
「あははは」
未だに切り間違いという初歩的なミスに対し雪奈はテレビ画面に向かって怒鳴り大河と晶はいつものことだと笑う。そんな様子を後ろで見て辰美は大会にも関わらずいつもどおりの麻雀部に安堵してついはにかんでしまう。
「テンパイ」
「テンパイ」
「ノーテンです…」
「あ、ノーテンです…」
(こいつ今私の手牌をみて…ということはまた…)
結局その局は誰も上がることができずに文と陽子の聴牌のみで流局となってしまった。手牌を見せた時に白兎の表情で自分の当たり牌を止められていることに気づきフツフツと白兎に対しての怒りの感情が湧き上がってきた。
(くそー…こうなったらあいつから意地でも直撃してやる!!)
東3局 ドラ{六}
「チー!!」
「チー!!」
(よしテンパイ{八七}待ち)
文:{八九九九①②③ チー一二三123}
好配牌からの速攻であっさりと聴牌した数巡後陽子から当たり牌である{七}が捨ててられるが文はこれをスルーする。
(いらない!!あいつ以外からは眼中なし!!)
(う~ん…さっき通ったけどこれはやばい感じがするし…とりあえず様子見かな?)
白兎:{3456677④④⑥⑥⑧⑧} ツモ{七} 打{⑥}
(剣ちゃんの言うとおりなら‥きっと誰かの当たり牌止めてるんだろうね)
白兎の打ち回しを見ていた陽子は後半戦前の休憩時間に控え室で葵に白兎の打ち筋についての話を頭のなかで思い返していた。
「テレビで見てたけどあの百目木の子面白いわね作草部の当たり牌全部止めてるし」
「う~んでもじゃああの子からは上がれないってことか…」
控え室で陽子は葵に白兎の打ち筋がどうだったかを説明されていた。その話から白兎からは上がれないと考えていた陽子に対して葵はにこりと笑って答える。
「いいえそんなことないわ。むしろ逆かもね」
「逆?」
「あのウサギちゃんは本物のウサギと違って知恵があるってことよ。そしてまだ知恵よりも感覚のが優れていることに気づいていないわ。そこでひとつあのウサギちゃんを追い詰める罠を思いついたの」
(剣ちゃん見てて…)
陽子は葵から伝えられた作戦を今実行に移そうとしていた。
(え?これが危ないの?木更津の人はさっき{1}の対子捨ててたからタンヤオだろうしこれは通るよね?)
白兎はツモってきた{中}に危ない気配を感じながらも感覚ではなく頭で考えて出した答えに従い{中}を捨ててしまった。
「ロンマンガン」
陽子:{三三六六六中中 ポン555チー234}
「うっ…はい…」
この次鋒戦で誰も直撃をすることができなかった白兎から上がった喜びよりもあえて自分の手を晒すことで感覚を狂わせる…こんな作戦をあんな短時間で思いついた葵の才能と資質に対する尊敬と恐怖の感情のほうが陽子の心の中では大きかった。
◆
「テンパイ」
「テンパイ…」
「ノーテンです…」
それからは前半戦と同じように誰も大きな手で上がることなく勝負はついに南場へと移行し場は3局まで進んでいた。
(ああもう何やってんだ私は…勝負なんかしてる場合じゃないでしょうにっ!!)
「あ、ロン、2600です。やっと焼き鳥脱出しました~」
(やっばっ!?あ~ダメダメ今はこっちに集中しないと!!)
焦りと動揺から卓を見ることが疎かになりついに茜から文は直撃を受けてしまい勝負はついに文の親のオーラスを残すのみとなった。
(もう最後の親番でオーラスなのに前半の東場から一度も上がれてない…はあもうここまでか…)
ついに文も白兎の『兎』の前にもう上がれないかもしれない。そう落胆したオーラスの配牌、そんな文の沈んだ気持ちが吹き飛ぶような配牌がここに来てやってきた。
(きたきたきたきたきたここに来て勝負手!!三暗刻が見える配牌)
文:{11489七七⑧⑧⑧西西西白}
ここで上がって繋ぐ!!東雲先輩に最大級の大物手四暗刻を上がってもらって、全国に行くのは私たち作草部だ!!
テストやらで忙しくて投稿が遅れて申し訳ありません。
今回の白兎の能力のモデルは能力麻雀のさきがけとも言える漫画兎-野性の闘牌の主人公、武田俊の能力です。
これからもいろんな漫画や皆さんからの提供してくださった能力をドンドン使っていこうと思うのでこれからも応援よろしくお願いします。
ご感想お待ちしてます。