咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第一話 出会い

プルルップルル------------------------

 

ベッドの上に放り投げてある、メッキが剥がれボロボロになった携帯電話が深夜の部屋に鳴り響く。

 

(こんな時間にだれだよ・・・)

 

携帯の主である上埜天斗(うえのたかと)が深夜のこの時間に電話をしてくる不届き者に電話に出たら文句のひとつでも言ってやろう思い苛立ちながら携帯を手に取り、電話に表示された着信相手の名前を見るとさっきまでの気持ちは吹き飛び深夜にも関わらず元気な声で電話に出た。

 

「おー久か半年振りか?どうしたんだよこんな時間に?」

「こんばんわ兄さん、ごめんなさいこんな時間に…でも今日あったことを真っ先に兄さんに伝えたくて」

「ん?なんだ?」

「今日はねなんと新入部員が入ってくれたのよ」

 

竹井久は電話越しに今日あった出来事について嬉しそうに天斗に話始めた。

久が所属している長野県立清澄高校の麻雀部は最近までほとんど廃部同然の扱いであったが今年はついに念願の部員が入部し本格的に活動を始めたのだ。

久が入部した当時は数名が麻雀部に入部したていたが、久以外の部員全員が早々に退部してしまい、それでもなんとか麻雀部を復興させようと何人かに声を掛け勧誘し入部までこぎつけるものの、いずれも長続きせずに去っていってしまった。

だからだろうか今年自ら進んで麻雀部の戸を叩いてきてくれた新入部員のことがよほど嬉しかったのか普段は落ち着いた口調の久が今は子供のようにはしゃぎ、その嬉しさが電話越しにこちらにもヒシヒシと伝わってくる。

 

「それでね、まこったらすごいのよ!!今までに見てきた牌譜に似ている局があればそれの対策とかわかっちゃうんだから!!」

「そりゃあすげえな…なあ、久…今年は個人戦に出る気はないのか?」

「え…?」

 

天斗の脈絡のない突拍子な話の切り返しに久の声が少し裏返る。

 

「お前の力だったら全国だって、」

「兄さん何度も言ってるでしょう?私は団体戦にしか興味ないの。今年はまこが入部してくれて一人ぼっちじゃなくなったしそれに…来年には優秀な1年生が入部してきてくれるわ」

「久…」

「もうこんな時間、明日生徒会の仕事で早いのよ。遅くにごめんなさい、お休み天斗兄さん…」

「あぁ…おやすみ…従兄妹なんだからなんでも相談しろよ…」

「うん…ありがとう…おやすみなさい」

 

電話は切られプープーと無機質な音を少しの間天斗は呆然と聞いていた。

ハッと我に変えると頭のモヤモヤを吹っ切るべくベッドに思いっきり倒れこむ。ダイブの衝撃でベッドの足のパイプがギシギシと軋んでいたが気にせず天井をぼんやりとみつめる。

 

(クソ…まったく役に立たないなぁ…俺…)

 

久は気丈に振舞っていたが本心は不安で仕方ないはずだ。来年はついに久は3年生となり高校最後のインターハイになる。つまり来年がラストチャンスだ。

久が団体戦に賭ける並外れた想いは一年生の頃から知っていたが想いだけでは願いは叶わない。今年は新入部員が入ってきたが結局一人だけ、つまり来年度新入部員が3人以上入らなかったら…

 

「あぁ!!もう、俺は何もしてやれねえのかよ!?」

 

自分の不甲斐無いという気持ちとと久のあの電話越しの俺に心配させまいとやせ我慢をする年相応の女の子の不安そうな声が交じり合い深夜だというのに余計に眠れなくなってしまった。

 

(久しぶりに雀荘に顔出してみるか…)

 

最近大学が多忙だったせいで雀荘に顔出していないことをふっと思い出し、明日久しぶりに行ってこようと決めると先ほどまでのモヤモヤした感情が薄れていき天井から垂れ下がった蛍光灯の紐を引っ張り真っ暗になった部屋のなかでゆっくりと天斗は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日

天斗は約3週間ぶりに見慣れた古臭い雑居ビルの階段を上がり、『雀荘上田』と書かれたの立て付けの悪い扉を勢いよく開け店内に入るとを1ヶ月も空けていないのにとても久しぶりに訪れたような懐かしい感じた。

 

「こんちはー」

「おや、天斗君ひさしぶりじゃない?どうしてたの最近顔見せなかったけど?」

「いやー大学の方が忙しくて~」

「忙しいって。ついに部活にでもはいった?」

 

店長が対局の終わった麻雀牌を磨きながらこちらに顔だけ向けて心配した表情で質問してくる。

ここの雀荘の店長とは長い付き合いのため、まるで自分の子供のように可愛がってもらっている。たまに場代をタダで打たしてもらっているためこの人には頭が上がらない。

 

「違うよテストだよテスト!!」

「そっか学生だものね。しかしもったいないな天斗君の実力ならインカレでも相当上までいけるんじゃない?なのになんで部活に入らないの?」

「部活に入るとコーチに俺の打ち方めっちゃ文句言われるから入りたくないんッス!俺はもっと自由うに麻雀を打ちたいんで」

「ワハハハハ!!天斗君らしいね!!」

 

それに俺だけ部活動で楽しくみんなと部活なんてできるかよ…と昨晩の久との電話での会話がまた再び思い出される。センチメンタルに浸っているとこの場にふさわしくない年端もいかない少女の元気な声が聞こえてきた。

 

「やったーまたツモ!!2000、4000」

 

そこには金色のの綺麗な髪の毛をひとつに束ねた中学生くらいの少女が打っていた。

長年通いつめている雀荘であるが此処のお客さんであんなに若く、ましてや少女など天斗は見たことがなかった。

 

「ん?誰だあの子?誰かの娘か孫か?」

「ちがうよ最近ここに来始めた子で名前は大星大河ちゃん。まぁまだ中学生だってんでノーレートで打ってるんだけどね。結構強いんだよー」

「ふーん…」

 

そしてまた雀卓から可愛らしい声で和了宣言が聞こえてくる。

 

「ロン!!中、白、ドラ1で3900!やったまた私が一位ね。」

「あー(まく)られちゃったよ~強いね~お嬢ちゃん」

「えへへ~どんなもんだい!!また打ちましょうね~」

「こっちも孫と打ってるみたいで楽しかったよ~」

 

大河は相手をしてくれたおじさんにぺこりと頭を下げる。

下家のおじさんが帰ってしまい、一人面子が足りなくなってしまったので大河も今日はこれくらいで帰ろうとした時だった。

 

「おい一局いいかい?」

 

ここに来始めてまだ1ヶ月も経っていないが大抵の常連客の人とは対局してもらった。みんな初心者ではないが飛び抜けて強いという印象もなかったが、目の前いるこの人は明らかに違う。

まるで姉のような・・・底知れないものを感じる。

それに大河は目の前にいる若者を初めて見たとは思えなかった。確かどこかで見たことが・・・

 

「あなたは…どこかで見たことあるような…」

「大河ちゃんこの人はね上埜天斗くんと言ってアマの大会では結構上位に入るくらいの実力でプロからも呼び声がかかっている人なんだよ」

「ああ思い出した雑誌に載ってた!!意味のわからない打ち方する人!?」

「だれが意味不明だ!!誰が!?おいがきんちょ麻雀っていうのは勝ち逃げは許されないんだぜ、俺と一局打とうや?」

 

店長の言葉で大河も思い出す。

麻雀雑誌を読んでいた時にアマの大会の記事で入賞者の写真の中で彼を見たことがあったのだ。

大河は見ただけで感じる間違いなくこの人は強い…でもだからといって怯んでいるわけにはいかない、ここで逃げ出すようなら到底あの姉には追いつけない。

 

「わかった…お願いします」

「じゃあ早速始めようか…」

 

そしてサイコロの目が静かに廻りだした。

 

 

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