咲-saki-episode タイガー&ドラゴン 作:武田兎
中堅前半戦が終了し休憩時間になり各選手が控え室に戻るなか葵だけは卓から動せずただじっと座っていた。
これは葵の中のジンクスのようなもので試合の時は少しでも多く戦う卓から離れない方がより読みや勘が冴えるような気がするのだ。目を瞑りじっと後半戦開始のアナウンスを待っている葵の下に後輩の佳菜子と一葉が差し入れの飲み物を持って対局室に現れた。
「先輩お疲れ様です」
「お疲れッス」
「ああ二人共ありがとう、わざわざ持ってきてくれたのね」
二人から手渡されたペットボトルのキャップを開けて早速一口こくりと飲んで乾いた喉を潤す。
「あの部長」
「ん?なにかしら」
「千歳先輩たちが言ってたんですけど」
「うんうん」
「先輩の夢ってなんなんッスか!?」
「げっほほほ!!?」
思いがけない質問に葵は口に含んでいたメロンソーダを吹き出しそうになり咳き込んでしまう。
「先輩大丈夫ッスか!?」
「ええ大丈夫大丈夫…ちょっと驚いただけだから」
「それでどうなんッスか?」
「あー笑わない?」
「「はい」」
恥ずかしそうに顔を赤らめた葵は一葉達から視線を逸らし赤く高揚した頬をポリポリと掻く。そして二人の返事に意を決っして深く深呼吸しポツリポツリと話し始めた。
「…私ね麻雀はお爺ちゃんと昔からやってたんだけど…本当は中学では陸上部に入ってリレーに出てみたかったの」
「り、リレーッスか?なんか先輩スポーツってイメージあんまりないんッスけど…」
「もちろん麻雀も好きだったけど…私はみんなで一緒に頑張れるような競技をやってみたかったの。リレーってすごいチームで戦ってるって感じがするじゃない?そんな姿に昔から憧れてて私もいつか出たいなーって思ってたんだけど私運動音痴だから…まずリレーの選手どころか陸上部に入ることもできなくて…」
葵は自分の運動音痴さを苦笑しながら語りその話を一年生の二人は真剣に聞いていた。
「うちの学校の陸上部強豪ですからね入部希望者が多いから入部テストがあるって聞きました」
「そう、それで結局麻雀部に入ったの。でも麻雀部は廃部寸前で部員が最初私しかいなかったんだけど千歳と陽子が入部してくれたの」
「そんなことが…でもそのことと先輩の夢の話に何か関係が?」
「そうね、その頃から私の夢はリレーの選手じゃなくていつか部員全員で一致団結して戦える団体戦に出ることになっていったの。でもその夢もなかなか部員不足で叶わなかたんだけど…その夢がやっと今年叶ったってわけ」
「え?だって去年も団体戦出場してるんッスよね?」
「それは友だちに無理に頼み込んで出てもらってたの。でも最後の最後に本当のチームで戦えた…もう悔いはないわ」
「部長…」
「先輩…なに終わりみたいに言ってんッスか?私たちは全国に行くんでしょ?ならまだまだ終わらないッスよ先輩の夢は!!」
「一葉ちゃん…」
「そうね…その通りね…」
『あと五分で後半戦を始まります。選手の皆さんは対局室にお戻りください』
「じゃあ部長頑張ってください」
「しっかり私まで回してくださいッス」
そうよね私はこんな素晴らしいチームメイトに出会えたのだもの、この夢はまだまだ醒ますわけには行かないわね…
◆
『さあ前半戦が終了し残すは後半の半荘を残すのみとなりました。果たして副将に最も多くの点棒を託すのは一体どの学校か?』
後半戦東1局 ドラ{①}
百目木中学 笹森晶(東)90100
作草部中学 東雲真咲(南)105200
木更津女子学院 剣崎葵(西)84700
館山女子 水谷響(北)120000
(剣崎確かにお前は強くなった…だが強くなったのはお前だけではない…もう応援席で見ることしかできなかったあの頃とは違う!)
「…カン!!」
{一一一一}
「そしてリーチ!!」
響が意を決し、一萬暗槓からのリーチをかける。
響捨て牌{1⑨北発九⑦}
{⑥七④7横二}
(…うーん{一}の暗槓からの{二}切りということは河から見てピンズ、萬子の可能性は低い…となるとソウズ…しかも{7}をまたぐ{369}待ちでしょね…なら)
葵は一点読みからの{三}を河に捨てる。
この牌は通る、葵には確信があった。しかしその確信はいとも容易く崩れ去ってしまった。
「ロン、リーチ一発ドラ1の裏1で8000」
響:{三①②③345678 カン一一一一}
「なっ!?{三}単騎!?」
「普通の待ちじゃお前からは出ないからな…やってるこっちもヒヤヒヤしたよ」
響のこの無謀とも思える和了に会場は大きな歓声に包まれる。
『館山女子の水谷響、今大会で初めて剣崎選手から直撃を奪った!!お聞きくださいこの会場の歓声を』
『あの剣崎選手が直撃を取られることは全国でも滅多にありませんからね』
「{一一一二三}の理想系から{三}単騎なんて‥」
(剣崎さんと作草部の人ばかりに気がいってたけどこの人はあの館山女子のキャプテンなんだ…)
「……」
卓上の晶と真咲も思わず今の和了に驚きを隠せないなか、葵は直撃を受けた直後は呆気にとられていたが次第にその表情は先程までと同じ笑顔に変わっていった。
「ふふふ…楽しい…とてもとても楽しいわ…」
(ッ!?こいつ…やっと本性を見せたか)
しかし同じ笑顔でも先程までの余裕に満ちあふれた笑顔ではなくまるで久しぶりに獲物を見つけた猛獣を思わせるそんな恐ろしさがあるように響は感じた。
◆
それからはほとんど葵の一人の独壇場であった。
もともと葵は守りではなくドンドン押し切る攻めの麻雀を得意としていたが今回は団体戦ということで後続の事を考え、まずは点棒を死守する守りの麻雀になっていた。しかし先ほどの響の一撃で自分の中に流れる玄人の血が騒いだのか今までと全く真逆の個人戦の時のような怒涛の攻め麻雀で三人を圧倒しだした。
「ロン5800の二本場は6400です。」
「はい…」
この響からの直撃で葵は自分の親番を含めて4連続和了となった。打点が低いのがせめてもの救いと3人は思いながらも場は葵の親で東3局3本場へ進んでいった。
東3局 3本場 親:葵
(うーんやっぱりこっちの方が私に合ってるわね。しかし作草部の役満は防げそうにないわね…しかも私が親の時だし…ならやっぱりそれまでに一つでも多く和了するのが一番いいかしら)
葵は一気に増えた点棒を見ても油断せずにまだ役満というとんでもない一撃がある真咲に目を配る。
(私には文ちゃんから受け取った四暗刻がある。しかもその時の親はあの剣崎…それまで私のすることは直撃を避け場を早く回すこと…)
真咲は目の前にいる葵の恐ろしさにガクガクと震えながらも文から受けとった希望の四暗刻を心の支えとして制服のスカートをギュッと握りしめて目の前の強敵に挑む。
そんな時だった。
「ツモ2000.4000の三本付け…」
この場にいた葵、響、真咲の三人が一斉に彼女に注目する。
「やっとこっち見てくれた…」
((百目木!!))
「麻雀は四人でするものですよ…先輩たち…」
この一撃で勢いづいたのかまたしても晶が直撃で響から3200を奪って東場は終了となり、残すは南場を残すのみとなった。
◆
盛り上がりを見せる試合にアナウンサーも興奮気味に実況をする。
「さあ東場が終了し残すは南場のみとなりましたがどうですか?井川さんこれまでの試合を振り返って」
「やはりこの東場でも剣崎選手の連続和了ですかね。やはり彼女の攻め麻雀はとてつもなく強力です。しかしそんな剣崎選手にも欠点があるように思えます。」
「欠点ですか?」
ここまで圧倒的ともいえる力を見せつけている葵にへの似つかわしくない見解に思わずひろゆきに聞き返してしまう。
「彼女の変幻自在の打ち筋は確かに読みにくく強力なものですがズバリ火力がない、ボクシングで言えばジャブのようなものですかね。現に彼女は全国大会でも読みで勝っていても火力の低さ故に格下相手に苦戦してしまうところが多々ありましたからね。」
「ということは大きな一撃をもらってしまうと…?」
「そこが麻雀の面白いところであり恐ろしいところでもあります。たった一回の和了で一気に形成が逆転してしまうことが起きるのですから。」
そうして場は最後の南場になりついに真咲が動く…
(さあこの南場でみせてあげましょう…これが私たちの絆の力を!)
四暗刻完成までまと3局…
構想を考え直したり一回できたモノを間違えて削除してしまったりと色々あり投稿、遅くなってしまし申し訳ありません。
次回はもっと早く投稿できるように頑張ります。
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