咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第二十三話 最良

「おい剣崎」

 

時間は少し戻って中堅戦終了時、響は対局後にさっさと自分の控え室に戻ろうとする葵を呼び止めそれに気がついた葵もくるりと響の方に振り返る。

 

「ああ水谷さんなにかしら?」

「最後に聞いておきたいんだ、なぜお前が中堅に出てきた?」

「なぜって?」

「正直言ってお前のチームメイトは試合の経験どころか対局の経験も少ない様子の選手ばかりだ。ならば最後の逆転が期待できる大将になるのが妥当じゃないのか?」

 

対局中ずっと引っかっていた事--------どうしても木更津女子学院の采配に納得いかない響が問いただすと葵から思いもしない言葉が飛んできた。

 

「ねえ水谷さんエースの条件ってなんだと思う?」

「なんだいきなり?そんなの一番強い奴に決まってるじゃないか」

「そうねそれもあるわね、でも私が思うエース像はちょっと違うの」

「ちょっと…ちがう?」

「私が思うエースの条件はチームに中で『誰よりも点数を稼げる人』だと思うの。だから私はこのチームのエースじゃない…」

「お、おいそれって…」

 

響はここで思い出す、予選の時シード校である匝瑳中学が飛ばられたのは剣崎のいる中堅ではなく大将であるということに…

更に葵は続ける。

 

「私には決定的に火力がない、だから私の麻雀ではみんなを全国に連れて行くことができなかった…でも今年は違う、彼女ならきっと…」

「それは無理だ」

 

葵の言葉と希望をバッサリと切り捨てるように響は即座にソレを否定する。

 

「あらなぜ?」

「お前もわかっているだろう!!ウチには命尾がいる、アイツと渡り合えるのなんてお前を入れて全国でも指で数えられる程度だ。もしその大将がそれほどの有望な選手ならなおさらアイツと対局させるのは」

 

響は自分たちの大将がどれだけ強く、恐ろしいものかを知っている。故に響には葵が望む未来への可能性は皆無であると断定できた。しかしその言葉を聞いてもなお葵は自信に満ちた目をして響に告げる。

 

「そうだ、水谷さんあの食いしん坊さんに伝えといて欲しいの。今度の大将戦、あなたじゃあの子は食べきれないってね」

「ああ、お前がそこまで目をかける大将がどんな奴か楽しみにしてるよ」

 

 

時は戻って副将戦、この戦局は今までの激戦と比べればあっけないほどに場は淡々と進んでいた。副将戦が開始してから僅か15分で場は既に東4局のという異様すぎる速さで…いや、異様過ぎるのだ。なぜならばここまで和了しているのはだだ一人大道寺雪乃だけなのだから。

 

「あーもう遅い遅い遅い、遅いよお姉、」

「……」

 

雪乃が退屈そうに自分の点棒箱の中身をジャラジャラといじりながらボヤくが雪奈は顔色一つ変えずに黙って理牌をする。

 

「はあ…お姉、なんか一年間こそこそとやってると思ってたけどなんも変わってないね、その古臭い打ち方」

「そういうあなたこそ、そのこれから伸びる手を殺して上がるゴミ手が相変かわず大好きみたいね」

 

雪乃は深くため息をついて雪奈のスタイルである『最良』の麻雀に疑問の声を上げると今まで押し黙っていた雪奈も自分の打ち筋を馬鹿にされてカチンときたのか強い口調で返す。

 

「お姉…本当に変わってないんだね、いい?囲碁や将棋と同じように麻雀の打ち方だって研究されて日々変わってるの。私は現在の麻雀で最も効率のいい打ち筋でやってるだけ、お姉のような上がれるかどうか分からない希望的観測チックな打ち方はもう古いの。」

「そう、口で言っても分からないようね…ならさっさと続きを始めましょう麻雀の打ち方に新しいも古いもないってこと教えてあげる」

 

その雪奈の言葉で前半戦の東4局が始まった。

 

東4局 親 大道寺雪乃

 

作草部中学     (東)134200

木更津女子学院   (南)87500

百目木中学     (西)82300

館山女子      (北)96000

 

(ふん!!どんなに偉そうなこと言ったって…)

雪乃:{二五六234⑧⑧⑨⑨中中北西}

 

雪乃は対面の雪奈が最下位であるにも関わらず余裕が伺える澄ました顔に苛立ちながらも、絶好の配牌を好機とみて今ままで通り点数よりも速さ重視の早上がりを目指す。

 

「その{中}ポン!!」

「それもポン!!」

 

そして雪乃はあっという間に{四七}待ちの聴牌となる。

 

(よし絶好の聴牌、この局もいただ、)

雪乃:{五六234⑧⑧ ポン中中中 ⑨⑨⑨} 打{④}

 

雪乃は自分の速さ重視の鳴き麻雀には誰も追いつけやしない、そう思っていた矢先一人の選手が静かに声を上げる。

 

「リーチ…」

(きたか…)

 

その人物は雪乃が最もこの卓で手が遅いと睨んでいた大道寺雪奈であった。

 

『おーとここで百目木中学の大道寺雪奈選手、妹である雪乃選手に負けまいとここでリーチ宣言!!しかし彼女は何故先程…』

 

アナウンサーは雪奈のリーチ前のある行動についてひろゆきに問うと雪奈の手牌を見ていたひろゆきが語り始める。

 

『こんな事デジタル派の人に言ったら鼻で笑われるかも知れませんけど、こういう局が早上がりでさっさと流れてしまう局っていうのは出やすいんですよね…それを彼女は感じ取ったからこそ行動だったのだと思います。』

『その…雪奈選手が感じ取ったものとは?』

『それは…』

 

 

突発的な大物手の予感ですよ

 

 

「ツモ4000.8000」雪奈:{123789一二三②③北北} ツモ{①}

「なっ!?それって私の{④}でも上がりっだったのに、なんでさっき上がらなかったの!?意味わかんないし」

 

さっさと流したいはずの雪乃の親を平和のみの安手で上がらず、リーチまでしてこの局内での最良形を作りあげた雪奈のあまりに非合理な打ち方に頭がパニックになって声を荒げる雪乃を静止するようにキツイ口調で告げる。

 

「座りなさい雪乃、今日は久しぶりにお姉ちゃんがたっぷり麻雀を教えてあげる」

 

 




ついに咲全国編が始まりますね。これでもっと咲を題材とした作品が増えてくれればと思います。

余談ですが咲の新刊3冊全部買いました。中でもシノハユのこれからの展開が楽しみでなりません。

それではご感想お待ちしてます。
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