咲-saki-episode タイガー&ドラゴン 作:武田兎
「なに!?一回上がった位でいい気にならいでよ!!」
「あら?でもあなたが何回も上がった点数を軽く超えてるけど?」
「う、うるさい!!」
雪奈が雪乃の煽りを軽くあしらうとここまでまだ一向に動きを見せない他の二校に注意を向ける。
(それにしても雪乃以外の他二校は随分大人しいわね…なにか企んでなければいいけど…)
雪奈の憶測とは裏腹に館山女子の藤林芽衣子は悩んでいた。
彼女の持ち味は常に相手の情報を仕入れて弱点を突いていくデータ麻雀である。しかし決勝の舞台で余りにも予想外な展開が多すぎて現状全く勝負を仕掛けられないでいた。
(はあ参ったな…てっきり作草部は副将にあのコンビが来ると思ってたから全然情報持ってないし、百目木と木更津に限っては決勝まで上がって来るなんて思ってなかったからな…とりあえず前半は様子見かな)
それぞれの思惑が飛び交う中場は南場へと進んでいった。
南一局
(さっきは油断したけどもう負けない!!即効で流して大将のキャプテンに繋ぐ!!)
雪乃はさっきの親かぶりの分を取り戻そうと、今まで以上の集中力でこの局も早い鳴きを仕掛けていく。
「ロン2000!!」
『作草部、百目木から2000の上がり、それにしても雪乃選手の打ち筋は忙しないというかなんというか…』
雪乃の速仕掛けの様子を見ていてふと疑問に思ったアナウンサーがひろゆきに意見を求める。
『…麻雀には勝つには二つの方法があります。』
『二つの…方法?』
『一つは誰よりも早く上がること、そしてもう一つは誰よりも大きく上がること。』
『となると…雪乃選手は前者ですか?』
『そうですね、そして姉である雪奈選手は後者、姉妹同士なのにここまで打ち方が対極とは…いや、むしろ姉妹同士だからかもしれませんね…』
『は、はあ…』
アナウンサーにはひろゆきの意図していることが理解できないまま場は東場と同じように雪乃の安手の和了で雪奈の親である南2局、そして3局と和了して前半戦終盤へと移行していった。
◆
(よし!!一番厄介なお姉の親を流せた!!このまま後半戦も私の速さについて越させない)
チラリと雪奈の様子を伺うが全く自分の親が流されたことなど気にしてない様子で雪乃のことなど一瞥もせずに自分の手牌を黙々と理牌している。
(ふん余裕ってわけ?絶対に負けたくない、…お姉には…)
私にとって姉は憧れだった。
大道寺雪奈-------この姉の存在は私にとって余りにも大きかった。姉は麻雀を始めて僅か一年でジュニアチーム内どころか県内でも敵なし、ついには全国大会に出場するまでになっていった。そんな姉を見て私も姉のようになりたい、そんな決意を胸に幼き日の私は必死で姉に追いつく為に努力していった。
そんな時だった、姉が麻雀を辞めたのは-----------------
憧れの存在であった姉が全国大会での敗北がきっかけで麻雀を捨てた。
私は姉に何度も麻雀を再び打つように説得したが姉は頑として首を縦に振らなかった。その頃からだろうか、私の姉に対する感情は変わっていった。自分よりも才能や期待を受けながらも一度壁にぶつかっただけで不能になってしまった姉を軽蔑するようになっていった。
それからは私は今まで以上に麻雀に打ち込むようになった。私は姉とは違う-------過去の姉に対する憧れの気持ちを払拭するように姉の打ち方とは対照的な速さ重視する麻雀をするようになった。
そして再び麻雀に戻ってきた姉に勝ち、私は今日を超える
南四局 ドラ{2}
(親でタンヤオドラ3聴牌だけど…)
雪乃:{④④④二三四八八56[⑤] ポン222}
親で満貫の確定の手、しかし場は既に10巡目とかなり進んでおり特に警戒すべき雪奈からは既に聴牌の気配が感じ取れる。聴牌するには{[⑤]}を切らなくてはならない、様子を伺うために雪奈のツモに目を移すとノータイムでのツモ切りだった。
(ツモ切りか…やっぱり聴牌してそうだけど…さっきの巡目で館山の人が{⑤}切ってた…なら…これで満貫聴牌)
雪乃は何度も自分の中の危険視号を理で抑え込み{[⑤]}を切る。すると雪奈の手牌がゆっくりと倒れた。
「ロン12000」
雪奈:{②②234四四五[五]六六⑥⑦}
(や、山越し!?さっきの館山の人からでも上がれたのに…トップの私からの直取りにしか興味ないってわけ!?)
『百目木がここで首位の作草部に跳満を山越しで狙い撃ち!!そしてここで前半戦終了!現在トップは作草部中学ですがここで一気に二位まで追い上げてきた百目木中学後半戦首位を奪い取ることはできるのか!!』
作草部中学 大道寺雪乃 119600
木更津女子学院 三戸千歳 83200
百目木中学 大道寺雪奈 106500
館山女子 藤林芽衣子 90700
(っく迂闊だった…でも後半戦はもっと守りに徹して…)
前半戦終了のブザーが対局室に鳴り響く。
雪乃はまだ先ほどの放銃を気にしながらも後半戦は守りに徹し、残りのリードを守る作戦に変更しよう考えているとまだ席に座ったままの雪奈に声をかけられる。
「ねえ雪乃…あなた何時からそんな麻雀打つようになったの?」
「……」
「勝負を急ぎすぎて周りがどんどん見えなくなってるじゃない、昔のあなたはもっと伸び伸びと打って」
「うるさい!!」
(び、びっくりした)
(姉妹喧嘩かな?)
突然の大きな声に対局室を出ようとしていた千歳と芽衣子も足を止めて二人の様子を伺う。
「お姉に私の何が分かるの!!今まで麻雀から逃げてきた人にとやかく言われたくないんだけど!!」
「そう…でもこれだけは言っておくわ後半戦…もしこのままの打ち方を続けるようであれば私が首位を奪う!!」
「はあ!?そんなのできるわけ」
「できるわよ、だってあなたの麻雀全然怖くないから」
そこまでいうと席をスっと立ち上がり雪奈は無言のまま対局室を去って行ってしまった。
◆
「なんなの!?なんのよ!?もう!!」
「随分と荒れてるな雪乃」
先ほどの雪奈とのやり取りで苛立ちが収まらない雪乃は自分の長い黒髪をわしゃわしゃとかき乱しながら歩いていると前から聴き慣れた声が聞こえてきた。
「楓ちゃ、溝口キャプテン」
「楓でいい、二人っきりの時くらい昔みたいにな」
溝口楓------作草部中学のキャプテンかつ大将の彼女とは昔からの付き合いで二人っきりの時は昔の呼び方で呼んでいる。
ここまで首位独走状態だったのに僅か半荘一回でもう他校の手の届くところまで追いつかれてしまった。みんなへの申し訳なさからか、今の雪乃からは対局中の時の強気は全く感じられず叱られるのを恐れている子供のように気持ちが沈んでいる。
「楓ちゃん私…」
「なあ雪乃もっと気楽にいけ、大将の私に負担がかかるとか首位が奪われるとかそんなの考えるな」
「でも…」
「なんだ大将の私が信じられないのか?」
「そんなんじゃ」
「ははは冗談だよ、少しは気分解れたか?」
「……」
「なあ雪乃…姉の事は考えるなお前はお前だ。私だけじゃないみんなそう思ってる。」
「え…」
「私たちが信頼しているのは『大道寺雪奈の妹』じゃない、一年生でも私たちに負けまいと必死に努力してる姿を見てきた『大道寺雪乃』だから信頼してるんだ。だから残り半荘好きなようにやってこい」
麻雀を辞めてもなお大きすぎる姉の存在が私の中でコンプレックスになっていた。ジュニア時代も結局最後まで姉と比べられ続けた。誰も私を見てくれていない…そんな気持ちがずっと私の心にはあったがこのメンバーはみんな私を『大道寺雪奈の妹』ではなく『大道寺雪乃』として見てくれていた。認められた嬉しさと感謝の思いが込み上げてきて思わずポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
「楓ちゃん…ありがとう」
「おいまだ後半があるだろ、泣くのはもう半荘戦って心配してるみんなを安心させてやれ。」
「はい!!」
元気のいい雪乃の返事に安心したのか楓は控え室に戻っていく。
そして心の中の何かが吹っ切れた雪乃は前半戦とは別人のような生き生きとした顔で対局室へ戻っていった。
お久しぶりです。
今年初の投稿ですね遅筆で申し訳ありません、今年はもっと早く投稿できるように頑張っていきたいと思いますので応援よろしくお願いします。