咲-saki-episode タイガー&ドラゴン 作:武田兎
『さあついに副将戦も半荘一回を残すのみとなりました、現在トップの作草部中ですが他校とも殆ど差がありません!!大将へ一番多くの点棒を繋ぐことができるのは果たしてどの学校か!?』
後半戦を告げるアナウンスと共に各校の選手たちが次々に対局室へと戻ってくる。
その中で雪乃はさっさと席に着こうとする雪奈の背中を見て話しかけることを躊躇しながらも思い切って呼び止める。
「お姉……」
「ん?」
「私今ままで自分の麻雀を見失ってた。お姉を超えたくて…お姉と比較されたくなくて…でもここからは違うここからは本当の私の麻雀、『大道寺雪乃の麻雀』で残り半荘全力で行くから!!」
「ふふ、少しはらしくなったじゃない。でも私首位を奪う気は変わらないから」
「私だって絶対に逃げ切ってみせるんだから!!」
思いの丈を雪奈に告げると雪乃はよし!とガッツポーズをして対面の自分の席に戻る。雪乃の宣戦布告に雪奈は嬉しそうに頬を緩めながらも首位を狙う気持ちは揺るがずに気持ちを切り替えると同時に後半戦が開始した。
◆
東一局 (親)藤林芽衣子
(不思議…さっきの半荘よりも配牌が良くなってきてる…)
雪乃:{中中四七八①②③45669}
こんな事を他の人に言ったら笑われるかもしれないが気持ちが切り替わった事でツモが前半戦と比べて格段に良くなっていた。前半戦までの雪乃なら鳴いて即聴牌を取りに行くところを鳴く事をしなくても自ら引くことができているのだ。そういえば以前誰かが言っていた、『気持ちが切り替えることは自分のツモにも影響する』それを聞いたときは何をおかしなことをと思っていたが雪乃は自らそれを体験することで自分の考えを改めることにした。
(うー流石にもう上がらないと命尾に何言われるか…ここは鳴かれるかもしれないけど)
芽衣子:{中西西西③④⑤⑥⑥三七八八}
鳴かれて親を安手で流されても困るがだからといってこのまま{中}を抱えていても意味がないので芽衣子は苦肉の策ではあるが聴牌を取るべく{中}を捨てる。
「……」
(な、なんだ作草部{中}もってないのか…)
鳴かれると思っていたが雪乃は{中}になぞ目もくれずさっさと山から牌をツモる。きっと{中}は持っていなかったのだろう、そう思った芽衣子が雪乃の手牌から河に捨てた牌を見て驚愕する。
(ちゅ、{中}!?どうして?妹の方は明らかな鳴きの速攻型、仮に{中}を一枚しか持ってないのなら安牌に使うか重なるのを待つ、または配牌の時点で一枚しかないのなら即捨てるのが定石。なのにどうして今この局の中盤であるここで?)
芽衣子が雪乃の意図していることが分からないでいると次巡、またしても雪乃は手牌から牌を手出しで河に捨てる。その雪乃の捨て牌を見た芽衣子、千歳はまたしても目を疑った。
(な!?)
(え?)
なんと雪乃が捨てた牌とは{中}であった。つまり雪乃は芽衣子が{中}を捨てた時には{中}を二枚対子で所持していたのにも関わらずそこからあえて切り捨ててきたのだ。
前半戦のイメージとはかけ離れた打ち方をする雪乃に戸惑いを見せる二人に対し雪奈だけは雪乃の{中}対子落としに対し、一瞬だけ嬉しそうに静かに微笑んだ。
(へえ…手牌から{中}二枚を対子落とし…雪乃)
◆
この様子を画面で見ていた作草部中の控え室も雪乃の{中}対子落としに驚きを隠せなかった。
「雪乃が{中}を見逃し!?」
「いつもの雪乃ちゃんなら鳴いて聴牌を取りに行くのに…どうして」
「やっと雪乃らしくなってきたね、楓の激励が聞いたのかな?」
速攻型を得意とする雪乃にはらしくない行為に次鋒の南雲文、中堅の東雲真咲が対局中の二人と同様に戸惑うなか先鋒の秋山知由は雪奈と同じくニヤリと笑い大将である溝口楓に視線を向ける。
「らしくって…むしろ逆じゃないですか」
「ど、どういうこと?」
知由の意味深なセリフに訳のわからない文と真咲が訊ねる。すると知由は画面に映る雪乃の姿を見ながら静かに語りだした。
「私と楓がまだジュニアにいた時、雪乃は早上がりの速攻なんてしなかったんだ。」
「え?本当に!?」
「じゃあどうして今はあんなに早上がりを重視するようになったんですか?」
もっともな文の質問に知由は画面から目を離さず無言で試合を観戦している楓の表情を確認してから一度深くため息をついて苦笑しながら答える。
「まあ…あの時のジュニアには『彼女』がいたから」
文は知由のその『彼女』というフレーズが誰であるか即座に理解する。
当時千葉県のジュニア麻雀で最強であり、楓や知由の元チームメイトそして雪乃の姉である彼女の事を…
「大道寺雪奈ですか…」
「そう、姉と比較されるのが嫌だった雪乃はココに入学する頃には本来のスタイルとは真逆の速攻型になったってわけ」
「でも今は…」
「雪乃本来のスタイルにもどってきたな」
そこまで知由が言いかけると今まで押し黙っていた楓が口を開く、しかし目線は画面を見たまま微動だにしない。
「本来のスタイルって…?」
「雪乃は…あいつは元々姉と同じ重い腰のパワー型だよ」
この時楓にはある予感がしていた。
雪乃がこの対局を通して更に強くなるであろうという予感を…
◆
「聴牌」
雪乃:{七八九①②③9966654}
その局は結局誰も上がることなく流局となり聴牌の雪乃は手牌を倒し見せる。
(なんだ結局ただの聴牌じゃん、なら鳴いてさっさと上がっておけばいいのに…)
{中}対子落としをした時は何事かと思った芽衣子であったが雪乃のなんの変哲もないただの聴牌に結局は唯の見逃しかと思っていると下家の雪奈も同じく手牌を倒す。
「へえ…やるじゃない」
「なにを…あ」
雪乃の平凡にしか見えない聴牌に感心している雪奈の意図がわからない芽衣子は雪奈の聴牌を確認する。
すると雪奈の手牌は{南南南1113337899}というツモれば倍満まである怪物手であった。
まるで聴牌気配を悟らせないのは流石だがそれ以上にこの待ちを完全に読み防いだ雪乃に驚きを隠せない。
「ねえお姉もう随分前から張ってたでしょ?多分…私が{中}を捨てる前あたりから」
「そう、あの時あなたもし鳴いて聴牌を取りに行っていたら…ズドン」
確かにその時の雪乃の手牌は{中中七八九①②③96645}という明らかに{9}が浮いている手牌。
おそらく前半戦までの目先の聴牌しか見ていなかった雪乃ならなんの迷いもなく速攻で聴牌を取るべく{中}を鳴き{9}を切ってしまっていただろう。しかし無闇に鳴くことをせずまるで高台から見渡すかのように周りをみて打牌が打てるようになった雪乃は雪奈の待ちを看破した。
「おお怖い、あくまでトップの私狙いってわけ?悪いけどその待ちは完全に読んでたから」
「あらそう、じゃあ次ね…」
(なんだ、この姉妹…)
(こ、怖いんですけど…)
そう言って牌を卓の中に流し入れる姉妹をみて芽衣子と千歳はに額から冷たい汗が滴り落ちた。
大変投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
リアルの方が少し落ち着いてきましたので次回は少し早めに投稿できると思います。
楽しみに待って頂ければ幸いです。
ご感想お待ちしてます。