咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第二十六話 開花

東二局 (親) 大道寺雪乃

 

(さて…私の親番か…なんかお姉だけじゃなく他二人にもえらい警戒されてる気がする…)

 

雪乃の前半戦までとは明らかに違う何かを感じとったのか雪乃だけでなく他の二人も警戒し視線が親である雪乃に集中する。先ほど以上にピリピリとした場になっても依然として雪乃が注意を向けている相手は前局、上がれこそしなかったものの未だに勢いが衰えていないであろう雪奈であった。

 

(でもここでヒヨっていられない!!)

 

雪乃が改めて心を決しているとき時、名門館山女子の藤林芽衣子はふと今日この卓に居合わせてしまった自分の不運を呪っていた。

 

(はぁついてないな…そもそも副将は作草部の南雲が絶対にでてくると思ってたから他の選手、ましてや一年生のルーキーのデータないし…おまけに全くの無名校からはその姉でとんでもない元ビッグスターがでてくるし…それにこの配牌…どうしよ…)

芽衣子:{①⑤二三九46発白南西西北}

 

改めて卓を囲んでいる雪乃と雪奈の二人を見てため息をつきながらも仕方ないと芽衣子は黙々と牌をツモリ、ここまでの局の牌譜を思い出しながらそれぞれの特徴を頭の中で整理して弱点を探していく。

 

(とりあえずは妹の方は典型的な速攻の鳴き麻雀、早いけど打点はない。それに比べて姉は手作りは遅いけど火力が圧倒的過ぎる、一回でも上がられると一気に流れを持っていけかれる…なら…)

 

芽衣子は自分の手牌から雪乃が鳴きそうな牌を進んで切っていく。雪乃は前局こそ鳴かなかったが前半戦は鳴かない局が無いくらいの鳴き麻雀であった。ならここは多少点棒を失ったとしても一発が恐ろしい雪奈に上がらせないために早くこの副将戦を終わらせようと考えたのだ。

 

(作草部に安手で上がってもらって次の局、私も速攻してさっさと命尾に託そ…これか?)

 

しかし雪乃は芽衣子が捨てるどの牌にも見向きもせずただ黙々と面前で手を作り続けている。

 

(な、なんだよ急にダンマリしちゃって、こっちは鳴かせてあげようとしてるのに…早く今までみたいな速攻で上がってよ!!)

「あ、ポンです」

(え、や、やっと私の願いが通…じ…た…)

 

半分諦めかけていた時のポンの宣言に芽衣子は勢いよく俯いていた顔を上げるとそこには嬉しそうに芽衣子の河から牌を取ろうとする千歳の姿があった。

 

(あんたが鳴くのかい!!)

 

結局この局は千歳が安手で上がり場が流れるという上がった人は違うものの最終的には芽衣子の思惑通りになったのだが、どっと疲れを感じた芽衣子であった。

 

 

東三局 (親)ドラ{九} 大道寺雪奈

 

そしてついに最も警戒すべき雪奈の親番やってきた。

しかも…

 

「リーチ」

 

『なんとまだ流れは雪奈選手にあるのかここに来て親のダブリーだ!!』

 

芽衣子、千歳の二人はもう諦めたかのようでただ安牌を連打するなか雪乃だけはまだその瞳に闘志を燃やしたままであった。

 

(私の昔の麻雀はお姉の真似事、本物を超えることはできない…だからといって本来の自分の麻雀を否定してきた今の麻雀もダメ…なら…)

 

「ポン!!」

「ポン!!」

 

鳴く、雪乃は鳴く。親のダブリーにも怯むことなく押し通しそしてついに聴牌する…

 

雪乃:{112九九白白白  ポン南南南⑨⑨⑨}

 

『な、なんと雪乃選手も親のダブリーにも怯まずに作り上げました!!しかしこれは…』

 

そう雪乃はここで{2}を切れば混老頭、対々和、白牌、場風、ドラ2という倍満確定手を作ることができるのだがなんとこの時雪奈の待ち牌は{2}待ちであった。

 

「……」

雪奈:{134[5]6789[⑤]⑤二三四}

 

雪乃は{2}を切ろうと手を伸ばすが思いとどまる。このままでは昔と何一つ変わらない、ここで私は成長しなければならない、ならばと雪乃は牌に力を込め河へ捨てる。

 

火力だけでなく速度だけでなくその両方を活かしきる!!

 

『な、なんと雪乃選手姉の雪奈選手に振り込むかと思いきやこれは!!』

 

なんと雪乃が切った牌は雪乃の当たり牌の{2}ではなく{1}、これには実況や観客席から驚きの声が上がる。そして次の瞬間、雪奈はツモることができずに牌を河に捨てる。

雪乃の当たり牌の{3}を…

 

「ロン!!8000!!」

「はい…」

「お姉…残り一半荘、絶対にお姉には負けないんだから」

「ええ、私もそのつもりよ雪乃」

 

雪乃の口調からは対局前の刺々しい雰囲気は消えており、雪奈も上がられながらも何故かその顔は嬉しそうであった。

 

 

 

そしてついに長きにわたった副将戦が終わりを告げる。

 

『副将戦終了!!現在の一位はトップ変わりなく作草部中学、しかしどの学校もまだまだトップを狙える範疇です!!そして各校の運命は遂に大将へと託されました!!』

 

作草部中学   123300 

木更津女子学院  80800  

百目木中学   101200   

館山女子     94700

  

 

「あーお疲れ~」

「お疲れ様でした」

 

対局が終わり他のメンバーにぺこりと一礼をして対局室から立ち去ろうとする雪乃を雪奈は呼び止める。雪奈には対局前から気になっていて尋ねたいことがあったからだ。

 

「ねえ雪乃…最後に一つだけ聞かせて」

「いいよ、今ならなんでも答えてあげる」

 

雪乃は全てを出し切り晴れやか表情で答える。

 

「どうして…どうして楓が大将なの?だって楓は…」

「あんなに弱いのにかな?」

「……」

 

雪乃に核心を突かれて雪奈は押し黙る。

確かに雪奈がまだジュニアに所属していた時の楓はお世辞にも麻雀が強いと呼べる選手ではなかった。しかし

誰よりも練習に一生懸命に取り組む姿勢には口にこそ出さなかったが雪奈が同い年の中で唯一尊敬していた。

そんな幼馴染みでもある彼女がどうして千葉を代表するような名門校のレギュラーでましてやチームで先鋒と同じかそれ以上に大切な大将になっているのか雪奈には気が気でなかった。しかしジュニアを辞め麻雀から離れてからは疎遠になり大河に初めて部に勧誘されたあの時まで顔を合わせもしなかったのだ。

 

「確かに楓ちゃんはジュニア時代誰よりも弱かったもんね、下級生の私にも結構負けちゃったりして…ふふ懐かしいな」

 

雪乃が何か昔の楽しい出来事を思い出したのかふふと微笑む。

 

「でもそれは昔の話、もしあの怪物…命尾伊鞠を倒せるとするならうちの学校には楓ちゃんしかいない。そうみんなが思ったから楓ちゃんは大将になったの。」

「ど、どうして楓が命尾を?」

 

あの全国でも有数の実力者である命尾を倒せる可能性があるのが楓?まったくの想像外の言葉に雪奈は声を大きくして聞き返す。

その必死な雪奈の表情をみた雪乃は人差し指をぴんと立てて意地悪そうににやりと笑う。

 

「さあそれは見てのお楽しみ~」

「な、なんでも答えるって」

 

妹にからかわれた恥ずかしさで思わず雪乃を捕まえようと手を伸ばすがそれを雪乃はひょいと躱して作草部の控え室に通じる廊下の前まで行くとくるりと振り返って、してやったりの表情を浮かべている。

 

「楽しみはとっておいたほうがいいよお姉。悪いけどこの大会、私たちが全国行きのチケットいただくよ!」

「あらそれはこっちも同じよ。私達の大将は本当落ち着きなくて、自信と実力が合ってなくて結構初心者相手にも負けたり、符計算も未だに曖昧だけど」

「あははは、なにそれ?それで本当に大将任せられるの?」

「ええ、それでも…いやだからこそ大将を任せられる。だって彼女、大星大河は」

 

 

 

 

百目木中学の控え室、雪奈の勇姿を見届けた大河は髪を改めて縛り直して一度大きく深呼吸をするといよいよ対局室へ向かおうとする。

 

「よしじゃあ行ってくる」

「大河…」

「大河先輩」

「大河ちゃん…」

「うん!!行こうみんなで全国へ!!」

 

いつも何かを引き起こしてくれるうちの意外性No.1よ!!

 




遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

これからは「君と龍の愛し方」とともに活動報告で進行状況を告知していきたいと思いますので宜しければユーザー登録して頂ければ幸いです。

それではご感想お待ちしています。
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