咲-saki-episode タイガー&ドラゴン 作:武田兎
大河の見上げる先に佇む伊鞠はカランコロンと下駄の乾いた音を鳴らしながら心底嬉しそうな顔をして雀卓の周りを品定めするように歩き回る。
「まさか、まさか本当に来てくれるなんて!!」
「別にあんたのために来たんじゃない!!それに私は三年生だぞ敬語使え!!」
「ん、後のも来たみたい…」
「おい、無視すんな!!こんにゃろー!!」
「……」
(あれが…ユッキーの…)
伊鞠の目線の先、対局室へ繋がる扉がゆっくりと開き、作草部中の大将溝口楓が対局室へ現れた。そして楓が到着してから少し遅れてこの緊迫した空気に不釣合いな元気な声が対局室に響き渡る。
「おー皆さんもう揃ってるッスね!!どうも、桜庭一葉っていうッス!!どうかよろしくお願いします!!」
(こいつが剣崎が選んだ大将か…一年生で大将を任されるとは…でも関係ない勝つのは作草部だ!)
様々な思惑が交差するなか運命のサイコロは回り始めた。
◆
『さあつい大将戦スタートです!!現在のトップは12万越えの作草部中学!!果たして優勝を掴むことができるのはどの学校なのか!?』
作草部中学 123300
木更津女子学院 80800
百目木中学 101200
館山女子 94700
東1局 (親) 溝口楓
「ポン!!」
「ポン、」
「ロン2000」
『まず先制点を挙げたのは百目木中の大星選手!!三元牌を上手く使い起家の溝口選手の親を流しました!!』
(よし!いつも通り牌が来てくれてる!!これなら次の親番で一気にトップになったりして~)
そして東2局、(親) 大星大河
「ポン!!」
「ツモ2000オール」
大河:{中中中④[⑤]⑥八八222 ポン白白白}
『速い!速い!大星選手!!誰も寄せ付けない速度でここまで二連続和了だ!!』
(よし!絶好調!!これならもしかしてインターハイチャンピオンみたいに連続で何回も上がれたりして~)
点棒を受け取りながら自分の好調具合をインターハイ個人団体共に前人未到の3連覇を狙う白糸台高校のエース宮永照に重ねる大河であったが、油断からか周りを見ずに和了優先で打ち回していると…
「ロン2600の一本場は2900っス」
「は、はい…」
浮かれていた事から無警戒に牌を切っていまいあっさりと大河の親が流れてしまった。
このことを後で雪奈にどやされると考えると今の対局以上に胃が痛くなる大河であった。
◆
木更津女子学院の控え室ではここまで大河の早仕掛けにペースをなかなかペースを掴めず、点棒を取られてしまう一葉をモニター越しに見てメンバーの顔が徐々に不安で曇っていく。
「百目木の大将早いな…」
「うん確かに早い…手元に三元牌が集まりやすいのか速攻をやらせたら作草部の副将の子よりも早いかも…」
「部長…大丈夫でしょうか一葉ちゃん…」
一葉と同い年である佳菜子は気が気でなくチラチラと葵の顔色を気にしてしまう。他の3人が不安そうな顔をする中葵だけは未だに涼しい顔をしていた。
「そうね…確かに早いわでもソレは『千葉県で二番目』だけどね…そうでしょ一葉?この決勝の舞台でもそろそろあなたの『豪運』のお披露目ね」
そう言って葵が含みのある笑いをみせると同時に場は東3局、桜庭一葉の親番へと進んで行った。
◆
『さあ大星選手の連続和了が止まり他校はここからどう打ち回すのか!?あっとこれはああああ!?』
全員の理牌が終わりいよいよ東3局を始めようと意気込んでいると親の一葉が一打目から河に捨てた牌を曲げて高々に宣言する。
「リーチッス」
『木更津女子学院桜庭選手ここにきて親のダブルリーチだ!!』
(親のダブリー!?マジ!?)
(……)
案の定三人がここは安牌を持っているものは安牌から、そして無くなったら字牌とセオリー通りに牌を切っていく。そして9巡目、一葉以外の三人が逃げるのに必死で手が全く進んでいない中一葉がツモってきた牌と手牌をバラバラと倒す。
「ツモ、ダブリーツモ裏ドラ1個乗って4000オールっスね!!」
一葉:{一一一二233445②③④} ツモ{二}
この時木更津のメンバー以外、会場中の人々が和葉の上がりに今のはただツキがあっただけ、もう二度目はない、誰もがそう考えていた。
しかし彼女はそのありえないことを平然とやってのけた。
「じゃあもう一回リーチッス!!」
『な、なんと2連続のダブルリーチ!!ノリにノッています!!』
『ダブルリーチの出現確率は0.14%と言われています。それが二連続とは…なにか人智では測れない力を彼女も持っているとしか…』
ひろゆきの読み通りこの二連続のダブルリーチは決して偶然でもましてやイカサマなどでもない。これこそ彼女の生まれ持っての運の強さ、それは決して強運などと言う言葉では抑えきれなほどの…まさしく…
「ツモ、4100オール」
一葉:{西西778899④④⑥⑦⑧} ツモ{西}
豪運!!!
鼻歌交じりに百点棒を積んでいく一葉はどうだと言わんばかりに卓を囲む三人を見回す。
(どうっスか私の『豪運』は?私の能力は西家では二向聴、南家では一向聴と親に近ければ近いほどその運は強大になっていく。つまり親では常に…)
そして再び一葉は千点棒を放り宣言する。
「リーチ!!」
一葉:{44678一二三六七八⑥⑧} 捨て牌{6}
このリーチに伊鞠、楓の二人はまだ一つしかない安牌を切り崩していく。
(悪いっスけどこのまま行かせてもらうッスよ!!私に勝てるのはただ一人あの人だっけッスからね…さあドンドン降りてくださいその間にツモって…)
しかし次の瞬間一葉は大河の切り捨てた牌に驚愕することとなった。
「……」
「え?な、なにしてるんっスか!?」
一葉が大声を上げるのも当然、
なんと親のダブりー相手に初手大河が切った牌は{[五]}!!
「私のリーチが見えて無いんっスか!?親のダブリーしかも初手に赤ドラなんて…」
「でも現に通ってんじゃん」
「そ、それは…」
「
一葉の攻撃を捨て身で反撃する大河、この二人の接戦を見て今まで静かに身を潜めていた獣がついに動き出す。
「くくくくうっくうKじゅJくJくあはっはあっははっは」
「な、なんッスか…?」
「……」
突然の大きな笑い声にあたりは異様な空気に包まれた。そしてこの空気を作り出した元凶である伊鞠が嬉々として頬を歪ませながら一葉と大河を交互に見つめる。
「うれしいうれしい、まさか虎さん以外にもこんなに美味しそうなのがいたなんて、よし!!ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・?」
そうして大河と一葉の二人を人差し指で交互に指し鼻歌交じりに品定めをする。そして鼻歌が止まった時指を指されていた人物は…
「決ーまった、よし!!じゃあまずはあなたから」
「え?」
何がなんだか分からない一葉であったが、その瞬間一葉には確かに見えた。
自分中の大切な『何か』を
一匹の大きな狼に食べられてしまうのを…
いただきます!!
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
遅筆なのもので毎日更新している方達を見習ってなるべく早く投稿できるように精進いたします。
ご感想、ご意見ありましたらよろしくお願いします。