咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第六話 対立

「…ってことで新しく部員となった」

「千条白兎ですよろしくお願いします!!」

 

放課後、晶はメールで言われた通り大河と辰美の教室に到着すると今さっき思いがけなくゲットした新入部員の白兎を二人にお披露目する。

 

「…うんよろしく…」

「わぁこれからよろしゅうな~」

「…あれ?…大河どうしたの?念願の部員ゲットできたのに」

 

パチパチパチと辰美が自ら進んで入部してくれた白兎に感謝と喜びを込めて拍手を贈るなか、一番騒ぎ出しそうな大河はぼーっ呆けた顔で心ここにあらずといった状態になっている。

 

「あぁちょっとさっき色々あったんや…それより白兎ちゃんは麻雀は打ったことないんやろ?」

「はい…それでも大丈夫でしょうか?」

「全然平気や!!うちらが教えるさかい一緒にがんばろうな~」

「はい十和先輩、私白糸台高校の宮永選手みたいになりたいんです!!」

「よしうちに任せとき!!まずは腕を回す特訓からやな…って麻雀してへんやん!!」

「おぅさすが本場はキレが違いますね~」

 

2人が早速意気投合している間に晶は今の大河の様子が気になり本人に尋ねてみる。

 

「……」

「もう当てがあるところには行ってきたの?」

「…うん…麻雀なんてやってないって怒って帰っちゃった…」

「ふーん珍しいじゃん…大河がそれで引き下がるなんて…」

「…」

「まぁ何を思ってるのか知らないけど大河のしたいようにやったらいいよ。」

「え?」

「昔から大河と淡姉は突柏子のない事してたけどなぜかいつもそれで巻き込まれた人達も笑顔だったからね…私も含めて…」

「アッキー笑ったことあったっけ?」

「あ、あるよこんな感じに…」

「ぷっ、あははははっ…何その顔~すごい面白い!!」

「わ、笑うことないでしょう…」

 

そう言って無理に笑顔を作ろうとした晶の顔はヒクヒクと引きつっており、思わず大河が吹き出してしまった。

 

「はあ…ありがとうアッキ一なんか元気出たよ」

「そう、ならよかった…」

 

大河はスっと席から立ち上がり、その場で両腕を高く伸ばして大きく背伸びをした。その時の大河の表情は天真爛漫で人懐っこい子供の虎のようないつもの大河であった。

 

「よしハクトー、私が宮永選手に近づくための一歩としてこの技を伝授しよう」

「おお!!それは何ですか先輩?」

「ふっふっふ~それは私の大好きな漫画、はじめの一歩のキャラクターの伊達選手が得意としていた技でその名もコークスクリューブロー」

「おお!!なんか凄そう」

「なんでボクシングの技教えてるの…」

「でも大河ちゃんが元気になって良かったわ。あとは部員がもう一人入ってくれれば万々歳なんやけど…」

 

晶が2人に呆れる中、辰美はもう一人の部員が早く入ってくれることを願い4人はその日学校を後にした。

 

 

 

 

「なんなのよ一体…いきなり私に麻雀部に入れなんて…入れなんて…」

 

大河達が帰宅しようとしている時、大道寺雪奈は先ほどあった予想外の出来事を紛らわすために本でも買おうと駅前の繁華街を歩いていた。

繁華街の賑やかな雰囲気とは真逆に雪奈の心の中はぐるぐると様々なもの渦巻いていた。そのせいか注意散漫になっており前の方から3人の女子中学生が歩いてくるのを目の前に来るまで気がつかなかった。

 

「はあ今日の部活きつかった」

「そんなんでバテてるようじゃインターミドルなんて届かないぞ」

「楓は頑張り屋だね~…あ」

「ん?どうし…」

(はあ…今日はほんとに厄日かしら?まさかこの人たちとも会うなんて…)

 

3人組は雪奈のことに気づくと急に話をやめ気まずそうな顔でこちらを見ている。雪奈は心の中で今日はなんて麻雀に関することが多い日なのだろうと思った。なぜならばその3人組はかつての雪奈のチームメイト達なのだから。

 

「久しぶり雪奈じゃん」

「元気してた?」

「うん…久しぶり」

「私たち今日部活終わるの早くてさ~」

「そう…なんだ…」

「ねえ雪奈は今麻雀やって、」

「やってるわけないよな?」

「ッ!!」

 

3人の中の楓と呼ばれる切れ目の少女がドスの効いた声で雪奈を睨みつけその場の空気は一気に凍りつく。

 

「私にあれだけの…あれだけのこと言っておいて…約束破った嘘つきがさあ!!今更打ってるわけないよな!?」

「楓…私は…」

「ふん」

「ちょ、ちょっと楓…ま、またね雪奈」

「こ、今度またゆっくり話そうね」

 

楓と呼ばれる少女が一言雪奈に吐き捨てすとさっさと歩いていってしまい二人もその後を追いかけるように去って行った。

 

「うぅ…ううぅ…ひぐっ…」

 

一人取り残された雪奈は肩を震わせただ声を殺して泣くことしか出来なかった。

 

 

 

 

「おはよー」

「おはよーさーん」

「…ちょっと二人共いいかな?」

 

翌日大河と辰美が二人で登校すると教室に入るなり美香が真剣な面持ちで寄ってくる。

 

「ミカーなに話って?これ以上私のデザートを奪おうとするならさすがの私も反旗を翻すよ」

「昨日、大道寺さんのことネットで調べたらこんなのが…」

「無視ですかそうですか…ってなにこれ?」

 

そう言って美香がバックから取り出したのは数年前の地元の新聞の記事をプリントしてきたモノだった。その記事には『千葉期待の星!!大道寺雪菜、全国準決勝まさかのトビ終了で惨敗!!』という見出しの他に小学生の頃の雪奈が対局終了後に赤ん坊のように泣きじゃくる様子の写真も記載されていた。

 

「これは…」

「私こんなことだって知らなくて…」

「…私ちょっとでてくる!!」

 

美香が興味本位で調べてきたことに対して申し訳なさそうな顔をするなか、大河は美香が持ってきた記事を握り締め教室を飛び出そうとする。

 

「ちょ、大河!?」

「大河ちゃんもう朝のホームルーム始まるで!?」

「便所って言っといて!!」

「便所って…」

 

急いでるにしても男子もいる教室で便所はちょっと…と辰美と美香が思う頃には既に大河は教室を飛び出し雪奈がいる3組を目指して廊下を駆けて行った。

 

 

 

 

「はーい出席とりまーす」

「ちょ、ちょっと待った!!!」

 

雪奈が所属する2年3組では今まさに担任の先生が出席を取ろうとした瞬間に勢いよく扉が開かれる。

そこにいたのは全力疾走してきたせいで荒息をし、額に汗をにじませた大河であった。

 

「な、なんだ君は早く自分の教室に戻りなさい!!」

「大道寺さんちょっといい?」

「…先生私大星さんと委員会のことで職員室に呼ばれていました。少し席を外してもよろしいでしょうか?」

「あ、あぁそういうことなら…」

 

そう言って大河と雪奈は教室を後にし朝のホームルームのこの時間には絶対に人が訪れないであろう体育館の裏へと場所を移動した。

 

「で?用事ってなに?麻雀のこと?」

「うん」

「はぁ…だから私は麻雀なんてしたことないし、牌に触ったこともない、これでいいk」

「本当に?」

「ほ、本当よなんで私が麻雀なんか」

「じゃあこの記事は何?」

 

雪奈が言い終わる前に大河から疑問の声が降りかかる。一瞬ドッキとしたものの平然を装い返答すると大河は先ほどの美香が持ってきた記事を本人である雪奈に見せつける。

 

「私に似てるわね…でも別人よ」

「この記事に書いてある対局のせいで嫌になっちゃったんじゃないの!?」

「ッ!!だから私は」

「その指、」

「こ、これは…」

 

大河は雪奈の右手を指差す。そのその指先には普段の生活では決してできないような女の子に似つかわしくないタコがいくつも出来ていた。

まさかコレに気づかれるとは思っていなかったので急いで雪奈は自分の右手を後ろに回し隠すが時すでに遅しといった状況であった。

 

「その指のタコ、今までどれだけ打ってきたの?私でもそんなにはならないよ…大道寺さんはこの対局でジュニアを引退した後もまだ牌を触り続けてるんじゃないの?」

「……」

「ならその時の屈辱晴らそうよ!!もう一回私たちと一緒に」

 

わかっている。

大河は嫌味ではなく本気で私を必要としてくれているのだろう。

それはわかってる。

しかしそれはあの舞台に立ったことがないからそんなにも軽く口にできるのだ。

------何も知らないくせに…

------全国という舞台がどれだけ重たいか知らないくせに…

------負けた時の皆の目が期待や憧れから落胆と蔑み変わるのを知らないくせに…

そう思っていると今までの溜まっていたものがどんどんこみ上げてきたが雪奈はそれを抑えようとはしなかった。

 

「あ、あんたに…」

「え?」

「あんたに何がわかるのよ!!エースだ期待の星だってモテはやされて試合で負ければあんなもんかと応援してくれた人や一緒に戦ってきたチームメイトにまで言われて…」

「大道寺さん…」

「どんなに頑張ったって…何年賭けたって…牌に愛された人には…本当の天才たちには勝てない…」

「……」

「卓に居場所がなくなった私の気持ちがわかる?あんたがやろうとしてるのは仲良しのお遊び麻雀でしょ!?そんなのに私を巻き込まないでくれる?正直言って迷惑なの!!」

 

口が誰かに操られているのかと錯覚するほどペラペラと絶え間なくでてきた罵声を飛ばし終え、大河の顔をみるとなぜかより一層真剣なモノになっていた。

 

「違う!!遊びなんかじゃないよ…だって私たちはインターミドルを目指すんだから!!」

「インターミドル?」

「どんなに頑張ったってムダ?何年かけたって勝てない?決めつけないで!!私はそうは思わない、そんなこと言うのは麻雀に対する情熱を全部かけてからいいなよ!!」

 

大河は(かたく)なに雪奈の言葉を認めようとはしなかった。なぜならここで雪奈の言葉を認めてしまっては自分は『あの姉』に一生勝てないそんな気がしたからである。

 

「そう…そこまで言うなら見せて頂戴!!私に対してそこまで言える、あなたの麻雀に対する情熱をね!!」

 

 




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