咲-saki-episode タイガー&ドラゴン   作:武田兎

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第八話 監督

麻雀部5人が揃った日の夜、キーボードを黙々と打つ音が部屋に響く。深夜にパソコンの画面相手に睨み込んでいるのは本日麻雀部に入部した五人目の部員、大道寺雪奈である。

 

「あーまた負けた!!やっぱりKさん強いな…もしかしてのどっちとかアイスマンと同じくらい強いんじゃないの…?」

 

自分しかいない部屋で落胆の声を上げながら画面を見る。

雪奈が今プレイしていたのは『天下荘(てんかそう)』というネット麻雀であり、ジュニアを引退したあとは実際の麻雀ができなかった分雪奈はこの天下荘にのめり込み、気がつけばランキングの上位に食い込む成績を出したりと自分でもそれなりに強いと自負している。

しかし今対局しているこの人物は別格、その氷のように冷たい麻雀は刃物を思わせる鋭さがあった。もしかしたらネット麻雀界で伝説となっているあの『のどっち』やこの天下荘でランキングトップの成績を持つ『アイスマン』と張るやもしれない。

 

K『snowさん今日はとても調子がいいですね何かあったんですか?』

 

Kとは少し前にネット麻雀内のチャットで知り合い、そこから意気投合して対局の約束などをチャットでやり取りをしていたが向こうから先に書き込みをしてきたことはなかったので少し雪奈は驚きながらもすぐに返信を書き込んだ。

 

snow『実は今日麻雀部に入ったんです。これからを思うと少し気合が入っちゃいました』

K『そうですか、snowさんならいいとこまでいけますよ』

snow『本当ですか?まあ目指せインターミドルなんで頑張らなきゃですよね、確かKさんも学生でしたよね?部活はやらないんんですか?』

K『ちょっとバイトが忙しくて部活で麻雀はできないんです』

snow『えーそんなに強いのにもったいないですよ、ちなみになんのバイトをやってるんですか?』

K『アミューズメントパークのバイトですよ、今夜もあるんでこれで失礼します。』

 

そこでチャットは終わりKはログアウトしてしまった。

 

「アミューズメントパークってなにかしら…?」

 

このチャットのKこそ、その卓越した技量と氷のように冷たい闘牌(とうはい)で裏レートの麻雀界で氷のKと呼ばれる男であることを雪奈は思いもしなかった…

 

 

 

 

「先生、先生」

「おう、大星どうした?また赤点でもとったか?」

「ちーがーうー!!これ」

 

翌日、大河は担任の山口先生に麻雀部5人の署名が入った部活の申請用紙を提出する。

 

「これはこの前渡した部活の申請用紙…え?3組の大道寺!?」

「どう?すごいでしょう?ちゃんと五人集めてきたよこれで麻雀部つくれるんでしょ?」

「ああそうだな…ん?これ顧問の先生の判子がないなこれじゃあ部活はできないぞ?」

「そんなのわかってるよだから先生のところにきたんじゃない」

「大星まさか…」

 

山口美沙(29)は次に大河が言うこと言葉が手に取るようにわかった。

 

「お願い麻雀部の顧問になって?」

「やっぱり、でもテニス部があるからダーメ」

「そこをなんとか、名前貸してくれるだけでいいから」

「ふーん…まあ名前貸すくらいならいいよ」

「ほんと!!ありがとう」

 

こんなに必死になって何かに打ち込む大河を見たことがなかったので山口は一瞬あっけに取られるがすぐに自分の判子を申請用紙に押す。

 

「その代わり、大道寺さんと十和さんに勉強少しは教えてもらいな?このままの成績だと進学が…ってもういないし…まあなにか打ちこめるモノが見つかってよかったな大星‥」

 

 

 

大河が部活の申請用紙を提出に行っている間ほかの四人は2年2組の教室で大河の帰りを待っていた。

 

「じゃあ問題この牌はなに?」

「ん~ニーソ?」

「いろいろツッコミたいけど間違いとだけ言っておく…はぁほらもう一回本ちゃんと見て…」

「はーい」

 

晶は白兎の麻雀の指導をしている横で雪奈と辰美も大河の帰りを今か今かと待ちわびていた。

 

「大河大丈夫かしら?あんな自信満々に顧問の判子もらってくるって言ってたけど…」

「大丈夫やろ?それよりもそのあとのことや」

「そのあとって指導者のこと?」

「そや、大河ちゃんは誰か当てがあるみたいなこと言っとったけど…」

「みんなーみてみて顧問の判子もらってきたよ」

 

そこまで辰美が言いかけると大河が満面の笑顔で部活の申請受理の用紙を持って教室に飛び込んできた。

 

「やりましたねー先輩」

「じゃあこれで麻雀部正式に活動できるってことね」

「でもどうするの…?」

「教えてくれる人がいなんはやっぱりきっついな‥」

「ふふ大丈夫もうそこは考えてあるんだよ」

「え、ほんま?」

「じゃあ麻雀部記念すべき第一回目の活動内容はみんなで指導者をスカウトに行こう」

 

 

 

 

「…ねえ大河?その私たちに教えてくれそうな人がいる場所って…ここ?」

「そうそうこの雀荘、こんにちはー」

 

大河たちが訪れた場所はあの日、天斗と戦った雀荘であった。

大河は扉を躊躇(ちゅうちょ)なく開けるとカランカランと音が鳴り、店内にはこの時間ではお客がいないのか新聞を大きく広げた店長さんが暇そうにしていた。

 

「おや?大河ちゃんいらっしゃい今日は随分と大人数だね?」

「うん、ねぇねえ店長今日はあの人いないの?」

「あの人?ああ天斗君ね今日は大学早いからそろそろ来るんじゃないかな?」

「そうじゃあそれまでひと卓借りるね、って何やってのみんなーこっちきなよー」

 

店長が彼の大学の事情も知っているということは彼はかなりの頻度でここに顔を出しているのだろう。

ビンゴ!!と心の中でガッツポーズをする大河であったが流石に彼が来るまでは暇なのでひと卓借りることにし指定の卓に向かおうとするとまだ他の四人が入口の前でオロオロとしている。

 

「ちょっと大河ーこっち来なさいよ」

 

雪奈が小さい声で呼びながら大河にちょいちょいと小さく手招きをする。

 

「ん?なに?」

「大丈夫なの?ここ雀荘でしょ?中学生の私たちが入っても大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、よくノーレートで打たしてもらってるし、おじさんたちもよくしてくれるしね」

「それにしたって白兎とか十和さんがきっと怖がって…って二人は?」

 

雪奈は隣にいるはずの二人に目を向けるといつのまにか二人の姿はなくあたりを見回すと店内から辰美と白兎の楽しそうな声が聞こえてきた。

 

「うわあうち雀荘って初めて入ったわ~」

「私もです、ここで大金をかけた男の戦いが日夜(にちや)繰り広げられてるんですね」

「そうやで男の意地と意地のぶつかり合いや!!」

「アホらし…」

 

どこかの映画か漫画で得た偏った知識で興奮気味に話している二人に晶が静かにツッコミを入れると一人の男性が店に入ってきた。

 

「ういーす、なんだこの子達は?ん?お前はこの前の…」

 

入ってきた男性は本日の尋ね人であり大河因縁の相手でもある上埜天斗であった。天斗は最近この雀荘で一緒に打ち、こてんぱんに負かした大河の姿が目に入る。

 

「天斗君この子達なんか君に用があるそうだよ」

「用?俺に?」

「実は…今日はお願いがあってきたの…」

 

まだ状況が飲み込めていない天斗に大河はこれまでの麻雀部設立の経緯、そしてコーチになって欲しいと天斗に熱意を込めて話し出した。

 

 

 

 

「なるほど…大体事情はわかった、面白そうだし協力してもいい」

「やったな~!!!」

「これは…予想外…」

「アマでトップクラスの打ち手の人が指導してくれるなんてこれなら全国狙えるかもしれないわね!」

 

天斗からの承諾の返答を聞き全員から安堵の声が漏れるなか天斗は大河の方を見つめて腑に落ちない顔をする。

 

「ただお前はいいのか?勝ちたい相手に教えてもらうことになっても?」

「…今のままじゃダメなの…もっと強くならないと…それが倒したい相手に教えを請うことになっても…」

「ふうん…俺が教える以上今からいう二つのことを守ってもらおう」

 

そう言って天斗は右手を出しブイサインの形をとる。

 

「一つ目今年のインターミドルには出ない、ふた」

「なんで?なんで!?チャンスは多い方がいいじゃん!!」

「最後まで言わせろよ、…じゃあ逆に聞くが今の状態で大会に出てどのくらい勝てる?」

「そ、それは…」

「確かに試合に慣らすことは大切だ。しかしその一回のためにこちらの戦力、情報を漏らすことない。ただでさえ選手層や地力じゃ勝てないんだ、バレてしまってはいくらでも対策は立てられる…だから全国に行けるすれば相手の(きょ)を突く来年のインターミドルの一回勝負だ」

「一回…」

「…勝負…」

 

今のまま挑んでも確かに全国なんて夢のまた夢…一回戦突破ですら危うい事はここにいるみんながわかっていたがみんな一回しかチャンスがないと聞くと先ほどまでのテンションはどこへ行ったのか全員静まり返り誰も言葉を発せず静寂がしばらく続いた。

その静寂を打ち破ったのは辰美であった。

 

「大丈夫や今からみんなで強くなってほかの学校をびっくりさせたろな!!」

「まあこのまま出ても無駄に負けるだけだしダークホースみたいでかっこいいじゃない?」

「ダークホース…いいねかっこいい…」

 

みんながまた先ほどのテンションに戻ったところで天斗がもう一つの条件を口にする。

 

「それじゃあもうひとつの質問…これが一番約束して欲しい…」

 

もう覚悟ができているのか先ほどのような緊張した顔ではなく、五人全員からどんなことでも動じない強い意思が見て取れる。

 

「みんな最後まで勝利を…どんな状況でも諦めないと…」

 

この条件には全員一度顔を見合わせ、深く頷いてはっきりとしそして大きな声で答える。

 

「もち!!」

「了解しました~」

「当たり前の事じゃないですか」

「うぅ私大丈夫かな~でも頑張ります!!」

「…やるからには頂点…」

「よーし決まりだな!!じゃあ今お前たちがどんなもんか俺が相手してやる!!」

 

にかっと子供のように嬉しそうに笑うと天斗は雀卓(じゃんたく)の席に着きその卓に雪奈、晶と席に着くなか真っ先に席に着きそうな大河がじっと動かない。

 

「大河ちゃん打たへんの?」

「私がタカトーと打つのはインターミドルに出てからだから、ほらハクトーは私と勉強よ!!」

「わ、わわ!!先輩引っ張らないでくださーい」

 

大河は白兎を引っ張り休憩所のソファーで麻雀の参考書を片手に持ちワンツーマンで教えていく。

 

「素直じゃないんやから…」

 

ぼそりと呟くと辰美も席に着き、百目木(どうめき)中学麻雀部はついに本格的に始動を始めたのでたった。




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