どうしよう、本当に話が進みません
突然何の前触れもなく放たれた衝撃の言葉に、辺りの空気が別の意味で凍った。
聖杯戦争において何よりも重要であり、それの探り合いとも言える戦争において、目の前の男は、あっさりと己の
「…‥はい?」
余りの出来事に呆けた声を漏らすレイジ。一瞬、
―――大物なのか…それともただのバカか
「何を考えてやがりますかこのお馬ッ鹿はぁぁああああッ!!」
きっと前者だな。そんな事をレイジが考えている間に、イスカンダルの乗る御者台から現れた、恐らくライダーのマスターであろう中性的な少年が食って掛かるが、当の本人は全く効く耳持たずにデコピンで少年を沈める。そして、
「うぬらとは聖杯を求め相争う巡り合わせだが…‥戦う前に、まず問うておくべき事がある。うぬら‥‥」
言葉をためる。誰もが次の言葉を待つ。
「一つ我が軍門に下り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様らを明友と遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおるッ!!」
「「‥‥‥」」
告げた言葉に二人は、何を言っているんだと言いう表情を見せる。誰もが願いを求めこの世に現界したのだ。なのに、イスカンダルはそれを放棄し、己の下に付けと言う。
『
まず初めに動いたのはディルムッド。首を左右に振りながら、己が持つ赤槍をイスカンダルの方に向けながら告げる。
「生憎だが、その提案には了承しかねる。俺が聖杯を捧げるのは、今生にて忠誠の誓いを契りし新たな君主ただ一人だけ…‥‥断じて貴様ではないぞ、ライダーッ!!」
静かに怒りを言葉に乗せ告げられる否定の言葉。そしてディルムッドの否定に続く様にアルトリアも告げる。
「そもそも、その様な戯言を述べる為だけに、私達も決闘の邪魔をしたのか?だとしたらそれは、許しがたき騎士に対する侮辱だライダー。重ねて言えば、私もブリテンの国を預かる一人の王。いかな大王と言えど、臣下に下るなどと言う事は断じてないッ!!」
アルトリアの言葉に僅かに驚きて見せるイスカンダル。だが、続けざまにフラれポリポリと掻く。そして視線を未だに言葉を発さない、レイジに向ける。
「お主はどうだ?待遇は応相談だが…」
指で丸を作りながら問うイスカンダル。その言葉ににアルトリアとディルムッドの怒りが限界に達し始める。しかし肝心のレイジは、己の右手で左手を抑えると言う奇妙な体勢をしている。
「どうかしたか?」
「いや、何でもねえ。気にするな」
乾いた笑みを浮かべながらレイジはイスカンダルの言葉に答える。
「…少し考えさせろってのはダメか?」
「ほう」
「「なッ!セイヴァーッ!!」」
レイジの言葉にイスカンダルは、感心した様な声を、アルトリアとディルムッドは驚愕の声を漏らす。
「まあある意味一種の勝負みたいなもんになるんだが‥」
「ほう、それは何だ?言うてみろ」
興味深々と言う表情を見せるイスカンダルにレイジが告げる。
「簡単だ。俺の魂を征服して見せてくれってのが条件だ」
時が止まる。その中でレイジは「様は、アンタと共に戦えてもいいと思える器を示してくれって事だな」と告げる。
その言葉にアルトリアがディルムッドが、なぜと言う目で訴える。それに答える様にレイジは、言葉を続ける。
「別に大したことはねえけどよ、
告げられた言葉に二人は黙り込む。その意味を理解したから。彼は心でもってイスカンダルと戦うと告げたのだから。一瞬の沈黙の後、イスカンダルが大声で笑う。
「よかろう。なればしかと焼き付けるがよい!このイスカンダルの疾走を」
「おう、楽しみにしてるぜ」
互いに交える視線。空気が変わる。先ほどまでの張り詰めたモノではなく、怏々と滾り始める何かが張り詰めた空気を変えていく。それはアルトリアにもディルムッドにも言える事。
そんな中で
『そうか…よりにもよって貴様か』
「ひぃッ…」
空気を汚すように怒り心頭と言う声が響き渡る。その声にライダーのマスターが怯えた表情で頭を抱える。
『一体何を血迷って私の聖遺物を盗みだしたかと思えば、まさか君自ら聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ…‥ウェイバー・ベルベット君』
そうそれが怒る理由。ライダーのマスターウェイバー・ベルベットとランサーのマスターケイネス・エルメロイ・アーチボルトは師弟関係に当たる。自分の面に泥を塗られ怒れるケイネス。口調は丁寧だが、その声音には隠し切れない怒りがにじみ出ている。
ケイネスの一語一句にウェイバーは、仔犬様に振るえる。その裏でディルムッドの顔が曇りをレイジは確かに見る。
『まあ参加してしまったモノは仕方がない。君には特別に課外授業をしようじゃないか。魔術師同士が殺し合う本当の魔術戦…その苦痛と恐怖を存分に余すことなく、君に伝えるとしよう…‥光栄に思いたまえ』
殺す。確かにそう言われ、ウェイバーの恐怖と震えが極限に達する。そしてレイジと
任せたその目にイスカンダルは、任せろと答える。未だに震えているウェイバーに、イスカンダルは満面の笑みを見せる。不思議と、ウェイバーの震えが消える。
「おう魔術師よッ!!察するに貴様が坊主に成り変わって、余のマスターになる腹だった様だな。…‥だとしたら片腹痛いにも程があるわ!!余のマスターとなりえる存在は、常に戦場を共に駆ける勇者では無くてはならん!!影で隠れコソコソと隠れるしか脳の無い臆病など、こっちから願い下げだわッ!!」
挑発と決意その二つを感じれる声が大笑い。それが戦場に響く。何処かからか、歯ぎしり音が届く。
イスカンダルの言葉にレイジは、笑いを堪える。ああ、正しく王の器。その在り方が、余りにも王道としていて好ましい。
大笑いを止めたイスカンダルは、両腕を掲げて告げる。
「おうこら!!まだ他に居るだろうが、この戦場を闇に紛れて覗き見している連中は!!」
「‥‥どう言う事だライダー?」
イスカンダルの言葉にセイバー疑問の声を発する。
「セイバー、ランサーそしてセイヴァーよ。うぬらの真っ向勝負、誠に見事である。よもや、うぬらの清涼で見事な剣戟によって招かれた英霊が、余一人と言う訳ではあるまて」
イスカンダルの宣言に、レイジは今まで当たりの警戒を怠っていた事に気がつく。そう言えば、先ほどから彼女が警告を発していたような気がする。
若干顔を青くしながら、レイジは辺りの魂を探し始める。
「さて、他にも居るのであろう。鼠の様に隠れ潜んでおる輩が…‥情けないのぅ!聖杯に導かれし英霊達よ、今ここに集うがよい!!それでもなお、姿を現さん臆病者とと言うならば‥‥‥この征服王イスカンダルの侮蔑を待逃れぬと知れッ!!」
轟く声にアルトリアとディルムッドは深く頷き、レイジは笑みを浮かべる。
そしてその宣言は、戦場を監視する者達にも轟いた。
『あんな馬鹿に世界は一度征服されかかったのか?』
「‥‥‥」
切嗣の言葉に舞弥は何も答えない。いや、答えられない。
そしてその言葉を綺礼から聞いた時臣は、汗をかく。
「不味いな…」
『ええ、不味いですね』
本来ならば、受ける意味を見いだせない挑発だ。しかし、彼らにはその挑発に危機感を覚える心当たりがあった。
イスカンダルの発現から魂を感知していたレイジが、新たなる乱入者の存在を感じ取る。
瞬間、黄金の輝きが戦場の中で無事だった街灯のポールに集まり形作る。
「よもや、この
現れたのは、文字通り黄金に身を包んだサーヴァント。そしてその姿をレイジを除く誰が知っていた。初戦において、圧倒的な実力と異端さを見せたアーチャーのサーヴァント。
アーチャーは、不愉快そうに下にいる者達を見下ろす。その姿に同じく『王』を名乗ったセイバーとライダーが不満そうな表情を見せる。
「難癖をつけられてもなぁ。イスカンダルの余は、世界に名の知れる征服王なのだがな」
「ふん、戯言を。真に王たるの英雄は、天上天下にこの我ただ一人。他は有像無像の雑種にすぎん」
「そこまで言うならば、まずは名乗りを上げるべきではないか?よもや、王たるものが己の名を語るのを躊躇う理由はないであろう」
「貴様如き雑種が、王たる我に問いを掛けるか?…身の程を弁えよ、雑種ッ!!」
イスカンダルの言葉は、アーチャーの琴に触れたのか、激昂の表情と共に吠える。そしてその感情に連動するように、アーチャーの後方の空間に黄金の波紋が波打ち、刀剣が姿を現す。
誰もが息を呑む中で、アーチャーの視線がふとレイジに向けられる。否、もっと正確にいうのであれば、レイジの持つ刀に向けられている。
「そこの雑種‥」
「うん?」
突然の問いかけ。
「よもやこの我の手を離れ、そこまでの輝きを放つ刀剣があろうとは‥‥それ程の存在我が
―――蔵?それに手を離れ…
アーチャーの言葉に感じる僅かな違和感。その正体を探ろうとするレイジに、アーチャーはイスカンダル以上の提案を告げる。
「そこの雑種よ。その手に持つ、宝剣を我に献上せよ。さすれば、一時の担い手の褒美とし、見逃してやろう」
「はあ?」
余りの提案に、空気が凍る。セイバーとランサーは怒りで顔を染める。彼らは知っている、己が戦場にて命を預ける武器とは、己自身とも言える。それをいきなり差し出せとは、怒らない方がおかしい。そしてそれは、レイジとて同じ。
「生憎だが、これは俺のモノだ。誰にも渡す訳にはいかねえな」
当然の言葉。しかし、それはアーチャーにとっては違った。
「王たる我の命が聞けぬと言うか…よかろう、その屍の上から奪い去るとする、覚悟せよ、雑種!!」
その言葉と共に刀剣が大砲の如く雨の如く降り注ぐ。
圧倒的物量を前に、レイジは告げる。
「俺だって、大事な相棒を差し出せとか言われて怒ってんだ!!一太刀浴びせてやる」
「ほざけ雑種!!」
宣言と共にレイジの姿がブレる。いや、違う捉えきれない速度で動き出したのだ。
その速度に、見ていた者達に驚きが発せられる。その中で、セイバーだけがある事実に気がつく。
―――まさかセイヴァーは…
正に黄金の雨と称するべき攻撃。それは個人の戦闘が戦争と評される数少ない事例であろう。放たれるのは、見間違う訳もなく宝具。絶対的な神秘を帯びた攻撃は、辺りを更地に変えるかの如く、湯水の様に放たれる。
本来ならば、個人が戦争と戦って勝てる訳がない。それは如何なる英霊とて同じ
――――そう同じはずだった。
「うそ‥」
そう呟いたのは誰なのかわからない。しかしその場にいた全ての者達がそう感じたのは間違いないだろう。
生命が生存を許されない宝具による砲撃の中で、レイジは未だに生存している。それも無傷で。
理由簡単、掠りもしないのだ。アーチャーが狙いを定め放った時には、既にそこにレイジの姿はなく。囲う様に逃げ道を潰すように放たれた一撃すら、レイジには当たらない。
――――彼の者は、選ばれし勇者
砂塵が舞う。黄金の攻撃による衝撃が奔る。
――――彼の者は、救いの英雄
されど、その全てが届かない。
――――伝説の霊刀を携え、戦場を駆けし者
誰かが息を呑む。それは今起きた状況による驚きか、それとも賞賛か。
――――味方に希望を、敵には絶望を、与えるの者
レイジが一歩地を蹴る。その時彼の景色では、刀剣は止まっている。
――――信じれる
アーチャーがイラついた様に吠える。
――――その剣戟は正しく閃光
時が圧縮される。その中でサーヴァント達は確かに見た。
――――戦場を駆け、地獄に希望と救いを示す者
閃光。そう評す他ならない、レイジの動きを。
――――誰よりも迅く戦場を駆け、命を救う者
アーチャーが驚きでその表情を歪める。
――――その勇者、閃光と霊刀共に現る
アーチャーの俄然にレイジが居る
―――故に、彼の者の名は
黄金の波紋から何か盾らしき物が出ようとするが、余りに遅い。
――――《閃光の霊刀使い》レイジ
一閃が、アーチャーを切り裂いた。
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