次に幻影旅団のふたりと会ったのは3日後のことだった。待ち合わせ場所は前回と同じ、広場の端のカフェ。わたしはまたもやレモネードを頼み、ゆっくり飲んだ。
しばらく待っていると、約束の時間より少し遅れて広場の向こうからふたりが悠然と歩み寄ってきた。
「遅かったわね」
「君は早いね、クローディア」
彼らは爽やかに微笑んだけれど、どいつも遅刻を謝らなかった。
席を立ってふたりを促す。今回の店選びはわたしがした。場所はすぐそこの海岸通りの『
入口には小さな額入りのメニューを出してあるだけ。ドアを押し開けば、地元の客に愛されている類の落ち着いた雰囲気のレストランだとわかる。わたしたちに気付いたウェイトレスが寄ってきて、店内の席は予約でいっぱいだからテラス席でいいかと訊いてきた。否やがあろうはずもない。そう頼んでおいたのはわたしだ。これだから融通がきく店というのは重宝する。
石や貝殻、陶片、色ガラスがはめこまれたモザイクの床に、ランチ用のテーブルが3つだけゆったりと場所をとっておかれていた。そばが遊歩道になっていて、低い石壁が浜辺との境になっていると同時に潮風から守る役目をしている。その石壁の向こうに紺青の海がまばゆい陽光を散らしているのが見えた。
「いい店だな」
呟くクロロの艶やかな黒髪を風が撫でていく。
「料理もすばらしいのよ」
ほどほどに人目があって、かつ何か起きても逃げ出しやすいばかりがここを選んだ理由じゃない。わたしはシェフの腕にも太鼓判を捺した。
そうじゃないとやっていられない。この危険すぎる人たちが言うには、今日は楽しい、打ち解けたお話をするのだから。さいごの食事がファミレスだったではわびしすぎる。良い店というのは、他人には、とくに鉢合わせしたくない人には教えたくないものだけれど、わたしはもう半分あきらめの境地に達していた。
彼らは広口のピッチャーからつがれるキールを、わたしはオレンジジュースをちびちびやりながら短いメニューに目を通していると、ウェイトレスが籠に盛られた焼きたてのパンを運んできた。続いて、バター、ピクルスが入った陶器の壺が出された。
わたしはロックエビのクリーム煮を、シャルナークはサーモンのムニエルを、クロロはカスレを頼んだ。ところでロックエビなるものをわたしは寡聞にして知らなかった。カスレはインゲン豆と豚肉と自家製のハムの入った煮込み料理で、この地方の伝統料理らしい。前の世界では南仏料理だったのだけれど。この世界の食材や料理はいまだによくわからなくてわたしを悩ませる。
待っているあいだ、わたしたちはグリーンサラダを分けあった。
それぞれメイン料理を食べ、そこまでは何事も起こらなかった。楽しい食事会はほんとうに楽しい食事会だったのかと、何度も否定しながらもわたしは半分信じはじめていた。
その楽しい食事会もあとはデザートを残すばかりとなった。わたしはさっぱり冷たいものが食べたかったから自家製シャーベットを選んだけれど、この店はリンゴのタルトが絶品なのでそれをふたりには勧めた。
シャルナークは銀のフォークをぐさっとタルトに突き立てた。
「理由を訊かなかったね」
「何の?」
「エミール会に参加したいって言った理由だよ」
「ああ、まあ」
シャルナークは口をとがらせた。どこかおもしろくなさそうな顔をしている。何が不満なのかがわからなかったからクロロを見ると、彼は苦笑気味だった。付き合いの長い彼には原因に心当たりがあるようだった。そしてその原因は苦笑してしまう程度のもの――どうでもいいことなんだろう。
「社交界に顔を売りたいんでしょ?」
「実はそうなんだ」
適当に建前を口にすれば、クロロがうなずき、シャルナークの口がますますとがった。
強盗団の活動なんて強盗に決まっているのだから、わざわざ訊く意味なんかない。わたしが彼らを幻影旅団だとつかんでいると確信して接触してきたのだろうに、シャルナークが何をふて腐れているのかわからなくて首をかしげた。
クロロの目はごく冷静だった。
「悪いねクローディア、シャルは君が何者なのか調べきれなかったことが悔しいんだと思う」
彼は平然として鋭いナイフのような言葉を押しあてた。わたしとシャルナークの胸に。
わたしは冷や汗をかきながらも思わずシャルナークに同情した。だってわたしが彼らについて知っているのは漫画で読んだからだと、どうしてシャルナークが知ることができるだろう? さらにわたしが神童扱いされているのは前世の記憶があるおかげだと、何をどう調べたらわかるというのだろう? 彼にわかるはずがない。
シャルナークは何も言わなかった。たぶん団長のクロロにはっきりばらされたことのほうが悔しいだろう。かわいそうだけれどいい気味だった。
「特に、君にこちらの情報がつかまれているとあっては尚更ね」
付け足された言葉に、シャルナークの唇がぎゅっと真一文字に結ばれた。情報担当のプライドが相当傷ついているらしかった。
ふいに鳥肌がたって、はっとしてクロロを見れば、彼は右手に“スキルハンター”を広げていた。
(何を……)
冷水を浴びせられたような気分だった。背筋が冷えた。でもそれを見たわたしの顔がみるみる蒼白になったと言えば、本心を隠すわたしの能力と長年愛されてきたリゾートにふさわしいモーナンカスの日差しとをどちらも過小評価することになる。
わたしはまだ落着きを失ってはいなかった。
わたしはずっとオーラを出さないようにして精孔が開いてないように装っていた。今の状態からオーラをまとうよりもクロロの念の発動のほうが早い。もっと言うなら物理的に攻撃されるほうが早い。原作を読んで知っていても信じられないけれど、彼らは弾丸と同じ速さで動けるのだ。勝負にもならない。このまま非能力者を装っていたほうがいいだろうと判断した。
クロロの右手を見て首をかしげる。
「その本どうしたの?」
当然だけれどクロロにはまともに答える気がなかった。気にしないで、の一言だけ。
「面倒だから逃げないでよ。大声も出さないで」
シャルナークが淡々と告げた。
クロロの目がわたしの目を捉えた。
「今からオレは君の理解が及び、必ず回答を得られるような質問をする。君は嘘をつかず答えてくれ。――わかった?」
「はあ? 何言ってるの?」
そのとき、ひやりとして、何かがわたしの首に具現化したのを感じた。反射的に手を触れかけたけれど、クロロの視線を感じて、思い直して手をゆっくり下ろした。他人の念に無闇に触るものでもないし。
(具現化系? ……ああ、そういうこと。わからないなら本人に訊けばいいってことね)
念をかけられたらしい。おそらく今の説明は制約のひとつ。理解したとわたしが認識したことで発動、そんなところだろう。
「何も答えるつもりはないわ」
わたしはいきなり正体不明の念をかけられたことに、幾分まごつきながら言った。
シャルナークは目を細め、唐突にナイフを取り出して言った。
「いつになったらわかるのかな、クローディア? これは提案じゃないんだよ」
「じゃあまず1問目。君の名前は?」
「…………」
あえて沈黙を選んでみた。ガンッとシャルナークがテーブルの脚を蹴った。完全にチンピラのやり方だと思ったけれど、指摘はしなかった。彼にしてみれば蹴ったというより当てたというくらいの力加減だろうけれど。
わたしの口は不思議と滑らかになった。
「……クローディア=グレイ。ご存知でしょう」
「今何歳?」
「10歳」
慎重に言葉を選ぶ必要がありそうだった。
察するに、この念能力の肝は、回答者にどこまで答えるかの任意性が与えられているところ、そしておそらく、質問者は回答者が理解して答えられる範囲の質問をしなければ何らかのペナルティを負うというところにある。もっと言えば、回答者は回答しなくてもいい。嘘さえつかなければ。
たとえばこの後、まだ隠していることはあるか?と訊かれたら、あると答えるしかないけれど、その隠していることは何だ?と訊かれてもそこから先は嘘以外の任意の回答ができる。『念能力者』だの『異世界人』だの『転生者』だの言うまいと思えば隠せるということだ。
欠陥ばかりに思えるけれど、二択方式の質問をするには使える能力だと思う。おそらく質問に回数制限もない。つまり、知っているかどうかをまず尋ね、知っていると回答されれば知っていることは何かを訊きだすという手順を踏めばいい。これで回答者が答えられる質問をしなければならないという制約をおおよそクリアできる。
この念能力はおそらく尋問用の念能力で、フェイタンなんかと組み合わせると実にすばらしい威力を発揮するのだろう。
そこからはひたすら質問と回答の繰り返しだった。君の母の名前を知っているか? その名前は? 定住しているか? 住所を知っているか? その住所はどこだ? ……。
首を振って答えると、ジェスチャーゲームじゃないんだ、口で答えてくれないか、と注意された。
思うに、これは非念能力者あるいは未熟者を対象に使うのに向いた能力だ。念を知らなければわたしだってここまで素直に答えないし、嘘のひとつもついてみるかもしれない。怖いのは、嘘をつくと何らかのペナルティがあると考えられるけれど、それが何なのかわからないというところだ。試してみる気にはなれなかった。未熟者にも向いているというのは、制約と誓約を理解していなければ最初の説明の言葉のニュアンスにもまったく注意を向けず、拡大解釈してべらべらと喋ることになるからだ。
クロロとシャルナークのふたりはおそらくわたしを非念能力者だと前提している。念能力者だと疑うならもう少し慎重になるはずだと思うし、シャルナークがわかりやすい脅しの形としてナイフを持ち出したところからそうと推測できる。非念能力者にとっては携帯電話や本よりもナイフのほうがわかりやすいという考えだろう。まあ、10歳の子どもを念能力者だと疑えというほうが無茶というものだろうけれど。
この能力のもうひとつの欠点は、念を知っているか?と訊けない点だ。回答者が知っているならセーフだけれど、問題は知らなかった場合にある。回答者の知らない概念や観念できないことを聞いてしまった場合、おそらく制約と誓約にひっかかる。オリジナルの使用者が能力を作るときにこのことまでちゃんとわかっていたのかという疑問があるけれど、わたしはわかっていただろうと思う。むしろそれを狙い撃ちにした制約と誓約なのだろうとすら思う。直接そういう制約と誓約をつけなかったのは、対象者に説明する必要があるため、そして問題ない程度に制約と誓約の範囲を拡大して少しでも能力の強化を図るため。
念を知っている疑いが濃い場合はリスクをとって訊いてみるのもいいかもしれないけれど、わたしのようにほぼ知らないだろうと思われる場合にわざわざ訊いて確認することもない。春先にベアクローに念を使えることを見破られたのは、わたしが射的にむきになりすぎて無意識に“凝”をしたり“周”をしたりしていたかららしい。普段は意識してもできないのに。今回は射的なんかしてないし、わたし自身相当注意していたから、その点は安心していた。
とはいえすべては推測でしかない。
(外れてたら盛大に爆死ね)
念能力者は制約と誓約を隠す場合が多い。欺瞞工作をすることも珍しくないらしい。今、わたしがそうされていないとは到底言い切れない。
それはさておき、最大の欠点はといえば、やりとりが非常にくどくなって、双方が疲れて面倒くさくなることだとわたしは強く確信するに至っていた。クロロもわたしも食後のコーヒーをおかわりした。シャルナークにいたってはテーブルに頬づきをして携帯電話をいじりながら聞いている。たぶんわたしたちはみんな、パクノダの能力がどれだけ高性能で有用なものかを実感していたと思う。もう少し簡潔にならないの?と苦情を申し立てたけれど、やっぱり無視された。回答者の質問には答えない、みたいな誓約があるのかもしれない。
クロロの顔色は変わらないけれど、わたしの顔には飽きがありありと浮かんでいることだろうと思うし、それを責める人はいないだろうとも思う。答えもだんだん短くなって、いくつかの単語を並べるだけになった。
「なぜオレたちに取引を持ちかけた?」
「勝ち馬の尻に乗りたかったからよ」
「美術品の密売をやろうと思った動機は何?」
わたしはうんざり感あふれるため息をついて、苛立ちのこもった声で理由を述べた。
「決まってるでしょ。お金よ、お・か・ね」
「金持ちだろ?」
「使えば減るのよ、お金って。知らなかった?」
「君自身の財産はある?」
「あるわよ。でも信託預金になっていて成人するまで使えないの」
そろそろ癇癪を起こそうかと考えていると、わたしは次の質問に突然心臓を冷やされた。
「イーラン=フェンリとはどういう関係?」
「……お隣さんよ」
「それにしては親しいみたいだな。それだけじゃないんだろ?」
(……だからイーランには話しかけてほしくなかったのに)
なんとかごまかしながら答えようとすると、胸がしめつけられたように痛んだ。口を開きかけて、またつぐむ。頭がぐらぐらして、どっと汗が噴き出したかと思うと、猛烈な吐き気が襲ってきた。
唐突な体調不良に混乱しながら、それを気取られまいとなんとか言葉をひねり出した。
「そんなことまで訊くの?」
声がかすれた。
ふと気がついた。イーランについてこの人たちに多少深く話すことの何が問題なのだろう?と。
(だってイーランはすでに――)
「…………まあ、これは言ってもいいか、今となっては。あのね、イーランはお父様の財政顧問なの。……これがどういう意味かわかる? つまりね、お父様の不正資金の洗浄を手伝ってもらっているのよ。この話、ほかではしないでね、お父様に殺されるから。言葉通りの意味でね」
痛みや吐き気は嘘みたいに消え去っていた。
「話せば殺される? 沈黙を強制させられていたのか……? 『必ず回答を得られる質問をする』……競合していたのか? 今となっては話せる……思い直したからか?」
クロロは思考の世界へ旅立った。
「グレーゾーンだったみたいだね」
シャルナークは笑っていた。よく笑えるものだと思った。これだから他人の念は怖いのだ。それを盗んで使うなんて正気の沙汰とは思えなかった。ぞっとする。
自分の念ならばこちらの気持ちや考え方を反映して念のほうが変化してくれる。習熟度も高いし、何度も試して穴やグレーゾーンを潰していける。そしてひとつの単語に自分の解釈をあてはめられる。意味はひとつだ。
他人の念を使うとなるとそうはいかない。盗めば概要はわかる仕様にはなっているのかもしれないけれど、元の能力者が無意識で処理していた問題が出てくる可能性があるし、同じ単語でも元の能力者の解釈と自分の解釈とには大なり小なりずれがある。他者から盗んだ念がどちらの認識で処理されるのかはわたしにはわからないけれど、どちらにしても危険すぎる。
今回は回避できたし、誓約にひっかかったとしても死ぬようなペナルティを受けるようなものではないだろうからよかったものの、次は地雷の存在にすら気付かないで地雷をしっかり踏み抜くかもしれない。そんな念能力をつくるのは、頭がよくてネジが何本かぶっ飛んでいる人間だけだ。
思考の世界から帰還したクロロは、わたしは資金洗浄についてもっと踏み込んだ質問をした。
不正資金の洗浄、それこそがヨークシンから飛行船で2日かかるここモーナンカスにわざわざ財政顧問をおいておく理由だった。
タックスへイヴンとしても知られる、あらゆる銀行業務の秘密を守る小国――それがモーナンカスの側面なのだ。それゆえ世界中の富豪から暑苦しいまでの愛情を受けている。でもその愛情もマフィアのそれにはおよばない。自分たちのダーティーマネーを洗浄するのにここほど親切を施してくれる場所もなかなかないのだ。ジュリアンのようにダーティーな富豪については言うまでもない。
この国の貴顕紳士の多くはマフィアとビジネス上のつながりをもっている。マネーロンダリングに関わるつながりだ。会社を設立するための条件として、会社の発起人としてこの国の住民がひとり名を連ねるだけでよかった。この表向きの企業を通じてマフィアンマネーは浄化される。モーナンカスはいわば中継基地なのだ。ここを通ったマフィアンマネーはより多くの収益を生み出すべく海沿いに南下する。――そこには世界有数の大都市、ヨークシンがあるのだ。
クロロの神秘的な目が静かに光っていた。
「マネーロンダリングの情報は『沈黙の強制』には引っかからないのか」
検証する科学者のような小さな呟き声。わたしは教えてあげる。
「一般的な知識とすら言えるわ、わたしたちにとってはね。みーんな知ってることよ。ヨークシンに拠点をもつマフィアやギャングもどこも同じことをやってるわ」
それから、クロロはわたしが触れられたくないことに踏み込んできた。
「このあいだ、パドキアの列車でオレと接触したのは、故意か偶然か?」
こういうのがまさにこの念能力が得意とするだろう二択問題だ。『偶然』の範囲を拡大解釈してもごまかすのは無理だろう。だって選べる答えはふたつのうちひとつで、どちらかといえば明らかに、
「……故意よ」
こちらだと認識してしまっているのだ。
「その意図をしゃべるのは『沈黙の強制』に触れるか?」
「いいえ。あなたたちについてはわたしの独断でやってることだから」
「なぜオレたちに目をつけた?」
「盗むものの趣味がよかったからかしら。たいした目利きがいるようね。一匹狼的なにおいもしてたし」
少し考えて答えるとクロロは矛先を変えた。
「オレとシャルが所属しているグループを知っているか?」
茶化したくなったけれど、命が惜しいのでぐっとこらえた。
「知ってるわ。B級賞金首の幻影旅団でしょ」
「ほかの所属メンバーを知っているか?」
「それも知っているわ。もちろん全員じゃないけど」
「誰を知っている?」
「パクノダ、マチ、ノブナガ、ウボォーギン、フランクリン、フェイタン、フィンクス――といったところかしら。会ったことがあるのはあなたたちだけよ」
クロロはふうん、と反応しただけ。シャルナークはすごく警戒のこもった目でわたしを見た。
全員を知っているわけではないと言いつつ、初期メンバー全員の名をあげることができた。これは時間軸のずれを利用した。殺されることになる4番や8番をわたしは知らない。嘘はついていない。だからクリアできた。
初期メンバーに加えてもうすでに中期のメンバーが加入しているのかどうか、ふたりの反応からヒントを得ようと思ったのだけれど、さすがに彼らは用心深い。ここに旅団の脳筋メンバーのひとりふたりでもいれば、その反応からわかったかもしれないのにと思う。加入者がまだいないならわたしの言葉の矛盾を指摘するだろうから。
ついでに一応、というくらいの調子で尋ねられる。
「オレたちの使う特別な能力について聞いたことはあるか?」
「特別な能力? どんな錠前でも開けられる技術とか? ないわよ」
念能力なら知っているけれど、あれは漫画で見たものであって聞いたものではないし。それに今の質問は別の解釈も可能だ。彼らの使う個々の能力について、という意味に捉えることもできる。
なるほど、と呟きつつクロロは右手の本を閉じた。同時に首のまわりの不快な違和感が消えた。
わたしは正直、拍子抜けした。旅団について知っていることなどをもっと掘り下げて訊かれると思っていたからだ。どんな攻撃がきても対処できるように十分身構えていた。シャルナークも同感のようで、もういいの?と意外そうに目を丸くしている。
クロロは肩をすくめて、だるくなった、と返し、ウェイトレスを呼んで勘定を頼んだ。
だるくなったのは事実だろうけれど、それだけではないだろうと思った。わたしは以前クロロをこう評した――頭がきれ、際限なく融通がきくタイプで、こまごました情報をひとつにまとめて完成図をつくりあげるのがうまい、と。おそらく彼の明晰な頭脳は、彼がある程度納得できるところまで真実に迫っている。
――ひどく嫌な予感がした。