超兵器これくしょん   作:rahotu

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多分今年最後の投稿になります。

皆さんよい年末をお過ごし下さい。


横須賀空襲編
12話


北方海域を奪還した焙煎達は、再び横須賀鎮守府へと帰還していた。

 

今回は最初の時とは違い、巨大ドック艦スキズブラズニルや超兵器達も横須賀鎮守府自慢の大型ドックに入り、其々補給や整備を受けていた。

 

最もスキズブラズニルは超兵器達を収容出来る巨体さが災いして、艤装と艦娘だけの入港となったが。

 

 

 

 

 

「ひゃあー大きいなあ。こんな船一体どうやって建造したんだろう」

 

超兵器達を整備する妖精さん達に混じり、工作艦明石は間近に見る巨艦の威容に思わず圧倒されていた。

 

「あ〜、貴方が〜連絡にあった〜明石〜さん?ですか〜」

 

妙に間延びする声で自分の名前を呼ばれた明石は、声をかけられた方に振り向いた。

 

そこには作業着に身を包んだ極めて背の高い艦娘がいた。

 

「おお⁉︎」

 

自分のすぐ近くにいた大女に驚いて、思わず引いてしまった明石だが、相手は「ニャハハ〜」と笑って頭を掻いた。

 

「すみませ〜ん。驚かして〜しまいましたね〜。私〜巨大ドック艦〜スキズブラズニルって言います〜」

 

そう言って右手を差し出したスキズブラズニルに握手を返した明石は自分も、名前を相手に名乗った。

 

「工作艦明石です、ここの整備主任を任されています。さっきはゴメンなさい、イキナリだったから驚いてしまって…」

 

「いえ〜気にしてませんよ〜。寧ろ〜新鮮?〜でしたから〜」

 

私の所は大きい人ばかりですから、とスキズブラズニルはドックに並ぶ巨艦達を見た。

 

横須賀鎮守府が誇る大型ドックの全てを使って漸く収まった超兵器達だが、このドックが一杯になる等明石は建造されてから昨日まで一度も見た事が無い。

 

連合艦隊を一度に補給と整備が出来る様設計された大型ドックですら、超兵器達にとっては少し手狭な感じがあった。

 

「それにしても驚きです、こんな船があったなんて知らなかったです。一体何処で建造されたんですか?」

 

明石は感心してスキズブラズニルを見たが、彼女はその視線から一瞬逃げる様に顔を逸らした。

 

あれ?と明石は思ったが、次見た時は「そうですよねぇ〜」と笑っていた。

 

明石はさっきの事を気のせいだと思った。

 

あの時スキズブラズニルの口からあんな言葉が漏れていたなど…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あんな物、私は作りたく無かったのに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工作艦明石はその後スキズブラズニルにドックの使い方や注意事項等を説明し、自分達も手伝う様命令されていると伝えた。

 

スキズブラズニルもドック艦としての経験から直ぐに必要な事を覚え、明石達の協力に快く応じた。

 

「やっぱり〜本格的な〜ドックは違いますね〜」

 

「いえいえそれ程でも〜。でも、貴方も十分凄いと思うわよ、だって今迄一人でこれ全部面倒見ていたんでしょう。正直頭がさがるわ」

 

「いや〜、参っちゃうな〜」

 

なんて表情を浮かべているスキズブラズニルだが、焙煎に見つかる前迄は悠々自適なニート生活を送っていたので整備なんて自分では殆どした事が無い。

 

寧ろ妖精さん達の方が超兵器の事について詳しいくらいだ。

 

しかしウィルキア解放軍時代に培われた技術は今尚健在であり、何よりも世界中の海軍を目にした彼女の知識には明石も目を見張る物があった。

 

そして明石も又、最新鋭の工作機械と確かな技術は横須賀鎮守府整備主任としての肩書きが伊達では無い事を証明していた。

 

スキズブラズニルと横須賀鎮守府の妖精さん達も負けてはいなかった。

 

横須賀の職人気質な整備員妖精さん達は自慢の工具を振るって熟練の技を披露し、スキズブラズニルの妖精さん達はその有り余るマンパワーを駆使して整備だけでなく各所の手伝いや伝達、補給物資の積み込み等様々な事を行っていた。

 

「ねぇやっぱりそれが貴方の艤装なの」

 

工作艦明石がさすそれとは、スキズブラズニルの両肩にあるコンテナの事であった。

 

腰から伸びるアームに繋がれたコンテナから、スキズブラズニルは次々と工具を展開しては作業を行っていた。

 

遠征先で拾う家具箱程の大きさしか無いコンテナから、明らかに入りきらない量の工具が中から出てきてたのを見て、明石は不思議に思ったのだ。

 

「そうですねぇ〜、これ〜便利なんですよ〜」

 

とスキズブラズニルは自慢気に語り出した。

 

「私の艤装は〜本当はもっと大きいんですよ〜。でも〜それだとドックに入りきらないんですよね〜。だから〜艤装の機能で余分なものはオミットしてるんですけど〜元々の排水量とか〜ペイロードは変わらないんで〜見た目以上に色々と物が入ってるんですよ〜」

 

「へぇ、それじゃあ今出している物以外にももっと沢山有るのね」

 

「そうですよ〜、例えば〜」

 

とスキズブラズニルはゴソゴソと左肩のコンテナに手を入れ、中を弄ると「はい」と掌を見せた。

 

「え?これってもしかして震電改…でもどうしてこんな所に…」

 

「それ〜今私が〜作ったんですよ〜」

 

二ヘラ〜と笑うスキズブラズニルに明石は驚愕した。

 

艦載機でもかなりのレア度を誇る戦闘機を、事もなげにしかも今目の前で作ったと言ったからだ。

 

「他にも〜」

 

と、次々とスキズブラズニルのコンテナから様々な物が出てきた。

 

艦娘の各種レア装備から設計図やら本やら漫画やらゲームにアニメのDVD(BL)やらお菓子やらヘソクリやらと、途中から関係無いものに変わってきたがそれでも明石にとっては充分だった。

 

何故ならレア装備の中には現在開発で出せない筈の装備も混じっていたからだ。

 

(この子、最初はアレな子かな〜って思ったけど、実はトンデモなく凄い子なんじゃないのー⁉︎)

 

と本人を目の前にして結構失礼な事を考えていた明石だが、そんな事も知らずスキズブラズニルはウキウキと明石の目の前に物を積み重ねていた。

 

「で〜これが取って置きなんですよ〜」

 

とスキズブラズニルは勿体振りながらも、早く見せたい一心でコンテナを弄り、明石は今見た物以上が有るのかと、期待に胸を膨らませた。

 

「じゃ〜ん、某似非農民貴族特製蜂蜜〜」

 

フンス、と自慢気に取り出したのは何の変哲もない蜂蜜入りの瓶であった。

 

最後に何か有るのかと期待した明石だったが、正直拍子抜けだったのは否めなかった。

 

だが、目の前でキラキラと顔を輝かせるスキズブラズニルを見るとそんな事はとても言えない。

 

だから明石は精一杯の笑顔でスキズブラズニルに「わぁ、とっても美味しそうですね」と伝えた。

 

この後明石はスキズブラズニルに土下座する事となる。

 

明石の言葉に気を良くしたスキズブラズニルが蜂蜜を勧め、職務中だが少しくらいなら良いかと一口指にとった蜂蜜を口に含んだ瞬間、全身を官能が駆け巡った。

 

(え?嘘なにこれ?え、え、え、美味しいと言うか身体の底から幸せな気持ちで一杯になる様な、しかも私間宮さんにも行ってないのにキラキラしてるの⁉︎え、ウソこれが唯の蜂蜜なのー‼︎)

 

艦隊整備と言う任務の特性上、徹夜も多くこの所荒れていた明石の肌は生まれたての赤子の様にモチモチで滑らかになり、髪の毛は毛先までキューティクルでツヤツヤとしていく。

 

明石は頬が緩むのを手で隠そうとするが、既に顔全体が破顔していた。

 

そして、彼女の中で急速に感謝の念が溢れて来た。

 

(ああ〜生きてて良かった。お父さんお母さん妖精さん提督さん達私を建造してくれてありがとう。私の生の意味は今この瞬間、この時にあったのですね。ああ〜私幸せですこの気持ちをどう表したら良いのだろう)

 

明石は自然な動作で三つ指を付いて深々と頭を下げていた。

 

「え、え〜明石さ〜ん。大丈夫ですか〜?」

 

スキズブラズニルが何か言っているが、そんなの今の明石の耳には入っては来なかった。

 

唯溢れんばかりの生と食物に対する感謝の気持ちを、五体投地で表しているのだ。

 

「お〜い、明石さ〜ん。お腹痛いんですか〜?だ〜れ〜か〜救急車を〜呼んで下さ〜い⁉︎」

 

明石の五体投地は、騒ぎを聞きつけた妖精さん達が担架を持ってくるまで続き、

運ばれる明石の手にはいつの間にか蜂蜜の瓶が握られていた。

 

後に『工作艦明石、謎の土下座事件』として横須賀鎮守府の伝説となるが、この時はいまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、超兵器達はと言うと「甘味処間宮」さんのテラスで呑気に茶をしばいていた。

 

何故間宮さんに居るかというと、何の事は無い、スキズブラズニルから追い出されたのだ。

 

横須賀鎮守府のドックに入港すると直ぐに焙煎は海軍軍令部に一人で呼び出され、置いてきぼりを食らった超兵器達は艤装を全て横須賀の大型ドックに預けられ海に出る事も出来ない。

 

街に出ようにも、そもそも外出許可が下りなければ検問所から外に出られない。

 

そして一度来たとはいえ、その時は捕えられていたので鎮守府内を良く知らない超兵器達は、自然とここ間宮さんで暇を潰していたのだ。

 

誰しもが暇を持て余していたが、しかし黙って茶を飲む以外する事もなく、無為な時間が流れていた。

 

そんな彼女達を物陰から覗く一つの影があった。

 

 

「見た事も無い海外艦娘?と思わしき人達。これは期待出来ます」

 

何処かゴシップ記者めいた雰囲気を纏う艦娘、重巡青葉である。

 

青葉はここ最近艦娘達の間で噂になっていた「一騎掛け」や「銀狼」の正体を掴むべく日夜取材を重ね、今日漸くその手掛かりを突き止めたのだ。

 

そして勢い青葉は突撃インタビューをするべく物陰から出てテラスで茶を飲んでいる超兵器達に近付いて行く。

 

「どうも私重巡青葉と申します。お茶をしている所すみません、少しお時間宜しいでしょうか?」

 

努めてにこやかな笑顔を浮かべると青葉はまず最初にそう切り出した。

 

初対面で、少なくとも顔見知りでは無い相手にはまず笑顔で近付いて警戒を解いて貰う。

 

青葉が持つ取材テクニックの一つだ。

 

「ん?丁度今暇をしていた所だ、良かったら一緒に茶でもどうだ」

 

青葉から一番近くにいた艦娘がそう答えた時、「シメタ」と青葉は心の中でガッツポーズを取った。

 

様々な段階を飛ばして一気に相手の懐に入り込めたからだ。

 

「あ、これはどうもご丁寧に。じゃあお邪魔させて貰います」

 

素早く隣の席から椅子を持ってくると青葉は席に着いた。

 

ウェイトレスである伊良湖さんが注文を取りに来て、青葉はコーヒーを注文し他のテーブルに着いていた者にも注文を聞いて行く。

 

飲み物が来るまで青葉達はたわいの無いお喋りに興じる。

 

やれ間宮さんのどのメニューが美味しいだとか、

 

近頃の戦況はどうだとか、

 

今どんな物が艦娘の間で流行っているのか、

 

殆ど青葉が一方的に話していただけだが、超兵器達は面白そうに青葉の話を聞いていた。

 

少なくとも退屈していたのは本当の様だと青葉は心の中で思った。

 

暫くして、飲み物が運ばれ所で改めて重巡青葉は自己紹介をした。

 

「飛び入りで参加した重巡青葉です。艦娘兼記者をやっております、本日はお招き頂き有難うございます、皆さんえと…」

 

と言い淀む青葉に最初に声を掛けた艦娘が助け舟を出す。

 

「ヴィルベルヴィントだ。いや何我々も暇を持て余していたのだ、何しろ今日着いたばかりでここの事は何も知らないからな」

 

「ヴィルベルヴィントさんと言うのですか。それならこの後鎮守府を案内しましょうか?私結構色々と知っているんですよ」

 

と、青葉は自慢げに胸を張った。

 

伊達に記者はやっていないと、言いたげだ。

 

「お前も一緒にどうだ?ヴィントシュトース」

 

とヴィルベルヴィントが隣に座るヴィントシュトースに声を掛けた。

 

両側をヴィルベルヴィント、シュトゥルムヴィントに挟まれ幸せそうにしていたヴィントシュトースは「喜んで」と答えた。

 

「宜しければシュトゥルムヴィントお姉様もご一緒に…」

 

「私か?まあ、良いだろう。三人一緒でも構わんか」

 

そこでテーブルを挟んで反対側にいたアルウスが文句を付けた。

 

「ちょっと貴方何私達を無視しているのかしら?これだから躾のなってい無い犬は困るわ」

 

やれやれと首を横に振り呆れた表情を作るアルウス。

 

「貴様、もう一度言っ「あらごめんなさい、自己紹介がまだだったわね」ぐっ貴様…」

 

シュトゥルムヴィントが身を乗り出そうとするが、アルウスは無視して話を進める。

 

「私はアルウス、高速空母アルウスよ」

 

「あははは、どうも重巡青葉です。あの、アルウスさんもこの後ご一緒に如何ですか?と言うか、ここにいる皆さんで行きましょう、寧ろそうしましょう⁉︎」

 

乾いた笑みを浮かべる青葉、最後の方はまくしたてる様な勢いであったが、本能的に危機を察知し無理やりにでも全員で行った方が後腐れなくて良いと考えての発言であった。

 

「あらあら、ご丁寧に。折角のお誘いですし、デュアルクレイターさんもアルティメイトストームさんも良いですね」

 

とアルウスは彼女から見て右側に座る艦娘達に言った、その口調は何処と無く有無を言わさぬものがあった。

 

「私は良いぜ、てかここのデザート美味いよなデュアルクレイター?」

 

アルティメイトストームは飲み物と一緒に運ばれてきたケーキを、一掴みで美味しそうに頬張った。

 

彼女の目の前にはイチゴのショートケーキ、モンブラン、アップルパイ、ガトーショコラなどが並び、それらを口にする度アルティメイトストームは感嘆の溜息を漏らす。

 

「ハウハウ、ガッガッガッ」

 

一方デュアルクレイターはと言うと、目の前にあるパフェの攻略に夢中であった。

 

高さだけで50㎝はあろうかというジャンボパフェ、間宮さん名物「赤城パフェ」である。

 

某ボーキサイトの女王御用達であるこのパフェに挑む者多数、その多くが余りの量に倒れ伏し一個水雷戦隊に勝るとも噂されるそれが、アイスの様に溶けていく。

 

その様子を見た青葉の頭の中に「フードファイター」という単語が浮かんだが直ぐに搔き消した。

 

このテーブルに座っている艦娘は皆スタイルも良く背も極めて高い。

 

一番小さいと思われるヴィントシュトースでさえ青葉よりも頭一つ分大きい。

 

だからあれくらいの量は平気なのかもしれない、と心の中で言い訳する青葉だが食べ終えたデュアルクレイターが「もう一つ同じ物をくれ」と言った時、何だか赤城さんと同じ空気を感じてしまった。

 

「貴方、まだ食べるのですの?少しはした無くてよ」

 

アルウスは眉間に皺を寄せながらデュアルクレイターに言った。

 

余り無様な姿をジャガイモ野郎の前で見せないで欲しいと言いたげな視線だ。

 

「いやーすまないね、食べ盛りなもんで。でもアルウスの姉貴もヒトの事は言えないと思うぜ」

 

デュアルクレイターは「ククク」とニヒルに口を歪めた。

 

「…貴方、何が言いたくて」

 

アルウスとデュアルクレイターの間で一瞬緊張が走る。

 

「いやー喧嘩しちゃダメだぜ⁉︎ほら、アルウスの姉御はどっちかって言うと人前では食べない方だし、寧ろ男の前ではしおらしくコーヒーだけ飲んで見てない所じゃ分厚いステーキと酒をかっ喰らうヒトって言うか、何て言うか、その…だぜ?」

 

そんな両者の間に座るアルティメイトストームは、巻き込まれては堪らんと色々とフォローになってはいないフォローをする。

 

寧ろアルウスにトドメを刺していた。

 

アルウスが「貴方達…」とテーブルを立とうとした最中「フフ」とテーブルの反対側から笑い声が漏れた。

 

キッ、と誰だとアルウスが睨みつけると、その相手はヴィルベルヴィントであった。

 

「いやすまんな。お前も妹分で苦労していると思うとな、お互いに躾はしっかりしなければな」

 

躾の部分で先ほどシュトゥルムヴィントに言った台詞を遣り返され、気勢を削がれたアルウスは決まり悪く席に戻った。

 

「じゃ、じゃあここに居る『7人』で一緒に行くと言う事で…」

 

青葉は何だか地雷原の多い人達だな〜と、思いながら自分が思いっきりその地雷を踏み抜いた事に気が付かないでいた。

 

何人かがそれに気付いたが、ある者は知らないフリをし又ある者はやったしまったかと天を仰いだ。

 

その何とも言えない空気に気が付いた青葉は、「何か…」と聞こうとするが、その前に青葉の正面から声が投げかけられた。

 

「そうですかそうですか、『私』を抜いて『7人』でですか」

 

ビクリ、と青葉が震える。

 

深海からの呼び声の様な底冷えする空気が正面ら流れ込んできたのだ。

 

最初青葉が声を掛けた時テーブルには6人が座っていた。

 

だからてっきり自分を含め7人だとさっきは言った、だがそれはトンデモ無い勘違いであった。

 

「ああ、ご紹介が遅れました」

 

実はあの時、最初から…

 

「私…」

 

それに青葉が気付いた時はもう遅かった。

 

「…ドレッドノートと申します。これでも潜水艦なんですよ、『重巡』青葉さん」

 

重巡と言う単語を強調して、青葉の対面に座っていたドレッドノートは言う。

 

実はドレッドノート、アルウスがシュトゥルムヴィントに噛み付いた際今の今迄自己紹介をするタイミングを失っていたのだ。

 

しかも、その後の会話にタイミング良く加わる事が出来ずしかも青葉にまさか認知さえしてもらえなかった事を気にして、気持ちが沈んでいるのだ。

 

勿論他の超兵器達は意図してドレッドノートを無視していたわけでも無いし、青葉は気付いているものだと言う思いもあった。

 

しかし青葉はシュトゥルムヴィントとアルウスが剣呑な雰囲気になった時から注意が左右に向いてしまい、正面への視線が疎かになっていた。

 

これは誰が誰の所為というものでは無く、だからこそややこしい状況になっていたのだ。

 

だからドレッドノートが少しケンのある言い方になってはいたが、見た目とは裏腹に本人は其処まで気にしてはいなかった。

 

「ご、ごごご御免なさい、御免なさい、御免なさい、決して無視していたわけでは無いのですが…兎に角御免なさい」

 

しかし、青葉にそんな事分かる筈も無く相手を怒らせてしまったと思いひたすら謝る。

 

(こ、この人めっちゃ怖い⁉︎丘の上なのに沈められる〜)

 

この時の青葉の心情は、やらかしてしまった相手が実は黒塗りリムジンに乗る様な自営業者さんだった時の一般人の心境に似ている。

 

「いえ、そんなに謝らなくても…」

 

「御免なさい御免なさい御免なさい、何でもしますから許してください〜」

 

「ん?今何でも「常識的且つ青葉に出来る範囲でお願いします‼︎」チッ、こいつやるな」

 

何だか臭そう?な雰囲気になってきたのでヴィルベルヴィントが咳払いを一つ彼女達の仲裁をした。

 

「二人とも落ち着け、青葉もああ言っている事だし一つお願いしてみてはどうだ?」

 

「確か青葉は艦娘で記者なのだろう。なら面白い話の一つや二つ聞いても損は無い」

 

と、巧み?に話題転換をし助け舟を出したヴィルベルヴィントに青葉は心の中で感謝した。

 

ドレッドノートもあのままの雰囲気ではマズイと思っていたので、この提案は渡りに船であった。

 

「じゃあそうですね、特ダネと言うか今私が情報を集めている最中なんですけど…」

 

と、青葉は今艦娘達の間で噂になっている「一騎掛け」や「銀狼」の噂について語り出した。

 

途中シュトゥルムヴィントやヴィルベルヴィントが飲み物を吹き出しそうになったり、アルウスがその様子を面白いものでも見るかの様な目で必死に口元を押さえ、何故かヴィントシュトースが誇らしげにしていたりと様々な反応を示した。

 

「…とこんな話なんですよ」

 

青葉が全てを語り終えるとドレッドノートが「アレ、私のは。え、あれ?」と困惑していたが、その様子を見て遂にアルウスは吹き出していた。

 

ヴィルベルヴィントとシュトゥルムヴィントも、何とか平静を装うとして空のカップを傾けて内心の動揺を悟られまいとした。

 

何故なら青葉が語る話は尾鰭所か鱗や鰓まで生えている様な脚色満載であったのだ。

 

「一騎掛け」ことシュトゥルムヴィントは海原を駆けるだけでモーセの如く海を割り、海の上なのに白馬にまたがった王子?様の様に颯爽と現れてはピンチの艦娘を救うだとか、「銀狼」ことヴィルベルヴィントは敵の策を逆手に取って数の不利を覆した名将だとか、実は何百年も生きている妖怪だとかと散々に持ち上げられている始末。

 

二人は小っ恥ずかしさで一杯であった。

 

そもそも超兵器として生まれた彼女達は最初から特別な存在であり、戦果を上げる事は勿論勝利は当然としの物として扱われてきた。

 

事実南極の独立国家が繰り出したあの部隊が出るまで無敗であり、世界中の海を支配していたのだ。

 

特にヴィルベルヴィントは最初期の超兵器としては寧ろ栄光の時期よりもその逆、超高速輸送艦と揶揄され誰に褒められる事もなくその生涯を閉じた過去がある。

 

だから噂でもこうももてはやされる事に耐性が無いのだ。

 

つまり、簡単に言ってしまえば超兵器達は褒められ慣れてないのだ。

 

「実を言うと私は皆さんがその人達と関係あるんじゃ無いかと思ってるんですよ」

 

と、青葉は漸く本題を切り出した。

 

青葉が掴んだ確かな情報では、最初に接触したと思わしき某ボクっ娘航巡は「一騎掛け」は日本の艦娘では無いと言っている。

 

そして非常に背丈の高い艦娘だったとも言っていた事を思い出し、益々彼女達が何か関係しているのではと睨んでいた。

 

「で、ですね。実際の所如何なのかなー、何て聞いちゃいたい訳ですよ」

 

「成る程ね〜、貴方記者だと言っていたし本当は私達を取材しに来たのね」

 

ならそうと早く言いなさいな、と言われて青葉は「あはは」と笑い頭をかく。

 

実際は彼女達の初対面でのテンションに圧倒されて本題を忘れかけていたのだ。

 

「まぁ、面白い話を聞かせて貰ったお礼に受けてあげない事も無いけど…」

 

と、アルウスは唇に指を当て横目でチラリとヴィルベルヴィント達を見た。

 

動揺から回復した二人は思案するまでもなく同意を示した。

 

青葉の話を聞いた限りでは、無害な存在であり情報収集の役に立つと判断したからだ。

 

「私達も構わない、お互い色々な事を聞きたいしな」

 

「成る程、情報交換という訳ですか。

では早速…と言いたい所ですが」

 

青葉はテラスを見回し、いつの間にか間宮さんは艦娘達で混み始めていた。

 

「混んできましたし、今日の所は約束どおり鎮守府内を案内します。取材の件はまた後日と言う事で」

 

超兵器達も其々同意し、彼女達は間宮のテラスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

 

説明するまでもなくこの国において国防の要であると同時に、各地に散らばる提督達を束ねる海軍元帥とその軍令部を擁する最高司令部でもある。

 

その最高指揮官たる高野元帥と再び対面した焙煎は、緊張した面持ちであった。

 

前回と違い一人で来る様命令された焙煎は、単身ここ海軍軍令部を訪れていた。

 

前回と同様、フカフカのソファーの感触や出された紅茶の味を楽しむ余裕の無い焙煎とは対照的に、高野元帥は優雅にカップに口をつけた。

 

所詮一士官でしか無い焙煎と、海軍元帥である高野との格の違いをあからさまに示された格好だ。

 

最初に口を開いたのは高野元帥であった。

 

「今回は良くやってくれた。お蔭で被害を最小限に抑えられた、しかも殆ど死傷者を出さずに守備隊を救出したオマケ付きだ。それでだ」

 

和かに微笑む高野元帥、本当に感謝しているかの様に見えるがこの笑みにコロッと騙される提督の何と多いことか、と焙煎は思った。

 

見た目通りの好々爺であれば、とっくに引退しても可笑しく無い年齢の筈が、今尚元帥の地位に留まる事から高野元帥の知られざる実力を感じさせた。

 

「貴官には又頼みたいことがあるのだが…」

 

ほら来た、と焙煎は思った。

 

北方海域の奪還を命ぜられた辺りから薄々感付いてはいたが、どうも高野元帥は超兵器達を使い勝手の良い自分の駒か何かと思っては無かろうか?

 

出来れば面倒事にならない様祈りつつ、さて次はどんな無理難題を課せられるかと、焙煎は身構えた。

 

「貴官には来るべき南方反撃作戦、それに参加して貰いたい」

 

「南方とは…随分と大きな作戦ですね」

 

南方を奪還する作戦、つまりは焙煎が避けに避けてきた最前線での戦いとなる。

 

嘗て艦娘達の墓場アイアンボトム・サウンド(鉄底海峡)とも恐れられた魔の海域。

 

そこが主戦場になる事は間違いない。

 

以前焙煎は超兵器達と共にソロモン諸島の裏口から侵入し、敵の泊地及び飛行場を叩いたが、あの程度の基地などそこら中にあるのがあの海域だ。

 

嘗ての大戦でさえ終ぞ攻略出来なかったポートモレスビー要塞、今や深海棲艦の牙城となっている其処の戦力はこの国の海軍戦力と同等とも噂されている。

 

焙煎や超兵器達にとって今迄以上に厳しい戦いが待ち構えている事は間違いない。

 

「作戦発動まで時間はある。其れ迄の間、今まで通り好きにして構わんよ。補給や整備も此方で持とう」

 

「過分なご支援、ありがとうございます」

 

と殊勝な態度で答えつつ内心たかが一介の少佐風情に出すにしては破格の条件だと、焙煎は思った。

 

これは横須賀鎮守府のみならず海軍全体から支援を受けられると暗に示されたも同然だからだ。

 

だが一方ではそうまでして超兵器達の力を取り込みたい高野元帥の思惑が見え隠れしていた。

 

厄介者である焙煎や超兵器達を始末したい反面、その戦力を惜しんでいるとも取れる。

 

まあ、その気持ちも分からなくは無い。

 

言うなれば何時爆発するか分からない強力な爆弾を手に入れた様なものだ。

 

使えば強力だが制御方法がこれ迄と勝手が違う、強力だから捨てる訳にも行かず持て余し気味、と言った所か。

 

とすると、その爆弾を持ち込んだ焙煎自身をどう思っているだろう?

厄介者扱い半分、今の所唯一爆弾を製造制御出来る相手だから何かとご機嫌をとって爆弾の制御方法なり製造方法なりを聞いて後は何処ぞの海の底…全く人間の方が命が軽いのは戦争の常とは言え、やり切れないものがある。

 

「うむ、これからの貴官の活躍を期待する」

 

「は、微力を尽くします」

 

部屋を後にした焙煎は、また厄介事を任されたものだと頭を悩ませたが、兎に角超兵器達に次の作戦を伝える為、足早に軍令部を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

海軍元帥高野は焙煎が去った後、執務室で秋山参謀といた。

 

「高野元帥、彼は我々に協力してくれるでしょうか?」

 

「まぁ、あの様子なら暫くは此方の指示に従ってくれるだろう。心配する事はない」

 

と言う高野元帥に、秋山参謀は参謀としての仕事をしない訳にも行かなかった。

 

「しかし、歴史の先例にある通りあまり個人を重用すれば力を付けて手を噛みつかれるかも知れません。そうで無くとも、超兵器なる得体のしれないモノを使う等海軍の沽券に関わります」

 

「秋山参謀、君は私があの時と同じ愚を犯すと思っているのかね?」

 

高野元帥は机の上に手を組み、顎を乗せてジロリと、秋山参謀を見た。

 

「そうは申しておりません。しかし、彼を快く思わないのは何も深海棲艦だけではありません。そういった手合いがあの演習の様な暴挙を起こすとも限りません、その場合の事を考えますと…」

 

秋山参謀の懸念はそこであった。

 

ここ最近焙煎を重用する高野に不満を持つ者もいた、そしてその矛先は焙煎に向こうとしており彼としても頭の痛い問題であった。

 

「…」

 

高野は沈黙して考えた。

 

秋山参謀の懸念も最もであると思えたからだ。

 

そして脳裏にはある男の事が過ぎった。

 

嘗て「英雄」と呼ばれた男が居た。

 

その男はまだ未知の部分が多かった艦娘を率い連戦連勝を重ね、遂に多大な被害を出しながらも南方棲戦姫を打ち取るという功績を挙げた。

 

しかし、一方で男の力を危険視する者もいた。

 

男とまだ運用方法が確立されていなかったその艦娘達は鎮守府と言うシステム作り上げ、これらの有効性を実戦で証明していた。

 

しかし、そのシステムは軍令部の指示が無くとも戦える、つまり海軍の中に新たに鎮守府とその艦娘と云う軍隊が生まれる様なものであり、軍閥の様相を呈し始めていた。

 

そして男は当時の軍令部に請われ重要拠点である呉鎮守府へと着任した。

 

部下であった艦娘達も当然異動するものと思われたが、前線の鎮守府で待てども暮らせど辞令は降りず、その間新たに出現した敵との戦いで消耗し磨り減らされ、最後には捨て石同然で戦いに赴き全艦が轟沈した。

 

男はその知らせを聞き号泣したという。

 

実戦力を奪われ英雄として祭り上げられた男には、遠く前線にいる嘗ての部下達に何もしてやる事が出来なかったからだ。

 

そして男は権力を求め、やがて派閥を形成し遂には海軍を二分するまでの勢力になるまで成長した。

 

君塚提督、果たして権力を求めた彼はいったい何処を目指そうとしているのだろうか?

 

「だが、現状これが一番良いのだ。彼を私の直臣と周囲が認めれば、下手なちょっかいは掛けまい」

 

しかし、この手の問題は上がどうこう言った所で解決するものでも無い。

 

矢張り本人が周囲に実力を認めさせなければ始まらないのだが、それは焙煎や超兵器達を派閥争いに巻き込む事を意味していた。

 

だが、野放しにするよりははるかにマシであった。

 

「それと他国の介入ですか」

 

「そうだ、米露は兎も角欧州勢もどうやら嗅ぎつけたらしい。今度独伊両国から艦娘が派遣されて来るとの事だ」

 

高野元帥にとってまた頭の痛い話が出て来たものだ。

 

特に、国外の事となると海軍元帥の地位や権威は余り有効には働かない。

 

「虎の子の艦娘を出すとなれば、両国の本気具合も見て取れます。嘗ての三国同盟のつもりでしょうか?」

 

秋山参謀は露骨な欧州勢の介入に少々憤慨した。

 

今何処の国も自国の防衛で手一杯の筈だ、その中で貴重な戦力を割くとなると周辺国にどれ程の負担がかかる事か。

 

しかし一方で彼等の本気具合よりも必死さが見て取れた。

 

「表向きは近々行われる式典への参加を兼ねた親善訪問だが、実際はそんなものだろう。欧州では英仏が幅を利かせていて肩身が狭いのだろうな」

 

英国は米日に次いで艦娘戦力が充実している。

 

そして仏国も侮れない戦力を持ち、この両者の連合が今現在の欧州を牽引していると言っても過言では無い。

 

その一方で独伊の様な国は彼等の圧力で逼塞し、何とか状況を打開しようと模索しているらしいが、その主導権争いが欧州情勢の緊迫感を煽っていた。

 

そこに今度は露国が介入しようと図り、誠欧州情勢は複雑怪奇なりとはこの事だ。

 

今現在この国は周囲を海に囲まれ、更に深海棲艦の脅威から半鎖国状態にあるが、そのお陰でこういった国際情勢に巻き込まれずにきた。

 

しかし、今度の一件はこの国が再び世界の荒波に放り込まれようとしている、と秋山参謀は感じていた。

 

「元帥閣下、最早我々は身内同士の争いなどしている場合では無いのでしょうね」

 

うむ、と同意した高野元帥は今後の情勢に思いを馳せるのであった。

 

 

 

鎮守府に政治の季節がその足音を響かせ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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