超兵器これくしょん   作:rahotu

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久しぶりの投稿で申し訳ないです。

リアルで色々有りましたが、何とか書けましたので投稿します。

今回はwikiさんからの転用が有りますので、苦手な人は読み飛ばして下さい。




16話

南方海域ソロモン諸島の最深部にある島。

 

一見すると鬱蒼と生い茂るジャングル以外目ぼしいものが見当たらなただの小島に見えるが、しかし秘密を知る者からすれば海岸線沿いには巧妙に隠蔽されたトーチカ群による防備と、上空を監視するレーダー網により鉄壁の守りを持ち、非常用の地下ドックを備えた要塞であった。

 

海岸線から緑の分厚いカーテンを抜けると、今度は一気に視界が開けてくる。

 

だだっ広い空間を上空から俯瞰してみると、海岸線に沿って島を囲むように生い茂るジャングルの中央部が長方形の形に切り取られた形となっており、舗装された地面に等間隔に置かれた誘導灯と高い塔を思わせる建物と巨大な格納庫が見え、これが飛行場である事を雄弁に物語っていた。

 

 

 

格納庫から次々と滑走路へと移動する巨大な機影。

 

左右に出っ張った機首と巨大な後退翼が特徴のその機体は、照りつける太陽を黒光りする装甲で反射し、周囲に威圧感を放っていた。

 

その様子を巨大な塔、管制塔の窓から見下ろしていた飛行場姫は満足気に頷いた。

 

「素晴らしいわ、大変結構よ離島棲鬼」

 

「お褒めに預かり光栄ですわ。それもこれも全て姫様のお力あってこそ」

 

飛行場姫の後ろに控えていた離島棲鬼、飛行場姫の白と対比するような黒いフリル満載のスカートとボンネット(ともすれば少女趣味とも取られかねない衣装で)を纏った彼女は若干芝居がかった声で言った。

 

 

「私は姫様のお言いつけ通りの事をしたまでの事。全ての功績は姫様のものですわ」

 

「あら、離島棲鬼。貴方少し見ないうちに随分と口が上手くなったのね?」

 

と、クスクスと笑う飛行場姫。

 

彼女には離島棲鬼の当然の事をしたまでと言う態度が、小気味好く感じられたからだ。

 

この離島棲鬼は見た目こそ幼いが、若くして深海棲艦の中で陸戦の名手として鬼の称号を得ており、その才覚を飛行場姫に見出され彼女に仕える様になった過去がある。

 

この要塞とも言うべき飛行場の建設を飛行場姫から命じられたのも、彼女の信頼が厚い事の証明であった。

 

島を要塞化する事は陸上型の離島棲鬼からすれば楽なものであったが、最も困難な事は基地の建設をしている事は疎か自分が関わっている事すら誰にも知られる事なく作業しなければならなかった事だ。

 

これは彼女達が置かれた環境が深く関係している。

 

元々深海棲艦の中で数が少ない陸上型はその力に反し、勢力内では低い地位に甘んじていた。

 

どんなに強大な力を持っていたとしても数の上では艦船型が圧倒的に多く、中々自分達に合った戦い方をするよりも艦隊側の都合に合わせる事が多かった。

 

何よりも陸地に縛られる彼女等は海の上を行く事が出来ず、流動的な戦局に中々寄与する事が出来ない事が多い為、『丘に上がった河童』と勢力内では揶揄する者もいた。

 

彼等は公然と陸上型の深海棲艦達を下に見る事甚だしく、両者の対立感情を煽る一助となっていた。

 

そんな者達からすれば離島棲鬼の行いは目障りな事この上無く、彼等の妨害を防ぐ意味でも要塞の建設は注意深く行われた。

 

飛行場姫が牛耳る様になると、そう言った手合いは真っ先に基地建設の材料となったが、それ以前の苦労は推して知るべしである。

 

離島棲鬼は自身の仕事に完璧を期しており、この要塞の完成は彼女の誇りであると同時に今日は記念すべき日でもあった。

 

「さあ、そろそろ始めましょうか」

 

「ええ、姫様。我らの力を遍く天地に知らしめましょう」

 

管制塔から離陸許可の指示が下されると同時に、飛翔の時を待っていた巨人機達のエンジンが唸り声を上げ滑走路を駆ける。

 

一キロは有ろうかと言う巨大で長大な滑走路から、先頭の一機が飛び立つや否や次々に後続が離陸し、上空で編隊を組んで行く。

 

そして編隊は一度飛行場の上空を旋回し機体の翼を振ると遥か北西へと機首を向け飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、最新鋭軽巡洋艦酒匂は外洋で完熟航行訓練を行っていた。

 

艦船形態で海原を行く彼女の勇ましい姿は来るべき南方反抗作戦に備えて益々意気盛ん…と言うには些か就航するのが遅かった彼女は今更ながら訓練に余念がなかった。

 

先に就航した阿賀野型の姉三人はともにトラック諸島に配属され前線を支えてきた歴戦の先輩達からその薫陶を受けており

 

そんな中、腐らずに訓練に邁進する事が出来たのは、彼女の生来の明るい性格から来るものであった。

 

その日は訓練の最終日であり、現在は帰還の航路に着いていた。

 

順調に航海すれば翌朝には横須賀港に着く計算となるなか酒匂は頭の中で、

 

「間宮さんの朝食セット食べられるかな〜」

 

と呑気に考えていたが、この頭の若干ネジが緩い彼女の存在があったからこそ、厳しい訓練に耐えられたのもまた事実なのであった。

 

「酒匂さん、またご飯の事考えていたでしょ?」

 

「ぴゃぁぁぁぁ!」

 

自分の考えを見抜かれて思わず変な声を上げてしまった酒匂。

 

それを見て朗らかに笑う青年士官。

 

笑われて「ぷー!」と頬を膨らませる酒匂の様子に、今度は艦橋内の何人かが笑いだす。

 

訓練航海中である酒匂の艦内には妖精さん達の他、何人かの士官が乗り込んでいた。

 

彼等は謂わば未来の提督候補となる人物達であったが、現在は酒匂と同じ訓練中の身であった。

 

海軍士官学校の教練は年々変化しているが、ここ最近は早くから艦娘と交流させる事により、未来の提督としての意識を高めようという目的で共に訓練する事が試験的に試みられていた。

 

今艦橋に酒匂と共に居るのはその青年士官の一団であった。

 

当初はぎこちなかった彼等も酒匂の明るい性格(と若干抜けた部分)に触れ、共に訓練を乗り越えた事で仲間としての意識が芽生えこうして笑い合える中になっていた。

 

最も青年士官達からすれば鬼教官の様な艦娘を覚悟していたので、酒匂は好意的な意味で予想外であり何だかんだ言って彼等の妹の様な存在になっている。

 

青年士官達と、オマケに艦橋に詰める妖精さん達にも笑われヘソを曲げた酒匂は「だって」と言い返す。

 

「だって、いっぱい食べて早くお姉ちゃん達に追いつきたいんだもん」

 

と酒匂が胸とお腹の辺りに手を当てると、先程まで笑っていた青年士官達は今度は成長した酒匂の姿を想像して思わず目を逸らしてしまう。

 

酒匂の姉である阿賀野型の姉三人は最新鋭軽巡洋艦という事でよく軍の広報にも取り上げられ、そのスタイルの良さは有名であり、今は幼さが目立つ彼女も行く行くはそうなるかと思うと意識せざるをえなかったのだ。

 

何だか故郷に残してきた妹が久しぶりに帰ってきたら、女として成長しているのを知って時の流れを感じる兄の気分になりノスタルジーに浸る彼等。

 

本当に故郷に妹がいる者は「彼氏を紹介された」「婚約」「結婚」「子供が生まれた」「三十前でおじさん呼ばわり…」「妹に似て可愛い…グヘヘへ」と謎の単語を呟き男泣きをしたり

 

中には「そのままの君でいて」と願う者も少なからずいて、半分程は素直に成長を喜べないでいた。

 

つまりそれ程に彼女は慕われているのだ。

 

 

さて帰還中、和気藹々としている酒匂ではあるが警戒を怠る事は無い。

 

領海内での酒匂の完熟訓練を兼ねた遠洋航海訓練とは言え、いつ如何なる時に敵襲が有るかも分からないのは戦時中の常であり

 

事実、一、二週間程前には遊撃艦隊が深海棲艦の機動部隊によって壊滅している。

 

この事件が起きてから軍令部も慌てて警戒ラインの引き直しが行われ、広大な海域をカバーするため水上機母艦秋津洲が大活躍しているとかで、本人曰く「漸くお役に立てたかもっ!」らしい。

 

そんな中酒匂の対空レーダーに反応があった。

 

最初それは味方の機影かと思われたが、その数が増すにつれ艦橋内にいる者全員の顔が青ざめていく。

 

対空レーダー上の反応は画面を埋め尽くさんばかりであり、凡そ六十機以上もの大編隊が飛行していたのだ。

 

艦内に警報が発令され、帰還後に何をするかと楽しげに話し合っていた妖精さん達は慌てて配置場所へと駆け出し、機関部が唸りを上げ振動する船体は速度を上げ針路を転じて行く。

 

見張り達は双眼鏡を顔に跡が付くほど強く覗き込み、銃座や主砲の砲身は仰角ギリギリにまで上げ敵機の襲来に備える。

 

時間が経過し八十を越した敵機(この時既に敵と断定されていた)を前に酒匂の装備では如何にも頼りなさ気であり、その運命は大海に翻弄される小枝の様な儚いものと思われた。

 

無線室では絶えず暗号化された電文が放たれ、現在位置と敵機がいる高度と機数に速度と針路とを繰り返し伝えていく。

 

味方に助けを求めようとしたそれは当然敵にも傍受されており、酒匂の対空レーダーは敵の編隊から分離した一派が此方に向かってくるのを察知した。

 

その数凡そ二十、軽巡洋艦を沈めるのに十分過ぎる敵の襲来。

 

酒匂と青年士官達にとってこれが初めての実戦となり、敵機の空襲が始まるその直前まで、酒匂の暗号通信は発信され続けていた。

 

 

 

 

 

 

酒匂からの暗号通信を傍受したのは無論敵機だけではなかった。

 

最も待ち望んだ横須賀鎮守府の無線局が暗号通信を受信し、解読が完了して横須賀鎮守府司令部と海軍軍令部に通達されたのは最初の暗号が放たれてから六分が経過していた。

 

横須賀鎮守府司令部では直ちに近隣の海域に警報が出され民間船舶が近づかない様にすると共に、近くの艦隊に酒匂の救援へ向かう様指示が出され、その中に焙煎とその超兵器達が居た。

 

彼等はその日、横須賀鎮守府に所属する艦娘艦隊との間で演習を行う予定であった。

 

参加艦艇は横須賀海軍工廠で建造任務中のスキズブラズニルを除いた全艦。

 

つまり、ヴィルベルヴィント、ヴィントシュトース、シュトゥルムヴィント、ドレッドノート、アルウス、デュアルクレイター、アルティメイトストームの七隻である。

 

演習は六対六の艦隊戦を予定しており、一隻余分なのは焙煎がデュアルクレイターに乗艦して艦隊の指揮監督を行うからだ。

 

基本的な内容は相互に航空戦(有れば先制雷撃となり、下手な艦隊ではこの時点で勝負が決する事もある)砲撃戦、雷撃戦となり必要であれば夜戦にて追撃を行い、その後相互の被害判定を行って勝敗を決める、と言うのが今回の演習である。

 

焙煎とヴィルベルヴィントが行ったあの演習とは大分内容もその意図する目的も違うが、通常演習と言えばこれを指すのは常識であった。

 

寧ろ焙煎達の方が色々と例外、と言うよりも非常識であり予々実戦においても基本はこれに沿っている。

 

つまり、単騎で相手の艦隊の中央に突っ込んでレッツパーリーやったり、圧倒的な機動力をもって三方に分かれた敵を各個撃破したり、敵の機動部隊を上回る艦載機を出して圧殺したり、小型艦艇を大量展開して飽和攻撃を仕掛けたり、「水上艦は不要」とか痛い事言っちゃったりするのは厳禁なのである。

 

と言うかそれが出来れば戦争はとっくの昔に終わっているし、その気があれば世界だって取れるかもしれない。

 

焙煎としても超兵器達がちゃんと演習の趣旨を理解しているか心配でならなかったが、言って聞く様な殊勝な心掛けを持つ者は一人としていないのは、彼も分かりきっていた。

 

故に後は運を天に任せ、大事な作戦を前に厄介事が起きない様切に祈るしか無かったが、これは想定外な事で中断を余儀無くされた。

 

つまり敵機の空襲を受ける味方艦娘の救援に向かえ、と言う横須賀鎮守府司令部からの通信が演習に参加する予定であった全艦に届いたらだ。

 

焙煎はそれをデュアルクレイターの艦橋で聞き、急ぎ超兵器達に指示を出した。

 

「内容は言うまでもないな。演習に参加予定の艦隊はそのまま当該海域へと向うんだ」

 

この指示は些か拙速に過ぎる様に見えるが、この時既に演習相手の艦隊は動き始めている。

 

彼は元から見捨てる気など無いのだが、此処で手間取ったり躊躇ったりすれば後々要らぬ誤解を招きかねないと、その様な計算が働いたからだ。

 

「焙煎艦長、今回の指揮私に任せて下さいませんか」

 

通信機からアルウスの声が聞こえ、そう言われて少し考え答える焙煎。

 

「分かった、今回は航空戦となる。空母であるお前の方が何かと都合が良いだろう」

 

「“任せる”唯そう仰って下されば良いのですよ。そうすれば私にとって何よりの励みになりますわ」

 

と返事が返ってきたので。

 

「分かった、アルウス今回の指揮はお前に任せる」

 

「うふふふふ、期待していてくださいね?艦長」

 

ふと、そこで「ん?」と頭の中で疑問符が付く。

 

何だか今日のアルウスは妙に気を張っているなと、そんな事を感じていた。

 

だがそうこうしている内に、彼の目の前で転針した艦隊が速度を上げ海域を離れて行く。

 

「今日のアルウスの姉さん、気合入ってるねぇ」

 

「矢張りそうなのか?デュアルクレイター」

 

「ま、アルウスの姉貴は前の戦いでヘマしましたからね。名誉挽回ってかんじかねぇ」

 

デュアルクレイターは肩をすくめながらそう言う。

 

前の戦いとは、北方での事であろう。

 

確かにあの戦いはこれ迄と比べて此方も損害を出したが、結果的には作戦は成功している。

 

そもそも彼女のヘマとは何なのか?焙煎は気になってデュアルクレイターに尋ねた。

 

「ヘマ?アルウスは何か失敗したのか」

 

そう尋ねられたデュアルクレイターは、鳩が豆鉄砲を食らったかの様な顔をして焙煎を見ると、ついで笑い出した。

 

「あははは、まあそうだよね。艦長からすればそんなんだろうけどさ」

 

一通り笑うと、デュアルクレイターは秘密を打ち明ける様に言った。

 

「大したことじゃ無いんですよ。アルウスの姉貴はああ見えて箱入り娘見たいな所が有りましてね、前の戦いで嫁入り前の肌に傷が付いたって大騒ぎだったんですよ」

 

もうとっくに治ってるんですがねと前置きして、人差し指を出し「ここ、ここに薄っすらとね」とアルウスの傷が付いた場所を示すデュアルクレイター。

 

「まぁ空母ってのは繊細ですからね。私みたいのは敵に撃たれてナンボのもんなんですが、姉貴見たいな人達からすれば飛行甲板に塵の一つも許さないんですよ」

 

まあ、そう言うヒトなんですよと締めくくるデュアルクレイター。

 

「成る程な」と頷く焙煎。

 

デュアルクレイターの話を聞くにアルウスは多少潔癖過ぎる所がある様だが、空母系の艦娘はアルウス程極端では無いにしろ多少なりとも似た傾向がある事を知っていた。

 

デリケートな飛行甲板に触れられるのを嫌がったり、格納庫を弄ったりされて憲兵に訴えたり、発艦が全部終わるまでお触り厳禁だったり(終わればOKでもない)そもそも触ろうものなら提督と言えど爆撃してくる危険な艦娘もおり、空母系の艦娘とのスキンシップは控える様にと軍令部から直々に通達が出る程だ。

 

(それでも毎年この手のセクハラで訴えられるor入院する軍関係者がおり、関係者達を悩ませていたりする)

 

「そう言う事なら心配は要らないな。俺達も後を追うぞ」

 

「アイアイサー」

 

焙煎の命令を受けてデュアルクレイターの超兵器機関が唸りを上げ、双胴の船体が海原を行く。

 

この時、仮に若し超兵器の一隻でも横須賀に戻していれば、また違った結果になっていたとも知らず。

 

焙煎と超兵器達は本土から離れてしまう。

 

そしてそれは迫り来る脅威に対し、海軍が防ぎ得る手段の一つを放棄した結果ともなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

外洋にて酒匂が敵襲を受け本土に敵機が接近しつつあり、との報告を海軍元帥高野が受けたのは横須賀軍令部の執務室、では無く外出先の佐世保鎮守府で同鎮守府の司令官との会談を行っていた時の出来事であった。

 

この時期に高野が佐世保に居たのには訳がある。

 

佐世保鎮守府は本土西端にあり、多数の艦娘の他深海棲艦が出現して以降旧式となった通常艦艇群が多く配備されており、これは彼等の主目的が深海棲艦に対する防衛では無く大陸側に対しての備えを意味するものであった。

 

この国防上極めて重要な拠点の一つである同鎮守府を海軍元帥高野が直々に訪問した理由は、安全保障の観点から昨今躍動著しい大陸側の状況を高野自身の目で把握すると共に、佐世保鎮守府との関係を強化する目的もあり。

 

と言うのも来るべき南方反抗作戦を発動した場合、その参加兵力は海軍の凡そ三分の一に相当すると考えられ、その機に乗じて呉の君塚大将が行動を起こす可能性があった。

 

現在呉鎮守は海軍軍令部の統制下を離れて半独立勢力と化しており、長年軍令部と高野の頭を悩ませてきた。

 

排除したくとも呉鎮守は強大で横須賀単独では抑える事が出来ない。

 

ともすれば内部に不安要素を抱えたまま外征をする事は内乱を誘発しかねず、そんな事になれば国を割る事となり最悪大陸側が介入する絶好の隙となってしまう。

 

それを防ぐ為、横須賀、佐世保両鎮守で呉鎮守を抑え込もうと言うのが高野の考えであった。

 

本来であれば高野はもっと早く佐世保鎮守府を訪れる予定であったのだが、ここ最近頻発した数々の問題の対処に追われ、この時期に迄ずれ込んでしまった結果軍令部に最高責任者不在と言う事態を引き起こしてしまったのだ。

 

この様な時軍令部に詰める参謀達が高野の代行として指揮をとるのだが、果たして彼等で高野の代わりが務まるのか?

 

その不安を払拭する意味でも高野は至急横須賀に戻る必要があったが、空襲を受けつつある場所に向かう手段は限られていた。

 

 

 

一方の横須賀にある軍令部では周囲の不安を他所に急ぎ迎撃作戦が取られていた。

 

周辺地域に警報が発令されると共に民間機や船舶の航行が制限され、近隣の飛行場からは迎撃機を逐次上げ横須賀手前でこれを防ごうと試みていた。

 

横須賀鎮守府に所属する艦娘達は、横須賀湾内に侵入してきた敵機を迎撃する為海上に展開する者と陸地で高射砲代わりの固定砲台として配置される者とに分かれ、敵機の襲来に備えている。

 

参謀達からすれば折角引き直した警戒ラインを又しても抜かれ、自分達のメンツが潰された事でそれを払拭しようと彼等は精力的に働いた結果と言えよう。

 

本来であればこの奇襲的な敵機の襲来の前に彼等は碌な抵抗も取れなかった筈なのだが、図らずとも空襲を防ぐ上で最も重要な早期警戒の役目を、 軽巡酒匂が身を張って担った結果、彼等はギリギリで間に合ったと言える。

 

しかしこの時になってもまだ、彼等は敵編隊が空母から発艦したものであると誤解したままであった。

 

酒匂が装備している対空レーダーでは敵機の種別までは判別出来ず、『敵機が居るのなら空母もいる』という長年の教訓から来る心理的な思い込みからも、これは致し方ないことである。

 

酒匂からの暗号通信で敵機は高度一万メートル以上を飛行中とも伝えられていたが、それは作戦には組み込まれなかった。

 

彼等の考えでは高高度を飛行中の敵機を横須賀手前で降下してくるのを迎撃し、その後近くに潜んでいるであろう敵機動部隊を追撃し捕捉撃滅するカウンター作戦を立てていた。

 

しかし彼等の机上の空論が崩れるのに、そう時間はかからなかった。

 

迎撃に出た味方機が敵編隊と接触しその詳細を伝えるにつれ、彼等は疑い惑いそして遂にそれが真実だと確信するとそれ迄の自信は脆くも崩れ去っていた。

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府防空の為、敵機迎撃に上がったのは零戦で構成された妖精さん達の部隊であった。

 

彼等は安全な本土という事もありその装備は前線と比べると決して恵まれておらず、その為任務は専ら本土周辺空域の哨戒を主として行っている。

 

迎撃部隊には今回の作戦が初の実戦という者も多く、作戦には一抹の不安を与えていた。

 

既に敵機は本土の対空レーダーに捉えられ、管制塔からの指揮のもと迎撃に向かう彼等の目の前に現れたのは当初作戦で説明された敵艦載機などでは無く、最も大きくそして恐ろしいものであった。

 

空飛ぶ巨大なサメ、と形容すべきか。

 

太陽を背に受けて映し出される巨大な影は、これまで深海棲艦が繰り出してきたどの様な兵器とも違う異質な存在であった。

 

目算で八十機以上を数える大編隊、彼等の遥か上空を飛ぶその影を追う様に機首を上げる妖精さん達。

 

しかし彼等の努力を嘲笑う様に、巨大な機影は圧倒的な高度の壁と驚くべき速度でもって彼等を振り切りに掛かる。

 

嘗ての大戦末期、本土を連日連夜空襲される中零戦では全くの無力であった時の記憶が蘇った。

 

艦娘達が嘗ての大戦の記憶を保持する者も多い中、妖精さん達の中にもそれと同じ様な物を持つものもいる。

 

焼け野原にされる本土、黒焦げの人の形をした山が彼方此方で山を作り、焼け出された人々が空に向かって怨嗟の声を上げ、そしてあの夏の日…

 

決して拭いがたいあの決定的な日を二度と起こしてなるものか!

 

彼等は何とか必死に食らいつこうとするも決して手は届くこと無く、ガクッと機首を落としたかと思うと見る見るうちに高度が下がっていく。

 

無力感と虚しさの元、こうして最初の迎撃に失敗した彼等はなし崩し的に本土での防空を強いられる事となる。

 

 

 

航空機による迎撃作戦の失敗は直ぐさま横須賀海軍軍令部にも伝えられた。

 

同時に敵編隊が艦載機などでは無く全くの未知の巨大機である事が判明し、しかも此方の迎撃機も砲弾も届かない遥か上空を飛行している事が彼等を驚かせた。

 

軍令部の参謀達が用意した防空作戦が根本から破綻した瞬間であった。

 

彼等の間に無力感が漂い始め、最早打てる手は何もない様に思われた。

 

だが、その中で諦めないもの達も確かにいたのだ。

 

この時、敵編隊は横須賀鎮守府から三十分の所にまで接近していた。

 

編隊は本土上空の急激な気流を避ける為高度を落とし、眼下に横須賀鎮守府と軍令部を捉えつつあった。

 

彼等が飛行場姫から与えられた指令は横須賀鎮守府を爆撃せよであり、脅威となる迎撃機達は遥かな後方に置き去りにしていた。

 

爆撃針路に入り高度を落とした彼等を出迎えたのは、海上と陸地から砲弾を打ち上げる艦娘達の対空砲火であった。

 

通常の艦載機や下手な爆撃機であれば、この猛烈な火線に捉えられ爆弾を抱えたまま火達磨になっていただろう。

 

しかし、飛行場姫が作り上げたこの機体はそんじょそこらの物とは訳が違った。

 

最も敵の対空砲火が集中すするであろう機体下部は分厚く装甲が施され、幾ら砲弾を撃ち込まれようとも物ともせず飛行し続ける。

 

そして先頭の機体が照準機に横須賀鎮守府をおさめると同時に爆撃が開始された。

 

機体下部のハッチが開き次々と投下される爆弾は、見事に目標を捉え破壊に成功していく。

 

彼等の遥か下の地上では破壊の嵐が吹き荒れていた。

 

地面が爆発で掘り起こされ、直撃を受けた建物が赤々と燃え崩れ去り、運悪く土嚢で覆っただけの対空銃座の近くに爆弾が落ちて妖精さんが吹き飛ばされ、防空壕に避難していた人々は崩れてきた土砂によって閉じ込められた。

 

辺りには瓦礫と人だったもの、もしくはその一部が散乱し火薬とそれらが燃える匂いが混ざり合い異臭を放つ。

 

医務室は野戦病院さながらとなり、続々と運び込まれるのは人や妖精、艦娘を問わなくなっていた。

 

煙と炎とで味方と逸れた艦娘が雑音しか伝えなくなって久しい無線機に指示を求め続け、中には何とか海上に脱出出来た者もいたが全体からすればそれは極々僅かであった。

 

良心ある者がこの光景を見れば、思わず目を逸らさずにはいられない惨状が広がっていた。

 

そしてもしこの光景を、遥か上空を飛ぶ敵機が見たとしても同じ思いを抱くであろう。

 

たとえ彼等がこの光景を作り出した張本人であり、この後何度となく眼下の光景を作り出す事となったとしても。

 

嘗ての大戦でこの国を敗戦に追いやったある軍人は部下を前にこう語ったという。

 

*『君が爆弾を投下し、そのことで何かの思いに責め苛まれたとしよう。そんなときはきっと、何トンもの瓦礫がベッドに眠る子供の上に崩れてきたとか、身体中を炎に包まれ『ママ、ママ』と泣き叫ぶ三歳の少女の悲しい視線を、一瞬思い浮かべてしまっているに違いない。正気を保ち、国家が君に希望する任務を全うしたいのなら、そんなものは忘れることだ』

 

そしてこうも言っている。

 

*『我々は街を焼いたとき、たくさんの女子どもを殺していることを知っていた。やらなければならなかったのだ。我々の所業の道徳性について憂慮することは――ふざけるな』

 

かくも無残なそして人々が忘れてしまっていたこの出来事は、再び彼等の空を覆い尽くそうとしていた。

 

燃え盛る鎮守府がその勢いを増すたびに反撃の砲火は弱まり、海上で浮き砲台と化していた艦娘達は己の無力さを嘆く間も無く砲火を放ち続ける。

 

しかしその攻撃が敵に届くことは無く、虚しく空に火線を描くだけであった。

 

 

艦娘達の奮闘も虚しく敵機は悠々と空を飛び爆弾を投下し続ける中、横須賀鎮守府の海軍工廠ではスキズブラズニルが妖精さん達と共に避難せずに最後まで残っていた。

 

「うう〜、本当は〜避難しなくちゃ〜危ないん〜だけど〜。でも〜外は〜危ない〜からな〜」

 

と相変わらず妙に間延びする緊張の全く無い声で言うスキズブラズニル。

 

スキズブラズニルとその妖精さん達は本来であれば工作艦明石と共に避難場所に避難する筈であった。

 

しかし彼女達が避難した時には既に爆撃が始まっており、運悪く近くの避難場所は一杯でスキズブラズニルの体の大きさが災いして全員は入れなかったのだ。

 

仕方なく、工廠に戻ろうとするスキズブラズニルを引き止めようとした明石を、自分の代わりに避難所に押し込みこの時のドラマは聞くも涙語るも涙なのだが、詳しい話は割愛する。

 

さて外では爆撃と火災により煙が立ち昇り、彼女達の存在に気付く者はいなかったがしかし此処は海軍工廠。

 

敵の爆撃目標に入っているであろう重要施設に逃げ込んでしまったスキズブラズニル一行は、この後どうするかと思い悩んでいた。

 

「う〜ん、こんな〜事なら〜ヴァイセン〜さんに〜付いて〜行けば〜よかった〜かも〜?」

 

と今更ながら後悔するスキズブラズニルだが、そこで妖精さんが服の裾を掴んでちょいちょいと引っ張る。

 

「?な〜んですか〜?」

 

妖精さんが指さした先を見てスキズブラズニルは思わず顔を歪めた。

 

そうだ此処にはアレがいたんだ。

 

内心何故此処に逃げ込んでしまったんだと毒づきながらも、しかしそれはまだ単なる鉄の塊にしか過ぎなかった。

 

それは焙煎より建造を命じられた新しい超兵器であり、自分はあの男に騙されて(賄賂を要求して)仕方なく(しかも相当足元を見て)作らされて(これは真面目にやっている)いる代物だ。

 

このまま行けば恐らくこの工廠諸共破壊されるであろうその物体を見てスキズブラズニルは。

 

「アレが〜如何か〜したん〜ですか〜?」

 

と言った。

 

出来れば今は思い出したく無いそれだが、妖精さん達はワラワラと集まり手には各々が自慢の工具を持っていた。

 

その意図する事に気付いスキズブラズニルは思わず「げっ⁉︎」と嫌そうな声を上げてしまう。

 

「皆さ〜ん、本気〜何ですか〜?」

 

最早問う迄も無く妖精さん達は一斉に頷く。

 

その真剣な瞳に晒されて思わず「うっ」となってしまうスキズブラズニル。

 

「無茶ですよ〜」と言うのは簡単だろう、「危ないんですよ〜」と言うのは此処にいる時点で自分も同じ。

 

なら彼等と自分何が違うのか?

 

それはこの世界にきてからこれ迄散々に味わって来た事だ。

 

「どんな理由や者であれ、自らの手で作り生み出した子が海に出る前に沈むのは不憫でならない」

 

妖精さん達は純粋だから、そう思ってしまうのも仕方ない。

 

しかし相手は超兵器なのだ、それと散々敵対し対抗する為に数々の船を送り出して来た彼女からすればある意味で子の仇と言える存在でもある。

 

だが現実問題この状況を打破するにはスキズブラズニルが忌み嫌う超兵器の力が必要なは分かりきっている事だ。

 

二つの思いに板挟みになるスキズブラズニルを救ったのは一人の妖精さんの言葉であった。

 

「このままでは明石も危ないぞ」

 

明石が危ない、この世界にきて彼女に最も良くしてくれる艦娘でありある意味で初めての友とも呼べる彼女に危険が迫っている。

 

しかしそれでもと悩むスキズブラズニル。

 

しかし妖精さんの誰かがそっと耳打ちした。

 

「間宮さん…なくなっちゃうかもね」

 

「さあ〜皆さん〜まみ…明石〜さんを〜救う〜為にも〜ちゃっちゃと〜やっちゃい〜ましょう〜!」

 

オーっと拳を上げるスキズブラズニルを先程とは打って変わって生暖かい目で見る妖精さん達。

 

矢張り彼女は何処かとても残念なのであった。

 

 

 

 

 

深海棲艦の爆撃機編隊はその目的をほぼ完遂していた。

 

彼等の眼下に横たわる横須賀鎮守府はその威容は最早消え失せ、爆撃により煙が空を覆い炎が立ち昇り廃墟同然とかしている。

 

残念ながらこの立ち上る火災と崩れた瓦礫から出る煙と埃により正確な戦果を確認出来ないが、それでも海軍の重要拠点に打撃を与えた事は確かであった。

 

送り狼が来る様子もなく、後は機首を翻し南方に凱旋するだけとなった時、ふと風が吹いて煙の切れ間からそれが見えた。

 

見間違えるはずが無い、彼等の憎っくき仇である艦娘達が生まれる場所。

 

横須賀鎮守府の海軍工廠であった。

 

迂闊にも敵地爆撃と言う任務に興奮して重要目標を忘れていたのだ。

 

そしてこれを破壊しない事には爆撃の成果は半減したと言っていい。

 

しかしこの時深海棲艦の爆撃機編隊は搭載していた爆弾の大半を使い果たしていた。

 

如何に飛行場姫と彼女が作った機体が優秀であろうと、本来の搭載量を減らさなければならない程南方からの距離は遠かったのだ。

 

仕方なく爆弾がまだ余っていた機体による爆撃が行われようとしていた。

 

編隊と離れた八機程の機体は高度を下げたが、これは炎と煙により高高度から照準機で精密爆撃を仕掛ける事が難しく、残り僅かな爆弾の量では絨毯爆撃を仕掛ける事は出来ない。

 

故に、直接目標を視認する事により確実に工廠を破壊しようとしたのだ。

 

この時本隊は既に離脱を開始しており、彼等も急ぎこの場を離れなければならない。

 

幸い大量の煙と炎により彼等の接近に気付く者は居らず、今やその殆どの目は離脱を開始した本隊へと向けられていた。

 

この隙を狙い急激に高度を落とす彼等、煙の切れ目を狙い直接爆弾を叩き込めるチャンスは恐らくこの一度きり。

 

反復攻撃する機会は二度と訪れない。

 

無理をすれば本隊に合流出来ず、敵中に孤立する危険性をはらんでいた。

 

その共通の思いが、八機の編隊をして驚異的な技量を持って限界ギリギリまで高度を落とす。

 

高度計は見る見る内に下がり、視界は火災による煙で覆われ一メートル先も見えない。

 

このまま地表に激突するかと思われた矢先、しかしそこで急に視界が晴れた。

 

火災による煙を抜け彼等はこの時最も敵に接近し、過たず目標を見つける。

 

角度は付いているが既に爆撃の体制に入っている。

 

視界一杯に広がる目標とその脇にはヒトの様な物が見える。

 

逃げ遅れた人間が艦娘であろうか?

 

工廠の中に入ろうとして、こちらを見つけて呆然と立ち尽くす。

 

何事か呻いた(それとも祈りの言葉か)かもしれないが機体のエンジンから流れる騒音で全く聞こえず、また聞く必要もなかった。

 

この時既に、腹に抱えていた僅かな爆弾は弾薬庫から最初の一個が投下されていた。

 

それは、誤たず目標に命中すれば立ち尽くす人間ごと工廠を吹き飛ばす筈であった。

 

だがそうはならなかった。

 

爆弾が落下し終える前に、突然何かが海軍工廠の屋根を突き破ったかと思うと、落下途中の爆弾ごと機体が吹き飛ばされたからだ。

 

 

 

 

工作艦明石がその場に居合わせたのは、偶然と言うよりも必然という向きが強い。

 

あの時自分一人を避難所に押し込み、工廠へと戻って行ったスキズブラズニルの身を案じ、空襲が終わった頃合いを見計らって外へ出て来たは良いものの、彼女は途方に暮れてしまった。

 

鎮守府の被害は一目見てその惨状は筆舌に尽くし難く、一体どれ程の犠牲が出たのか想像すら出来ず同時に彼女の心を不安が襲う。

 

果たしてこの被害でスキズブラズニル達は無事でいるのか?

 

これ程までの大損害は海軍始まって以来の大事件であり、彼女達の身に危険が起きたとしても不思議では無い。

 

幸い避難所から海軍工廠は近いこともあって明石はスキズブラズニルを探す事にした。

 

そうしなければ不安で胸が押し潰されそうだったからだ。

 

幸いにして工廠は無事であった。

 

それにホッとする明石、中にいるスキズブラズニルに声をかけようとして何かに気付き、明石はそれを見た。

 

空を覆う煙の中から突如として現れた黒い機体。

 

自分達の鎮守府を今しがた爆撃した敵機が、彼女の眼前にその姿を現したのだ。

 

黒く左右に出っ張った機首がサメを思わせ、ある筈の無い牙が獰猛な笑みを作る様を幻視した明石。

 

その腹から投下されようとしている爆弾を明石はハッキリと見た。

 

全てがとてもゆっくりとして、まるでカメラのスローモーション画像を見せられているかの様な奇妙な感覚だった。

 

身体は動かず、全てを見ている事しか出来ない明石は助けを求める様にある艦娘の名前を呟く。

 

「➖➖➖➖」

 

そこから明石の記憶はプツリと途切れている。

 

気が付いた時には病院のベットの上で寝ていた。

 

起きた自分に周りの人達は一体何が起きたのか、アレは何なのかと次々と質問を浴びせるが、自分でももどかしいと思いつつもそれに答える事が出来ず。

 

唯あの時、

 

とても、

 

途轍もなく、

 

途方も無いほど恐ろしい思いをしたのだけは、ハッキリと身体で覚えていた。

 

 

 

明石の記憶が途切れるほんの少し前、海軍工廠に残り爆撃の最中何とか我が子を海に出せる状態にさせようと工具を振るっていたスキズブラズニル達。

 

彼等を救ったのは工廠に大量に残されていた資材であった。

 

空襲が急な事もあり、人員の避難を最優先にした結果高速建造材をはじめとしたそれらの各種資材が大量に工廠に残される結果となり、偶然にもそれがスキズブラズニル達を救う結果となったのだ。

 

スキズブラズニル達は工廠に残されたそれら資材を半ば火事場泥棒的に横領、基勝手に借用した事により驚くべき速さで作業が進んだ結果、何とか形にする事が出来た。

 

後は超兵器の心臓とも言うべき超兵器機関に火を入れる段階となってそれは起きた。

 

まだ火を入れていない筈なのに勝手に艤装が動き、それはあたかも壁越しに敵の存在を知覚しているかの様な動きで照準を合わせると、スキズブラズニル達が慌てて避難する間も無く砲撃した。

 

外でこれを偶々見ていた艦娘達は、工廠の屋根を突き破った砲弾が敵編隊を巻き込んで爆発するのを見ただろう。

 

その轟音は鎮守府中は疎か近隣地域や外洋にまで鳴り響き、砲撃と爆発の衝撃によって工廠の屋根は瓦礫と共に吹き飛ばされていた。

 

そしてゆっくりと屋根が吹き飛ばされた海軍工廠から出て来る巨大な船影。

 

王者の如く聳え立つ艦橋とそれを守るかの様に巨大な主砲と大小様々な砲が居並び、 二つの頭を持つ巨人と形容すべき双胴の船体をしたそれ。

 

全てを圧倒してなお余るそれは、敗北に打ちひしがれる海にあって尚その威容を損ねる事はなかった。

 

その日、海軍では二つの事件が起きた。

 

海軍始まって以来の大損害を被ると共に、居合わせた艦娘達とそして海軍人達は初めて、超兵器の力の一端を思い知らされる事となったのである。

 

 

 

 

 

 




*の言葉は「鬼畜」「皆殺し」「鉄のロバ」ことみんな大好きカーチス・ルメイからの引用です。


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