超兵器これくしょん   作:rahotu

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18話

横須賀鎮守府空襲から暫くして、南方海域深海棲艦領海でも飛行場姫が挙げたこの一大戦果の話で持ちきりであった。

 

怨敵である艦娘に一泡吹かせた所か、敵の中枢を大胆不敵にも昼間爆撃する豪胆さと勇気とを示した飛行場姫の権勢はとどまる事を知らず、それを忸怩たる思いで見詰める者もあった。

 

「ああ忌々しい、何故あんな奴に我らが風下に追いやられなければ成らないのだ」

 

空母系派閥の一員である装甲空母鬼は人目も憚らずにそう言うが、それは彼女なりに今の状況に危機感を覚えていたからだ。

 

現在南方海域における勢力図としては戦艦棲姫の失脚以降勢力を伸ばす飛行場姫率いる陸上型派閥に比べ、相対的に他の派閥が割を食う形となっている。

 

このままでは、旧戦艦棲姫派閥のみならず自身の所属する空母系派閥も飛行場姫に吸収される恐れがあった。

 

最近になって飛行場姫に近づく者や、鞍替えする者も出ておりそれが一層の危機感を募らせた。

 

それに対して派閥の代表者たる空母棲姫は何ら手立てを打たず、装甲空母鬼のみならず周囲の者にさえ不満を募らされていた。

 

「こうなれば、私一人でやるしか無い」

 

そう固く決心する装甲空母鬼だが、彼女にはとある秘策があった。

 

その日、装甲空母鬼は夜の闇に紛れ密かに南方海域を後にする。

 

誰にも告げずそれが成った暁には、現在の状況を必ずや打破出来るであろうと信じての行動であったが、果たしてその結果がどうなるのか。

 

この時の彼女は知らないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府管轄のとある飛行場にて、スキズブラズニルとその妖精さん達は滑走路の拡張工事に精を出していた。

 

幾つもの巨大な重機が土煙を上げて地面を平らに整地し、妖精さん達がその有り余るマンパワーによって急ピッチで基地整備が進む中、相も変わらずスキズブラズニルは不満そうであった。

 

「も〜う〜、何だって〜こんな事〜やってるんで〜しょうか〜?」

 

スキズブラズニルはふくれっ面を浮かべながら(それでも彼女が背負う巨大な艤装は忠実に作業をこなしていたが)、不満タラタラと言った様子で愚痴を吐く。

 

「私〜これでも〜ドック艦なんですよ〜?忙しい〜ですよ〜。それが〜どうして〜丘の〜上で〜飛行場なんかの〜改修を〜やらなくちゃ〜いけないん〜ですか〜」

 

隣で作業をしていた妖精さん達の一団がそれを聞いて、「またか」といった顔をしやれやれと首を振り再び作業に戻っていく。

 

焙煎の命令により工事を始めてから3日、その間スキズブラズニルが同様のボヤキを漏らさない日は無かった。

 

妖精さんたちとて最初は不貞腐れているだけで直ぐに治ると思っていたが、こうも長く続くと彼等の士気にも影響した。

 

それを見て更に不機嫌になるスキズブラズニルだが、そもそもこれを命じた相手は自分の使い方を分かってない、と常々思っていた。

 

「栄光ある〜ウィルキア海軍の〜それも解放軍の〜流れを組む〜私が〜。しかも〜世界を〜救った〜艦長を〜支えた〜私が〜」

 

と愚痴を吐き続けるスキズブラズニル。

 

基本的に何でも御座れの万能艦である(と思われている)彼女だが、一応はドック艦なのである。

 

多少、自由自在に船が建造できたり、最新鋭の研究所の成果で技術革新したり、解放軍の司令部が置かれたり、何気に船体を分離してパナマ運河を通過出来る程スリムになれたりするが、彼女の本業はドック艦なのである。

 

多少どころか、世界中見渡しても「お前の様なドック艦がいるか!」と焙煎がこの場に居れば心の中でツッコミを入れかねないが、つまりスキズブラズニルとしては海にあってこその自分との思いが強いのだ。

 

ひとたび海に乗り出せば己が全能力をフルに活用し、一個艦隊相当の艦隊を建造して世界中の海を駆け巡り、世界征服を企む帝国の野望を挫き、その次々と送り込まれて来る超兵器を撃破し、遂には戦争を終結させ全ての元凶にトドメを刺す船を建造したその自分が、何故土木建築の真似事をしなければ成らないのか。

 

それもこれも全てあのハゲことヴァイセンベルガーが悪いのだ、大人しく巨大イカの養殖でもやっていれば良いものを。

 

と心の中で思うスキズブラズニル。

 

彼女は強制ダイエット命令とか超兵器とかで溜まりに溜まったストレスの捌け口を求めていたのだ。

 

「ああ〜もう〜、あの人の〜育毛剤〜全部〜脱毛剤に〜すり替えて〜やろる〜」

 

「それは困りましたわね。あの方をこれ以上見窄らしくしたら此方も堪りませんわ」

 

突然背後から声がして慌てて振り向くスキズブラズニル。

 

彼女の後ろには白い日傘を差した超兵器アルウスが朗らかな笑みを浮かべて立っていた。

 

「ア、アルウス〜さん〜⁉︎一体〜何時から〜そこに〜」

 

「『あ〜も〜』の所からでしてよ。貴女、随分とご不満の様ね」

 

スキズブラズニルは「ゲッ」と声をあげた。

 

変な所を聞かれていたかと少し焦り、何とか話題を逸らそうとする。

 

「と、時に〜アルウス〜さんは〜。何故に〜此処に〜いらっしゃるんで〜しょうか〜?」

 

普段から使い慣れない敬語擬を交えながら、目をキョロキョロさせるスキズブラズニル。

 

端から見れば話を逸らそうとしている事などバレバレなのだが、アルウスはそれを機にする様子も無くいつも時に風に話を進める。

 

「あらそうでした。スキズブラズニル、貴女に艦長が後で格納庫の方に来る様にと言伝って来ましたわ」

 

「そ、そ〜ですか〜。態々〜ありがとう〜ございます〜」

 

と曖昧な笑みを浮かべて返事を返すスキズブラズニル。

 

彼女はこれでさっさと話が終わってくれればと思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 

アルウスは「ところで…」と目を細めスキズブラズニルの事を見つめる。

 

「先程から、いえ随分と前から艦長に対して色々と不満を抱えている様子。私気になってしまいますわ」

 

「い、い〜え〜、そんな事〜ないですよ〜?」

 

とアルウスの視線から逃れる様に目を泳がすスキズブラズニル。

 

自分自身でも今一番踏み込んでは欲しくない話題に、彼女は冷や汗をかく。

 

「そ、そ〜れ〜こ〜そ〜。アルウス〜さん達〜の方が〜あるんじゃ〜ないですか〜?」

 

スキズブラズニルは敢えて質問に質問を返したが、これは長らく彼女自身が不思議に思っていた事だ。

 

何故アルウスの様な力ある、それも超兵器程の力ある存在があんな凡人に従っているのかと言う疑念だ。

 

「不満も何も、自らを生み出した存在に従うのは当然では無くて。この世界の艦娘とて同じでしょう?」

 

確かにアルウスが言う様に、この世界の提督と船である艦娘との関係は予々彼女の言う通りな所もある。

 

提督達は自らの戦力を強化する為建造を行い、建造された艦娘は無条件に提督を慕い従う。

 

一種の洗脳とも言えなくも無いそれだが、それとて提督の資質や適正によってマチマチである。

 

然しながらそれが超兵器にも適用されるとは、到底スキズブラズニルは思えない。

 

少なくとも、この目の前にいる意味ありげに笑う『化物(アルウス)』の言葉を素直に信じる事は出来なかった。

 

基本的に他者と隔絶した、孤高の存在である超兵器が、雛鳥の刷り込み宜しく殊勝にヒトに従うとは到底思えない。

 

徹頭徹尾、傲岸不遜にして天上天下唯我独尊を地で行く。

 

それが超兵器だと言うスキズブラズニルの妄執じみた思い込みがそうさせるのだが、強ち間違ってはいなかったりする。

 

そんなだからスキズブラズニルはアルウスの言葉を「へー」と聞き流し、不信気な目を向ける。

 

「へーとはなんですかへーとは⁉︎折角人が答えてあげたというのに、貴女と言う方は如何にも緊張感がありませんはね」

 

アルウスもそんなスキズブラズニルの態度に若干腹を立てたが、文句を言われる前にスキズブラズニルが畳み掛けた。

 

「だって〜艦内で一番〜揉め事を〜起こす人が〜今更〜忠誠心だなんて〜」

 

「な⁉︎それは…」

 

「この前も〜新しく〜来た人と〜初対面で〜殴り合うし〜?」

 

「そもそも〜空母の癖に〜艦載機を〜湯水の如く〜使い捨てにして〜。出撃する度に〜ボーキサイトを〜ゴッソリ〜持って行く〜艦隊〜一番の〜無駄遣い〜女王(クイーン)が〜」

 

「ね〜?」と呆れた顔を満面に浮かべ、「やれやれだぜ」と先程妖精さん達にやられた事をアルウスに返すスキズブラズニル。

 

さしものアルウスも顔を真っ赤にするが、直ぐに冷静さを取り戻しスキズブラズニルに反撃する。

 

「あ、あら〜?一番の無駄遣いは貴女の方では無くて〜。借金の返済はもう済んだのかしら〜?」

 

アルウスにやり返され「ゴフッ」と吐血するスキズブラズニル。

 

ここに来る前は工作艦明石にたかる事で一日5食を何とか守っていた彼女も、焙煎の目のある今の場所では一日3食(昼寝にオヤツ付き)の生活で疲弊していた。

 

更にアルウスは追撃の手を緩めない。

 

スキズブラズニルが蓄えた腹部装甲を掌いっぱいに「むにっ」と鷲掴みにする。

 

「貴女、確かウィルキア解放軍の武勲艦とか言ってましたわよね。それにしては海軍人の癖にこの無駄肉の数々、いくら艦娘になって人の身を得たからと言って油断しすぎじゃなくて」

 

「いっそここの無駄に余った部分を解体して質に入れれば借金が幾らかマシになるんでなくて?ああ、ごめんなさい。これ、貴女の“脂肪”でしたわね。質屋では無く肉屋に卸すべきね」

 

自身が犯した悪行と慢心の数々を、言い逃れ出来ぬよう物理的に証拠を握られたスキズブラズニル。

 

これでも焙煎に見つかった当初よりはだいぶマシになった方で、今でこそちょっと太めなラブハンドルと言い訳出来そうな位減ってはいるが、それ以前は常に浮き輪を腹に巻いているかの様な状態だったのだ。

 

「ふ、ふえ〜ん。もう〜堪忍して〜つか〜さい〜」

 

アルウスの思いもよらない反撃によって、自身のプライドとか女としての尊厳とかをズタボロにされた挙句、情けない声を出し涙目で根をあげるスキズブラズニル。

 

幾分か溜飲を下げたアルウスは、スキズブラズニルを置いてその場を去っていく。

 

一人後に残されたスキズブラズニルは暫く膝から崩れ落ちたままうつ伏せになって微動だにせず。

 

様子を見守っていた妖精さん達が見かねて、幾人かが持っていた妖精印のカロリーメイトをソッと差し出した。

 

それが更にスキズブラズニルを惨めな思いにさせたが、それでも出されたものはちゃんと食うスキズブラズニル。

 

それと同時に、彼女の心の内に復讐の炎が燃え滾りいつか必ず今日の事を思い知らせてやると奮起するのであった。

 

尚その日は仕事をサボって隠し持っていた間宮さん謹製のお菓子をやけ食いし、焙煎にバレてまたこっ酷く絞られた事は割愛する。

 

 

 

 

 

 

 

 

南極大陸 そこは何処までも果てしなく続く氷の大地と、降り注ぐ雪に閉ざされた極寒の大陸。

 

有史以来、人類の生存を頑なに拒んできたこの大陸だが、深海棲艦との大戦が勃発して以降無人観測所を残すのみであり、その場所に目をつけた飛行場姫にとってある研究と実験の為の格好の場所となっていた…

 

 

 

巨大な氷の大地の上に築かれたドーム状の構造物にて、飛行場姫に連れられたル級flagshipは初めて目にする施設を興味深げに見ながら、飛行場姫の後について行く。

 

説明も何も一切されない、質問さえも受け付けないそれでガラス越しに見る実験室では何の研究が行われているのか皆目検討も付かなかったが、それでもここが何かとても重要な事を行っているのだと想像させた。

 

戦艦棲姫の元に情報を送るスパイとして潜り込んだ彼女だが、飛行場姫の信頼を勝ち取る為それこそ身を削り時に味方から罵倒されながらも、漸く飛行場姫が何を企んでいるのか?

 

その計画の一端を掴めそうだと、彼女はこの時予想していた。

 

無言で長い実験練の通路を抜け、エレベーターに乗る事10分。

 

その間、何故自分をここに連れてきたのかと言う説明も何もないままル級flagshipは黙って付いていく。

 

チーン、と音がしてエレベーターが最上階で止まり、ドームの頂点付近に設けられた全周囲を見渡せる展望フロアに出て、既にそこには幾人かの人影あった。

 

「おや?遅かったな飛行場姫」

 

エレベーターから降りて来た飛行場姫に最初に気付いた人物が、近寄り声をかけてきた。

 

(あれは…港湾水鬼さま⁉︎何故ここに?)

 

本来この場所に居るはずがない、遥か遠くインド洋一帯を支配している筈の人物が目の前に現れ動揺するル級flagship。

 

彼女が内心驚いている間に、飛行場姫は柔かな笑みを浮かべ親しげに港湾水鬼と抱擁を交え挨拶を交わす。

 

飛行場姫に比べ体格の大きい港湾水鬼と抱擁を交わすと、どちらかと言えば港湾の方が飛行場姫の方を抱え込む形となるが二人がそれを気にする様子は無い。

 

「会いたかったわ港湾水鬼、もう皆集まったのかしら?」

 

「ああ、泊地も集積もそれと中間や我らが姫も来ているな」

 

「まあ、あの娘も来ているの?それは嬉しいわ」

 

「丁度今、港湾棲姫が相手をしている所だ」

 

抱擁を終え、ル級flagshipを置いて話し始める二人。

 

しかし二人の会話の中に出て来たル級flagshipは挨拶の中で出てきた幾人もの人物の名前を聞き逃さなかった。

 

(港湾姉妹に泊地…恐らく水鬼さま、それと集積地棲姫さまに中間棲姫さままでもか飛行場姫の軍門に下っていたとは…⁉︎)

 

今挙げた名前だけでもル級flagshipは内心冷や汗を垂らした。

 

今挙げた名前だけでもそれぞれが各方面を預かる実力者達である

 

其れ等が一堂に会し、一体何を始めようと言うのか?

 

その間にも、彼女を置いて飛行場姫は他の挨拶もそこそこに言った。

 

「さあ、全員が集まった事だし、そろそろ本日のメインイベントを始めさせて頂くわ」

 

大仰な振る舞いでそう宣言する飛行場姫の声を合図に、展望フロアの窓が一部を残した閉められ、そこにいる全員にサングラスが配られ、ル級flagship以外それを不審がる事もなくつけ始める鬼、姫達。

 

ル級flagshipも訳も分からないままサングラスを付け、窓の外を見る。

 

「それじゃあ、カウントダウンを始めるわよ」

 

一体これから何が始まるのか?

 

ル級flagshipの不安を他所に、聞こえるカウントダウンの声が0を告げた。

 

瞬間、白銀の平野が光に包まれた。

 

思わず目をつぶったが強烈な光が網膜を焼き、サングラスを掛けていなければ恐らく失明したであろうそれの後に、遅れて来る衝撃波がドーム全体を揺らす。

 

衝撃波がおさまり、窓の外を見た者達から「おお」と感嘆の声が上がる。

 

その声で漸くル級flagshipが目を開いた時、窓の外には信じ難い光景が広がっていた。

 

「こ、これは⁉︎」

 

窓の外には天高く登る巨大な雲と、衝撃波によって何万年もの間降り積もった雪が吹き飛ばされ黒い地肌を晒す大地が見え。

 

あたかも一種の幻想的なそれは、強烈な破壊によって引き起こされたものだ。

 

ル級flagshipは恐怖した。

 

一体この力を飛行場姫はどうしようと言うのか?

 

一体何を考えどう使うのか?

 

それを知る為にここに居るはずの彼女だが、今はただ身を竦ませ震えるしか無かった。

 




あと一回本土で戦ったら南方に移る予定です。

そろそろこの世界じゃ相手出来ない人達もチラホラ出す予定です。

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