1話
某海域、其処では深海棲艦の大規模な侵攻艦隊とそれを迎え撃たんとする艦娘の迎撃艦隊とに分かれ互いに砲火をまじえている。
41㎝砲の轟音が轟き、海面下には魚雷が幾つもの軌跡を描き、艦載機が互いに相手より優位に立とうと激しいドックファイトを繰り広げる。
「主砲斉射後水雷戦隊により雷撃に移る」
迎撃艦隊旗艦長門が提督の指示を伝える。
「艦載機のカバー急いで、ここから先一機も通すな‼︎」
空母赤城、加賀から発艦した艦載機がエアカバーの範囲を広げんと編隊を組み果敢に攻撃を仕掛けんと深海棲艦に襲い掛かる。
「本隊の斉射後爆炎に紛れ接近、雷撃を仕掛けます」
水雷戦隊旗艦神通の指示で麾下の軽巡、駆逐艦の機関が唸りを上げ敵艦隊に肉迫する。
水雷戦隊が単縦陣を組みその頭上を砲弾が飛び越え深海棲艦の周辺に着弾、水柱と爆炎を陰に敵の左側面に回り込む。
「雷撃用意‼︎ギリギリまで引き付けてから撃て」
軽巡川内が駆逐艦に檄を飛ばし、距離を詰める。
敵の駆逐艦イ級が迫り来る脅威に気付き迎撃を試みるが既に距離は詰まっている。
「撃てぇ‼︎」
放たれた酸素魚雷が飢えた狼の如く襲い掛かる。
回避する間も無く魚雷は深海棲艦の右翼を潰乱させ陣形を乱す。
「敵の陣形は崩れた、一気に突き崩せ!」
この数時間後、突入した長門以下戦艦戦隊によって深海棲艦は撃滅された。
しかし、翌日には再び同規模の深海棲艦が出現し防衛ラインはまた一歩後退する事となった。
その半日前、ある1人の男が鎮守府の門をくぐる。
その足取りは重く進む青年は新たに提督となった新米将校である。
「ハァ、なんで俺提督何かになってんだろ?」
そうぼやく彼こと焙煎少佐は実はこことは全く異なる世界の出身所謂転生者である。
彼は気が付いたら何故かこの世界に迷い込んでおり、保護者も親友も戸籍も彼を知る者がいない世界で途方にくれ生きる事を強いられた彼は、経歴一切不問の海軍の門を叩く事になったのは単純に飯が食えるからだ。
折しも棄民政策による行政の混乱により戸籍の消失と海軍の要求する人材が兎に角数を求めていた時代、焙煎が紛れ込む隙間は幾らでもあった。
この世界は焙煎がいた世界と違い深海棲艦という脅威とそれに対抗する手段艦娘が存在し、人類の存亡を賭けた戦争の真っ最中であり、必然死にたく無い焙煎が士官学校で選んだのは主計課に戦史課、補給課。
殆どが艦娘を指揮する提督を目指し戦術課を選択する中焙煎は一人資料室に籠るだけで良かった。
士官学校に入るとまず艦娘との相性を図るテストで高い順にS〜Dにランクされ高いほど多くの艦娘を一度に出撃させられ能力を引き出しやすいとされ、殆どが最低でもCを出す中焙煎は最低のDランク。
Dでは良くても艦娘一隻を指揮するのが精一杯であり艦隊を組むなど到底無理な話である。
必然焙煎は後方勤務に回され、暫く輸送関係の事務処理に追われたが安全な本土勤務は望んでいた事だ。
あの時までは良かったと焙煎は振り返る。
だが戦況の悪化は目まぐるしく遂に今まで提督に登用していなかった者まで前線に出さざる終えないほど海軍は追い詰められ、焙煎は嫌が応なく戦場に駆り出されることとなったのだ。
着任の挨拶も早々に、焙煎は工廠へと案内され指揮する艦娘は自分で建造する様に言われた。
理由を聞けば、現在建造済みの艦娘で任務に就いていないものは無く新任の提督は持っている支給された資源で新たに建造する様にと指示を出されたらしい。
「全く手切れ金を早速使う羽目になるとはな、先が思いやられるよ」
焙煎が支給された資源は各種400ずつバケツにバーナーは無し、普通はある程度の数を建造し残りを補給と入渠に当てるが焙煎が運用出来る艦娘は一隻のみ。
必然数を揃えて盾にすることも出来ないため質に拘るしかない。
「なら方法は一つ」
焙煎は在ろう事か最低限の資源を残して全てを建造に投入した。
「最低でも重巡、最悪レア艦娘なら取引のしようもある」
焙煎が考えたのは単艦で強力な力を持つ艦娘を建造し、自身の生存率を上げると共に彼と同じ様な境遇の提督と連合を組む事であった。
周囲を見る限り彼と同じ様な境遇の提督は大半が基本に忠実な駆逐艦艦娘の建造を行い良くても軽巡クラスの艦娘が一、二隻、これでは捨て石にすらならない。
だからお互い連合を組み協力する事で戦力の強化と最終的には相互扶助組織として形にすることを目論んでいた。
「その為には周囲を納得させる為の力、つまり強い艦娘をモノにし俺が連中を掌握する。後は上手いことやって資源や戦果の分配がかりにでもなれば御の字だ」
だからこそ焙煎は祈る様な気持ちで建造完了時間を見た、一時間半で重巡は確定だが…
建造完了まで『11:59:59』
まさかの半日、一瞬見間違いかと思ったが時間は変わらず。
「まずいまずいまずいまずいまずい」
戦況は逼迫している、いつ出撃命令がくるか分からない状況で半日の建造時間は大きなロスだ。
既に建造完了した提督達が離れ始め人も疎らになっている。
「一体何なんだよこれは⁈兎に角待つしかないのか」
焙煎は半日の間悶々として工廠の周りをウロウロしているしかなく、焙煎が自分以外の提督が再度出現した深海棲艦の足止めに向かい全滅したのを聞いたのは既に夜半を過ぎたころだった。
「超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィントだ。疾風怒濤の活躍を見せてやる」
風に靡く銀髪と鋭い眼つきにしなやかな体躯をした銀狼を思わせる艦娘が工廠から出てきた。
既に時刻は深夜を過ぎ周囲に人影はない。
「まさか⁈何で超兵器がここに」
超兵器、それは焙煎がいた世界では兵器の頂点に立つ破壊の化身。
その力は大陸を割り、天変地異を引き起こし、万の艦隊をたった一隻で沈め平行世界にまで侵略する究極の兵器。
嘗て世界を二分した列強は挙って超兵器の開発に国力を注ぎ連合、枢軸に分かれ世界の覇権を巡り戦い南極の新独立国家が全ての超兵器を破壊する事で漸く戦いは終わり平和が訪れたのだ。
その超兵器がいま艦娘となって焙煎の目の前にいる。
「本当にお前はそうなのか?あの戦争で世界を焼き尽くした鋼鉄の悪魔達」
「そうだ、枢軸同盟ドイツ第三帝国大西洋艦隊所属で今はお前の艦娘と言うことになるな」
どうやら本当らしい、嘘であって欲しかったがこれはとんでもないジョーカーを引いてしまった。
これから一体どうすれば…いや、待てよ。これはひょっとするととんでもない奇貨になるかもしれない。
「…ヴィルベルヴィント、お前は俺の艦娘と言ったな?なら性能が知りたい、見せてくれないか」
「いいだろう」
《超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント》
速力80ノット
装甲防御対38㎝砲防御
兵装35.6㎝三連装砲四基
7連装魚雷発射管六基
12㎝30連装墳進砲多数
40㎜バルカン砲
新型対潜ロケット
超兵器としては平凡だがこの世界ではこいつは圧倒的な性能を持っている。
「これは…もしかしたら行けるいや確実に行ける。ヴィルベルヴィント‼︎」
「なんだ」
「お前は最高だ‼︎今までウジウジ悩んでたのが馬鹿らしい」
「そうか」
「俺とお前なら確実に生き残れる、だから俺をお前に乗せてくれ」
「何だかわからないが、私は私を使ってくれるならば何でもいいが、いいだろう。今日からお前は私の艦長だ」