月に照らされた海原を一隻の戦艦が進んでいる。
速度にして70ノット以上、最速の駆逐艦である島風が40ノットに比べ二倍近い速力でもって進んでいくその姿は、見るものを圧倒する光景であった。
「流石は超兵器だ70ノットも出して揺れ一つ無いとは」
ヴィルベルヴィントの艦橋で艦長席に座っている焙煎は、周囲を見つつそう漏らした。
「元々が超高速戦闘を目的としているからな、安定性は折り紙つきだ」
隣に立つヴィルベルヴィントは立ったまま腕を組み船を操っている。
艦娘は艤装と呼ばれる兵装を装備することで、単身海上に立ち戦闘する事も出来るが、ヴィルベルヴィントの様に船そのものを召喚し(この詳しい原理は分かっていないが一部提督らは艦娘は九十九神ではないかというオカルトじみた説を唱える者もいる)これをいとも容易く操って見せるのだ。
「これでもまだ全力じゃないんだろ?全く超兵器はとんでもない代物だな」
「だが、今やその全ては艦長、お前が握っている。期待しているぞ」
あの後、俺とヴィルベルヴィントは夜陰に紛鎮守府を出航した。超兵器の存在が上層部に露見すれば面倒ごとは免れない。
最悪いいように使われて使い潰されるか、或いは実験動物扱いかのどちらかだ。
それを避けるためにも俺とヴィルベルヴィントは、誰にも知られることなくかつ安全な場所に隠れる必要があった。
提督なんかになる前まで後方勤務時代に扱った資料の中に幾つかの破棄された鎮守府の場所が記されており、当面はそこを拠点にするつもりだ。
70ノットもの速力で進んだため、夜が明ける前に目的地に到着した俺たちは早速施設の探索を明日に回し、本日の寝床はヴィルベルヴィントの艦内で就寝した。
朝になり、ドックに入った俺たちは施設自体の探索を行ったが、破棄は随分前だがまだ生きている設備もあり当分の住処は確保出来た。
「艦長、こいつは何だ?」
施設の確認を終え、一息ついていた時ヴィルベルヴィントが片手で摘む様にして何かを持ってきた。
そいつは三頭身のデフォルメした人の姿をしており、おとなしくヴィルベルヴィントに摘まれていた。
「そいつは、多分妖精だな」
「妖精?」
「そう妖精だ、然しこの施設は大分前に破棄されて人も艦娘いないのに妖精が居るとは」
俺は不思議そうに妖精を見つめるヴィルベルヴィントに説明した。
曰く艦娘と共に現れ共にある存在、新しい艦娘の建造や改修、補給に修理、資材の加工等艦娘にとってなくてはならない存在…らしい。
「らしい?」
「いや、まあ、要は不思議生物その二だ」
因みにその一は深海棲艦だ。
「兎に角妖精がいると何かと便利だ。適当に資材を与えて仕事をやらせてみよう」
俺は持ってきた資材をから当分用もないボーキサイトを渡し仕事を頼んでみた。
「これで必要最低限の施設機能の回復を頼む、当分はヴィルベルヴィント一隻だけだから生活面を重点的にやって欲しい。足りなければここにある余った資材を使ってくれて構わないから、人間一人にヴィルベルヴィント一人よろしく頼む」
妖精さんはこくりと頷きボーキサイトを持って何処かへと消えていった。
「さて後のことは妖精さんに任せて俺たちは出航の準備に掛かろう」
施設を妖精さんに任せ俺とヴィルベルヴィントは海原を進んでいく。
俺たちの拠点となる施設は主要航路から外れた場所にあり、深海悽艦出現後艦娘が装備するレーダー機器類以外人工衛星やレーダーが無用の長物となって久しい今、昼間から出航しても俺たちの存在が露見する可能性は限りなく小さい。
「さて艦長、針路は何処だ?このまま前線に殴りこむか」
「お前の力であればそれも可能だが、同時に上の連中に目をつけられる羽目になる。当面は一匹狼ゴッコだな」
狼ゴッコ、その単語で何かを察したのかヴィルベルヴィントはニヤリと歯を見せながら笑みを浮かべた。
その容貌は牙をむく狼を思わせ、その頼もしい姿に俺も自然と口元が釣り上がる。
「で、獣道は」
「幾つか算段は付いている。後は海の神様の機嫌次第だ」
俺たちは前線のさらに奥、深海悽艦が支配する海域へと進んでいき、暫くするとヴィルベルヴィントのレーダーに反応があった。
水上機を積んでいないヴィルベルヴィントの索敵はほぼレーダー頼みだが、そこは超兵器性能は段違いだ。
「艦長、早速獲物を見つけたぞ。数は6隻、反応からして船体の大きさだな」
通常深海悽艦はよっぽどの理由がない限り所謂人形形態をとるが今回は船体で航行している、つまりはデカイ図体でいる理由がある。
「早速獲物を見つけたか、幸先がいい俺たちの初陣には相応しい相手だな。機関最大全速でも敵艦隊を強襲する」
「jawofl」
ヴィルベルヴィントの機関が唸りをあげぐんぐん速力を増していく、巡航速度70ノットから90ノットまで増速し獲物に近づいていく。
レーダー上の敵は未だ動きを見せずその間こちらはグングンと近づき主砲の射程に収めつつある。
ヴィルベルヴィントの主砲が旋回し砲口が狙いを定めた。
「艦長、目標に照準した。いつでもいけるぞ」
「護衛の船から先ずやれ、足の遅い奴は後でいい」
ヴィルベルヴィントは無言で頷き右手を敵方に向けた。
「feuel!」
水平線ギリギリのラインからの砲撃は楕円を描き敵艦隊の至近に弾着する。
漸くこちらを見つけたかマヌケな敵は船体から人形に戻る前にヴィルベルヴィントに接近され二度目の砲撃で一隻が撃沈、一隻は大破しすれ違いざまの雷撃であえなく撃沈。
敵輸送船も逃げようとするがヴィルベルヴィントの足から逃げられるわけなく三隻を撃沈、一隻を拿捕する事に成功した。
「案外呆気なかったな」
「最初期の超兵器とは言え侮って貰っては困る」
ヴィルベルヴィントは当然の結果だとばかりに頷き艦橋の窓から停船する敵輸送船を見た。
「でこいつをどうする?中身は始末したがこのまま曳航して戻るのか」
拿捕した輸送船にヴィルベルヴィントは単身乗り込み、彼女と同じ様に船を操っていた深海悽艦を始末し輸送船は海に浮かぶ鉄くずと化していた。
「そうだな、あれの中身も確認したが中々の資材量だったな、戻って施設の改修に充てよう」
「了解した、が毎回こうでは効率が著しく悪いな」
「その辺についても考えないとな、まあ今は帰るとしよう」
こうして俺たち初出撃は終わり、施設に戻ったところ俺たちは妖精さんの力をまざまざと思い知らされた。
いつの間にか増えていた妖精さんによって施設は完璧に修繕され、居住設備も整い簡易的な執務室まで整えられていた。
破棄された鎮守府は妖精さん達の手によって僅か1日足らずで整備されこれ以降俺たちは妖精もヴィルベルヴィントに乗せ出撃するようになった。
妖精さんの手によって拿捕した輸送船を送り届けてもらう、或いはヴィルベルヴィントに積替資材の備蓄は急激に伸びていった。