超兵器これくしょん   作:rahotu

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南方海域編・反乱の章
30話


30話

 

戦艦棲姫は激怒した、必ずやかの邪智暴虐な飛行場姫を取り除かなければならないと決意した。

 

戦艦棲姫はある程度政治の真似事が出来る。

 

しかしその本質は武人であり、大艦隊を率いて敵と決戦し此れを討ち果たすことを喜びとした。

 

しかしそれ以上に、人一倍同胞愛に厚い女であった。

 

それはいまだ飛行場姫に対しても、少しばかりの憐憫の感情を抱いてしまうほどだ。

 

故に禁忌の兵器を使い、しかも数多の同胞を巻き添えにした飛行場姫は、当初彼女が考えていた政治的解決をスッパリ頭の中から消え失せさせたのだ。

 

だが、戦艦棲姫がここまで怒りを露わにしたのはそれだけが理由では無い。

 

ポートモレスビー要塞を奪取し、周辺海域を確保すべく斥候を放ち、そのうちの一つがユラユラと波間に揺れる奇妙な物体を発見したのだ。

 

不審に思い、それを回収してみればなんとそれは深海棲艦であった、いや多分恐らくそうであったのであろう。

 

見つかった時、何か漂流物と見間違うほどそれはヒトの形をしていなかったのだ。

 

海の塩と汚れを洗い落として見れば、それはなんと飛行場姫の元に潜入していたはずのル級flagshipではないか。

 

彼女は見るも無残な姿に変わり果てていた。

 

四肢をもがれ、身体の至る所には拷問の跡があり、右腹部は何者かによって食い千切られ、歯形が残る半円の穴がポッカリと空いている。

 

生きているのが不思議なくらいな状態で、最早ての施しようが無かった。

 

彼女は蚊の鳴くような、今直ぐにでも尽きてしまいそうな命を何とか繋いでこう言った。

 

「ヒメサマニ…ヒメサマニオツタエシタキギガ…」

 

この時、ポートモレスビー要塞は飛行場姫の核攻撃を知り騒然となっており、誰もこの死にかけの深海棲艦を気にする余裕など無かった。

 

しかし、運良く軍医が通りかかり彼女の最後の願いを聞き届けたのだ。

 

それは既に知っていることとそうで無い事の2つであった。

 

前者は飛行場姫が核攻撃をしようとしている事であり、既にポートモレスビー要塞上空には、敵の飛行機を一機たりとも侵入させまいと戦闘機が輪をなして飛び交っていた。

 

しかし重要なのはもう一つ、彼女は最後の力を振り絞り、残る命の炎を燃やしそれを告げた。

 

『飛行場姫は南方海域最深部の人工島にいる。その地下には核兵器の製造工場が隠されている』

 

それを伝えると、戦艦ル級flagshipは息をひきとった。

 

軍医は過たず、ル級の最期の言葉を戦艦棲姫に伝えた。

 

これで彼女は、タ級に引き続き生え抜きの部下を2人も失った事になる。

 

危険な任務に送りだした事につては、お互いに了承済みであった。

 

しかし角も無残な姿で帰ってきた彼女を目にした時、プツンと戦艦棲姫の頭の中で何かの糸が切れた。

 

飛行場姫に対し残っていた一欠片の慈悲は、この時に消え失せ変わりに彼女の胸中には天を焦がすほどの増悪の炎が揺らめいていた。

 

戦艦棲姫は直ちに飛行場姫討伐の号令を発した。

 

飛行場姫の暴挙により、遂にこの日深海棲艦は2つに別れてしまったのだ。

 

 

 

 

さて一方の焙煎達だが、スキズブラズニルの会議室に主な面子が集まり今後の方策を練っていた。

 

既に敵が核兵器とそれを投射する能力を得たからには、最早当初の南極で引きこもることは不可能になった。

 

超兵器ならば核攻撃の一回や二回耐えることも出来るが、単なる生身の人間である焙煎はそうもいかない。

 

彼は自らの安全と今後の技術的戦力的優位を保ち続けるためにも、敵の核攻撃能力及びその製造能力を徹底的に破壊する必要があったのだ。

 

「聞いての通り、深海棲艦が核攻撃能力を手にした。これを放置することは、我々の安全の上で断じて看過できない」

 

焙煎は極めて強い口調でこう言った。

 

凡人が凡人たる所以の自己の生命の安全を何よりも最優先していた。

 

「敵の核兵器の威力は凡そ戦略核相当だ、主な投射手段は先の横須賀基地空襲に使用された新型の重爆撃機だ」

 

「しかしこれ以外にも核の攻撃手段を持っている可能性は大だ」

 

「我々の目標は、此方が核攻撃を受ける前に敵の核攻撃能力を徹底的に破壊する事であり、これは可及的速やかに行わなければならない」

 

ヴィルベルヴィントが焙煎のあとを継いでより詳しい説明をする。

 

「質問がある、核施設を攻撃することに異論はないが具体的な目標は決まっているのかい?」

 

とデュアルクレイターがまず最初に手を挙げた。

 

「南方海域全体でも大小合わせて無数の島々で構成されている。これを1つ1つ攻略して調べるのは結構な手間だぜ」

 

そう言ったあと、「最もやれと言われればやれるけどな」と付け加えるくらい、彼女にはその自信があった。

 

伊達に強襲揚陸艦の超兵器ではないと、言う事だ。

 

「敵の主な核投射手段が航空機であるならば、あれ程の巨人機を最低でも離着陸出来るスペースが必要だ」

 

「つまり、小島の一つ一つを虱潰しにするのではなく、ある程度狙いは絞れると言う事だ」

 

ヴィルベルヴィントは会議室に備え付けられたスクリーンを操作し、敵爆撃機の凡その能力と最低でも離陸に必要な滑走路の長さを試算した。

 

そこから導き出された数値に当てはまる島をいくつかピックアップする。

 

「それでも結構な数ですことね。相手の妨害があることは当然として、こちらも戦力を分散する必要がありますわね」

 

実際アルウスの言う通り、広範囲に広がった目標に対しこちらも手を広げねばならなかった。

 

しかしそれには1つ問題があった、スキズブラズニルの守りをどうするか、である。

 

スキズブラズニルは言うなれば本丸、如何超兵器が圧倒的な力を持っているとはいえ、補給も整備もなくては戦えない。

 

しかも今回の作戦の根底には、スキズブラズニルを核攻撃から守ると言う絶対条件が存在する。

 

守りを疎かにしてスキズブラズニルが万が一にでも核攻撃されれば、それだけで此方の敗北が決まってしまうのだ。

 

「目標が広範囲に広がっている以上、アルウスの航空能力は必須だ。守りに使う事は出来ない」

 

「私も、敵が単なる水上艦艇や潜水艦ならまだしも、航空機の相手は少し難しいですね」

 

シュトゥルムヴィント、ドレッドノートの2人の意見に対し、播磨もまた同意した。

 

「流石に砲弾が届かない上空から核を落とされたら、ひとたまりもありませんわ」

 

こんな時にアルケオプテリクスがいればと、何人かの超兵器がそう思った。

 

今は横須賀基地近郊の飛行場にいるアルケオプテリクスならば、防空は勿論のこと南方海域の島々などあっという間に灰燼に帰す事が出来る。

 

最も、今ここにいない者の事を考えても仕方がない。

 

今ある戦力で、出来る事をやるしかないのだ。

 

結局、ある程度防空用の戦力を残しつつ、全力で強襲する事に方針が決定しそうになった時、慌てた様子で妖精さんが会議室に転がり込んできた。

 

その只ならぬ様子の妖精さんの口から、衝撃的な言葉が飛び出した。

 

『南方海域の全域で、深海棲艦同士で争いあっている。奴らはお互いに戦い合いながら奥地を目指している』と。

 


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