超兵器これくしょん   作:rahotu

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32話

32話

 

南方海域の空は黒点で埋め尽くされていた。

 

黒い鳥を思わせる異形の戦闘機が、自分と同じ形をした戦闘機を追いかけ回し、あるいは追い回される。

 

空からは陽の光や雨のかわりに互いに撃墜された機体の破片が海にふりそそぐ。

 

海でもまた、空と同じ様にいやそれ以上に黒と黒とが互いに激しくぶつかり合っていた。

 

イ級がヲ級の腕に噛みつき、重巡が戦艦をなぐりとばし、そうかと思えば圧倒的な火力が群がる相手を薙ぎ払う。

 

深海棲艦史上初の互いを互いの敵とした大規模な内乱は、南方海域の彼方此方で繰り広げられていた。

 

戦う者、逃げる者、追う者、追われる者、様々な感情が渦巻き合う戦場は、しかし奥地へと移動しながら続いていた。

 

飛行場姫が構える人工の島、その本拠地こそ互いの決戦の場であった。

 

さてそうは言うものの、このまま行けば戦力的な面では飛行場姫が優位である。

 

如何に戦艦棲姫が各地の蜂起戦力を吸収しようにも、それらは所詮烏合の集であり、いまだ飛行場姫の元には親衛艦隊たる正規軍が残されていたからだ。

 

決戦となれば、正規軍対反乱軍の構図となり、どれ程戦艦棲姫側の数が多くとも士気規律の取れた相手には敵わない。

 

本来ならばこの正規軍に時間をかけて内応を呼びかけたいところだが、核をにぎる相手に時間をかけられないこともあり、結果として戦艦棲姫は不利な状況で戦わざるを得なかった。

 

これを全て承知で核兵器の使用に踏み切ったとなれば、飛行場姫は中々の策士と言う事になる。

 

しかしどんなに緻密な策略も、時として単純な力の前に覆される事は歴史が証明していた。

 

 

 

 

 

一旦南方海域を南に離脱した焙煎と超兵器達であったが、彼等は針路を反転し北上した。

 

この焙煎の動きは深海棲艦にとって予想外であった。

 

より正確には、核兵器使用と反乱とでそれらを気にする余裕が無かったのだ。

 

つまり偶然にしろ必然にしろ、焙煎達は最高のタイミングで横殴りに成功したと言える。

 

ヴィルベルヴィントを頂点とし矢尻の形に陣形を組んだ超兵器達は、圧倒的な速力でもって敵陣に突入した。

 

41㎝砲が、魚雷が、ロケットが、ミサイルが後退する深海棲艦達に突き刺さる。

 

超兵器達の最初の犠牲となった哀れな深海棲艦達は、自らに起こった悲劇を自覚する間も無く海の底へと還っていく。

 

脇腹を抉り取られた敵艦隊の穴に、今度は超高速戦艦達の影から飛び出した播磨が突入し、挨拶がわりの全門一斉射をみまう。

 

単艦で戦艦一個戦隊に相当する火力が、情け容赦なく深海棲艦に叩きつけられた。

 

51㎝の巨弾が一直線に飛び、その進路上にいた物を叩き潰していく。

 

竜骨を砕かれ、船体を叩き折られ、先程まで人型だった物体が黒と赤が混じった挽肉へと変貌する。

 

そのたったの2撃により、撤退していた部隊の一角を崩された飛行場姫側の深海棲艦達は潰走へと転じた。

 

まさかのタイミングでの超兵器による奇襲は全ての深海棲艦達を驚かせたが、しかし超兵器達の攻撃はこれで終わらない。

 

ヴィルベルヴィント達と播磨により戦線に大穴を開け、そこへすかさずアルウスが無限とも思える航空機を展開したのだ。

 

制空権争いは突如出現したアルウスの航空機により一転し、今や空を飛ぶのはアルウスの艦載機のみと言う有様である。

 

空母型超兵器の超兵器たる所以、その圧倒的な面制圧能力を発揮したアルウスは、無数の航空機を操り戦果を拡大していく。

 

そうして確保した広大な海域は、超兵器達が自由に動くことが出来るスペースを確保していた。

 

「さあ、お膳立ては立てましたわ」

 

此処までの事は、言うなれば超兵器達にとってダンステーブルの上を片付けたに過ぎない。

 

超兵器は個々が圧倒的な力を持つが故に、それに追従出来る船は存在しない。

 

例え同じ超兵器であっても、同一の戦場に超兵器を2隻以上投入する事は、お互いが相手の邪魔をしてしまい力が半減してしまう。

 

それ故、先の北方海域において慣れぬ艦隊行動をとったが為に超兵器達は敵に遅れをとったのだ。

 

では今回はそれをどうするのか?

 

「矢張り、この方が我々に相応しいな」

 

「やっと首輪を外せるか、姉よ良いな?」

 

シュトゥルムヴィントが頬を釣り上げ、凄惨な笑みを浮かべながら身体から青白い光を放つ。

 

超兵器の心臓部たる超兵器機関のリミッターを外し、超兵器本来の力を解き放った。

 

そして今回はシュトゥルムヴィントばかりではない、次々と他の超兵器達も己に課していた枷を解き放つ。

 

「この感触、久しく忘れていた…」

 

「ああ、やはり良いですわこれは」

 

「ふふふ、今度こそお姉様と同じ戦場を…」

 

「力が…溢れる。これが本当の私」

 

「ああ身体が火照って仕方があらしませんなあ〜」

 

普段冷静なヴィルベルヴィントは、感慨深げに己の身体の奥底から湧く力を確かめる様に呟き、アルウスは恍惚とした表情を浮かべている。

 

ヴィントシュトースはいま己れが敬愛してやまない姉と同じステージに立てたことを素直に喜び、海中ではドレッドノートが顔を赤らめ初めての力の解放に身悶えした。

 

そして播磨はこの中で一番力の影響を受け、頬は蒸気し着物から覗く肌は艶かしく濡れている。

 

より超兵器としての力が強いものほど、それによってもたらされる高揚感は強いのだ。

 

言うなれば、ある種の快感を得ていると言っていい。

 

無論これらの変化は何も彼女達の身体だけではない、複数の超兵器達が集まり同時にその力を解放したのだ。

 

その影響は周囲の環境にさえ及び、海は超兵器機関から漏れる波動によって荒れ狂い始め、さっきまで快晴であった空は曇り雷鳴が鳴り響く。

 

空間の一部にさえ左右するそれは、巨大なノイズがまるでハリケーンの様に南方海域に広がる。

 

力の波動は空を伝わり、海を越え遠く深海の奥深くにまで届く。

 

「…そう、やっぱり貴方達は闘うことを辞められないのね」

 

この世界で最も暗く深い海に鎮座するアームドウィングは、1人静かにそう呟く。

 

此処から先は、最早誰にも止められない純粋な力の暴力が始まる事を彼女は誰よりも知っていたのだ。

 

そして、唯一それを制御できる筈であった存在、焙煎に対し彼女は落胆していた。

 

「所詮、ヒトは自ら禁忌を破る生き物ね」

 

一度鎖から外れた獣が世界にどの様な影響を与えるのか、これから焙煎はそれを思い知る事となる。

 

 

 

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