超兵器これくしょん   作:rahotu

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36話

36話

 

南方海域奥地、目指すべき場所を目前に控え超兵器達は奇妙な静けさの中にいる。

 

其々が思う様暴れた事で、周辺の敵を一掃してしまった事もあるが、そうでなくとも奇妙な静寂が彼女達を包んでいた。

 

この様な体験を、彼女達は元の世界では幾度となく繰り返してきた。

 

そうして、こう言った場合俗に言う嵐の前の静けさ静けさなのだ。

 

ヴィルベルヴィントを皮切りに、一旦暴走を抑え込んだ超兵器達は、半ば本能的に此れから何が来るか分かっていた。

 

ポツリと、先ほどまでそこにいなかった人影がヴィルベルヴィントの視界に入る。

 

浮かぶものは目につく限り全て沈めてきた超兵器達にとって、今まさにその眼前に現れただけでもその異常性はわかろう。

 

それは、今まで見たどんな深海棲艦とま違っていた。

 

小柄の身体に黒いフードを被っており、その身長を比べても自分達の半分にも満たなかった。

 

凡そ戦艦や空母ではない、見た目からは駆逐艦クラスにしか思えない。

 

だがしかし、その身体から漏れる気配は駆逐艦のそれでは無かった。

 

いや、今まで対峙してきたどんな深海棲艦よりも、禍々しく狂気と力に満ちていた。

 

恐らく、その力は自分達が葬ってきた鬼・姫クラスに匹敵するか一部では上回っていよう。

 

ふと、ヴィルベルヴィントは目の前に佇む相手の影が異様に太く長いのに気がついた。

 

波間の揺れにより錯覚かと思われたが、その瞬間ヴィルベルヴィントの背中にゾクリとした感触が走る。

 

「っ!?」

 

ヴィルベルヴィントは全力で水面を蹴り、その場から飛び去る様に後退した。

 

そして突如として自分と相手との間を黒い何かが覆った。

 

ヴィルベルヴィントがさっきまでいた場所から、水柱と共に現れた黒いそれはヴィルベルヴィントの方を向いて威嚇するかの様に、鋭い歯を何度も噛み合わせた。

 

黒い首長竜を思わせるそれは、よく見れば胴体があの小柄な深海棲艦の足元まで続いていた。

 

恐らく、深海棲艦特有の生物的特徴を併せ持った特殊な艤装の一種に違いない。

 

ヴィルベルヴィントがその場を飛び退くのがあと少しでも遅れていれば、アレに噛み付かれていたかも知れない。

 

本来超兵器の装甲は、並大抵の攻撃などどうとでもない。

 

まして、原始的な噛み付き攻撃などでは艦娘の様に生身を晒しているのなら兎も角、全身を装甲服で覆われている彼女達超兵器に通用するはずがなかった。

 

しかし、ヴィルベルヴィントは本能的に受ける事ではなく避ける事を選択したのは、相手が未知な事もあったがそれ以上に今までの相手とは違うと見抜いたからだ。

 

(様子を見るか、いやこれ以上時間はかけられないな)

 

初見の相手となれば、慎重なヴィルベルヴィントは普段ならば様子見に徹したであろう。

 

しかしながら、彼女達は今一刻も早く敵核施設を破壊すると言う任務を負っている。

 

いたずらに、時間を浪費することは許されなかった。

 

「悪いが、速攻で潰させてもらう」

 

ヴィルベルヴィントは高性能レーダーと連動した主砲の41㎝三連装砲をいきなり発射した。

 

大気を震わせる轟音が鳴り響き、風切り音と共に12発の砲弾が水を切って小型の深海棲艦に殺到する。

 

砲数ならば長門型の1.5倍、ましてヴィルベルヴィントのそれは長砲身であり発射速度も合わさってその威力はかつての大和型に等しい。

 

しかもドイツ製の高性能レーダーと連動している事もあり、その正確な狙いは過たず目標を狙い撃つ筈であった。

 

しかし…。

 

またしても、ヴィルベルヴィントの視界を黒い壁が覆った。

 

ヴィルベルヴィントから発射された砲弾は黒い壁に弾かれ、目標の遥か手前で叩き落とされる。

 

先程の首長竜が、驚くべき速さで戻りその圧倒的な質量で小柄の深海棲艦を庇ったのだ。

 

その全てを見たヴィルベルヴィントは、己の失策を認めた。

 

(成る程、アレは単に生物的な動きが出来る艤装ではなく、艤装そのものが生物なのか)

 

ヴィルベルヴィントは速攻を狙って、艤装を無視して本体の方に攻撃を集中してしまい、結果として艤装に防がれてしまった。

 

これは、深海棲艦の一部が保有する生物的な艤装に対して、知識はあっても実際に対峙した経験がない事から生じた、言わば初見殺しである。

 

ヴィルベルヴィントは一対一の戦いと思っていても、向こうにして見れば実は二対一の戦いであった。

 

こうなるとヴィルベルヴィントが不利に見えるが、しかし彼女に焦りはない。

 

(まあ、こうなることを見越して布石は打っておいたがな)

 

小柄の深海棲艦はヴィルベルヴィントからの砲撃を防いだのもつかの間、いつのまにか自分のすぐ近くにまで魚雷が接近していたことに気付く。

 

ヴィルベルヴィントは予め砲撃に紛れさせて魚雷を時間差で発射しておいたのだ。

 

これは今本土で暇を持て余している筈の、超巨大爆撃機ことアルケオプテリクスが行なった攻撃方法を真似したものである。

 

戦艦という艦種のため航空攻撃が出来ないヴィルベルヴィントだが、砲撃と雷撃による時間差攻撃によって擬似的な空中水中攻撃を演出したのだ。

 

今相手は艤装を手元に戻した為、足元が完全にお留守になっていた。

 

今から防ごうにも、最早間に合うまい。

 

ヴィルベルヴィントは、この時勝利を確信していた。

 

だがしかし…。

 

ニヤリ、と相手の口元が笑った様な気がした。

 

ヴィルベルヴィントは何がおかしいと、気でも狂ったのかと思ったがそうではない。

 

突如として、首長艤装の胴体の部分が開いたかと思うと、そこからいくつも小さな機銃が現れるではないか。

 

しかも、それは艦娘が装備する機銃の様に妖精さんが直接操作するそれではなく、明らかにそらよりも技術が数段進歩したものであった。

 

胴体から無数のマズルフラッシュが起きたかと思うと、敵に向かっていた魚雷を次々と撃ち抜き目標の寸前でいくつもの水柱が立ち昇る。

 

ヴィルベルヴィントが呆気に取られている間に、40本余りの魚雷全てが破壊されていた。

 

魚雷が破壊され水中で爆発したことで発生した水柱は、高く高く天まで上がったかと思うとやがて重力に引かれて海に戻っていく。

 

それらは局地的なスコールを発生させ、太陽の光に照らされてまるでキラキラと輝く光のカーテンの様に見える。

 

深海棲艦は、ヴィルベルヴィントの事をまるでそこにいないかの様に無視して、その幻想的な光景に目を奪われキャッキャッとはしゃいでいた。

 

そこだけ見れば見た目相応の子供らしさも感じられたが、先程見せた攻防によってヴィルベルヴィントはこの相手に対して一切の油断が吹き飛んでいた。

 

「その防御方法…キサマどこで習った!」

 

そう聞いて、答える様な相手ではない。

 

最もヴィルベルヴィントとて返事を期待した訳ではないが、しかし相手の脅威度が数段上がったのは確かである。

 

(通常雷撃は回避するよう動くものだ、しかし奴は一切回避するようなそぶりを見せず、逆に艤装の武装と性能に頼って全て破壊した)

 

こんな芸当ができるのは、ヴィルベルヴィントの長い戦歴の中でもただ一人。

 

(第0…遊撃艦隊、あの超兵器ハンターがこの世界にいるのか!?)

 

超兵器の絶対無敵不敗神話を破り、遂には列強全てを打ち滅ぼした最強にして最凶、最恐最悪の悪魔。

 

憎むべき怨敵にして絶対に超えられないバケモノ、その相手が果たしてこの世界に来ているのだろうか!?

 

 

 

 

 

「うげぇっ」

 

静寂な海を突如として突き破る汚い嗚咽の音が響く。

 

音を出した本人であるアルウスは身体を傾け、顔中に渋面を浮かべながらも渋々といった仕草で口の中に白く美しい肌を持つ手を入れた。

 

「おえっぷ」

 

到底乙女があげるようなものではない声を(乙女であっても生娘ではない、処女航海はとっくの昔に済ませている)あげ、アルウスは腹の中なの物を海にぶちまける。

 

黒く滑りとしたそれは、アルウスが発狂状態の時に取り込んだ深海棲艦の残骸である。

 

何故こうなっているのかというと、暴走状態の時足りない航空機整合用の資材を求めた時、リサイクルがてら周りの敵の残骸を取り込んだのはいい。

 

しかしその方法が、余りにエキセントリックだったのだ。

 

何と彼女はあろう事か暴走状態とは言え、解体の手間を惜しんで直接経口摂取で残骸を取り込み、それらを体内で資材に生成し直して航空機を製造していた。

 

艦娘の様に肉体と艤装が別ではなく、直接繋がっているからこそ出来る芸当だが、到底上品な行為とは言えない。

 

時に兵士は生き残るために、泥水を啜り敵味方の血を吸う事さえ辞さないが、彼女のそれはいかに暴走状態であったとは言え流石に常軌を逸していた。

 

(全く…無様です事。この私が、あんな真似をしてしまうなど…)

 

アルウス本人もそれを自覚し、顔面を蒼白にし脂汗を肌に浮かべながらも、何とか身体の中の異物を書き出していく。

 

逆流した油混じりの胃液が発する腐臭と饐えた臭いに鼻を曲げながら、アルウスは暫し身を傾けたままであった。

 

漸く、体内に取り込んだ残骸を全て吐き出し終え、ふと空を見上げれば千を超える航空機が輪をなしてアルウスの頭上を飛び交っていた。

 

よく見れば、飛んでいる機体の所々には赤黒い破片や模様が混じっており、それらが何を由来にして作られたのかをまざまざと物語っている。

 

「ちっ」

 

アルウスは口元を拭いながら舌打ちを一つうち、右手の人差し指を上から下へと振り下ろした。

 

空を飛んでいた航空機は、まるで指揮者のタクトに従うが如く、次々と海へ堕ちていく。

 

さしもの超兵器も、敵の遺体が混じった艦載機をそのまま受け入れる事は憚られたのだ。

 

アルウスは、己が侵した罪を隠す様に空を飛んでいた全ての航空機を深い海の底に沈めた。

 

そうして全ての汚点を拭い去った結果、アルウスは己が矛と盾である航空機の大半を失う。

 

本人としては汚い汚物を処理したつもりかもしれないが、辺り一帯は静寂に包まれているとは言えここは戦場。

 

一つの油断で状況が変わってしまうことを、北方海域から彼女は何も学んではいなかった。

 

そして、その代償を直ぐに彼女は支払うこととなる。

 

「っ!」

 

咄嗟にアルウスは腕を交差し己の身体を護った。

 

次の瞬間、この世界に来て今まで感じたこともない程の衝撃が彼女の身体を走る。

 

(砲撃、でも何処から…!?)

 

自分が何処からか攻撃を受けた事は確かだが、しかし油断していたとは言え周囲に敵影は無かったはず。

 

考えられる事として、ドレッドノートの様な潜水戦艦の可能性が彼女の頭を過る。

 

しかし攻撃のさの瞬間まで、彼女のソナーは敵の兆候を一切掴めずにいた。

 

(一体どうやって…!)

 

アルウスの疑問の答えは、彼女の直ぐ目の前に現れた。

 

水中から姿を現したそれは、太く胴の長い首長の竜を思わせる黒い艤装であり、その頭部には巨大な砲塔が載せられている。

 

そしてその直ぐ脇に、まるで巨大な首長竜に寄り添う様に小柄な黒いフードを被った深海棲艦の姿があった。

 

ヴィルベルヴィントの前に現れたのと同様の、新型の深海棲艦がアルウスの前にも現れたのだ。

 

「ふん、中々面白い手品を使いますことね」

 

といきなり奇襲を受けたのにも関わらず、アルウスは余裕の態度を崩さない。

 

しかしそんなアルウスの本心を見抜く様に、小柄な深海棲艦はフードの中でニヤリと口元を歪める。

 

(ちっ、気に入りませんことね)

 

アルウスは相手の態度に多少苛立ちを感じていたが、しかし本人が言うほど彼女も無傷と言う訳では無かった。

 

アルウスの巨大な飛行甲板、そこには先程の攻撃でできた穴が開けられていたのだ。

 

彼女の飛行甲板は敵の反撃に備え超兵器の大排水量に任せて重装甲化が施されており、43㎝迄の砲撃に耐えられる。

 

深海棲艦の戦艦が保有する最大の口径が16inch、凡そ41㎝砲と同等と考えるとアルウスの飛行甲板は小揺るぎもしない筈であった。

 

しかしその常識は今や完全に崩され、無敵に思えた超兵器の装甲には確かなダメージの痕が残っている。

 

嘗て、大日本帝国海軍が開発した46㎝砲と同等かそれ以上の砲でなければ出来ない芸当であった。

 

これによりアルウスは艦載機の離着艦が不可能となり、事実上航空母艦としての能力を封ぜられたのだ。

 

艦載機を発艦できない空母など唯の置物、だからこそ小柄な深海棲艦はフードの奥でアルウスの強がりを笑った。

 

「超兵器と言えど、今更お前に何が出来る?」

 

そう口に出さずとも、ギラつく両の眼がそう伝えてくる。

 

確かにアルウスは並みの戦艦を上回る重武装が施されているが、しかし純粋な戦艦と比べるといささか部が悪い。

 

だが、あくまでもアルウスは余裕の態度を崩さない。

 

自分にとってこの程度ハンデにするならないと、彼女は虚勢ではなく本気でそう思っているのだ。

 

「たかが艦載機を使えなくした程度でいい気にならないとですことよ?超兵器はそんじょそこらの兵器と同じではない事を、証明して差し上げますわ!!」

 

アルウスはスカートの中から40.6㎝三連装砲を取り出し、同時に無事な艤装の主砲と共にその砲口を小生意気な深海棲艦に向ける。

 

相手もそれに応じて首長竜の砲塔がアルウスに向き、次の瞬間互いに激しい砲火の応酬が始まる。

 

 




レっちゃん登場回。

勿論強化済み。

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