超兵器これくしょん   作:rahotu

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38話

38話

 

レ級の出現により各地で足止めを余儀なくされた超兵器達。

 

当初の目的と異なり、電撃的に敵本拠地を強襲するという目論見は既に破綻してしまった。

 

しかしその一方で、戦線を大回りした戦艦棲姫率いる反乱軍は飛行場姫の本拠地のすぐ喉元まで近づいていた。

 

「クソ、奴ラモウコンナ所マデ!?」

 

「喋ッテイル暇ガアッタラ、サッサト手ヲ動カセ!!」

 

後退し、撤退の途中であった親飛行場姫側の艦隊だが、本拠地を目前にして等々戦艦棲姫達に捕捉されてしまったのだ。

 

戦艦棲姫側からは猛烈な砲爆撃が加えられ、制空権さえ劣勢な今彼女達の士気はドン底をつこうとしていた。

 

「モ、モウ嫌ダ!私ハ逃ゲルゾ」

 

「私モダ!」

 

「待テ貴様ラ持場ヲ離レルナ!!」

 

我先に逃げようとするもの、或いは戦艦棲姫側に降伏しようとするものが現れ始め、それを押しとどめようとするもの達はそうでない者と比べて圧倒的少数であった。

 

「無駄ニ殺スナ、目的ハ飛行場姫ヨ」

 

駆逐棲姫は敵が崩れ始めるのを見て、部下にそう命じた。

 

これ同族殺しを嫌ったのではなく、単に敵を必死にさせない工夫であった。

 

如何に雑兵とて、死を覚悟すれば窮鼠となる事を彼女は知っていたのだ。

 

実際これは当たっており、不利と見た敵が次々と降伏するか或いは逃げ出し始めており、一部では同士討ち紛いの事も始まっていた。

 

「姫サマカラノ増援ハマダカ!?コノマデハ戦線ガ崩壊シテシマウ」

 

いまだ戦艦棲姫の軍門に屈せぬ者や飛行場姫側の者達は、自分達の周囲が敵に取り囲まれる恐怖を味わいながら祈る様な気持ちで叫ぶ。

 

この時、飛行場姫の本拠地には彼女の親衛艦隊が残っていた。

 

本来この精鋭と合流し、反乱軍を一挙に殲滅するはずが超兵器の出現によりその計画が崩れてしまい、結果として飛行場姫は予備兵力投入の機を逸してしまったのだ。

 

飛行場姫の方も、この時残存艦隊を救うべきかどうか悩んでいた。

 

離島棲鬼は重爆撃機隊を使う事を進言したがそれを飛行場姫は却下した。

 

如何に優れた航空戦力が有ろうとも、敵の優勢な制空権下に爆撃機を護衛もなく送り出すことはできない。

 

護衛をつけようにも、重爆撃機の長大な航続距離がこの時かえって仇となりこれに追従出来る機体は無かった。

 

そもそも支えるべき戦線が崩壊しつつある今、海上に広範囲に広がる反乱軍艦船を爆撃機だけで阻止することは現実問題不可能なのだ。

 

あくまでも航空戦力は、それを支える戦線の保持があってこそ有効に機能するものなのだから。

 

こうして、戦艦棲姫率いる反乱軍により飛行場姫側は戦力をすり減らされる一方であった。

 

 

 

 

 

 

 

南方海域の海、飛行場姫と戦艦棲姫率いる艦隊が凌ぎを削り、またその一方では超兵器とレ級が激しい干戈を交える中、その戦場は静寂に包まれていた。

 

水中に身を横たえる様に静かに揺蕩うドレッドノートは、身じろぎ一つもせずまるで海の流れと同化する様に静かに潜行していた。

 

海上ではレ級も同じく静かに海上に佇みながら、腕を組んでジッと何かを待つ。

 

潜水艦と戦艦、この土台が違う両者の戦いは他とは違い静かに進んでいた。

 

最初に相手を見つけたのはドレッドノートの方であった。

 

倒すべき敵を殲滅し終え、超兵器機関の暴走を抑えるべく海中でクールダウンを行なっている最中、海上で聞き慣れぬ奇妙な音紋を察知した事に始まる。

 

潜望鏡を上げて周囲を索敵し、海上に一隻だけ航行するレ級を発見したのだ。

 

この時ドレッドノートは敵がなぜ一隻なのかと訝しみながらも、邪魔をするならば撃沈してやろうと魚雷による攻撃を試みようとした。

 

潜望鏡を下げ攻撃を仕掛けようしたその瞬間、ドレッドノートは確かに敵の口元が歪むのを見た。

 

(アレは何なの?もしかして…!)

 

ドレッドノートは攻撃を中止し急ぎその場から急速潜行を図る、と同時に海上から幾つもの着水音を確認した。

 

脇目も振らず全速力で海底を目指すドレッドノート、一瞬の間を置いて後方で幾つも爆発音と共に衝撃波が彼女を襲う。

 

潜行する彼女を四方八方から海中を伝わる衝撃波が襲い、身体を揉みくちゃにされるドレッドノート。

 

「くっ!」

 

それらの衝撃に歯を食いしばって耐えるドレッドノートは、船尾魚雷発射管から幾つものダミーやジャマーをばら撒く。

 

これらのダミーが発する音はドレッドノートから遠く離れる様に四方に散り、その間に安全圏に脱したドレッドノートは海中で漸く一息ついた。

 

(今は余り、無茶をさせたくはありませんが…)

 

ダミーを操作しながら、ドレッドノートは心の中でそう呟く。

 

超兵器機関の暴走は超兵器に途方も無い力を授ける一方で、その身体と機関そのものに多大な負担をかける。

 

特に長時間の使用は船体が崩壊する危険性もあり、元の世界の時機関の暴走を制御しきれず乗員諸共消滅した超兵器もいた。

 

その愚を繰り返さぬ様に、超兵器機関にはある程度リミッターがかけられており、それ以外にも何重にも安全装置が取り付けられている。

 

しかしそういった事をしても万全ではなく、特に今回は同時複数の超兵器機関暴走による共鳴と言う元の世界では考えられない事が起きた結果、それら安全装置が全く作動しないという事態に陥ったのだ。

 

そこから復帰できたのは半ば奇跡といっても差し支えないが、本来であれば大事をとって一度スキズブラズニル総点検を受ける必要があった。

 

暴走がおさまった直後は機関出力そのものに影響が出て出力が低下し、本領を発揮出来ない今戦闘はなるべく避けるにこしたことはない。

 

(身体は…暫く持ちそうですが手早く終わらせてくれる相手か…)

 

ドレッドノートはダミーを操りながら、慎重に潜望鏡を上げて周囲の様子を探る。

 

敵は、ダミーに気が取られているのか其方の方を向いているが、問題はその周囲を囲む様に飛んでいる存在だ。

 

曲面を多用し黒光りするそれは、深海棲艦が使う艦載機に似ていたがしかし決定的に違っていた。

 

虫の羽の様に小刻みに羽ばたいてホバリングするそれは、明らかにヘリコプターである。

 

機体から何かを吊り下げ海中の様子を探っている事から、恐らく対潜ヘリであるそれは形状から察するに驚くべき静粛性を持っている様に思えた。

 

(ヘリのローター音は構造上どうしても周囲に騒音を撒き散らしてしまう。しかし虫の羽を模したアレはその問題をかなり解決している)

 

ドレッドノートが推察する通り、深海棲艦の技術は一部でかなりの進歩を遂げていた。

 

それは超兵器と言う新たな脅威に対抗するため、深海棲艦が進化を遂げたと言う事である。

 

ドレッドノートは更に注意深く敵を観察するに、敵がどうやって攻撃するのかも目撃した。

 

レ級の生態艤装部分、その口の部分から無数のロケット弾が飛び出し広範囲をカバーする様に攻撃するのだ。

 

一発一発の威力は低くとも、広範囲に大量にばら撒かれるそれは潜水艦にとって大きな脅威である。

 

(アレは、祖国のヘッジホッグと似ている…皮肉なことな、まさかアレの獲物になるなんて)

 

ヘッジホッグとは元の世界、列強同士の大戦が勃発したおり大英帝国が開発した対潜兵器の一種である。

 

その優秀さから連合国艦に大量に配備され、初期の対潜戦闘を支えた名兵器であった。

 

事実先程の爆雷も、あと一瞬判断が遅れていたならば超兵器と言えども無事では済まなかったはず。

 

1000mもの深さの水圧にも耐えられるドレッドノートの強固な外殻とは言え、潜水艦の宿命か内部はそうもいかないのだ。

 

万が一にでも彼女のウィークポイントである船尾にでも被弾すれば、それこそ敵前で浮上するという事にもなりかねない。

 

無論ドレッドノートは単なる潜水艦ではなく、常識を外れた超兵器として戦艦の主砲も装備する水中戦艦と言う面もある。

 

強力な38.1㎝4連装砲は並みの戦艦など相手にならない、しかしこの時ドレッドノートは潜望鏡を上げた際ヴィルベルヴィントが味方に向け量子通信で発信した敵の情報を受け取っていた。

 

敵と戦闘中もデータを送り続けているのは、実に彼女らしいと言えるがその中にドレッドノートに険しい顔をさせる幾つかの物があった。

 

第一に敵の強力な主砲の存在、恐らく46㎝以上は間違いないとしてその威力はドレッドノートの装甲を容易に撃ち砕けると言う事実。

 

第二に敵の強固な防御兵装であり、ヴィルベルヴィントから発射された40本余りの雷撃を全て迎撃し、一部ではミサイルさえ撃墜して見せたと言う。

 

第三にこれら深海棲艦の新型は、明らかに超兵器を意識して有効な対抗戦術を組んでいると言う事である。

 

(此方に対する徹底的なメタ張り、まるでアノ艦隊の様ですね…ですが!)

 

自分とて超兵器の端くれ、兵器の常として自分に対抗するモノが生まれることなど承知のこと。

 

「いいでしょう、本当の潜水艦の戦いというものをご覧に入れましょう」

 

ドレッドノートは暗く深い海の底で、頬を釣り上げ凄惨な笑みを浮かべながらそう言った。

 

その姿はまるで、海の魔物の様であった…。

 

 


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