俺とヴィルベルヴィントが深海棲艦相手の通商破壊の真似事をして3週間が経った。
その間施設は今やかつての完璧な姿を取り戻し、倉庫には通商破壊で得た大量の資源が山積みとなって保管されている。
超兵器であるヴィルベルヴィントは心臓部である超兵器機関によって燃料の心配はなく、半永久的に動くことができかつ、今まで殆ど被弾をしてこなかったので鋼材にも余裕がある。
唯一砲弾類の消耗は補給しなくてはならないが、資材さえあれば砲弾だろうがミサイルだろうが補充がきくのは有難かった。
今の所使い道のないボーキサイトだがヴィルベルヴィントは水上機を載せることができず、精々施設周辺の哨戒用に作った何機か以外航空戦力はなかった。
「ここまでは上手く行った、が問題はここからだ」
施設が破棄される前、執務室として使われていた場所と同じところで、日々の報告やお偉方向けの偽装書類を作っていた俺は今後の展望をすと頭の中に浮かべた。
現在戦力はヴィルベルヴィント一隻のみ、施設自体の防衛力が低いから実質ヴィルベルヴィントが通商破壊破に出ている間はここは丸裸同然、防衛用の艦娘を呼ぼうにも俺の提督適正ではヴィルベルヴィント一隻が限界。
仮にヴィルベルヴィントがいない時に敵が来たら無抵抗でここを更地にされるだろう、そうならない為にも施設自体の防衛力を上げる必要があるのだが…
「ダメだ、如何しても資質というファクターがクリア出来ない」
ヴィルベルヴィント曰く「俺がいた世界と今の世界は俺を通して繋がっているらしい」だからヴィルベルヴィントを呼び出すことが出来たが、通常の艦娘が一隻運用出来るのが精々の適正で超兵器をもう一隻など自殺行為でしかない。
最悪深海棲艦などでは無く、呼び出した超兵器によって世界が滅びかねない。
「せめて施設が移動できればな、いや待てよ…確かあっちでウィルキアとかいうシベリア沿岸の国で超巨大ドック艦の建造計画があったな」
前の世界の記憶を頼りに焙煎はあるアイディアを思いつく。
「そうスキズブラズニルこいつを建造出来れば」
早速意気揚々と執務室を飛び出し、妖精さんに巨大ドック艦の建造を高速建造材込みで命じた後、執務室にきたヴィルベルヴィントが一言、
「そもそも超兵器は艦娘適正など関係ないぞ?知らなかったのか」
こうして俺は新たな超兵器の建造を行い、我が艦隊に二隻の超兵器が加わることとなった。
なおドック艦だけでも建造に要した資材は、3週間かけて集めた資材の大半を消費為尽くし、新たに重巡、戦艦レシピで二回まわしたことで元の貧乏生活に戻ったことを追記しておく。
「超高速重巡洋艦 蒼き突風ヴィントシュトース、重巡だからとて侮るなかれ」
「超高速巡洋戦艦シュトゥルムヴィントだ。烈風の名伊達ではないことを見せてやろう」
蒼い髪を短く束ねたスリムな体型のヴィントシュトース、ヴィルベルヴィントと同じ銀髪で何処と無く顔が似ているスレンダー美人シュトゥルムヴィント。
前の世界では二隻共速度を重視した超兵器であり、ヴィントシュトースは速力60ノット兵装は20.3㎝砲に魚雷、20㎜バルカン砲、12㎝30連装墳進砲、多目的ロケット、シュトゥルムヴィントは速度140ノット以上と兵装はヴィルベルヴィントの強化型であり水上艦最速の異名を持つ。
新たに加わった二隻を加え旋風、突風、烈風の風の名を持つ計3隻の超兵器が揃い、施設の規模に比べ戦力は過剰なまでになっている。
「俺が君たちの艦長?となる焙煎だ。これからよろしく頼む」
「歓迎するぞ、二人とも」
「このヴィントシュトース、ヴィルベルヴィント姉様、シュトゥルムヴィント姉様の為にも力を尽くします」
「姉の手前、無様な姿は見せられないな」
二人の様子に俺は満足しつつ、ヴィルベルヴィントに施設の案内を任せ俺は次の方針を練り上げていく。
水上戦力としては申し分ない今、暫くは一隻を通商破壊にもう一隻は施設周辺の哨戒に当たらせ一隻を休養に充てるローテーションで通商破壊が出来る。
それで資材を貯めつつもドック艦の建造完了と共にオーストラリア大陸、そして南極を目指す。
前の世界、南極の新独立国は豊富な資源による豊かな国力とレアメタン合金を生み出した、この世界では深海棲艦の脅威で碌に開発出来ていない今、南極資源は取り放題だ。
何も今のように通商破壊で資源を得るリスクを冒すことなく、安全に安定しているし最も重要な事は俺以外の人間がいないつまりヴィルベルヴィント達超兵器の存在がバレる可能性は限りなくゼロに等しくなる。
この世界での俺の目的は第一に生存、次に元の世界への帰還だ。
ヴィルベルヴィントの話では前の世界嘗ての列強達は超兵器の力を持って平行世界の侵略まで考えていたらしい。
そして実際に平行世界へ飛び立てる究極超兵器も完成し、後一歩のところで新独立国の艦隊に敗れその野望はついえたかに見えた。
俺の狙いはその究極超兵器をなんとか建造し、おそらく保有しているであろう平行世界への跳躍装置をもって元の世界に帰還する事だ。
その為には途方も無い資材が必要であり、到底今のままでは達成する事は不可能に近い、だがここでもし仮に南極の手付かずの資源をそっくりそのまま得る事が出来れば、俺の願いは叶うかも知れない。
よしんば無理だとしても、超兵器の力と南極の資源が有れば戦争が終わるまで引き籠って居られる。
この時の俺は後から振り返ればトンデモ無い楽天主義だったのかもしれない、俺がこの世界に突然来たように世界はいつだって予想だにしないことが起きるのだ。
南方海域最前線の鎮守府では絶望的な防衛戦を強いられていた。
全く減ることのない深海棲艦の侵攻艦隊の波状攻撃の前にジリジリと前線は後退し、代わりに前線で戦い続ける艦娘達の疲労はとうに限界を超え、傷ついた体を癒す間も無く出撃する日々。
度重なる海戦で消費される資材と艦娘の入渠は海軍兵站を悪化させ、遠征要員が昼夜の別なく出撃し、それが更に要員の疲弊と補給効率の低下を引き起こし全体の破綻をきたしつつあった。
しかし、焙煎が行った通商破壊の結果深海棲艦側は少なくない戦力を輸送船団につけねばならず、前線に掛ける圧力は低下しヴィントシュトース、シュトゥルムヴィントが活動する様になると侵攻作戦そのものが頓挫し前線からは目に見える形で敵の脅威が減り、一息付ける猶予を与えていた。
前線では提督、艦娘の交代と入渠整備が急ピッチで行われその間哨戒網の隙を突き一個艦隊相当の深海棲艦が浸透していた事に気付いたのは相当後の事であった。
「山城、砲戦よ大丈夫?」
「扶桑姉様、山城行けます」
扶桑型戦艦扶桑、山城が自慢の火力である35.6㎝砲を発射し、浸透してきた深海棲艦の周辺に水柱が立つ。
扶桑、山城、率いる遊撃艦隊が深海棲艦の浸透した艦隊を発見したのは殆ど偶然であった。
遊撃艦隊の主な任務は輸送船団の護衛である、航空戦艦と航空巡洋艦が主力となり艦載機による広範囲の索敵と、対潜攻撃能力、戦艦の火力はこの方法の採用以来欠かせない要素であり、特に扶桑型は鈍足故護衛対象と足並みを揃えやすく、数多くの任務をこなすベテラン戦艦であった。
輸送船団を前線まで無事送り届け帰路に着いていた彼女達たが、海上に発生したスコールを避ける為、本来の航路をずれた先で偶然にも深海棲艦の艦隊と遭遇したのが切っ掛けであった。
この深海棲艦は用意周到に準備され、外洋で数度の補給を経て前線を大きく迂回してきたのだ。
その目的は昨今深海棲艦を悩ませる謎の通商破壊艦隊とその拠点の調査であり、可能であればこれを捕捉撃滅する任務を与えられていた。
派遣された艦隊はflagshipクラスの空母ヲ級一隻、戦艦ル級二隻他は全てéliteクラスで占められる機動艦隊であり、到底扶桑達が敵う相手ではなかった。
その為、まず真っ先に急を知らせる艦載機を鎮守府へと飛ばした扶桑等は勇敢にも敵艦隊に同航戦を仕掛け、味方が到着するまでの時間を稼ごうとしていた。
「艦載機は敵空母に攻撃を集中、私と山城とで戦艦の相手は引き受けます」
「最上、駆逐艦達の指揮を預けるから敵の頭を抑えて。足を止めるだけでいいわ、決して撃沈しようだなんて思わないこと時間を稼ぐことを優先で」
山城の指示に最上は頷き、手を振って後続の駆逐艦達についてくるように示す。
扶桑、山城に敵の注意が向いている隙を突き、最大戦速で敵艦隊の進路を塞ぐように進んだ最上達は、丁度T字の形になり扶桑等を合わせるとL字陣形をとって相手を押し込める形になった。
このL字の内側は理想的な十字砲火の中にあるとも言え、足りない火力を機動力とで補い自身よりも有力な相手を戦うのに適していると言える。
深海棲艦と激しい砲火を交えつつも、一時的に優位な状況を作り出しつつあり、敵艦隊の周辺には無数の水柱が立ち昇った。
しかし当初こそ艦載機による着弾観測と試作41㎝三連装砲による先制攻撃で優位に立ったかに見えたが、じきにヲ級から艦載機が上がるようになると制空権を喪失し、今度は逆に敵艦隊か、の着弾観測を受けるようになってしまい、更にル級達が扶桑達の相手をしている間残った戦力を最上達へ叩きつけその圧力を前に数で劣る最上等は苦戦を強いられてた。
「くそ、数が多すぎる。山城航空支援まだ‼︎」
その間にも敵次々に迫り、最上も必死に応戦するも徐々に回避に専念しなければならなくなっていた。
「こっちも敵の艦載機の相手で手一杯よ、やっぱり空母擬きの航空戦艦じゃガチの正規空母相手の制空争いは土台無理か」
「諦めないで山城、敵に少しでも損害を与えるの。そうすれば後続の味方が敵を仕留めてくれるはずだから」
既に艦載機を失い、全身傷だらけで中破判定を受けながらも必死に砲火を吐き出し続け、最後まで諦めないよう味方を励ます。
「ははは、これじゃまるであの時と同じだ」
最上は飛行甲板に被弾し、艦載機が使用できないなか軽口を叩く。
「あの時って、ここには時雨も満潮もいないわよ」
「うふふ、山城たらこんな時でも時雨なのね。帰ったらきっと時雨が喜ぶわ」
「な⁈姉様、私がお慕いしているのは「まあまあ、山城が時雨のこと満更でもないのみんな知ってるし」っ〜///」
ほぼ絶望的な状況下の中、彼女達は不健全な絶望的や諦めとは無縁であった。
彼女達は不敵に笑みを浮かべ、しかしこの状態に決して酔っているわけでなく熾烈な戦いに身を投じていく。
シュトゥルムヴィントは施設周辺海域で哨戒を行いながら暇そうにしていた。
それは焙煎に建造されてから何時もの事であり、今日も何事もなく終わるはずであった…
「ん?レーダーに反応。しかもこれは艦娘と深海棲艦のものだな」
レーダー上に映し出された数個の光点の反応が見慣れた深海棲艦のものと艦娘であると断定したシュトゥルムヴィントは焙煎へと通信を繋いだ。
「こちらシュトゥルムヴィント、現在深海棲艦に追撃されている艦娘をレーダー上に捕捉。敵は戦艦、空母を含む機動艦隊と推定、指示をこう」
シュトゥルムヴィントからの通信を執務室で聞いた焙煎は厄介ごとが来たと顔を顰めた。
「針路はどうだ?」
「真っ直ぐこちらに逃げてきているな。少なくともあと三十分もしない内にこちらと接触する」
この時シュトゥルムヴィントが発見したのは最上率いる駆逐艦艦隊であり、扶桑、山城が大破炎上し深海棲艦の圧力に抗しきれず撤退を判断し近くにある破棄された施設に逃げ込もうとし追撃を受けていた。
深海棲艦側は最上等を追撃しつつも、情報収集から同じく施設が作戦目標の公算が高くそれを目指し進んでいた。
「分かった、引き続き状況を監視。動きがあったら知らせろ」
一方、そんな事情を知らない焙煎は介入する気は更々ないが、万が一に備え通商破壊破壊に出ているヴィルベルヴィントを呼び戻し待機しているヴィントシュトースに何時でも出撃できるよう指示を出した。
その後焙煎は執務室の机の上で手を組み、顎を乗せて渋面を作る。
このままでは遅かれ早かれ我々の存在に気づく者が出る、なら艦娘諸共口封じか?
そう焙煎は考えるが、首を振ってその考えを消す。
いや、短絡的思考に陥ってはダメだ。この状態おそらく追われている艦隊は輸送船団を護衛する遊撃艦隊だとすると、あそこは航空戦艦が配備されている。
なら既に近場の鎮守府に艦載機から連絡が入っているはずで、救援の艦隊も向かってきているとするとここで纏めて沈めても今度は別の所から追求がくるに違いない。
焙煎は手元の通信機を手に取りシュトゥルムヴィントに通信を繋いだ。
「シュトゥルムヴィント、最悪我々の存在が露見する可能性もある。この際積極的な交戦を許す」
「良いのか?」
「ああ、面倒ごとに関わらないようにしてきたが、向こうから来たのなら分からせてやるさ。一体誰に喧嘩を売ったのかを」
「了解した、やるからには容赦はしないぞ私は」
「構わん。思いっきりやれ」
思えば彼女達にとって長らく不本意な戦いを強いていたのかもしれない。その鬱憤を少しでも晴らすことができればいいとさえ思う。
海上ではシュトゥルムヴィントが長い銀髪をかき上げ超兵器機関に火を入れエンジンが唸り声を上げる。
超兵器機関から漏れ出すエネルギーが海面を波立たせ、艤装の脚甲部分に装備されたロケットエンジンに火がつきシュトゥルムヴィントの体を前に飛ばし、速力にして140ノットまで瞬時に加速し海面を疾走する。
深海棲艦に追撃されて武装の大半を失った最上は、それでも脚は止めることなく必死に前に進み続ける。
艤装からは黒煙が立ち込め、後に続く駆逐艦達も皆大なり小なり同じ状態であり顔には煤がこびりついていた。
「あともう少しで」
皆その気持ちは同じであった、もし仮に深海棲艦が本気で攻撃を仕掛けたらとうの昔に全員が捕捉され轟沈しているはずであったが、深海棲艦側が適度に痛めつけて自分たちの本命を釣りだそうとする思惑で手を抜いていたからこそ彼女達はまだ深海の仲間入りをしていなかった。
「最上さん前から何か来ます⁉︎」
1人の駆逐艦艦娘が前方を指差し、もしや回り込まれ最上は万事休すかと思ったが、その相手は猛烈な速度で最上達とすれ違い後方の深海棲艦に攻撃を仕掛けた。
その際起きた波飛沫をたっぷり浴びた彼女達が、僅かな視界の中で見た相手は艦娘の姿をしていた。
「助けてくれるのか?」
「いやでもたった一隻で」
口々な疑問を浮かべる艦娘達を尻目にシュトゥルムヴィントは機動艦隊に単身切り込む。
「gutentag、深海棲艦」
38㎝三連装砲が火を噴き、42門の魚雷が獲物を目掛けて海に飛び込む。
新たな敵にを迎え撃つ深海棲艦は次々に砲火を放つが、シュトゥルムヴィントの圧倒な速度に照準が付かず、あっさりと躱されてしまう。
あまりの性能の差に驚愕する間に砲撃と雷撃を受け混乱する敵艦隊の中央に突入したシュトゥルムヴィントは全方位に向けロケット弾を発射し、瞬きする間もなく敵艦隊をすり抜ける。
この一回の交差で旗艦ヲ級を庇い戦艦タ級2隻が轟沈、他のéliteクラスも砲撃、雷撃、止めのロケット攻撃で運が良くても航行不能、他は大なり小なりタ級の後を追うこととなった。
何とか轟沈を免れたヲ級も不利を承知で艦載機を発艦させようとするも、駄目出しとばかりに艦尾からのロケット弾が直撃、頭部を吹き飛ばされ再び深海へと戻って行った。
「何なんですかあれは」
そう問われた最上とて答える術を知らない、ただ分かった事はあの力を自分たちに向けられれば、例え万全の状態で扶桑、山城達がいても目の前の深海棲艦と同じ運命を辿る未来しか無い。
そうこうするうちに自分たちの目の前にきた謎の艦娘に思わず身構えるが、相手は全く歯牙にも掛けない様子で、
「艦長から入渠が必要なら案内するときている。あと曳行が必要な船がいたら遠慮なく言ってくれとのことだ」
そう言った相手は背を向け自分たちを先導し始める。
「最上さん、どうします?」
どうするも何も、こんな体ではどうすることもできまい。
私は大人しく従うようにと指示を出し、相手について行くしかなかった。