超兵器これくしょん   作:rahotu

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39話

39話

 

深海棲艦の新型出現と超兵器苦戦の報は、直ちに焙煎の所まで入ってきた。

 

スキズブラズニルの艦橋でその報告を受け取った時、焙煎は足は震え冷や汗が踵にまで達しようかと言うほど震えていた。

 

(敵が核兵器を使用した事から覚悟していたが…まさかこうも早く対抗する存在が現れるのか…!?)

 

超兵器の存在に誰よりも怯え恐怖し、同時にその絶対的な力に全幅の信用(信頼ではない)を寄せていた焙煎をして、この報告は彼の足場を根底から突き崩したのだ。

 

(敵が予想よりも早く進歩している…いや、もしかして超兵器の存在が敵の成長を早めたのかもしれない)

 

実を言うと焙煎は、もうこれ以上超兵器を建造するのは止めようと考えていた。

 

これ以上強力な超兵器を建造しても、瓦礫をより細かく砕く様なものであると考えていたからだ。

 

事実、それはほんの少し前まで正しかった。

 

この世界の艦娘と深海棲艦の基本的な技術レベルは、嘗てこの世界であった大戦とほぼ同程度の水準である。

 

確かに戦争中驚くべき技術の進歩があったが、焙煎達が元いた世界のそれとは比べものにならない。

 

焙煎が思うに此方と彼方の世界とでは一世紀程の技術格差が存在し、過去の枠組みに縛られるこの世界の艦娘と深海棲艦とではそれを超えるのは難しいと思っていたのだ。

 

初期の超兵器と言えども、この世界ではそれに敵う存在など殆ど存在しなかったのも、この焙煎の考えに拍車をかけていた。

 

実際焙煎は現状の戦力で十分南極まで行け目的を達成できると、半ば楽観視していたのだ。

 

資材のこともなんだかんだ理屈はつけてみたものの、実を言うと後一、二隻の超兵器を建造するくらいには備蓄がある。

 

補給の事を無視すれば4隻は行けるはずなのだが、その僅かばかりの資材(一隻当たり大型艦建造十数回分)を惜しんだが為、そのツケを今支払う事となっているのだ。

 

焙煎は己が無知と油断を呪いながら、何とか出来ることはないかと頭を悩まれるのであった。

 

 

 

 

 

強敵レ級との戦いで多くの超兵器が苦戦する中、ただ一人例外があった。

 

「全く、あっちこったよう動くネズミでんなぁ〜」

 

はんなりとした口調で、播磨は欠伸をかみ殺す様にそう言いながら猛烈な砲撃を加えていた。

 

聳え立つ楼閣を思わせる巨大な艤装から、主砲50.8㎝3連装砲24門と副砲の20.3㎝3連装砲30門が火を噴きその様子はまるで燃え盛る火山を思わせる。

 

この圧倒的な鉄と火の暴力を前にさしものレ級も逃げ回るしかなく、その小さな身体を生かし何とか直撃を貰わないようにするしかなかった。

 

他の超兵器と違い播磨に苦戦するレ級だが、これには訳がある。

 

そもそもレ級の何が強いかと言うと、その脅威的なまでの対応力だ。

 

戦艦の装甲と火力に空母の航空力、そして雷撃能力を兼ね備え、それらを有機的に組み合わせる事が可能なのがレ級である。

 

だからこそどんな相手に対しても、相手の弱点をつき自分の強みを押し付ける万能性こそレ級をレ級たらしめているのだ。

 

それは特に明確な弱点が存在する相手に特に有効であり、例えば航空攻撃に弱いヴィルベルヴィント達超高速戦艦。

 

単純な殴り合いに弱いアルウス、徹底的なメタ張りによって封殺が可能なドレッドノートなど、彼女達には苦戦する理由があった。

 

しかし播磨はどうであろう?

 

今まで回避に専念していたレ級は、播磨の砲撃が一瞬弱まった隙を狙ってコートの下から艦載機を発艦させる。

 

レ級の艦載機は量こそ正規空母に及ばないものの、その質は大きく上回っていた。

 

実際に下手な艦載機では、レ級の艦載機の前には七面鳥撃ちにしかならない。

 

例えあのアルウスとて、相手を舐め腐って100機や200機程度の数では、レ級とその艦載機の連携の前に苦戦は必至だっただろう。

 

砲撃の隙間を狙って、レ級の艦載機は播磨に雷撃や爆撃を仕掛けようとする。

 

その速度及び操縦精度から、相当な練度を保有する事は見て取れた。

 

だがしかし…。

 

「またそれ?ほんまおんなじ事の繰り返しで芸がありませんなぁ」

 

播磨は砲の三分の一を海面すれすれを飛行する敵艦載機に、三分の一を上空から急降下を仕掛けようとする編隊に向けた。

 

そして、それらは一斉に火を噴き空中で砲弾が炸裂する。

 

播磨に向かっていた編隊は一瞬にして鉄の暴風の中に包み込まれ、機体をもみくちゃにされバラバラに引き裂かれ、或いは抱えていた魚雷や爆弾ごと火の玉となって消えた。

 

後には空中で残骸となった艦載機の破片が、バラバラと海面に落ちていく。

 

その間にも、残りの三分の一の砲は相変わらずレ級を追い回していた。

 

嘗て東亜の魔神として恐れられ、東京湾に襲来した連合国の航空機100機を単艦で叩き落とした播磨だ。

 

この世界でも横須賀を爆撃した敵の重爆撃機を砲撃で堕とすなど、その対空能力は今の艦隊の中でも飛び抜けている。

 

しかも、播磨にはこれといった明確な弱点が存在しないのだ。

 

確かに双胴戦艦はその巨大さ故、マトが大きくお世辞にも機動性も高いとは言えない(最大速力40ノット)。

 

しかしそれを補って余りある大排水量と重防御重武装を可能とし、播磨単艦で連合艦隊と同等の戦力と評されるその火力は、砲撃戦で無類の強さを発揮する。

 

事実、この播磨と真っ向から立ち向かえる者は超兵器の中でもそう多くはない。

 

確かにレ級も一人連合艦隊と仇名される艦だが、そもそもの土台が播磨とは違うのだ。

 

戦艦として純粋に砲と装甲で負け、艦載機も通じず、多少の雷撃も屁でもない重装甲を前にレ級は一体何を武器に戦えばいいのか?

 

ちょっと強力な万能艦程度では、初期の超兵器は何とかなっても播磨クラスになると全く歯が立たないのだ。

 

今まで直撃や至近弾を貰わぬよう必死に避けていたレ級の足元に、ついに播磨の砲が命中しその衝撃と巨大な水柱とでレ級の足に乱れが生じる。

 

超兵器機関暴走後の影響で砲撃管制装置に支障をきたしていた播磨だが、そのズレを段々と修正しついにレ級の動きを捉え始めたのだ。

 

そして播磨程の相手に戦場で足を止めるとどうなるかと言うことを、レ級はこの後身をもって知る事となる。

 

次々と50.8㎝砲の砲弾がレ級に降り注ぎ、着弾するたび彼女の身長を遥かに上回る巨大な水柱が立ち昇った。

 

レ級は何とか身をよじって足を動かそうとするが、しかしそうはさせまいと副砲が撃ちまくられ動きを封殺する。

 

ならばせめて一矢報いようと艤装の砲を播磨には向けようとすれば、今度はバルカン砲が曳光弾をきらめかせながら牽制した。

 

一発一発の威力は低くとも、連続で絶え間なく命中し続けるバルカン砲は着実にレ級の装甲を削り、艤装の装備や武装を破壊していく。

 

苦し紛れに艦載機を発艦させようとしようとするものの、猛烈な砲撃とその爆風で艦載機は飛び立つ間も無く海に叩き落とされる。

 

ならば雷撃はどうかと魚雷を発射しようとしても、砲弾で海中が掻き回され魚雷は真っ直ぐ進むことも叶わずてんでバラバラの方向に迷走する始末。

 

「アギャアアァ…」

 

レ級は絶叫し生まれて初めて恐怖していた。

 

飛行場姫によって最強の深海棲艦ときて生み出された彼女達は、それゆえ自分ちよりも強いものを知らなかった。

 

何者も自分達に敵うはずがない、そう思っていたのだ。

 

だが井の中の蛙大海を知らず、レ級は初めての実戦で自分を圧倒する絶対的な暴力の化身にあった。

 

自慢の砲も戦法も何も効かず、装甲は捲れあがり艤装は無残に破壊され半ばから折れて脱落した。

 

身体中引き裂かれそうな痛みが走り、意識が薄れゆく。

 

それと同時に、レ級達には万が一自分達が敵わなかった場合のある保険が掛けられていた。

 

飛行場姫がレ級達を超兵器に匹敵するのに必要な事から施したとある改造。

 

その力はレ級に超兵器と戦える力を与えると同時にその死によって全ての力を解放する様設定されていた。

 

艤装を失い四肢を撃ち砕かれ、遂に播磨の主砲がレ級の胴体部に命中し彼女のバイタルパートを撃ち抜く。

 

竜骨を折られ、内部機構をメチャクチャに破壊され最早船として浮かんでいられなくなったその瞬間。

 

「っ!!」

 

レ級の身体から突如として眩い光が放たれ、その眩しさから播磨は服の袖で目を覆いそして…。

 

この日、三つ目のキノコ雲が南方海域の空に出現した。

 


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