超兵器これくしょん   作:rahotu

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44話

44話

 

硬い金属の塊同士を叩きつけたかの様な、鈍く重い音が海に鳴り響く。

 

連続する打楽器音は、明らかに砲火が発する音などでは無くもっと原始的な戦いの音楽である。

 

シュトゥルムヴィントとレ級との戦いは、互いに肌と肌が触れ合わんばかりの超近距離戦闘を行なっていた。

 

互いに火器の類を封じられ、と言うよりもシュトゥルムヴィントが自慢の超高速を生かし付かず離れずの距離でレ級の搭載する武器を封じているのが大きい。

 

シュトゥルムヴィントは余り深く物事を考えない、ただ獲物があれば追い敵であれば倒す。

 

そこに姉ヴィルベルヴィントの様な深い思慮を挟む余地はない、ただ単純に目の前の敵を最短最速で叩き潰す、それだけである。

 

故に彼女自身、何故戦艦同士が砲撃戦ではなく徒手格闘戦を行なっているのか上手く説明出来ない。

 

本人ですらこうなのだから第三者がこの状況を説明するのは難しい、だがそれと相対する者だけはこれの厄介さを見に染みて感じていた。

 

レ級が超兵器達と何故対抗出来ているのか?

 

その理由の一つには間違いなく武装の豊富さがある。

 

レ級はそれ単独で主砲副砲、魚雷、機銃、爆雷、挙句航空機まで搭載している。

 

そこから生まれる戦術の幅こそ、レ級の持ち味なのだ。

 

しかして今の状況は、正にその強みを一切消された状態に陥っている。

 

シュトゥルムヴィントの乱暴な拳を防ぐ為に、レ級は艤装の曲面装甲を使って受け流さなくてはならず当然主砲も副砲も使えない。

 

必殺の魚雷もこの距離では安全装置の関係上無力化されていた。

 

例え魚雷の安全装置を解除したとしても、そうなれば今度は自分を巻き込み兼ねない。

 

兎に角タフで知られる超兵器相手に、何方かが沈むまで続く耐久自爆レースを仕掛けるなど愚の骨頂である。

 

必然レ級に選択できたのは、兎に角相手からの一発を防ぎつつ敵が焦れて隙を晒すのを待つ持久作戦しかなかった。

 

相手と自分との間に艤装を挟み込み、受け流せる攻撃は受け流しそうでないモノは装甲に任せて受ける。

 

しかさ正面ばかりに集中している訳にもいかない、足元からは死神の鎌を思わせる鋭い蹴りが時折放たれるからだ。

 

「しっ!」

 

シュトゥルムヴィントからの蹴りを、何とか頭を半分ずらす事で何とか回避するレ級。

 

しかし回避したと思った攻撃は、レ級の頬を切り裂き黒い液体を流していた。

 

良く見れば艤装の彼方此方もシュトゥルムヴィントの攻撃に晒され、装甲が凹んだ箇所や鋭く切り裂かれた場所が彼方此方に存在する。

 

レ級の艤装はシュトゥルムヴィントの嵐を思わせる攻撃によく耐えているといえよう。

 

補助脳を搭載しある程度独自判断が出来るレ級の艤装は、しかし本体を守るべく忠実にその役目を果たしているのだ。

 

中々守りが崩せないシュトゥルムヴィントは、焦りからか迂闊にも大振りの一撃を放つ。

 

(きた!)

 

長く苦しい戦いを我慢した甲斐があり、レ級が待ちに待った瞬間がきた。

 

シュトゥルムヴィントの大振りの左腕の一撃を、レ級は艤装で防ぐのではなくそのまま自身へと通した。

 

直撃すれば頭所か上半身が吹き飛ぶであろう致命的な一撃を…しかしレ級は必殺の拳を確かに掴みそのまま流れに逆らわず足を絡めてシュトゥルムヴィントの左腕を取る。

 

「なに!?」

 

これには思わずシュトゥルムヴィントも叫んだ、まさか自分の手が取られるとは予想だにしていなかったのだ。

 

だがこれでレ級の反撃が終わったのではない、彼女にはもう一つの“手”があった。

 

レ級の腰から伸びる黒い生体艤装は、シュトゥルムヴィントを中心にとぐろを巻いて彼女を取り囲み次の瞬間一気にその包囲の輪を閉じる。

 

「こなくそ!」

 

自身の動きを封じ締め付けようとする攻撃を、シュトゥルムヴィントはまだ自由な右腕を割り込ませ完全に締め付けられるのを防ぐ。

 

しかしそれにより、完全に両腕の自由を奪われていた。

 

「ぐぐぐ」

 

レ級の艤装が締め付ける力を強め、シュトゥルムヴィントはそれを右腕一本で支えなくてはならなかった。

 

いかに馬力で優れようとも、片腕の力だけではレ級の全身を使った力には勝てない。

 

しかしレ級は、悠長にシュトゥルムヴィントが絞め殺されるのを待つような存在では無かった。

 

レ級の艤装が鎌首をもたげ、主砲と副砲の照準をシュトゥルムヴィントに合わせる。

 

如何に超兵器とて、0距離で51㎝砲を食らっては無事では済まない。

 

「くっ!」

 

シュトゥルムヴィントは自らの迂闊さを呪い、悔しげに歯を噛み締め最早万事休すかと思われたその瞬間、遠くの方から…。

 

 

「ぉねえさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

聞き慣れた自分を姉と呼ぶ者の声が聞こえた。

 

「まさかこの声は!?」

 

 

 

 


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