超兵器これくしょん   作:rahotu

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45話

45話

 

「この声はまさか!?」

 

聞き覚えのある声に、シュトゥルムヴィントが驚愕の声を上げる。

 

それは、本来この場にはいないはずの人物の声だったからだ。

 

「なに人の姉に手ェ出してんじゃワレェ!!」

 

しかしシュトゥルムヴィントが次に目にしたのは、両足を揃えたヴィントシュトースがレ級にドロップキックをかます姿であった。

 

 

 

 

 

時は少し遡り、レ級との戦闘を一旦放棄したヴィントシュトースだが彼女は今後どうするか途方に暮れていた。

 

後ろからは相変わらずレ級から砲撃や雷撃、空からも空襲がとびかうなかヴィントシュトースは一人思案する。

 

(正直手に負えませんね、出来ればあの蜂女あたりにでも押し付けたい所ですが…)

 

とそんな事を考えなら逃げ回るヴィントシュトース。

 

彼女は姉や他の超兵器と違い、そこまで自分が超兵器であることに拘りを持っていない。

 

それは彼女のベースが通常艦よりである事もあるが、それ以上にある事が関係していた。

 

「折角お姉様達と共に戦えると思ったのに、何だかテンション上がって逸れてしまって、しかま何だか強めの敵に追い回されるなんて…はぁ、ヤル気そがれるわ」

 

超兵器である前に艦であるよりも、彼女は何よりも姉を優先する。

 

元の世界では殆ど共闘する事もなく終わってしまったが、何の因果かこの世界に生まれしかも人のカタチをしていた。

 

前の世界では果たせなかった思い、畏敬と敬愛と尊敬と情愛とがない交ぜになった感情を持った結果彼女は目覚めてしまったのだ。

 

そう、重度のシスコンに。

 

そんな彼女が、愛する姉の一人シュトゥルムヴィントの危機を目の前にして正気でいられようか?

 

しかも、自身がまだ触れたことさえない柔肌にあろう事か黒くて太いモノが鎌首をもたげ、先端から今にも発射しそうになっているのだ。

 

結果は最早言うまでもない。

 

 

 

 

 

「ヴィントシュトース!?」

 

本来ここにいるはずのない妹の存在に驚愕するシュトゥルムヴィント。

 

しかしそんなシュトゥルムヴィントをよそに、レ級をドロップキックで弾き飛ばしたヴィントシュトースは器用に空中で姿勢を変化させシュトゥルムヴィントの胸元に飛び込む。

 

「お姉様お姉様お姉様ぁぁぁぁ、お怪我はございませんか!?この不詳ヴィントシュトースが来たからにはもう大丈夫です。どんな小さな怪我一つ見逃しません」

 

と頭を思いっきりシュトゥルムヴィントの胸部装甲に擦り付けついでに思いっきり「スーハースーハー、クンカクンカ」ながら、「ゲヘヘ」と下劣な笑みを浮かべ手をワキワキとイヤらしく蠢かすヴィントシュトース。

 

そんな妹の様子に面食らいながらも、シュトゥルムヴィントは礼の言葉を言う。

 

「いや怪我はないが…それよりも助かったぞヴィントシュトース」

 

最も何故ここに妹がいるのかと言う疑問は晴れないままだ、とりあえず安心させるように頭をポンポンと撫でるシュトゥルムヴィント。

 

姉の手の柔らかさと温かさを感じ、それまでのストレスがまるで嘘のように溶けてなくなるヴィントシュトースは、今まで見た事もないようなだらけきった表情を浮かべる。

 

ほんの僅かばかりの時、戦場の海に麗しい姉妹百合空間が誕生した。

 

「…っ申し訳ありませんお姉様、つい正気を失ってしまいましたわ」

 

名残惜しげにシュトゥルムヴィントの胸元から離れるヴィントシュトースに対し、シュトゥルムヴィントの方も気にすることはないと言った。

 

「気にするな、それよりも…」

 

二人の視線は先程蹴り飛ばされたレ級の方向を見ると、そこにはヴィントシュトースを追っていたレ級に助け起こされるレ級の姿があった。

 

二隻のレ級は自分達を散々虚仮にした相手に怒りを露わにし、二匹の生体艤装も唸り声をあげ今にも飛びかからんばかりに此方の様子を伺っている。

 

「続きはアレをヤッてから話すぞ」

 

「はい、お姉様」

 

二隻のレ級を迎え撃つ構えを取るシュトゥルムヴィントとヴィントシュトース。

 

その瞬間、弾かれた様に二隻のレ級が攻撃を仕掛ける…。

 

 

 

 

 

 

南方海域某所、そこには無残にも破壊された深海棲艦の航空機やヘリの残骸が浮かんでいた。

 

いくつもの残骸が散らばる中、まるで墓標の様に佇む撃破されたレ級の姿がゆっくりと沈んでいった。

 

「一体どう言ったつもりです?播磨」

 

水面から頭だけを出したドレッドノートが、苛だたしげに自分の目の前に立つ超兵器播磨に言った。

 

返答次第ではここで一戦交える事もいとわないその様子に、播磨は口元を着物の袖で隠しつつ内心で笑みを浮かべていた。

 

「何や気に入らんことでもあったんどすえ?ウチは唯暇だから手を出しただけで、何もあんさに貸し。作ろうだなんてコレッポチも思ってはおりませんやろ」

 

播磨はねっとりとした口調で、ドレッドノートを試すかの様に言った。

 

超兵器は基本誰もがプライドが高い、そんな彼女らが多少苦戦したとはいえ横から手出しされてどう思うのかなど播磨自身もよくわかっていた。

 

例えばこれがアルウスなら問答無用で航空機を差し向け、シュトゥルムヴィントならば敵を倒した後に助力した相手に殴りかかったであろう。

 

播磨とて自分がもしそんな事をされれば、その相手ごと砲弾の雨に沈めるつもりだ。

 

では、それが分かっていながら播磨は何故ドレッドノートに手を貸したのか?

 

「貸しでは無いとすれば一体何だと言うのです」

 

ドレッドノートは微塵も警戒を緩めず、恐らく水中の中では既に播磨を標的として魚雷の発射準備が整っているはずだ。

 

例え播磨とて、この距離で超兵器の雷撃を喰らえばどうなるか分からない。

 

しかし播磨は敢えて自身の身を危険に晒しても、ドレッドノートとここで話す必要があだたのだ。

 

「何もそんなの“任務”の為以外にありやしませんでっしゃろ?」

 

播磨が任務と口にして、ドレッドノートの方も一理あると思った。

 

多少相性が悪くて苦戦したとはいえ、時間をかければドレッドノートはレ級を撃破しただろう。

 

しかしそれでは時間がかかってしまい、本来の目的である敵本拠地への電撃的強襲が不可能になる可能性があった。

 

「任務と言うならば、貴方は何故こんな所で油を売っているのです?貴方一人でも十分事を成すことは出来たはず」

 

「?あんさ何か勘違いしてやありまへんか。ウチらの任務と言えば最初から一つしかおまへんやろ」

 

そこで漸くドレッドノートは播磨が何が言いたいのかに気づく。

 

「つまり貴方は“今後”のために必要だから手を出したと」

 

「うふふ、どうでっしゃろな?ただあの艦長はん本当に吝やさかい、もうウチら以外作る気おまへんやろしれまへんなぁ」

 

それは薄々(焙煎の頭の事ではない)ドレッドノートも気が付いていた。

 

焙煎は必要にかられなければ本当に超兵器を建造しようとしない、いや今では寧ろ避けている様にも見える。

 

そのため現在この艦隊は非常にアンバランスな編成に傾いている、それはつまり戦力の事ではなく勢力のバランスにおいてだ。

 

元の世界の枠組みに縛られるならば、枢軸と連合と言う分かりやすい対立軸はあった。

 

しかし今この世界において存在しないものに寄るほど、超兵器達は馬鹿ではない。

 

となればかつての世界での同盟相手よりも、同郷や自国を優先するのは目に見えていた。

 

そしてスキズブラズニルと言う狭い艦内において、純粋な頭数はそれだけで様々な影響力をもたらしている。

 

その影響力にあって、自分や播磨の様な艦は存在感を如何に確保するか非常に悩ましい立ち位置にあった。

 

どこかの勢力に迎合するその他集団になる程、彼女達のプライドは安くない事も関係しドレッドノートは今まで何とか自国陣営を増やそうと焙煎に働きかけてきた。

 

しかし播磨の言を信じるならば、自分が行ってきた活動は全て無駄になってしまう。

 

そして今後、南極という安全圏にのがれる関係上武勲を立てる事も難しい。

 

「成る程そういう事ですか。播磨、貴方にしては随分と迂遠な手を使うものですね」

 

「何、師事した国に習ったまでの事。そう嘗ての歴史通り」

 

嘗てこの世界でもそうだが、日本が近代的た海軍を創設するにあたり、その範としたのがイギリスであった。

 

「良いでしょう、今回は貸りにしといてあげます。貴方には精々盾になって頑張ってもらいたいものですね」

 

二人ともその後の歴史的出来事とその顛末を暗に匂わせながらも、手を組む事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「所であんさは一体いつまで姿をかくしてはるん?」

 

「…私にも人並みの羞恥心はあるので」

 


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