超兵器これくしょん   作:rahotu

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4話

最上達を保護した俺は全員を有無を言わさず入渠させた。

 

無論質問を封じ込めその間に彼女らが納得する言い訳をでっち上げる為でもあるが、それ以前にあまりに酷い姿にまず何よりも治療が優先と考えたからだ。

 

「甘いと思うか?ヴィルベルヴィント」

 

戻って補給を済ませたヴィルベルヴィントに俺はそう言う。

 

超兵器として生まれた彼女達ならばよりドライで俺とは違った考えを持っていると思ったからだ。

 

「見捨てろ、口封じに沈めろ、とでも言うと思ったか?それは人間たちの思考だ、兵器たる我々は唯指示に従うまでだ」

 

「そうか、ありがとうヴィルベルヴィント」

 

俺はヴィルベルヴィントの気遣いに感謝すると同時にもっとしっかりしなければと気を引き締めないと。

 

今回の件は不意の遭遇戦を考えていなかった俺のミスであり、最悪ここは壊滅していたかもしれないと思うとゾッとしない。

 

 

 

 

 

 

 

最上達は施設にたどり着くなり全員が強制的に入渠させられた。

 

その際一切の説明もなしに有無を言わさずだったが、あちこちでホッと一息つく同僚の姿を見ると、ここの提督は案外いい人なのかもと思い始めていた。

 

「あの艦娘、一体何なんだろう」

 

あの艦娘とは無論自分たちを助けてくれた艦娘の事だ。

 

あの自分達とはまるで違う原理で動いているとばかりに見せた圧倒的な戦闘力。

 

たったの一隻が一交差で自分達を追い詰めた機動艦隊を全て沈めるなど自分か知るどの艦娘も出来ない諸行である。

 

「軍の新兵器?でもそんな噂聞かないし」

 

普段の任務からして輸送船団の護衛という一見地味な任務をしているが、これでもこの手の情報は艦娘達は敏い。

 

そうでなくとも重巡青葉が発行する青葉新聞なるネットワークには目を通している最上は、彼女の情報は内容がどうであれ制度と手の広さは確かだと信じている。

 

それでも知らないとなると余程の機密か何かか?

 

もしかしたら自分達は深海棲艦から逃れるために虎の巣穴に入り込んでしまったのかもしれない。

 

そう思うと最上は気が気でなかったが、入渠中の身ではどうすることもできないので今は回復に専念する事にした。

 

「ま、あとは成るように成るさ」

 

そう言って最上はしばしの休息を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「日独共同の秘匿研究施設でありますか」

 

入渠を終え執務室に案内された最上はこの施設の責任者と名乗る焙煎少佐にそう説明された。

 

「そうだ、君たちを助けた艦娘の名はシュトゥルムヴィント。我々はこの放棄された施設で新兵器の実験を行っていたのだ」

 

「新兵器の実験ですか」

 

「そうだ、これが完成した暁には今の戦況をひっくり返せる程のものだ」

 

それは、と呟いて最上は確かにそうだと同意した。

 

自分たちの目の前で起きた出来事は十分に納得させるだけの材料がある、しかしそれでも腑に落ちない点が幾つかある。

 

「君が疑問に思うことも当然だ?」

 

こちらの心を見透かしたように焙煎少佐はそう言う。

 

「こうして君に説明しているのも半ば私の好意によるところが大きい」

 

と態とらしく恩に着せようとする態度で相手は続ける。

 

「今前線では苦しい戦況に人も艦娘も疲弊していると聞く。そんな中で先ほど君達が見たものはきっと前線で戦う者全員の希望となるはずだ」

 

「それをなぜ私に?秘密の実験なのでしょう」

 

「確かに、たが先の戦いで恐らく深海棲艦はなんらかの方法でこちらの存在を嗅ぎつけたのだろう。でなければ機動艦隊などこんな僻地には送らん」

 

「まあ、私としては一体どこでその情報を知ったか気になるのだが」

 

君はどうだと問われ最上は暗に相手が自分たちの中に裏切り者がいると告げていると悟った。

 

そんな考え馬鹿馬鹿しいと本来なら考えるが、以前深海棲艦が自分たちが使う暗号を解析して逆に利用する事件があり、以来海軍は情報管理に神経質になっていると聞く。

 

そんな中で本当に情報を漏らすようなことが出来るのか、よしんばできたとして何のメリットがある?

 

こちらの表情を見て自嘲気味に笑った焙煎少佐は口を開いて、

 

「唯の下らん妄想だと笑ってくれても構わんよ。たがね、君達と違って人間は感情で動くしとんでもない愚かな真似もする。この計画に反対の者はいるのだよ、まあ誰しも得体の知れない新兵器など使いたがらないからな」

 

「全く下らん権力闘争だよ、お陰で我々は此処を放棄せざるをえなくなった」

 

「此処を放棄するのですか、では一体何処へ」

 

「それは、流石にこれ以上は言えんな、私も全てを知る立場の人間ではないのだ、だが分かってほしい我々は君たちの敵ではない。来るべきその日がきたら共に戦うこともあるかもしれん、その時まで互いに壮健であろう」

 

話は終わったとばかりに一方的に無言の退出を促し、最上は釈然としない気持ちを抱きながら敬礼を交わし執務室から退出した。

 

 

 

 

 

最上が退出した後我ながら苦しい言い訳だと焙煎は自嘲気味に笑った。

 

「なかなか様になっていたぞ艦長」

 

執務室の扉の陰で控えていたヴィルベルヴィントはそう言って俺を労ってくれる。

 

「いやいや、よしてくれ。今思いっきり恥ずかしい気分なんだ。全く自己嫌悪で死にそうだよ」

 

「だがその場しのぎにしては上出来だ、既に妖精からの報告でスキズブラズニルの出航準備は整っている。後は艦長が乗り込むだけだ」

 

俺は最上達が入渠している間に唯言い訳を考えていたわけでなは無く、次の手も用意させていた。

 

スキズブラズニルはその船体の80パーセントを完成させ、後は航行しながら建造する事にした。

 

巨大なドック艦であるスキズブラズニルだからこそできる芸当であり、実はもう一つ隠し球を用意している。

 

「では善は急げだ、後は手筈通り頼む」

 

「了解した艦長」

 

 

 

 

 

全員の修理が完了した最上達は慌ただしい施設から出航させ、焙煎は外洋で待機するスキズブラズニルに乗り込みひとまず北を目指す。

 

これは最上そして深海棲艦から針路誤魔化すための使い古された手だが、少しでも追跡をかわすための苦肉の策でもあった。

 

「艦長、ヴィントシュトースが護衛から戻ってきたぞ」

 

護衛兼監視に付けたヴィントシュトースが艦隊に合流したことをヴィルベルヴィントが告げる。

 

彼女には別名で施設の完全破壊も命じていた。

 

施設の各所には積み込めなかった砲弾類を各所に仕掛け、重巡の火力でも破壊できるようなっている。

 

「分かった、針路は暫くそのまま。施設が見えなくなってから針路を南に変更、深海棲艦の領海を突っ切ってオーストラリアを目指す」

 

巨大なドック艦であるスキズブラズニルを中心に三角形を描くように陣形を組み俺たちは外洋を進んで行く。

 

速力にして20ノットにも満たない低速でのゆったりとした航海に、ヴィルベルヴィントの速力に慣れてしまった俺は大分物足りなさを感じつつも船は進んでいく。

 

巨大なドック艦は各所に資材を積み込み、施設から移った妖精さん達が彼方此方で動き回りながら作業に勤しんでいる。

 

この広い太平洋で早々敵に見つかるわけはないと考えていた俺は、暫くゆっくりできるなと考えていたが先行するヴィルベルヴィントから敵の艦隊を発見したとの報告で迎撃の指示を出す。

 

「ヴィルベルヴィント、敵の方位と数は?」

 

「艦隊の前面に戦艦を中心とした三個艦隊程陣取っている。明らかに待ち伏せされた様子だ」

 

「クソ、南に行くと読まれたか。空母を沈めたから大丈夫かと思ったが潜水艦にでも追跡されたか?」

 

「艦長、此方ヴィントシュトースです。ソナー、レーダー共に敵影は確認できませんでした」

 

追跡は受けていない、なら純粋に偶然か?いや、相手は未知の敵深海棲艦だこちらの思いもしない手で動きを知ったのかもしれない。

 

「ヴィントシュトースはそのまま対空対潜監視を続行。ヴィルベルヴィント、シュトゥルムヴィントは先行して前方の脅威を打ち払え」

 

敵襲の警報が鳴り響きそれまで作業に勤しんでいた妖精さん達が各所の対空砲座や配置につき戦闘態勢を整えていく。

 

ヴィルベルヴィント、シュトゥルムヴィントは速力の差からシュトゥルムヴィントが先行する形で敵艦隊に突撃し砲火を交える。

 

「艦長スキズブラズニル左舷より新たに敵の増援を確認。重巡リ級2、雷巡チ級3、軽巡ホ級6、駆逐艦イ級12からなる水雷艦隊です」

 

「やってくれるな、正面の敵の殲滅には時間がかかる。ヴィントシュトースは無理をせず敵を迎撃、ヴィルベルヴィント、シュトゥルムヴィントは敵の殲滅を急げ」

 

これで敵の全戦力は5個艦隊相当、全くこんな大兵力を迷うことなく投入出来る物量が羨ましい。

 

「状況としては最悪に近いな、スキズブラズニルの守りが一切ないから今襲われたらひとたまりも無い」

 

俺は妖精さん達に対空監視を特に厳にするよう命じた、相手はこちらの分断を図ったのなら次は間違いなく本命が来るはず、ならそれは…

 

「レーダーに敵機を捕捉‼︎数は凡そ60機」

 

航空機による強襲、俺は対空砲火による迎撃を命じるとともにこの間にも建造に取り掛かっている妖精さん達に通信を繋ぐ。

 

「私だ、建造中の船は完成後すぐに出せるようしてくれ。このまま道連れは気の毒だからな」

 

さて、艦長と言えども戦えるわけではない、後は彼女達超兵器と妖精さん達の頑張りにかかっている。

 

俺はスキズブラズニルの艦橋で祈るような気持ちで建造中の時間を示すメーターを見続ける以外なかった。

 

 

 

 

 

深海棲艦が何故これ程までに焙煎達の行動を予測できたのか?

 

それは先の戦いで唯一味方と合流出来た空母ヲ級の艦載機が後詰の艦隊と合流出来たからだ。

 

そこから得た情報から後詰めの艦隊は焙煎達を第一級の脅威と認識し、付近の艦隊を集結させ討伐艦隊を編成。

 

更に艦娘側を潜水艦が追跡しその通信を傍受し焙煎達が北に向かったと知ると今度は北方海域の艦隊にも協力を要請し南北からの包囲網を敷き、また焙煎達が施設を放棄する際巨大な船を伴っているとの情報も得るとこれの破壊を主要目標と定め、深海棲艦は行動を開始した。

 

深海棲艦が艦娘より勝るのは何も数だけではない、情報の収集解析伝達速度とその範囲の違いがこと目標が定まると最適な答えを導き出す機械じみた能力を発揮するのだ。

 

地球規模での海洋封鎖と電波障害を引き起こす彼女達が仮にその能力をより戦略的に運用した場合、とっくに人類は白旗を上げていることだろう。

 

スキズブラズニルを襲う艦載機を発艦させた空母ヲ級4隻を含む機動艦隊は続けざまに第二次、第三次攻撃隊を発艦させ。

 

各所の対空砲座が火を噴き、必死の抵抗を続ける中次々と爆弾が魚雷が投下され各所に火が上がる。

 

執拗な機銃掃射が船体を舐め、巨大故満足な回避行動を行えない相手に面白い様に攻撃が命中していく。

 

ドック艦の特性上余り武装を積んでいない事も災いして、なけなしの対空砲座を潰され抵抗する手段を失いつつあった中、焙煎だけが希望を失ってはいなかった。

 

建造終了を示すメーターが00:00:00を指し焙煎は勢い立ち上がって命ずる。

 

「建造妖精さん達は至急退避!緊急出航の準備だ」

 

命令された妖精さん達が慌ただしく動き、敵の一次攻撃隊が引いた僅かな隙を突いてドック艦から新たな超兵器が海へと出る。

 

「あら来て早々に出撃だなんて?まるで蜂が出たかのような慌てぶりね」

 

通信機から聞こえてくる聞きなれない声、スキズブラズニルの前面に立ちハニカム柄のオレンジ色の日傘をさした彼女のものだ。

 

「こちら焙煎少佐だ、一つ聞く。お前は俺に従うか否か」

 

俺は新たな超兵器が生まれるたび必ずこう質問する様にしている。

 

超兵器という最強最悪の兵器が一個人の手に委ねられるなど今でも到底信じられないからだ。

 

「あら可笑しな事を聴くのね焙煎艦長?私は船、私は兵器、私は道具、使う主人の思うまま命じるままに。そうでなくて」

 

どうやらこちらの言うことは聞いてくれるらしい。

 

それに少しだけホッとした俺は、新たな超兵器に最初の命令を下す。

 

「今本艦は危機的状況にある。お前には現状の打破を頼みたいんだが出来るな?」

 

出来るか?ではなく断定する出来るかで相手の出方を伺う俺は案外図太いのかも知れないなと、内心思いつつ相手の返答を待つ。

 

「あらそんな事、当然ですわ。では行ってまいりますわ」

 

彼女の日傘を高く上げるとアングルドデッキに戦艦の主砲がついた艤装から艦載機を次々と飛び立たしていく。

 

F4Fワイルドキャット、F4Uコルセア、SBDドーントレスからなるアメリカ艦載機の一群から中にはB-17、B-24などの爆撃機まで出るわで上空はまるでアメリカ航空機の博覧会の様相を呈していた。

 

「申し遅れました、私超巨大高速空母アルウスと申します。蜂の巣を突いて痛い目を見るのは誰かしら?」

 

オレンジの日傘をタクトのように振るい、それに合わせて編隊を整えた艦載機は逆襲を行うため敵艦載機を追撃する。

 

上空には述べ100機以上もの航空機が飛び立ち、次の100機が編隊を整え新たな100機が甲板から飛び立つ。

 

アルウス、蜂の巣とは言いえて妙だなと素直に俺は感心した。

 

小国3個分の航空戦力と言われる搭載量と、爆撃機も運用可能な巨大なアングルドデッキに戦艦並みの火力、しかも60ノットで航行出来る事もあり俺の艦隊に十分追従する能力もある。

 

アルウスから発艦した艦載機が次々と深海棲艦の艦載機に襲いかかり、制空権を物量に任せ奪い取っていく。

 

2機で1組を作り一方が囮となって降下し、もう一方が敵を追撃する伝統のサッチアンドウェーブ戦法を駆使することで瞬く間に敵機を殲滅。

 

その間に敵の機動艦隊に対し200機を超える攻撃機や爆撃機が魚雷や爆弾を投下し、敵機動艦隊は余りの数に圧殺され、その姿は蜂の群れに襲われ倒れる迄の僅かな間身悶えるかのようであった。

 

上空のドーントレスに対空砲火の注意が向いている間にB-25からなる30機の編隊が水面ギリギリの高度から爆弾を投下。

 

海面を反射して水切りのように跳ねる爆弾をもろに横っ腹に受けたヲ級達は炎上しそのまま轟沈、このスキップ・ボミンクと呼ばれる攻撃方法を反復して受けた敵機動艦隊は全艦が沈んだ。

 

スキズブラズニルの上空はアルウスから発艦した航空機からなる文字通りの傘が展開し、遠目から見ると黒い雲のようにも見える。

 

その雲はどんどんとその範囲と厚さを広げ、遂には太陽の光さえ遮るかと思うばかり。

 

敵にとってはまるで黙示録に出てくるイナゴの大群の様に見えるだろう、彼らが通り過ぎた場所は草木一本たりとも残さないのだから。

 

ヴィルベルヴィントの様な比類なき速度でも、他を圧倒する火力でもなく、アルウスは唯唯圧倒的な物量を見せつける。

 

それが最も単純極まりない強さの証だとばかりに。

 

アルウスの出現で状況は好転し、前方及び左舷の敵艦隊も無事殲滅されスキズブラズニルの被害も航行には支障がないと分かり俺たちは何とか窮地を脱することが出来た。

 

新たな超兵器を加え旅の前途は洋々としないが、俺たちはひたすら南を目指し進んでいく。

 

 

 

 

 

尚我が艦隊初の空母であるアルウスは、各鎮守がボーキサイトの扱いで神経質になるのかと言う実例を拡大解釈して実践して見せてくれたことを追記する。

 

この戦闘で消費されたボーキサイト及び弾薬は一航戦四個艦隊を一ヶ月フル出撃しても余りある量である。

 


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