超兵器これくしょん   作:rahotu

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51話

51話

 

南方海域の最深部にある敵要塞突撃前になり、ヴィルベルヴィント達超兵器はスキズブラズニルと交信を行おうとしたが、一切返答がない事に不審を感じていた。

 

一体全体どうした事だろうかと思い、まさか自分達を置いて逃げてしまったかとも考えたが、しかし直ぐにその考えは消える。

 

何故なら「あの男にそんな度胸や頭があるはずがない」とのヴィルベルヴィントの言に、誰しもが同意したためだ。

 

「まぁ、艦長は悩んで悩んで悩みまくった末に結局決められない凡人ですからね、だからこそ私の様な導く者がいなければなりませんわ」

 

「それについては全く」

 

「しごく当然ですね」

 

「…否定は出来んな」

 

「ハーレクイン的には、もう少し決断力を持って欲しいです」

 

「ほんま、よう決められんお方でんなぁ」

 

と超兵器達はアルウスに同意しつつも、その「私の様な」との部分には自分自信の事を当てはめていた。

 

失礼ながら此処にいる超兵器全員、焙煎の事を「本当に艦長として敬っているんかぁ?」と言いたくなるほど全く敬意をもっていないのだ。

 

そしてこの敬意を全く払えない、払う必要のない凡愚極まる男だからこそ、彼女達は自分がしっかりしなければとの思いが強い。

 

兎に角、この奇妙な信頼関係によって超兵器達は当初の任務に集中する事が出来たのだ。

 

しかしその為に、本来なら不審がって戻る事なく先に進んでしまったが為に、ついぞ焙煎達の身に起きている危機に気付く事は無かったのである。

 

最も、誰が予想できただろうか。

 

助けた筈の艦娘達に立て篭もられるなどと言う、間抜けな事態になっていた事など。

 

 

 

 

 

 

 

複数の異なる船が連結して出来た巨大ドック艦スキズブラズニルの病院船に続く通路にて、周囲は物々しい雰囲気に包まれていた。

 

通路は病室のベットをひっくり返して即席のバリケードが作られて封鎖されており、作業着姿の妖精さん達がメガホンを片手に投降を呼びかける。

 

しかし立て籠もる艦娘達は一向に話を聞く様子はなく、逆に神通の解放を求める始末。

 

最早、誰の目にも艦娘達の反乱は明らかであった。

 

さて此処まで来るのに今少しばかり説明を重ねねばならない。

 

神通がスキズブラズニルのイイ一撃を貰って失神した後、病室に運ばれて検査で問題がない事が分かったが焙煎の命令によりまた起き出して暴れられたら困るとの理由により、彼女は病室に鍵をかけられてしまったのだ。

 

しかもおり悪い事に神通に付き添って川内が付いて行ってしまい、一向に戻らない神通を不審に思った他の艦娘達がまるで伝言ゲームの様に情報を半端に集めてしまったが為、有らぬ誤解を生じてしまっていた。

 

つまり、出撃の許可を求めて来た神通を焙煎達が暴力で押さえ込み監禁したと言う、一部正鵠を得ているから尚の事タチの悪い噂が出回り、その結果一部の艦娘達が暴走。

 

結果として他の艦娘達も同調して、病院船一隻を乗っ取っての立て篭もり事件に発展してしまったのだ。

 

事件の事を聞いて川内が慌てて説得に向かうも、逆に神通を人質に取られていると誤解されてしまい結果として益々火に油を注ぐ事となり失敗してしまう。

 

ここに来て最早話し合いによる事態の解決は不可能であり、後は焙煎達が折れるかそれとも実力でもって排除するしかないと言う究極の二者択一の選択を迫られる事となる。

 

そして焙煎は一人自室で悩んでいた。

 

普段書類作成に使っている机に向かい、両ひじをつき手を組んでそこに額を押しつけた焙煎は、どうすればいいか堂々巡りの考えに陥っていたのだ。

 

(艦娘達の要求に屈するのはナンセンスだ、只でさえ海軍を離れようという現状、なけなしの秩序まで失ってしまったら目も当てられない)

 

(しかし、だからと言って現状こちらが艦娘に対して有効な手段がある訳でもないし…)

 

普段ならば、このような時ヴィルベルヴィント達超兵器が相談に乗ってくれていた。

 

と言うよりも、彼女達が勝手に此方の都合の良いように考え行動してくれるので実質焙煎がアレコレと指示をしたり決断を下した事は少ない。

 

だからこそ、頼るべき者なき現状その経験不足のツケが回って来ていたのだ。

 

(はあ、こうして改めて考えてみるとやはり超兵器と言うのは傑出した存在なんだな)

 

焙煎はつくづくそう思うのには、超兵器と言う存在でまず誰しもが思い浮かべるのはその戦闘力であり、次に超兵器機関に代表される超科学技術である。

 

しかしそれは超兵器のほんの一面にしか過ぎない、嘗て列強の誇りを胸に最強の兵器として彼女達は同時に当時最新最高最精鋭の人と物で構成されていた。

 

超兵器一隻とて、当時の総旗艦クラスの人員と指揮権を持ち、常に戦局を覆し得る戦略的存在であり、それを動かす人員は末端に至るまで選抜し訓練されたエリート中のエリート。

 

その能力を受け継ぐ彼女達超兵器が、単なる武張った脳筋集団の筈がない。

 

常に大局を見て選び動く事ができる、正に究極のリーダー集団なのだ。

 

そんな彼女達のサポートを今まで受け付けてきた焙煎は、正に贅沢者と言っても過言では無い。

 

しかし幾ら周囲に優秀な者を置いても、当の本人が単なる凡人である事には変わらないのだ。

 

そして周囲に頼る者が無い状況でこそ、この焙煎と言う男の人間としての真価が試されようとしていた。

 

一方その頃、立て篭もり現場では必死の説得が行われていた。

 

「だ〜か〜ら〜何度も〜言ってる〜じゃない〜ですか〜」

 

「神通〜さんは〜今〜部屋で〜絶対〜安静に〜して〜いなくちゃ〜ならないん〜です〜」

 

通路に作られたバリケードから遠く離れた所で、メガホン片手に説得を続けるスキズブラズニル。

 

しかし立て籠もる艦娘達の反応はと言うと…。

 

「煩い引っ込めー!声が妙に間延びして聞きとりにくいし書きにくいんだよ」

 

「神通さんと川内さんを解放しなさい!あの2人が帰って来るまで此処を動かないわよ‼︎」

 

「革命万歳〜ウラー!モロトフカクテルをお見舞いしてやる」

 

とシンフォニーだか別府だか分からない顔を真っ赤にした生っ白い艦娘が、中に液体の詰まった瓶を投げる。

 

床にぶつかった瞬間中の液体がそこら中に散らばり、あわや火炎瓶かと思った妖精さん達が一斉に下がった。

 

しかし中身は単なる薬品だったのか、床や壁を汚すだけでそれ以外の被害は出ない。

 

「こらー!瓶なんて投げちゃ危ないでしょ。破片が当たって怪我をしたらどうするのか」

 

「ウラー」

 

「ウラーじゃない、貴女また消毒用のアルコール液飲んだでしょう!」

 

と何故だか幼妻の香り漂う艦娘が、消毒アルコールを呑んで酔っ払った艦娘を叱る。

 

その様子は立て篭もりと言うのには余りに朗らかではあったが、立て籠もっていると言う事実には変わりがない。

 

しかし、妖精さん達やスキズブラズニルも相手の緩い空気に飲まれてばかりではいけない。

 

彼らも工廠で作った即席の盾を構えつつ、ジリジリとバリケードに迫っていく。

 

艦娘達もそれに応じて後退していくが、数で圧倒する妖精さん達が最終的に突入に踏み切れないでいるのには訳があった。

 

と言うのも、相手の艦娘は艤装がなくても訓練された軍人でありまた兵器である。

 

さっきから漫才な様な事をやっていても、その眼光は鋭く迂闊に踏み込もうものなら返り討ちにあうことは必定。

 

逆に妖精さん達は数こそ多けれど、大半が工廠勤務の言わば後方要員であり、到底訓練された軍人に及ぶものではない。

 

しかし艦娘達も立て篭もったはいいものの、実質周囲を取り囲まれて孤立しているも同然であり、数で押されて包囲を狭めれば後退する他ないのだ。

 

だが追い詰められ後がなくなれば艦娘達が暴発するかもしれず、そうなれば最終的に数で勝る妖精さん達が制圧こそすれ互いに犠牲が出る事は否めない。

 

それは救った相手を自分達で害すと言う、正にタチの悪い冗談としか言いようが無い状況であり、それを避けるべく焙煎の決断が求められているのだ。

 

「もう〜焙煎〜さんの〜ハゲは〜一体〜どうする〜つもり〜なんですかね〜」

 

と腹をたてるスキズブラズニル、だが原因の一端は彼女にもあるのだがそれは棚に上げていた。

 

やろうと思えば(やりたくはないが)、それこそこのスキズブラズニルと言う巨大ドック艦全体は言わば彼女の身体の様なものであり、艦娘達が立て籠もる病院船だけを切り離して隔離する事も兵糧攻めにする事も出来る。

 

しかし中にはまだあの時救助した負傷兵が取り残されており、最悪の場合艦娘達が彼等の命を盾に取る可能性もあった。

 

故にスキズブラズニルとしては強硬手段では無く、話し合いによる穏便な解決方法を模索したい所なのだが…。

 

「あの〜ヒトが〜どう〜判断〜する〜かです〜ね〜」

 

と真剣な表情で、いつものように間延びする特徴的な声で言った。

 

周囲の者達や妖精さんに果ては超兵器にまで侮られる焙煎であるが、しかしスキズブラズニルだけは知っている。

 

(あの人は、いざとなったらどんな手段でもやるヒトです。少なくともヴァイセンヴェルガーの名を持つ人間はそうでした)

 

自分が元いた世界とは違う出身とは言え、スキズブラズニルは焙煎の事を警戒していた。

 

それは単に世界支配を目論み戦争を引き起こした最悪の独裁者と同じ名前だからと言う以上に、彼女の本能が警告を発しているのだ。

 

(本当に、臆病で凡庸なヒトなら超兵器なんてもの作ろうとは思わないはずです)

 

(例え帰る手段の為とは言え、世界を滅ぼした元凶そのものを建造するなんて考えられません)

 

それは、今現在艦隊の中でスキズブラズニルだけが持つ同じ凡人としての下からの視点であった。

 

なまじ優秀な為に能力の低い者を見下しがちな海軍や艦娘、そして自らを絶対と信じてやまない超兵器からすれば焙煎など取るに足らない小物に見えるだろう。

 

だが、時としてその様な路傍の石ころが人を躓かせる事もある。

 

元の世界で、それこそ多くの人間を乗せ世界中の人々と触れてきたスキズブラズニルだからこそ、追い詰められた時人は何をするか分かったものじゃないと知っていたのだ。

 

故にスキズブラズニルは願っていた、これ以上焙煎を追い詰めないでほしいと。

 

膨れ上がった風船が弾けた時、一体何が起こるのかは誰にも予想がつかないのだ。

 

だがしかし、スキズブラズニルの願いは儚くも裏切られる事となる。

 

別の通路でバリケードと対峙していた妖精さん達が、突如としてバリケードを乗り越え突撃してきた艦娘達によって追い散らされたのだ。

 

これにより、幾人かの負傷者を出しもうお互い後には引けぬ所まで来てしまった。

 

そして、これを自室で聞いた焙煎は等々ある決断を下す事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

焙煎がその報告を聞いた時、再度確認を求めずジッと頭の中で情報を反芻していた。

 

そうして、彼はゆっくりとした口調でまるで自分自身を落ち着かせるかの様に、全ての妖精さん達に病院船から離れる様命令した。

 

そしてまた、病院船との通路を全て塞ぐ様にとも付け加えたのだ。

 

一見するとこれは、被害が出たことにより焙煎が及び腰となり妖精さん達を引かせた様に思われる。

 

しかし、命令を直接聞いた妖精さんは常ならぬ焙煎の様子に嫌な予感を感じていた。

 

そして焙煎は妖精さんへの指示を終えると、次にスキズブラズニルを呼び出した。

 

呼び出されたスキズブラズニルは、何が嫌な予感がしながらも焙煎の待つ艦橋へと急いだ。

 

道中次々と閉ざされていく隔壁や撤退する妖精さん達の姿が目に浮かび、彼女の中である最悪の予想が浮かぶ。

 

そして艦橋にたどり着いた時、既に艦長席に座っていた焙煎はスキズブラズニルの方を振り向きこう言った。

 

「スキズブラズニルから病院船を切り離す」

 

スキズブラズニルの頭の中は、予想の中での最悪が現実となりパニックになった。

 

「ば、焙煎〜さん〜、あの〜中には〜まだ〜負傷者が〜残ってるん〜ですよ〜」

 

と顔がヒクつきながらも、スキズブラズニルは何とか声を絞り出す。

 

しかしそれに対して焙煎は、酷く冷たい声でこう言った。

 

「問題ない」

 

一体全体何が問題ないのか?

 

もしかして、こちらから神通と川内を解放する事を条件に負傷者を引き渡す様要求するとか、とこの時スキズブラズニルは考えた。

 

しかし次の言葉でその予想もひっくり返る。

 

「そのまま一緒に流せ」

 

「⁉︎」

 

今度こそスキズブラズニルは絶句した、予想した中で最悪の中の最悪を上回る回答に、さしもの彼女も二の句をつげなくなったのだ。

 

「そもそも奴らはこの船から降りたいのだろう?だったらそうしてやるまでだ」

 

この時、スキズブラズニルは焙煎の底を見た心地であった。

 

(コイツは、エゴの塊だ⁉︎自分の都合の悪いものは全部捨てる。そんなタイプの人間だ)

 

多くの人間を見て触れて、様々なタイプと出会ったからこそ焙煎の様な最悪な人種をスキズブラズニルは知っていた。

 

心のどこかではそうであろうと思っていたが、普段の凡庸さから見逃しがちであったのだ。

 

しかし今ここでその化けの皮が剥がれた今、彼女の目には焙煎は醜悪な俗物として写っていた。

 

「そ、そんな〜事〜言われ〜ても〜、私が〜言う事〜きくと〜思ってるん〜ですか〜?」

 

と声を震わせながら精一杯の虚勢を張るスキズブラズニル、生身で感じる人の醜怪さに彼女は心ならずも怖気づいているのだ。

 

「お前がやらなくとも、既に手筈は整っている」

 

と焙煎が意味ありげに言い、まさかと思いスキズブラズニルは妖精さん達の方を振り向いた。

 

「そん、な…妖精〜さんが〜どうして〜?」

 

スキズブラズニルにとって、艦内で今何が起きているかなど手に取るように分かる。

 

たった今彼女は、妖精さん達が病院船を切り離そうと作業を行なっているのを感じたのだ。

 

振り向いた先にいた妖精さん達も、スキズブラズニルと目線を合わさない様に顔を背ける。

 

スキズブラズニルその態度に益々混乱した、何故艦娘と共にあるはずの妖精さん達がこんな事を行なったのかと?

 

確かにスキズブラズニルは横須賀で工作艦明石やドック勤務の妖精さんと共に短いながらも共に働き、また彼ら彼女らと触れ合ってきた。

 

そこから彼女は妖精さんとは艦娘の役にたつ者、と誤解してしまったのだ。

 

だがそれは違う、確かに横須賀の‘海軍’所属の妖精さん達は艦娘に対して尽くすが、スキズブラズニルの妖精さん達はそうではない。

 

元々スキズブラズニルの妖精さんの始まりは、彼女が建造する前そう最初の破棄された基地時代にまで遡る。

 

戦略的な理由から放棄されそのまま基地ごと見捨てられた妖精さん達は、焙煎達が来るまでずっと待ち続けたのだ。

 

人ではなく艦娘が為にある妖精さん達が、海軍の都合により放置された結果、彼等に言い知れぬ怒りと不信を植え付けてしまっていた。

 

焙煎達に拾われて共に長い間航海する事で共同体意識が生まれ、自然彼等の帰属意識はスキズブラズニルと言う巨大ドック艦そのものに向いたのだ。

 

彼等はスキズブラズニルを害するモノがあらば、何であれ全力で排除するだろう。

 

しかも今回はこちら側に負傷者が出ており、仲間がやられて黙って何もしないでいる程妖精さん達はお人好しではない。

 

スキズブラズニルの間違いは、自分達と海軍の妖精さん達を同じに見てしまった事だろう。

 

その結果、彼女は信じていた妖精さん達に裏切られた様に感じてしまっていた。

 

「それで〜いいんですか〜⁉︎本当に〜これで〜いいんですか〜」

 

当然納得がいかないスキズブラズニルは、駄々をこねる様に叫ぶもしかしそれに待ったをかける声がした。

 

「今の話、本当なんですか」

 

スキズブラズニルは驚き、声の下方向を見る。

 

そこには、神通の看病をしていたはずの川内の姿があった。

 

「焙煎中佐、お答えください。本当に船を切り離すおつもりで?」

 

普段の鎮守府での彼女を知る者が見れば、川内の変わり様に驚いただらう。

 

しかしいくら彼女とて、時と場を弁えるくらいの分別はある。

 

「残念ながら今の君の仲間達の行動は明らかに反乱と見る他ない。よって、古くからの習わしに従い追放処分とする」

 

ここで初めて焙煎は反乱、と言う言葉を使った。

 

最も海軍を脱走しようとしている焙煎達のどの口が言うかとの疑問もあるが、それについては先に焙煎が出した高野元帥の委任状が効いてくる。

 

まさか元帥の信頼厚い者が海軍を離反していようなどとは思わない筈であり、逆に艦娘側の非はこれ以上ない程明らかにされてしまっているのだ。

 

今の焙煎は正に地位と権威を傘に着てる、独裁者然とした乱暴な指揮官に見えるだろう。

 

「何とか考え直す事は出来ませんか?私がもう一度説得して、せめて負傷者だけでも開放する様話しますから」

 

川内としては負傷者の事を交渉材料に、何とか最後の説得の機会を試みようとする。

 

今彼女達が放り出されたらそれは死刑宣告も同然なのだから、何とか焙煎を翻意させる時間を稼ごうとしたのだ。

 

しかし、焙煎はそれを無情にも斬って捨てる。

 

「いやそれには及ばない。既に彼女達によってこちらに負傷者が出ている、とても満足のいく交渉が出来る相手じゃ無い」

 

「そもそも、君を向こうにやった所で今度はその負傷者を盾にして要求を突きつけてくるやもしれん。この船の安全を預かる身としてそれは看過出来ない」

 

川内はその答えに焙煎の意思が固い事を悟り、彼女は項垂れた。

 

一体どこで自分達は選択を誤ったのだろう?

 

あの時もっと皆を強く止めていればと、川内は後悔した。

 

更にそこに追い打ちをかける様に、焙煎がこう言い放った。

 

「君の妹、神通にも当然ながら反乱の疑いがある。残念ながら彼女にも降りてもらう他あるまい」

 

川内はそれを聞いて、一瞬目の前の男を取り押さえれば全てが解決するのではと言う誘惑に駆られる。

 

しかし、直ぐにその甘い考えを頭を振って取り消した。

 

自分と同じ様に救助された仲間から聞いたが、自分達を救ったのはあの超兵器だと言う。

 

今現在は何らかの任務で出払っている様だが、噂に聞く彼女達が戻ってきたら自分達の小さな反乱など簡単に取り押さえられてしまうだろうと。

 

「焙煎中佐…妹が降りるのなら私も罪は同じです。共に船を降りてもらよろしいですか」

 

川内は絞り出す様な声で、そう言った。

 

最早、自分達に残された道は一つしか残されていなかったのだ。

 

川内が艦橋から出ていった後、スキズブラズニルは焙煎に向かって腕を思いっきり振りかぶりながらこう言った。

 

「艦長、貴方は最低です」

 

 

 

 

 

 

 

スキズブラズニルから、一隻の船が切り離されていく。

 

見送る者など誰一人とない寂しい出港を、痛む頬に手を当てながら焙煎は艦橋からそしてもう一人スキズブラズニルはデッキに降りて見送っていた。

 

神通と共にスキズブラズニルを降りた川内の説得により、切り離し作業そのものは順調に進んだ。

 

元々艦娘達の方も本気で反乱を起こした訳ではなく、ただ仲間を取り戻したいと言う至極真っ当な理由が暴走してしまった為であり、その結果自分達が反逆者となってしまったことに愕然としていたのだ。

 

またそもそもの原因が自分達の勘違いにあると言う事がわかり、その余りの救えなさ具合に彼女達の多くが茫然自失となり、気力を失ってしまった事も関係した。

 

スキズブラズニルはデッキの手すりがひしゃげる程強い力で握りながら、この後の彼女達の運命を思い暗澹たる気持ちに襲われる。

 

これから彼女達を乗せた船は、その燃料が尽きるまであてども無くこの海を彷徨う事となるだろう。

 

そしてその旅は彼女達の最後の一人の命が尽きるまで終わらない。

 

何と残酷で恐ろしく、この世のものとは思えない仕打ちだろうと。

 

(あの時〜私も〜一緒に〜なって〜いれば〜)

 

ともう過ぎてしまった事を思うスキズブラズニル。

 

だが例え自分がそう思う通りにしたとて、今度は焙煎が超兵器を全て呼び戻して制圧にかかるだろうくらいの事は、予想がついた。

 

そうなれば、艦娘達は一人残らず殺戮されてしまうだろう。

 

一体何が最善だったのか、そもそもあの時助けたのが間違いだったのか?

 

堂々巡りの思考の迷路に陥りそうになり、ふと顔を上げてもう一度去りゆく船を見たとき彼女はふとある違和感に気がつく。

 

(船が〜戻って〜来ない〜?)

 

スキズブラズニルは巨大ドック艦であり、同時に複数の船の集合体である。

 

そのスキズブラズニルを構成する船の一つ、病院船は施設そのものの安全のため内側に配置されており、切り離すには同時に他の船も離さなければならない。

 

無論、大半の船は既に元の配置に戻っているがしかし一隻だけまるで病院船に寄り添う様にどんどんとスキズブラズニルから離れていくではないか。

 

そしてその船はスキズブラズニルの記憶が正しければ、あの男の性格からして見落とす筈がない船であった。

 

スキズブラズニルは真相を確かめるべく、もう一度自分が殴り飛ばした艦長の元へと走り出す。

 

艦橋に続くエレベーターを待つ時間も惜しく、スキズブラズニルは長い階段を一足跳びに駆け上がる。

 

普段自堕落なイメージしかない彼女だが、実はその体躯に見合った運動能力を有しているのだ。

 

でなければ、元の世界で一年余りで世界を一周する事など出来よう筈がない。

 

ビル十数階分に匹敵する高さを、ものの数分で登りきったスキズブラズニルは、閉ざされた鋼鉄の隔壁を蹴破って中に入る。

 

「おお⁉︎」

 

突然外から扉が蹴破られ、しかも2mを越す大女が入って来た事で驚きの声を上げる焙煎。

 

「焙煎〜艦長〜答えて〜下さい〜」

 

「え、いやおい。さっき殴り飛ばした相手に向かって今そんな事言うから?」

 

と焙煎は驚きつつ、先程殴り飛ばされた方の頬を手で庇いながらそう言った。

 

そばで見ていた妖精さん曰く、「体重さえ絞ればスーパーヘビー級で世界を取れるパンチ」と称されるスキズブラズニルの一撃を受けたのだ。

 

警戒しない方がおかしいが、しかしスキズブラズニルはそんな事御構い無しに聞いてくる。

 

「あの船〜輸送船を〜どうして〜戻さないん〜ですか〜」

 

そう今現在病院船と共についていっている船、それは元々食料や医薬品に資材等を保管している船の一隻の筈だ。

 

吝で守銭奴もとい資源狂いの焙煎が、貴重なそれをタダで手放したとは到底思えない。

 

「あ、あれか〜。確か碌に大したものも残ってなかったから、解体する手間も惜しいんで放棄したんだよ」

 

「へぇ〜」

 

と疑り深げに焙煎を見るスキズブラズニル、彼女の記憶が正しければあの船にはまだ十分な量の物資が乗せられていた筈だ。

 

それをこの男が知らない筈がない、何か隠していて良からぬ企みを抱いているに違いない。

 

スキズブラズニルは心の中でそう勝手に決めつけた。

 

「素直に〜白状〜して〜下さい〜、もう〜一発〜お見舞い〜しますよ〜」

 

と今度は利き腕の方の左肩を回すスキズブラズニル、そう神通や焙煎などを沈めた右手の一撃も彼女の本気では無かったのだ。

 

「よ、よせスキズブラズニル⁉︎お前のは本当にシャレにならん」

 

「だったら〜素直に〜話せば〜いいじゃ〜ない〜ですか〜」

 

とジリジリと焙煎に近づくスキズブラズニル。

 

突然この目の前の男が、仏心を出しただとか慈愛の心に目覚めただとかというのでもない限り、(いや億が一にでもそんな事はあり得ないと彼女は思っている。)何か隠していると疑っているのだ。

 

ある意味で相手の人間性を全く信用していないというのも、ある意味では信頼の形なのかもしれないがそれを確かめる手段が暴力なあたり、スキズブラズニルもまたこの艦隊に染まってきていた。

 

焙煎の方もこれまで数の危機(乳枕で窒息&アルコール溺死)や理不尽(コーヒーを頭の上に乗せられた上での耐久レースに爆乳ヘッドロック)な目にあってきたが、この時程恐怖を感じた事は無い。

 

スキズブラズニルの威圧感と迫力に押されて、ジリジリと後退する焙煎。

 

このまま壁際まで追い詰められて逆壁ドンさらるかに見えた時、哀れにも艦橋に一人の妖精さんが空気を読まずに入ってきた。

 

その妖精さんは手に書類を持っており、焙煎がそれをギョッとした目で見たのをスキズブラズニルは見逃さなかった。

 

スキズブラズニルは焙煎が止めるのも聞かず、妖精さんから書類をひったくる。

 

そして素早くそれらに目を通していくにつれ、さき程まで怒りの形相を浮かべていた彼女の顔が当惑したものに変わる。

 

書類にはこう書かれていた、『病院船及び輸送船の自動航行システムにラバウル基地迄の航路入力完了。当該基地到着までの日数分の燃料、水、食料並びに負傷者用の医薬品類の積み込み完了。艦娘達の艤装及び燃料弾薬の積み込み完了…』などなど。

 

到底追放者に与える慈悲にしては過大すぎる物の数々に、スキズブラズニルは焙煎が何を考えているのか分からなくなっていた。

 

さて、此処でもう一度焙煎と言う男がどう言う人物なのか思い出して頂きたい。

 

彼は何処にでもいるような凡庸で凡俗な男であり、かつ権威に弱く周囲に流されるような性格である。

 

突如として見知らぬ世界に転移し、そこで生きる為に身分を偽り周囲に対して縮こまりながら息を潜めて生きてきたのだ。

 

その心の萎縮は、超兵器と言う絶対的な力を得てからも変わらない事から、いかにこの男が周囲から受けてきたストレスが大きいのかの証左だろう。

 

今回艦娘達を追放するなどと言う大胆な行動に取れた背景には、元帥からの委任状と言う権威の後ろ盾があったからであり、彼女達がそれに粛々と従ったは良いがいざ追い出すとなると途端不安に駆られたのだ。

 

つまり、自分で決めた事の癖に艦娘達から恨まれる事を恐れ、アレコレと影で手を回しその心象を和らげようと言う無駄な努力をしていた。

 

それなら最初から武力に訴えて制圧すれば余計な出費も手間もかからずに済んだのだが、生憎と彼の武力を支える超兵器達は不在であり、ある意味で助かったともいえる。

 

最も超兵器の誰かがいたとしても、根っからの小心からその様な暴挙には出なかっただろうが。

 

つまり今回焙煎が見せたチグハグな矛盾に満ちた行動の背景には、彼個人の資質と性格が大きく関わっていたのだ。

 

さて書類をひったくって困惑するスキズブラズニルは、今一度焙煎に事の次第の説明を求めねばならなかった。

 

“人”を知っていると豪語する彼女でも、今回の焙煎の奇妙な行動に困惑し納得を得られずにいるのだ。

 

そして焙煎の方も、書類を見られたからには下手な言い訳をする気力を失っていた。

 

焙煎は正直に口を割り始めた、最もその内容は多少言葉を飾り意図的な事実誤認をする様な表現をたっぷりと含んだりものであるが。

 

この男にもなけなしの陳腐なプライドがあると言う事なのだろうが、スキズブラズニルはそんなものに誤魔化されず“正しく”理解しその結果こう思った。

 

(バッかじゃねーの〜コイツ〜⁉︎)

 

(てか〜艤装も〜返しちゃったって〜艦娘さん達が〜それで〜こっちを〜攻撃して〜きたら〜どうするつもり〜なんですか〜この人〜?)

 

スキズブラズニルは常日頃から焙煎の事を余り良く評価はしてこなかったが、それでも一応海軍人としての最低限の能力はあるものと考えたいた。

 

しかし今回の一件で焙煎はその最低必要限を大きく下回る、いや一般のそれと比べても彼の能力が平均には達していない事をまざまざと見せつけられたのだ。

 

結局の所彼がこれまで上手くやれてきたのも超兵器のお陰であり、それがなければ士官学校落第スレスレの落ちこぼれ軍人である。

 

そんな人間が、これまでこの艦隊の責任者を務めていたかと思うと、立ち眩みがするスキズブラズニル。

 

(超兵器〜さん達が〜この人を〜構うのも〜分かる〜気が〜します〜)

 

分かりはするが理解はしたくない分類の感情ではあるが、スキズブラズニルはつまり今後自分が何をしなければならないかについて気が付いた。

 

(もしかして〜これって〜超兵器さん〜達が〜いない〜間は〜私が〜しっかり〜しないと〜いけないって〜事じゃ〜ないですか〜‼︎)

 

この艦隊において、一部の業務を除いて勤勉という言葉から最も無縁な存在であった自分が、知りたくもなかった事実に気付いてしまったが為に、余計な責任を背負いこむ羽目になったのだ。

 

スキズブラズニルは気付いてしまった己が迂闊さと、焙煎の無能さ両方に呪詛の言葉を叫びながら、これから先自分の判断に艦隊の運命がかかってくると言う責任感に押しつぶされそうになっていくのである。

 

そしてそれは今まで名目上保っていた焙煎の指揮権と言うものが、これから先全くなくなってしまうと言う事も意味していたのであった。

 

 




一行で分かる粗筋

スキズ「ウチの提督無茶苦茶無能やん‼︎こりゃ今後任せられへんわ」

ハゲ「ファッ!」
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