超兵器これくしょん   作:rahotu

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52話

52話

 

スキズブラズニルでグダグダな事件が起きていた事など露知らず、南方海域での戦いは(何度目かの)最終局面を迎えていた。

 

離島棲鬼が作り上げた要塞島は、高射砲塔と巧妙に隠蔽されたトーチカからなる立体的な火線を形成し、戦艦棲姫ら反乱艦隊を寄せ付けなかった。

 

実はこの時、既に飛行場姫側の艦隊戦力は壊滅してはいたものの、沈むくらいならと多くが砂浜に座礁する道を選び、そこで文字通り不沈砲台として火線を吐き続けたのである。

 

本来なら彼女達はそこまでして飛行場姫に義理立てする謂れはない。

 

しかし、反乱の発生とその後の展開の早さから彼女達の多くは乗り換える機を逸してしまい、半ばヤケクソ気味に抵抗を続けているのだ。

 

戦艦棲姫も本来なら彼女達とは争う理由など無いのだが、一度事を起こした以上そうそう鉾を収める事も出来ず、いかに稀代の名将とは言え完全に状況をコントロール出来ているわけではない。

 

このまま互いに悪戯に戦力をすり減らす消耗戦に陥るかに見えた時、両軍は同時にそれが現れたのに気が付いた。

 

「ノイズ反応ヲ確認‼︎高速デ接近中」

 

両軍のオペレーターがそう言うが早いから、レーダーの端からまるで侵食する様に拡大するノイズ反応は直ぐに海域の半分を埋め尽くした。

 

「来タカ!前線ノ艦隊ヲ退カセロ」

 

戦艦棲姫は素早く状況の変化に対応した、彼女は包囲の一角を崩してまで超兵器との接触を避けようとしたのだ。

 

そしてその一瞬の判断が両軍の生死を分けた。

 

戦艦棲姫の艦隊が道を開けた瞬間、水平線の向こう側から空間を埋め尽くさんばかりの砲弾やミサイル、ロケットにレーザーの嵐が駆け巡り要塞島の一角と衝突する。

 

次の瞬間途方も無い程の爆発が起こり、要塞島を炎が舐めた。

 

隠蔽などまるで無駄とばかりに大量の砲弾が次々と突き刺さり、殺到したロケットやミサイルが爆炎と共に要塞の表面を覆う地面をジャングルごと耕す。

 

めくれ上がった地表はその下に隠された人工の構造物を露出させ、天高く聳え立っていた高射砲塔は根元からポッキリと折れ無残にも砂浜にその残骸を横たえる。

 

「第3装甲マデ貫通サレマシタ!」

 

「第8、第6区画ニ火災発生!消化班ヲ向カワセマス」

 

「直チニ全隔壁ヲ閉鎖シナサイ!コレ以上ノ被害ヲ防グノヨ」

 

要塞地表の指揮所内でオペレーター達が次々と凶報を告げる中、離島棲鬼は被害を食い止めるべく矢継ぎ早に指示を送る。

 

指揮所の窓の外を見れば、超兵器の攻撃が集中した箇所から巨大な土煙が立ちのぼり、降り注ぐ大量の土砂が如何に先の攻撃が圧倒的かつ強大だったかを物語っていた。

 

事実この時の一撃により、離島棲鬼が心血を注いで作り上げた要塞島の戦闘力の凡そ18%が失われていたのだ。

 

しかしそれでこの要塞の戦力が尽きた訳ではない、まだ基地格納庫には航空戦力が十分残っていた。

 

沿岸部を幾らやられようが、滑走路さえ無事ならばまだ抵抗する事は出来る筈であった…。

 

 

 

 

 

真っ直ぐに要塞を目指して針路を突き進む超兵器達、水平線の向こう側にある見えない目標に向かって曲射攻撃を成功させた彼女達だが、その表情に成功を喜ぶ安堵の文字は無い。

 

その中にあって、一際顔を険しくしたアルウスは、左手に持ったアーチェリーに矢を番え高く掲げる。

 

右手の指の間に矢を挟み込み、都合4本の矢が番えられピンと張った弓の弦が限界まで引き絞られ頂点に達した瞬間、衝撃波を伴って大空へと放たれた。

 

発生した衝撃波は波を沸き立たせ、周囲の超兵器達に強烈な突風を浴びせかけるが、しかし彼女達はまるでそよ風に吹かれでもしたかの様にまるで小ゆるぎもしない。

 

これが通常の艦娘であれば、沸き立つ波に翻弄され陣形を乱すか、或いは強烈な突風で駆逐艦艦娘なら横転する危険性もあっただろう。

 

超兵器の膂力とはまさにこれ程までに強烈であり、また生半可な随伴艦は同じ戦場に立つ事さえ許されないのだ。

 

放たれた矢は音速を超え、高度10,000フィート上空で矢から艦載機へと姿を変える。

 

これの詳しい原理は解明されていないが、しかしこれにより艦娘の操る艦載機は通常艦のそれよりも遥かに早く展開する事が出来るのだ。

 

姿を変えたアルウスの艦載機は全部で200機にも及び、優に正規空母2隻分の艦載機をアルウスは同時にはなったのだが、しかし彼女の顔は優れない。

 

「全く、慣れないものは使うものではありませんですことよ」

 

と彼女にしては珍しく愚痴を零すアルウス。

 

ここに来る前、原子力機関を備えたレ級との戦闘で普段使っている艤装を失い、代わりにスキズブラズニルで保管された弓矢を使って見たものの、普段との使用感の違いから余り大量に展開出来ずにいたのだ。

 

普段の彼女なら、矢一本あたり100機は下らない艦載機を発艦させただろうが、今はその半分しか出撃していなかった。

 

無論追加で矢を放てば普段の通り1,000機もの大編隊を飛ばす事は可能だろう、しかしそれをすれば残りの矢を全て費やす事となってしまう。

 

普段のカタパルトデッキから直接離着艦させるのと違い、弓矢と言う媒体を挟んでしまったが為の弊害がアルウス本来の運用を妨げていたのだ。

 

そしてそれは編隊の編成にも大きく影響を与えていた。

 

普段なら戦闘機から戦略爆撃機まで多種多様な航空機や艦載機が大空を彩る筈が、今回は編隊の大多数がF4UコルセアにF4Fワイルドキャットとどちらかと言えば旧式に分類される物ばかり。

 

これにはいくつかの理由があるのだが、慣れない弓矢での運用と艦内工場で生産運用する時間を加味し、信頼性と生産性に優れた初期の機体を優先した結果であり、アルウス本人にとっては大いに不服であった。

 

しかしこれまで常に彼女達超兵器は過不足ない、いや過分な補給体制と支援に支えられ続け戦ってきたのだから今までが恵まれ過ぎていたのだ。

 

だがそれが断たれた時、限られた資材と手元のカードだけで勝負しなければならなくなった時、彼女達の兵器としての本質が問われようとしていた。

 

 

 

一方離島棲鬼もまた迫り来る超兵器達を前に、出し惜しみせず持てる戦力の全てを放出した。

 

「全テノ航空機ヲ上ゲナサイ!コレ以上好キ勝手サセナイワヨ」

 

超兵器の出現により一時的に戦艦棲姫達の包囲が緩んだ為、離島棲鬼はいままで温存していた基地航空戦力を全て費やして超兵器に対抗することを命令した。

 

防衛網の一角を崩され、海上戦力の無い今、殆ど負けの決まったようなものなのだがそれでも離島棲鬼は諦めようとはしない。

 

例え自分一人になっても抵抗し続けると言う鬼気迫る姿に影響されたのか、地下格納庫から地表滑走路に上がってきた航空機達は勢いよく大空へと駆け上がっていく。

 

要塞上空に輪をなして編隊を組む姿は、到底負け戦の軍の姿ではなく、寧ろまだまだこれからだと言う気迫に満ちていた。

 

編隊の中には横須賀を爆撃した重爆撃機の姿もあり、全部で約180機にもおよぶ正に正真正銘の全力出撃である。

 

彼等の使命はただ一つ、例え体当たりしてでも超兵器を止める事、ただそれだけであった。

 

此処にアルウスの艦載機200機vs深海棲艦180機との空前の大航空戦の火蓋が切って落とされたのだ。

 


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