超兵器これくしょん   作:rahotu

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56話

56話

 

超兵器と要塞島との戦闘と言うには余りに一方的過ぎる戦いを、遠巻きに見つめる深海棲艦の反乱艦隊達。

 

彼女達の目的からすれば、このままただ指を咥えて見ているなど出来ないのだが、しかしその眼前で行われている圧倒的な破壊を前に誰しもが二の足を踏んでいた。

 

 

反乱艦隊のリーダー、戦艦棲姫にしても今は機を待つ時と静観の構えを見せ、それは漁夫の利を狙おうと言う余裕からなのか、それとも単に手をこまねいているのかは本人にしか分からない事であった。

 

しかし世の中には誰しもが躊躇する中、火中の栗を拾おうとするものが必ずいるものだ。

 

時として、それは栗を拾うどころか火傷では済まない事態をも往々にして引き起こすものである。

 

駆逐古鬼が反乱艦隊に参加したのは、単に飛行場姫の元では良い目を見られないと言う即物的判断からであった。

 

無論の事反乱艦隊の多くはこの様な理由で参加している者が大多数を占めるのだが、古鬼はその積極性について同僚よりも先を行っていた。

 

彼女は自ら案内役を買って出ると言う危険を冒し、戦艦棲姫率いる本隊をここまで殆ど無傷で要塞島まで導くと言う大役を果たしていたのだ。

 

その功績から、はやくも戦艦棲姫の幕下に納まったものの、彼女の積極性はそこで我慢しなかった。

 

(どうせなら、登れる所まで登り詰めてしまおう)

 

と、動乱期特有の野心的発想が彼女の中で鎌首をもたげたのも不思議ではない。

 

そもそも折角の手柄首を前にして、みすみすそれを別の誰かにくれてやろうなどと言う事は、血の気の多い古鬼に我慢出来る筈もなかった。

 

だからこそ、誰もの目が超兵器に集中している間、密かに列から抜け出し少数の供回りだけを連れ、単身飛行場姫の首を取るべく敵地に乗り込もうとしていたのだ。

 

 

 

 

誰にも気取られぬ様海中を進む駆逐古鬼、その周囲を囲むのは少数の護衛のみであり、彼女らは鉄火場となった要塞島を目指していた。

 

本来水上型深海棲艦である彼女達は、長時間の潜水行動は苦手なのだが、今回は要塞島に侵入するまで潜れていれば良いとの理由から、隠密潜水行動を取っていた。

 

図らずも、海軍に大打撃を与えた海中からの奇襲を今度は同じ深海棲艦相手に使おうと言うのだ。

 

本来ならば、この様な軽率な行動は海中に潜むドレッドノートに瞬く間に知られる事となる。

 

しかし今海上では鼓膜を破らんばかりに激しい戦闘が行われており、その為海中の音がして乱れ、さしものドレッドノートも要塞島の陰から忍び寄る駆逐古鬼達を発見出来なかったのだ。

 

そもそも彼女は今周囲を余り気にしているどころではなかった。

 

どうやって要塞島を支える支柱を破壊するか、これに意識を集中しているのだ。

 

これらの幸運によって、駆逐古鬼達は全員が無事に要塞島に辿り着く事が出来た。

 

しかし努努油断する事勿れ、幸運とは然程長続きするものでは無いのだから…。

 

 

 

 

 

 

要塞島をぐるりと取り囲んだ超兵器達だが、現状彼女達は攻め手に欠けると感じていた。

 

既に粗方の地表目標は破壊し尽くし、砂浜には最早物言わぬ残骸と成り果てた物が転がり、視界を遮っていた邪魔な密林もナパームによって今や焼き払われている。

 

島の中心部で硬く守られていた筈の敵飛行場の滑走路は、まるで月面かの様に無数のクレーターが穿たれ、完全にその機能を失っていた。

 

誰の目にも、島一つが完全に破壊されてしまった事は疑いようもない。

 

しかし、超兵器達の目的は要塞島の攻略ではなく敵の核攻撃能力の喪失である。

 

であれば、恐らく要塞島地下にある核兵器製造施設がまだ無傷で残っている現状、彼女達は己が任務を全うしたとは言えないのが現状だ。

 

本来ならここでトドメの陸上戦力を上陸させるべきなのだが、生憎と艦隊唯一の陸上戦力を保有するデュアルクレイターは現在アルティメイトストームと共に別任務中でここには居ない。

 

凡人故の心配性から、焙煎は『南方海域の何処かに別の核兵器生産拠点或いは保管場所が存在するのでは?』と疑い、戦力を割いてでも南方海域全域に捜索の手を出したのだ。

 

常識的に考えればその可能性は限りなくゼロに近く、ともすれば病的な思い込みに近い。

 

しかし超兵器達の焙煎の命令に対して割と忠実、と言うよりも放任気味の気質の為、これまで彼の決定に対して表立っては誰も胃を唱えた事は無いのだ。

 

それでもせめてホバー戦艦であるアルティメイトストームでもいれば現状の話は変わったのだが、大小合わせて100以上もの群島で成り立つ南方海域である。

 

如何に超兵器とて、2隻体制でなければ全てを捜索し尽くせないのだ。

 

最も、ありそうもない物を探しだせるかどうかは全くの別問題なのだが…。

 

兎に角次善の策として想定している要塞島そのものを海に沈める作戦は、ドレッドノートからの報告でかなりの困難が伴うことが分かった。

 

「8本の支柱と海底に接続されたケーブルを全て切断するには、単純に私だけでは火力が足りません」

海底から要塞島の底を探ったドレッドノートの結論が、これである。

 

一度補給を受けたとは言え、これまでの連戦に次ぐ連戦によって超兵器達はかなりの消耗を強いられていた。

 

どれ程強力な兵器とて、弾薬が無ければ戦えないのだ。

 

「ドレッドノート、此方ヴィルベルヴィントだ。お前の今ある火力でどれだけ破壊できる?」

 

「少なく見積もって半分は破壊できるでしょう。ですが、残った支柱とケーブルで残念ながら浮遊可能とこちらでは予想しています」

 

ドレッドノートの言葉に嘘は無い、とヴィルベルヴィントは彼女が導き出した結論を信用した。

 

共に兵器である身、その判断は非常にシビアかつ一片の隙もない。

 

要塞島そのものの浮遊力を無くし、海に沈めると言う方法は現実的では無い事が明らかとなった。

 

であれば残る方法は、今ある火力を全て注ぎ込んで文字通りの殲滅戦を敢行するか…。

 

限られた手段の中で何が最善かをヴィルベルヴィントが考えようとした時、播磨からもまた通信が入った。

 

「何やお困りでんなぁヴィルベルヴィントはん?一応言うときますけど、ウチの残弾は残り3割を切りましたで」

 

更にそこに追い打ちをかける様に、ヴィントシュトースが彼女の姉に厳しい現状を伝える。

 

「残念ながら計算した所、今の私達の残弾は全体で4割も越していません。これでは精々島の表面の半分を削る事しか出来ないでしょう…お姉様どうしますか?」

 

通信越しからも伝わる妹分の心配そうな声に、ヴィルベルヴィントは仕方ないとある覚悟を決めた。

 

「ドレッドノート聞いての通りだと、このままでは我々は本来の目的を達成出来ない」

 

「ではどうすると?まさかデュアルクレイターたちが到着するまで呑気にここで待つ気ですか」

 

それは最も現実的に見えて、実は一番あり得ない策であった。

 

今現在要塞島を包囲している超兵器達の、更に外側から深海棲艦の反乱艦隊が取り囲んでいるのだ。

 

今はまだ手を出して来ない彼女達も、時間をかければどう動くかまるで分からない。

 

最悪、自分達を出しぬき強引に核兵器を奪取に掛かるかもしれない、いや今この瞬間にも動き出している可能性が高いかもしれない。

 

だがヴィルベルヴィントからの返事は、予想だにしないものであった。

 

「ドレッドノート、私の火器管制をお前に預ける」

 

 

 

 

 

ヴィルベルヴィントがドレッドノートに自身の火器管制の制御を預ける、それは即ち兵器にとって最も重要な機関の一つを別の誰かに差し出す事を意味していた。

 

ヴィルベルヴィントとドレッドノートとの通信を聞いていた他の超兵器達は、まさかの提案に各々が驚愕の表情を浮かべる。

 

シュトゥルムヴィントやヴィントシュトースの2人は言わずもながだが、一番驚いたのはアルウスであった。

 

彼女は驚きの余り口が開いたまま硬直し、最も反応が薄い播磨も、眉が分かるくらい釣り上がっている。

 

誰もが『何故!?』と聞く前に、ヴィルベルヴィントは答えた。

 

「私の火器管制装置を使えば、足りない火力を補えるのでは無いか。幸い潤沢とは言えないが、それなりに魚雷は残っている」

 

「成る程、確かにヴィルベルヴィント貴女と合わせれば完全とは行かずとも殆どの支柱を破壊出来ます」

 

ヴィルベルヴィントの意図を正確に読んだドレッドノートは、確かにその方が効率がいい事には同意した。

 

しかし、だからこそ彼女は納得が出来ない部分があった。

 

「でしたら、何故火器管制を預ける等と?そんな事をしなくとも、他に方法など幾らでもある筈です」

 

ドレッドノートの言う通り、例えばシュトゥルムヴィントの発射した魚雷をドレッドノートが目標まで誘導したり、或いは破壊すべき目標の地点を教えそこに打ち込んで貰う等である。

 

「だからこそだ、ドレッドノート。お前が調べた所、支柱そのものの強度はかなりのものだ。単純に魚雷を4、5本当てた所で完全破壊には至らないだろう」

 

「これを破壊するには、限られた火力を効率よくぶつける必要がある。であれば、この艦隊の中でそれを一番良く出来るのはお前だけだ」

 

話は分かるが、それを実際に言えてやるかどうかは全くの別問題だとドレッドノートは感じた。

 

人間に例えるのなら『貴方が一番身体の動かし方が良いから、私の運動神経をどうぞ好きに動かして下さい』と言っているに等しい。

 

自分なら、誰かに自身の火器管制を預ける或いは見せる事すら拒むだろう。

 

それを『そうするのが一番効率が良い』と言うだけでやるヴィルベルヴィントは、ドイツ的効率主義と言って良いのか、或いは単に本人の気質なのかどうか…。

 

彼女には全く判断に困る所である。

 

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!?ヴィルベルヴィント貴女正気でして」

 

「そ、そうだぞ姉よ!?第一そんなマネなどしなくとも我らで協力すれば…」

 

ここで漸く衝撃から立ち直ったアルウスとシュトゥルムヴィントが反対の声を上げた。

 

常識的に考えれば、まるでリスクとリターンに見合わぬやり方なのだから、2人が声を上げるのもにべもない事である。

 

しかし一度こうと決めたヴィルベルヴィントの決意は固かった。

 

「シュトゥルムヴィント、お前達の気持ちは嬉しいが殆ど魚雷が残ってはいないではないか」

 

「ぐっ」

 

痛い所を突かれ、悔しげに歯を食いしばるシュトゥルムヴィント。

 

ヴィルベルヴィントの言う通り、シュトゥルムヴィントとヴィントシュトースの2人は、ここに来る前に景気良く魚雷を打ちまくったお陰で殆ど魚雷が残ってはいなかった。

 

「それとアルウス、お前もここまでリスクを冒して来たのだから、どうするのが良いから分かる筈だ」

 

「なっ、それは…!?」

 

アルウスもまた、「お前と同じ事だぞ」と言われては、それ以上反論する事が出来なかった。

 

「そう言う事だ、ドレッドノート。やってくれ」

 

「分かりました、私も今更覚悟は問いません。ですが…」

 

「?」

 

「やる前にこれだけは言わせて下さい。私は貴女のその覚悟に敬意を評します」

 

その一方で、これまで黙って成り行きを見守っていた播磨は、ある意味この場で誰よりも冷静な目で見ていた。

 

(ヴィルベルヴィントはん覚悟決まりまってんなぁ、しかしこれはおもろいもんが見られますなぁ)

 

(大戦中英国諜報部が心血を注いで暴こうとした独逸超兵器の火器管制装置、その中身がまさかこんな形で拝めるんなんて)

 

播磨は、要塞島に牽制砲撃を加えながらも、その実意識はヴィルベルヴィントとドレッドノートに集中していた。

 

ドレッドノートがどんな方法でヴィルベルヴィントの火器管制に侵入するのか、そのやり方一つとっても相手の手の内を暴く事に繋がる。

 

そして何よりも、初期の超兵器とは言え超高速かつ複雑な動きをしながら正確な砲撃が出来る火器管制の秘密、これに興味を持たない戦艦などいようはずがない。

 

(何れ『戦う事』になるかもしれまへん相手やからなぁ。今の内に対策を立てさせて貰いまっしゃろ)

 

播磨は内心誰にも悟られぬよう、そうほくそ笑んでいた。

 

そして播磨が一人暗躍する中、ヴィルベルヴィントの火器管へとドレッドノートが侵入を始めようとする。

 

 





今更ながら新年明けましておめでとうございます。

あいも変わらず不定期ですが、今後ともゆるゆるとやって行くつもりなので、新しい元号になってまよろしくお願いいたします

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