北方海域、本土の北を守る要所であると同時に、アリューシャン列島の島伝いにアメリカやロシアとの交易の場でもある。
三国の海軍が共同で深海棲艦を駆逐して以来、時折外洋から侵入してくる以外目立った被害はなく、比較的安定した海域だ。
主戦場こそ南方に移るも、ここには日露米の艦娘と相互の通信連絡網が敷かれ、夏になれば北極の溶けた氷を通って欧州からの船も交易に訪れる。
その為南方での戦況悪化以来、貴重な資材と外貨獲得の場として重要視されているが、深海棲艦の脅威も少ない事から戦力の引き抜きが相次ぎ、以前のような万全の体制を取れなくなっていた。
日本だけでなくロシアもまた欧州情勢の緊迫化の影響で最低限の監視を残して艦娘を引き上げ、アメリカもまたキューバに出現した深海棲艦に対処する為大幅な戦力の転換が行われた結果、この海域は一時戦力の空白化が起きている。
だから誰も気付けずにいた、脅威は忘れた頃にやってくるという事に。
深くたれ込める朝靄は最早見慣れた光景だ。
特に天候が引っ切り無しに変わるこの極北の海では、伸ばした手の先が見えないなど当たり前のこと。
手に持つマグカップの熱でかじかんだ手を温め、双眼鏡に目を凝らす。
艦橋の外に出て周囲を警戒する一団は、ともすれば黒い熊のように見える厚手のコートで身を守り己の職分を忠実に果たしている。
艦橋の中に目を向けると、操舵手が舵を握りしめ、羅針盤を食い入るように見つめる航海長が海図に航路を書き込み、その隣でレーダー手が食い入るように機材を見つめていた。
いや違うな、あれは職部に真面目なのではなく必死に睡魔と戦った結果、目を赤く晴らしているに過ぎない。
艦橋より後ろ、通報艦104の船体を見れば所々穴が穿たれ、燃えて黒くなったデッキには消化剤が残りながら、船絡みをのり出すように部下が海の彼方を必死に見つめている。
生き残りたい、その必死の思いを感じ取り目頭が少し熱くなった通報艦104艦長は目頭を手で擦った。
今なお船内で苦しむ部下達のことを思うと何とか友軍と合流せねばとの思いが、焦燥となってジリジリと心を焦がす。
彼の船とその愛すべき船員は、3日前僚艦と共に紹介活動中深海棲艦と遭遇し、僚艦は応戦する間も無く轟沈し必死になって敵から逃走を図った彼は運良く生き延びることができた。
何とか味方に救援を求めようと通信を試みるも繋がらず。
ならば直接伝えようと基地に進路を向ければ自分達が戻った時には基地は深海棲艦の手によって壊滅した後だった。
海の孤児となった瞬間軍人の使命感から生物の生存本能へとシフトした思考で、海上を彷徨いながら何とか大湊鎮守府を目指し、昼夜を問わず敵の襲撃に怯える日々。
既に自分を含め全員体力気力共に限界を越えようとしていた。
「あ」、と誰かが叫んだ。
もしや船から落ちたかと思ったが、洋上に人影はなく、しかし艦橋にいた全員が船首の向こうに目を凝らしている。
首に下げた双眼鏡を目に押し当て最大望遠で覗き込んだ先には明らかに人工の光。
大湊鎮守府の灯台の光が見えた。
カーン、カーンと鐘の音がする。
船内で治療を受けていた部下達が甲板に上がり、皆灯りを指差してお互い安堵の声を漏らす。
「ああ、あれが大湊の光だ」
生き残った彼らにとってそれは紛れも無い勝利宣言であった、しかし本当の戦いはこれからであった。
横須賀鎮守府作戦会議室の中は、重苦しい空気に侵されていた。
海軍元帥高野とその参謀秋山に元帥の懐刀である天城提督、並びに横須賀鎮守府を代表する提督達が集合し一昨日もたらされた報告について話し合っている。
「既に知っての通り大湊鎮守府から我が横須賀鎮守府に救援の要請が来た。それについて話し合おうと思うのだが」
秋山参謀が開始の音頭を取り、一人の士官が手を挙げ発言を求めた、
「北方海域は我が国北の守りの要、直ぐに艦隊を差し向け奪還すべきだ」
多数の提督達が同意の頷きを返した。
「それは分かるが戦力はどうする?敵は報告からだいぶ用意周到に準備してきたようだ。生半可な艦隊では逆に返り討ちに合う危険性さえある」
「先ずは偵察しそれから方策を考えるのが妥当だ」
反対に慎重な意見を出すものも一定の理解は得られた。
「戦力ならば今横須賀には前線の部隊が休養の為停泊している。彼らを使って早期に奪還を計れば」
「馬鹿な、あの部隊は来るべき南方反抗作戦の要だ。それをいたずらに消耗させるなど言語道断だ」
「なら北はどうする?前線にばかり気を取られて本土にでも上陸されてたら、それこそ本末転倒」
「だが、現有の艦隊ではちと心もとないのも確か。いっそ他の鎮守府に応援を頼むのも手だが…」
「佐世保は無理だ。あそこは最近大陸の連中が何かと騒いで離れられん。とすると呉か」
「呉はいかん!君塚の奴に貸しを作れば後でどんな無理難題を吹っかけられることか分かったもんじゃない」
「だが今のところあそこが一番戦力が充実している。開発建造中のあの3隻があれば」
「そもそも奴が素直にこちらに手を貸すのか?援軍を出すと言っておいてこちらの戦力を削る策謀など平気でやりかねん。そんな信用ならん者をアテになどできるか」
会議は言葉の応酬こそ多いがまとまりに欠き、互いに決定打にかけている。
だからこそ今まで黙って話を聞いていた高野は意見は出尽くせど結論に至らずと見て口を開いた。
「諸君、忌憚のない活発な意見よく分かった。先ず第一に偵察を出し情報の収集、第二に敵が現有の戦力で攻略可能ならば良いが、場合によっては各鎮守府に援軍を頼むのもやぶさかでは無い。だがその前に彼を行かせようと思う」
「元帥、彼とは?」
「何今に分かるさ」
高野元帥は含みのある笑みを浮かべ、まあ見ていたまえと言った。
南極に向け出港準備を整えていた焙煎達は、巨大ドック艦スキズブラズニルの会議室で航路を策定中高野元帥から突然呼び出しを受けた。
そして戻ってきた早々焙煎は集まってきた超兵器達に言った。
「すまんが南極行きは暫くお預けだ。俺たちの行き先は北方海域に変更になった」
「分かった、すぐに航路を策定し直す」
「妖精さん達には私から伝えてきます」
「艦長、事前の索敵は必要かしら?何時でも出撃できるよう準備させますわ」
「計画の変更を承認した、作戦目標を問う」
ヴィルベルヴィントが海図を引き直し、ヴィントシュトースが妖精さん達に通信を繋ぎ、アルウスが事前の情報収集に取り掛かり、ドレッドノートが作戦目標を問いかける。
「あ、ああそうだな。我々は北方海域に向かう」
超兵器達の切り替えの早さに多少面食らいながらも、彼女達にとって戦場に行ければそれで十分なのだと納得して、焙煎は作戦の詳細を話し始めた。
「先だって北方海域が深海棲艦の攻撃を受け陥落した。現在アリューシャン列島沿いに敵泊地が構成されこれを叩き、奪還せよとの事だ」
「敵の戦力は」
「詳細な情報はこの後届くが、少なく見積もって鬼、姫クラスの2,3体は居るだろう」
焙煎は敢えて通常種の深海棲艦を省いた。
今までの戦いを見てきた彼からすれば、真に敵と数えるのは鬼、姫、クラスであり後の雑多な敵は物の数としてみてはいなかった。
それはともすれば傲慢であり慢心ともとられるが、自信と過信は星と夜空のように分かち難く、しかし表裏一体の関係であり、焙煎にとって超兵器達の力はまぎれも無い真実である、信用すべきものでもある。
「島の攻略となると水上艦艇だけでは不十分では?」
「航空爆撃も奪還を目的とするならば有効だとはなりませんわ」
シュトゥルムヴィント、アルウスが次々に疑問をぶつけてくる。
自分達の長所と短所を弁えている彼女達は、ごく自然にそれを補う術を貪欲に求める事があり、偏に孤高と取られがちの超兵器達は今回も必要な力を求めた。
「現状敵の殲滅は出来るが奪還は難しいからな、まだ資材に余裕があるから揚陸艦を建造しようと思う」
本来なら南極遠征に向け資材は使わ無いにこしたことはない。
だがいずれは陸地に上陸して拠点を作る能力を持つ必要もあるし、先行投資と思えば実戦での性能も見られる事から都合がよかった。
「艦長、超兵器で建造できるのは兵装まで。船は動かす事ができるが、上陸後の橋頭堡の確保や占領は別に兵士がいる」
あてはあるので?とドレッドノートに言われ、焙煎は地図上にある島の一つを指差す。
「ここキスカ島には逃げ延びた兵士達が集まっている。現在深海棲艦に包囲され頑強に抵抗しているが長くは持つまい。まず彼らを救出しその助力を得て敵に占領された島を奪還する」
「ですがそれだけでは到底アリューシャン列島全土を奪還するには不足では?最低でも二万から三万の兵力は必要です」
ヴィントシュトースが言った問題点はそれだけでは無い。
仮に兵力を用意出来たとしても、それを維持するだけの物資と補給線の確保が出来なければ意味が無いのだ。
超兵器と違って人間は消耗も早く、寝食を必要とするのだ。
「確かに島の保持を含めればその三倍は必要になるだろう。しかし今回は全土を再占領する必要は無い、たった一つを攻略すればいい」
焙煎はそう自信ありげに笑みを浮かべた。
アリューシャン列島西部にあるキスカ島には、他の島や海からたどり着いた兵士達が集まり、なけなしの機材と装備とで防衛線を構築していた。
敵の砲火と身を切る風を避ける為掘られた塹壕には、救援を待つ兵士達が互いに鼓舞しあい、指揮も旺盛であった。
キスカ島に籠る三千名を指揮するのは島の守備隊長古賀大尉である。
中肉中背の五十代にさしかかろうかという男は、島の沖合に双眼鏡を当てた。
「深海棲艦共め、いい気になりおってからに」
悠々と座礁を恐れる事なく、島の端から端を掠める様に航行する深海棲艦に対し、古賀大尉は苛立ちげに吐き捨てる。
敵に包囲されてから何日が経ったか、まだ食料に燃料それと弾薬には余裕があるが人間の方はそうではない。
通信機類は敵の妨害電波で使えず、救援を求める為に出した船は果たして無事にたどり着いたかどうか。
時折本土からこちらに偵察機が飛ぶ事もあったが、飛行場を破壊されてからは途絶えている。
脱出しようにも港は破壊され船は全て深海棲艦の攻撃によって沈没させられた。
深海棲艦は明らかに包囲を狭め、こちらが衰弱するのを待っている。
そうなる前に、何とか状況を一変させる機会は無いかと、古賀大尉はもう一度双眼鏡に目を当てようとすると、海の方で突然砲撃の音が幾つも遠雷のように鳴り響いた。
もしや敵の総攻撃か⁉︎
敵襲を知らせるサイレンが鳴り響き、あちこちで敵に備えて怒号がこだまする。
いよいよと身構える兵士達は、着弾する砲撃の衝撃に備え塹壕に身を伏せるも、一向に衝撃は来ない。
不審に思い、兵士と共に塹壕に伏せていた古賀大尉は頭を出して外を確認した。
「もしや味方の援軍が外洋で敵と戦っているのか?」
そう思うも、確認する術もなく古賀大尉は部下達と共にじっと状況の変化を待つしかなかった。
キスカ島を包囲している深海棲艦の陣容は、戦艦タ級、ル級及び重巡リ級を中心とする戦艦戦隊3個15隻これに水雷戦隊、ヲ級空母機動部隊と今朝方到着した揚陸艦艇とその護衛艦隊付きを含めると、総勢100隻を数える大艦隊である。
包囲艦隊旗艦戦艦タ級éliteは今まで揚陸艦艦隊が居なかった為、本格的な島の攻略が出来ずにいた。
しかし、いよいよもって島に籠る人間を皆殺しにせんと指示を出しかけた時、突如として彼女達の頭上に銃撃と爆撃が降り注いだ。
ドーントレスから落とされた爆弾が不幸なホ級にあたり、敵に向かって一発も撃つことなく深海へと強制的に戻されて、アヴェンジャーの編隊が低空で侵入し次々と雷撃を放ち、その度に海域の何処かで水柱が高く上がる。
コルセア、ワイルドキャットの12.7㎜機銃が暴風の様に吹き荒れるたび、空母ヲ級や軽空母ヌ級の頭部は穴だらけになり、発艦能力を奪い去った。
最も悲惨だったのは揚陸艦艇とその護衛艦隊である。
突然の空襲に慌てたのはもちろん、B-25、B-17の爆撃機編隊に襲われたのが運の尽き。
爆弾が雨霰となってなって降り注ぎ、陸上兵器を満載した揚陸艦は満足な回避運動も取れず次々と火を噴き、或いは転覆する。
護衛艦隊が対空砲火を上げるも、高度と装甲の前に阻まれ、先ずもって自身の安全を優先しなければならない状況であった。
この様に無残な有様を示す深海棲艦だが、その原因はひとえに対空監視を怠った事が原因の一つに挙げられる。
まず島の攻略に先んじて、敵を逃さぬ様港を破壊し、次いで空からの連絡を断つため空港を爆撃した。
この為空からの脅威は無いと油断した深海棲艦は、最低限の対空監視だけを置いて島の攻略のみに目が向き、今一つに深海棲艦が思いもしない超兵器の力がある。
北方海域奪還を命ぜられた焙煎は、まず高速のアルウス、ヴィルベルヴィント、シュトゥルムヴィントを先行させ、島がいよいよもって危ないと見るや、すぐ様アルウスに攻撃を命じた。焙煎としてはこれで敵の目が此方に引きつければと思い、出した命令であったが、深海棲艦にとってもまさかここまで早く救援が駆けつけるとは思わず、思わぬ形での奇襲となった。
不意を突かれた旗艦タ級éliteだが、すぐに気を取り直すと反撃を命じ、他にこの隙に敵が味方を救出する為密かに船を近づけているのでは無いかと疑い、一隊に艦隊を離れさせ特に水上監視を行う様命じた。
空襲の難を逃れたヲ級、ヌ級から続々と艦載機が発艦し、追撃し逆襲を加えようとする。
その間に被害状況を確認した旗艦タ級éliteは思わず唸った。
自身を含む艦隊の損害は思った程でも無かったが、攻略な要である揚陸艦隊の被害は目を覆わんばかりの惨状であった。
上陸用の物資や兵器を満載した揚陸艦の内10隻が撃沈、3隻が転覆、被害を受けた内8隻が大破、その倍する数が小破ないし航行に何らかの障害を負っている。
この短時間の間に、揚陸艦隊とその護衛は戦わずして戦力の少なからぬ数を失ってしまったのだ。
だがこれで諦める様なタ級éliteではない、既に空母より放たれた反撃の矢が敵を捉えたなら、すかさず自ら艦隊を率いて復讐を遂げんと決心している。
まだ彼女の手元には十分な戦闘力を残した艦隊が居り、水上監視に出した一隊に改めて島を包囲し、敵を一人たりとも浜に近づけさせないよう命じ、残りの艦隊を率いて動き始めた。
攻撃を終えた艦載機が戻り、アルウスの左の腰元に装着された甲板型の艤装に次々と着陸する。
反対側には40.6㎝三連装砲三基が砲口を高く上げ、空を睨む。
焙煎の命令でスキラズブニルより先行したアルウス達は、真ん中に彼女を置きその左右前方にヴィルベルヴィント、シュトゥルムヴィントが先行し、上空から見ればV字の陣形を作って約60ノットの速度で航行していた。
帰還した攻撃隊の妖精さんからまずまずの戦果であると聞いたアルウスは、彼女達のはるか後方。
巨大ドック艦スキラズブニルにいるであろう焙煎に通信を繋いだ。
「焙煎艦長、こちらアルウスですわ。無事攻撃隊は任務を完了、目立った損害もなくまずまずの戦果を上げたと妖精さん達は言っておりますわ。続いて二次攻撃は必要かしら?」
「了解したアルウス。よくやってくれた、引き続き二次攻撃に移り必要ならばそれ以後の攻撃も一任する。なお当初の予定通り敵を島から引き離すようやってくれ」
「了解しましたわ。早いお着き、心待ちにしておりますわ」
焙煎との通信を終えたアルウスは早速二次攻撃隊を発艦させようとするが、その前に付近を飛んでいた哨戒機から敵機襲来の報告を受けた。
数にして凡そ80機余り、こちらを見つけたとあれば敵は直ぐに二次攻撃隊を放つだろう。
今からこちらの攻撃隊の発艦を止めても逆に混乱する元だと考えたアルウスは、先行するヴィルベルヴィント達に通信を繋いだ。
「仕事の時間ですわよ、群狼」
「ふん、しくじったか?しょせん田舎者は数頼みか」
「あら群れることがお好きなのはそちらの方ではなくて?優れた猟犬はそう吠えないものよ。それとも貴方の国のワンちゃん達は皆キャンキャン吠えるのが好きなのかしら」
「貴様…犬と愚弄するか‼︎」
アルウスの侮蔑にシュトゥルムヴィントが 荒々しく反論し、お互い敵機襲来というのに今直ぐに同士討ちを始めそうな雰囲気になる。
「やめろシュトゥルムヴィント、今は争いあっている場合ではない」
「しかし」
ヴィルベルヴィントはこれ以上はまずいなとみて、シュトゥルムヴィントを諌めまだ尚何か言いたそうなシュトゥルムヴィントであったが一先ずその鉾を納めた。
「それとアルウス、前はどうあれ今は同じ艦隊だ。もう少し口を謹んでもらおうか、それに…」
そして最後に小さく付け加えて一言。
「そんなでは貴様の底が知れるぞ?あの方が果たしてそんな貴様に乗って下さるかどうか…」
それは持つものと持たざるものの決定的な一言であり、アルウスをして一瞬激昂しかかった程だ。
「今の言葉、覚えておきますわよ。ゆめゆめお忘れなきよう」
そうこうしている内に敵機は肉眼でも確認できる距離にまで近付き、迎撃のため自然とお互いの口はそこで閉ざされた。
ヴィルベルヴィントとアルウスが、当の本人を差し置いて戦いの前に火花を散らしているとは知らず、焙煎はスキラズブニルの建造ドックで新たに二隻の建造に取り掛かっていた。
「で、一隻は上手くいくがもう一隻の方はダメそうか」
妖精さんから呼ばれて建造ドックに来た焙煎は、相変わらず馬鹿げた資材使って、途方もない建造時間を叩き出す超兵器建造に、高速建造材は幾つあっても足らないなと思ったが、今回は更に重大な問題が発生していた。
妖精さんが言うには、一隻は高速建造材込みで問題なく進んでいるが、もう一隻の方がどうにもこのままでは投入した資材では足りなくなる。
そう伝えてきたのだ。
焙煎としては途方もない資材を費やした挙句、失敗しましたではたまったものではない。
特にこれから先資材は何かと必要になり、節約するにこしたことはないが、ここでもう一隻分投入するか彼は悩んだ。
「本当に今のままではダメなのか?他に原因があるんじゃないか」
そう言ってみるが、妖精さんは首を横に振り曰く、
本来一隻分の身体しか作れないはずが、どうも今建造している船は一隻で二隻分の身体を必要としている。
どうやらほぼ間違いなく同一の存在が、一つの身体に入ろうとして互いに反発しあいこのままでは存在ごと身体も崩れてしまう。
そうならないためにも、二つの存在を二つの身体に分け崩壊を防ぐ必要がある。
もしこのまま放置すれば、最悪二隻分のエレルギーが暴走してスキラズブニルが吹っ飛ぶ可能性がある。
「スキラズブニルが吹っ飛ぶだって⁉︎いやまずそれを先に言えよ、直ぐにでも資材を追加投入しろ」
慌てて追加の資材を投入し、一息ついたのも束の間、焙煎はスキラズブニルの倉庫に残る資材を恐る恐る調べた。
「貯めに貯めた資材がもうこんなに…なんでか知らんが燃料も大幅に減ってるし、南極まで保つのかこれ?」
最近とみに抜け毛が増えているのではないかと心配になる焙煎だが、そのよ苦労は各地に散る所提督共通の悩みだと、彼はまだ知らない。
超兵器、それは破格の力を焙煎にもたらしたが、同時に彼の毛根に段々と深刻なダメージを与える存在でもある。