穏やかな白海竜と変態ハンター   作:神無月亮

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お久しぶりですね、皆様。私です、神無月です。相変わらずの亀更新、すみません。巧遅拙速という言葉は知ってるんですがね…
さて、皆様。実はですね、今回から幾つか導入していますんですよ。すぐに廃止するかもしれませんが。描くのが面倒くさ…ゲフンゲフン。

現在の比率:60%
精神状態:安定
発動しているスキル
・虫の知らせ
・毒無効
・雷属性付与
・火属性付与
・毒属性付与
・雷属性攻撃強化+3
・火属性攻撃強化+3
・逆鱗
・挑戦者+2
・無慈悲
・軽業師
・破壊王
・根性
・体力+50
・回復速度+2
・腹減り倍加【大】
・雑念
・隠密
・グルメ
・アイテム使用強化
・拾い食い
・災難
・悪魔の気まぐれ
・捕獲の見極め
・全身硬化
・スイマー
・息継ぎ半減

これですね。そして、これですが…スキルはそのまま、精神状態はレインので、比率は…彼の精神をどれくらい憎悪や殺意が汚染しているかです。これが高ければ高いほど、暴走する時間が長いです。
デフォルトは30%ですが、今回は発作(悪意の軽度の爆発)が最近起こったので、二倍の60%(まだ低い)になってます。まあ、この回は主人公の暴走回なんで、暴走させる気なんですが。
というわけで、今回の話はあまり好まれない方も多いかもしれません。ご注意ください。それでもいいという方は、どうぞ読み進めてください。ではでは。


第7話 災い

BC

 

森の様子がおかしい。BCに到着するまで、俺はそう思い、そして足を踏み入れた今、それを確信した。

森が静か過ぎるのだ。普段なら聞こえてくるはずの鳥のさえずりやモンスターたちの鳴き声が一切聞こえない。まるで全ての生物が死に絶えたかの様だ。

何が起きているのか困惑していると、ふと臭いを感じた。この嗅ぎ慣れた臭いは間違いない。血の臭いだ。どうやらあいつら、大暴れしているらしい。生態系が壊れたらどうするんだよ。

内心、焦燥に駆られながらも、能力を使用できる状況かどうか確認する。安全地帯にいる間にどんな能力を手に入れたか確認しておきたいしな。

船は既に村に戻っている。周りにはローラとユーリだけ。問題なし。それじゃ、彼女の質問に答えるとするか。

 

「待たせたな。村を出る直前に聞かれたことに答えようか。俺は食べたモンスター、その他色々の能力、身体能力、寿命、その他諸々を手に入れることができるんだよ」

「は?何、ふざけてるの?」

 

…………最近、ローラが辛辣すぎる。氷の如き冷たい目を向けてくるローラに、俺はそう思う。何だろう、なんかやったかな。まだ盾のことを引きずってるのかな。それとも、俺の視線が怖いとか?なんか怒っているって言ってたし。うーん…………分からん。今考えても、答えに辿り着けないだろうし、とりあえず、話を続けるか。

 

「ふざけてないんだけどな……実物を見せた方が分かりやすいか。さっき手に入れた能力を確認したいところだったし、それと並行して行おう。……よし、これで準備完了。それじゃ、行くぞ…!……フンッ!」

 

俺は壊さないようにポーチをキャンプのベッドに放り投げる。いくら四次元ポーチでも、壊れてしまっては意味ないだろうし。

ポーチはボスンっと音を立ててベッドに落ちる。よし、狙い通りだ。上手くいったことに満足気に頷き、即座に全身に力を込めて、体から何かを飛び出させようとする。すると、俺の意思に即して、全身が変異を始めた。

まずは全身の肥大化。二、三倍の体躯へとふくれあがり、腕や足が太くなる。

次に、体色の変化。闇を体現するかの如く黒い毛に覆われ、暗闇とのカモフラージュ率を跳ね上げる。

三番目に、背中から青い結晶を纏い、所々に毒々しい赤い色をした棘を生やした翼が生える。

四番目に、側頭部から青い結晶で覆われた黄色く雄々しい角が生える。

五番目に、腕が赤黒く不気味に鈍く輝き始め、爪は相手を確実に殺すという意志を感じさせるほど長く鋭くなり、その先から毒々しく輝く紅色の毒が滴り落ち始める。

六番目に、足が姿を隠すために光を吸い込むほどに黒く、強く大地を踏みしめることができるように太くなる。

そして、最後にそれらを繋ぐように青く淡く輝くラインが現れる。

これにて、変異は終了。体型的にラージャンがベースだろうか?ナルガクルガにしては、体勢が高すぎるしな。さて、これで体躯が大きくなった分、動きにくさも格段に増した。これ、背を伸ばしたら頭を打つのではないだろうか。まあ、そこは慣れていくしかないな。

にしても、かなり変化したな……前は全身から赤い棘を生やし、黒い尾を尻から生やしたのが精精だったのに。鎧を食べたからか?そうとしか考えられないな。あれ?鎧を食べたおかげで、全身を変化できるようになったのなら、武器もどこかしらに変化を見せるはずなんだが…どこに行った?もしかして、更新されず?

いやいやいや、そんな馬鹿な。変異中に駆動部が見えたんだぞ?だから、更新されていないなんてオチはないはずだ。………ないよな?

心配になってきたから、今、やっておくか。右腕に意識を集中して、大剣に変われと念を送る。すると、腕が五つに分かれていた指を収納し、同時に密着した爪を一つに纏める。成る程、爪を刀身にするのか。自分の体のことながらも、驚愕と感嘆を向ける。

そんな俺を無視するかのごとく、変異は続いていく。一本の刃物となった爪は直線になり、その切っ先をより鋭く尖らせていく。ぱっと見では分からないが、硬さも増しているだろう。そう簡単に折れてもらっても困るしな。しかし、時間がかかるなこれ。こりゃ、戦闘では使えないか?取り込まない方が正解だったのかもしれない。まあ、今悔やんでも仕方ないことなんだが。

あれこれ考えていると、変異が終わった。腕は先が丸められ、その中央に触れただけで切り飛ばされそうなほどに鋭く長く大きい爪の剣がある。これならば、モンスター相手に遅れをとることはないだろう。古龍は知らん。あんなもん、今の俺の手に終えるものじゃねえ。あれは爺ちゃんやあの時のラージャンくらい強くないと、ダメだ。じゃないと、死ぬ。冗談抜きで死ぬ。

 

「おー、凄いねぇ。また新しいものを取り込んだんだ。………そして、また殺意を膨れ上がらせたんだね…」

 

過去の苦い経験を思い起こしていると、ユーリが俺を見上げながら、前半は感心したように、後半は悲しげにそう言ってきた。確かに凄いな。俺も驚いた。あと、確かに新しい獲物を捕食したが、なぜお前が俺の変異能力と胸のうちの殺意を知っている。お前の前でも見せた覚えはないぞ。そして、今更だが、なんでウルクスス装備なんだ。ここ、暑いぞ。そして、やっぱり女物なんだな。もう突っ込まないぞ。

彼の容姿や態度に色々な感情、主に呆れと猜疑心、警戒心を抱く。こいつ、アホくさいが、油断ならないなと。

ユーリを警戒しながら、ローラの様子を見ようとし、ふと一つの疑問を抱く。

 

ユーリはいつから、村に来ていた?

 

恐らく俺が倒れている間なんだろうが、どうして来た?

俺が重傷を負ったから代わりに?ありえそうだが、それならどうやって俺が重傷を負ったことを知った?

タンジアからモガの村までは片道で半日かかるほどに距離がある。俺がどれくらい眠っていたのかわからないが、少なくともそんなに長くないはずだ。その短い期間に俺の重傷を知り、港で今回のクエストの準備を整え、村に到着する。そんなことが可能なのか?

ギルドの気球を使えば可能なのかもしれないが、ギルドがたかが一人のハンターのために動くか?

俺自身が注目されているのかもしれないが、それでもG級であるユーリを気球で運ぶ理由にならない。何より、俺は村に回収されているんだ。村にイビルジョーが迫ってきているとかなら納得できるが、そんな状況ならアイシャが俺たちにクエストを紹介しない。下位ハンターにイビルジョーは荷が重過ぎる。いや、あえてクエストに行かせることで、イビルジョーとすれ違わせる気だったのかもしれないが、看板娘がそんな賭けに出るとは思えないしなぁ。

何より、ユーリが俺たちについて来ては、村がイビルジョーの腹の中に収まることにしかならない。村を守り発展させる為のハンターが村を見捨てたら、それこそ何をしに来たのか分からない。よって、この考えは棄却。

では、ローラを守る為に来たのか?

確かに彼女は白海竜という希少な存在だ。それに、人の姿に変化している。実験体としては最高だろう。だが、それなら俺が倒れている間に連れていくべきだ。俺はこの村専属のハンターだから、好き勝手に動くことはできない。だが、彼女は別。彼女は途中からハンターになった。彼女も村専属になったのかもしれないが、それでもギルドの権限で連れていくことは可能。よって、大した障害にはならない。それでも、連れて行かないとなると……連れて行くと困るのか?

それはなぜだ?彼女が暴れるから?今までの彼女の行動から察するに、確かに実験体にされると分かれば暴れるかもしれないが、そんな地雷を踏むとは思えない。気付かれずにこっそりと行うはずだ。

では、なぜ?俺を恐れている?俺にはモンスターの力がある。それを平然と扱えるというのは、確かに恐ろしいだろう。だが、俺はまだ未熟だ。強大な敵から逃げ延びる方法くらいしか俺にはない。そんな奴の何を恐れるのか。

もしかしてだが、俺の身体に眠る、まだ俺が知らない未知の力を恐れている?馬鹿らしく思うが、実際に俺の身体は未知の塊だ。下手に刺激して、恐ろしいものを呼び出す可能性もある。俺も時々、無意識に腕をへし折ったりなどの被害を出していることがあるし、ありえない話ではない。しかしだな…

 

「おーい、レインー?そろそろ、BCから出ないと、時間がなくなっちゃうよー?」

 

ユーリの指摘により、思考の渦から引きずり出される。

だめだな、今はクエスト中なのに。気になることがあると、すぐにそっちに向いてしまう。なかなか出てこないあいつの情報を少しでも手に入れようとしていた頃の癖だ。厄介だな。

俺はどうしようかと頭を右手で掻こうとし、自分で頭に傷を入れ込む。

 

ブシャァッと音を立てて、噴き出す血。いつも以上に速く治り始める傷口。突然鳴り響く腹の音。滑稽な姿を見せている俺を、半目で睨んでくる目の前の二人。

互いに沈黙する。辺り一帯を気まずい雰囲気が包む。

 

「……………」

 

未だに鳴り響く腹の音が、気まずい雰囲気を更に助長させる。恥ずかしくて、何よりも彼らの視線に耐え切れなくて、顔を伏せる。そんな俺を置いて、狩り場へと出て行ってしまう二人。俺は、それを黙って見送ることしかできなかった。

 

とりあえず、人に戻って、肉を食べよう。

 

そう思って動き出した俺の視界は、やけにぼやけていた。

 

〜数分後〜

 

エリア2

 

いつもいるアプトノスがいない。ユーリたちが狩ったのかと思ったが、血が一滴も落ちてないから、そうじゃなさそうだ。追い払ったのか?何となく違うと分かる。どういうわけか草が一本も生えてないし、追い払ったのなら、ないはずの死の匂いがここに満ちている。どうやら、アプトノス以前に、ここには生物そのものがいないみたいだ。イビルジョーが通ったのかと考えたが、あいつ草を全部食べるほど、生真面目じゃねえらしいから、違うな。となると、あの植物が全部食べたのか?

 

「考えても仕方ねえ。まずは二人の生存を確認するか」

 

一瞬、匂いを辿ろうかと思ったが、何かのフェロモンの匂いで塗りつぶされて、分からないから、音を頼りに進もう。多分、聞こえるだろう。

…………ドスン、ドスンという足音しか聞こえねえ。大型モンスターがうろついているみたいだな。厄介だ。あの狼みたいな奴はもう勘弁願いたいんだが…

今のところ、戦闘をしていないみたいだから、放置しておいていいだろう。何よりも、あいつから猛烈に嫌な予感がするから、近づきたくない。本当に大型モンスターか?もっとヤバそうな匂いがするんだが…こりゃ、近づかない方が得策だな。

とりあえず、あいつに近づかないようにしながら、二人を探そうか。と思い、海へと向かおうとする。が、その瞬間に、あいつの足音が激しくなったのに気づく。

戦闘が始まったと直感する。もしかしたら、二人がそこにいるのかもしれない。俺の足は自然と戦闘の方へと向く。正直に言えば、怖い。でも、行かずに二人が死ぬのも怖い。

なら、行くしかない。行かずに後悔するのなら、行った方が断然いい。あいつがいる場所は何となくくわかる。あいつはエリア6にいる。あいつはエリア6で戦っている。

壁を飛び越え、洞窟へと向かう。あそこは確か穴が空いていたはずだ。陸上生物は縦からの奇襲に弱い。何よりも、高いところを取るのは戦略的に有効だ。だからこそ、上からの奇襲による一撃で仕留める。それしか被害を抑える方法がない…!

心を焦燥が、恐慌が蝕む。足がそれにつられ、速度が遅くなる。本能が死にたくないと叫びを上げる。

それがどうした。何を恐れている。何をうろたえている。走れ、走るんだ!また失うぞ!また何もできずに、大切なものを壊されるぞ!それでいいのか!と、今までの経験がそう叫ぶ。

相反する二つの意思。理性は経験をとった。

本能を押さえつけ、強引に体を動かす。自分の体が滅んでもいい!もとより、俺は死んだ存在だ!復讐のためだけに生きている存在だ!ただ復讐を遂げるまでの間に、新しく手に入れた宝物を護りたいだけだ!

 

『変わりませんね、あなたは。私があなたに拾われた日と何も変わっていない。あの時から何も変わっていない。まるであなたの時計だけが止まってしまったかのように』

『お前は、俺たちとは違う時間を生きている。お前は俺たち人間ではない。人間の形をした怪物だ!』

『君は寂しい人だ。君は誰かの温もりを求めて歩いているのに、誰も君と共に歩めない。君だけが生き残り、その後ろに墓が連なってしまう。君はその宝の残骸を大事そうに抱いて、歩むだろう。そうやって、君は永遠に生きる。君は永遠に孤独の中を彷徨う。そして、君は誰もいなくなった世界で、温もりを求めて泣くんだ。もう二度と叶わない願いだとしても』

 

多少長く暮らした街にいた頃に言われた言葉が、脳裏をよぎる。そうだ、俺は誰かと共に歩めない。誰かと共に歩んでも、いつしか離別の時が来る。俺だけが多くの死を看取り、誰も俺の死を看取ってくれない。俺だけが最後に生き残る。俺だけが最後に、荒野に佇むのだ。

 

嫌だ

 

心が軋みを上げる。

 

独りぼっちは嫌だ

 

思い返されるのは、果てしなく続く荒野。誰もいない、何もない、死に満ちた、絶望の世界。

 

寂しかった。誰かにいて欲しかった。幻でもよかった。ただ自分が一人じゃないというのが分かれば!

 

燃え盛る廃墟の姿が目に映る。父と母の身体が燃えて灰になっていくのが、まぶたの裏に映り込む。全てを失ったあの日。俺が俺でなくなった、俺が死んだ運命の日。あの日を境に、俺の中の何かは歪んだ。

 

父さんが、母さんが、友達が、恋人が、隣人が、そこらの通行人が、隣にいて欲しかった

 

樹海で出会った、新しい宝物。人ではなかったけど、俺の側にいてくれた、大切な宝物。

 

緑の巨体が呻きを上げる。見たことのない装備に身を固めた人間たちが、地面を駆け回る。弾丸がこちらに飛んでくる。巨体が押し上がり、弾丸から俺を庇い、すぐに重力に従って崩れ落ちる

 

壊された。今度は人間に。今度は人間に壊された!何で!何でだ!俺はただ平穏に生きてきただけだ!俺は大切な人と生きてきただけだ!なのに、なぜ!なぜ、奪う!なぜ、壊す!俺が悪いからか!俺が生きているのが悪いからか!俺が幸せを噛み締めるのが悪いからか!なら、俺も奪ってやる!俺も壊してやる!お前らが俺を弾劾する限り、俺は絶対に誰も逃さない!

 

穴の近くに辿り着く。中を覗くと、腕や足、頭部を鮮血に染めた、緑の巨体が中央に、そしてそれを挟むように、ユーリとローラが立っていた。

 

いた、二人はあそこにいる!まだ壊されていない!

 

体が自然に動く。目指すは巨体の上。求めるのは一撃必殺。

崖から飛び降りる。超質量の杭を叩き付ける構造へと、両腕を変質させる。自分の体躯ほどにも大きくなった杭を、衝撃に耐えるように、エスピナスの殻で覆う。あんな巨体だ。そう早く動けまい。

狙いを済まし、巨体の背中目掛けて腕を振り下ろす。

 

触れた!

 

超質量の杭を射出する。重力と質量と爆薬による推進力が合わさり、容赦なく相手の身体を弾き飛ばす。杭が大部分取り込むが、それでも残った巨体の欠片が辺りに飛散する。地面に爆心地のような跡を残す。自分も反動で空高く飛び上がる。

地に足をつけるときに、足元に残った肉片を踏み潰し、辺りを見渡す。頭部は大部分残ったな。再生するかもしれないし、潰しておくか。

中央に刺さったままの二本の杭を取り込み、右腕にさっきの二倍の大きさのパイルバンカーを作り出す。雑音が聞こえるが、無視する。

これは幾つかの武器種を合成してできたものなんだが…何を合成したのかは覚えていない。思い出そうとも思わない。今はとにかく、敵を確実に殺す。それが最優先だ。

 

「チッ…既に復元を開始していたか」

 

既に胴体が出来上がりかけている。時間はないか。

距離を詰めて、右腕を相手に押し付け、引き金を引く。壁が大きく凹み、敵の身体が挽肉となりながら弾け飛ぶ。反動で、俺の右腕が肉の欠片となって吹き飛び、杭の破片が全身に食い込む。血が噴き出すが、痛みは感じない。いや、怒りで痛みが塗りつぶされている。

体に刺さった杭の残骸が体に溶け込み、右腕へと姿を変えていく。敵が消えたことで、心が落ち着いて…

 

【ニクイアイテノカラダヲノコスノカ?】

 

掠れた、寒気のする声がどこからか聞こえた。

 

【ナニモノコスナ】

 

声に従い、腕を振るう。腕は何も命じていないのに、伸びて、触れた壁を侵食する。何か生温かいものに触れる。これか。腕がそれを取り込み、身体の一部へと組み込んでいく。そして、それをこのエリア全体に行うと、俺は腕を戻した。これでもう、大丈夫だろう。

満足げに、二人の方に向く。いつの間にか真っ赤になっていた二人が、なぜか冷たい目で俺を見てきた。何故だ。

訳が分からないと思っていると、ローラが口を開いた。

 

「レイン。それ、多分だけど、最後の一体」

「あ……………」

 

そうだった。クエストを忘れていた。最低でも、一体を捕獲しないと失敗だったんだ。

俺は冷や汗が止まらなかった。これは間違いなく、まずいと。

黙って、二人の反応を、二人の口から放たれる死刑宣告を待つ。暫く待った後、ユーリが口を開いた。

 

「別に問題ないけどね」

「え…?」

「!?」

 

冷や汗が止まった代わりに、今度は開いた口が塞がらなかった。え?どういうこと?

あ、ローラ驚いてる。気づいてなかったのか。

 

 

 

ローラ視点

 

エリア5

 

彼を置いてきた私たちは、今、ターゲットを探して歩いていた。ここにもあいつら特有のフェロモンを感じるし、まだエリア2みたいになってないから、多分、ここにいるはず。

 

「多分、ここにあいつらがいるわ。いかにも草ですよと主張している植物がいたら、気をつけて」

「大丈夫だよ。あいつらの特徴は、もう掴んでいる。あいつらは必ず花を咲かせ、そこを捕食機関としていた。ということは、あいつらはそこ以外に捕食機関がないんだ。捕食機関がなければ、あいつらは飢えて死ぬ。よって、相手はそれをなくすわけにはいかない。だから、例え小さくても花を咲かせている奴だけを候補に入れればいい。花を咲かせてる奴は3体。群生する生態も考慮すると、もう選ぶまでもないね」

 

ユーリに注意を呼びかけると、彼は余裕の声で心配は要らないことを伝えてきた。油断しないで欲しいんだけどと注意しようと思ったが、油断していないことが彼の視線で分かったので、喉の奥に引っ込めた。

彼は青く煌めく剣を二本抜くと、花の内の一本に駆け寄り、片方の刃で首を切り落とす。赤い体液が噴き出し、茎の部分から頭部が生える。驚異的な再生能力…!厄介な…!

弓を取り出し、矢をつがえ、電気を矢に纏わせる。これで消し飛ばす!

頭部が再生しきった敵は、地面から飛び出し、一番近く背を向けているユーリへと飛びかかる。しかし、彼はそれを分かっていたかのように避け、私の方に顔を向ける。

 

「今だよ」

 

彼の言葉を引き金に、隙だらけの敵目掛けて電気を纏った矢を放つ。矢は見事に相手の身体に突き刺さり、爆音と共に敵の存在を消し飛ばした。これで擬態しても無駄だと相手も判断するはず。さあ、姿を現しなさい!

残り二本も地面から飛び出し、ユーリへと飛びかかる。彼はそれを余裕の表情で受け流すと、片方を細切れにして、もう片方を根と葉を切り飛ばし、足で踏みつける。後は罠にかけて麻酔を撃てば、捕獲完了。

再生を始めている相手を見据え、ポーチからシビレ罠を取り出し、すぐそばに仕掛ける。相手はまだ再生途中だから、避けられることはないはず。

シビレ罠が機能し始めると同時に、私たちは飛び上がることで範囲外に逃れる。残ったのは、捕獲対象のみ。ポーチから捕獲用麻酔玉を取り出し、二人して相手にぶつける。私のは悉く外れたけど。物を投げるのは慣れないわね。

二、三個ぶつけると、ターゲットは大人しく眠りについた。これでよし。さて、後はクエストが終わるまで、待つだけ…

 

「ねえねえ、このまま待つのも暇だからさ、少し散策しないかい?」

「はあ?」

 

と思ったら、ユーリが散策を申し込んできた。あなた、気楽過ぎない?下手に突いて、痛い目見たくないんだけど…

非難する目で彼を見つめていると、彼はあー、そっかーと呟いて、こう言ってきた。

 

「これは僕の『仕事』だったね。ごめんごめん。それじゃ、少し回ってくるよ。まだいるかもしれないしね」

 

仕事いう部分を強調して、言外に私は無関係だと、あくまで仕事なのだと伝える。そして、彼は冷たい瞳で洞窟の方を睨むと、そっちの方へと向かっていった。

 

「何なの、あいつ?」

 

私はその様を見て、嵐のように去っていった彼にそう思った。

 

彼と別れて少しした後、洞窟の方から激しい物音が聞こえてきた。縄張り争いかしら?

 

「ヒグギュゥァアアアアアアア!!」

 

甲高い、首を絞めた状態でむりやり絞り出したような、聞いてるだけで息が詰まる絶叫が、洞窟を超えてこちらにも響き渡る。聞いたことのない鳴き声ね。

猛烈に嫌な予感がしながらも、気になったので、様子を見に行く。そういえば、ユーリがあっちに行ってたわね。彼かしら?ないと思うけど。

洞窟を覗くと、五本の指を携えた腕と足、花の形を模した頭部を血で染め上げた、四つん這いの緑の巨体が、ユーリと向き合っていた。……あれ、何…?

 

「あの植物だよ。色んなものを食べて進化しちゃったのさ」

 

私が困惑していると、彼がこちらを向かずに、敵の正体を教えてくれた。視線を外さないということは、彼にとっても強敵の様ね。

一人納得していると、相手が動き出した。右腕を持ち上げ、ユーリ目掛けて叩きつける。叩きつけた衝撃で、破片が飛び、彼に襲いかかる。

彼は右腕を後ろに跳ぶことで避け、すぐに破片の隙間を縫いながら、地面に突き刺さった右腕から、相手の胴体へと駆け上がる。

慣れきった動作、完成された動き。間違っても、下級ハンターとは言えない身のこなし。やっぱり、こいつ身分を偽ってる。私はそれを確信した。

 

「のんびり観察している暇はないよ、ローラちゃん。いつ、そっちに飛んでくるか分からないからね?」

 

巨体の背中に乗ったユーリが私にそう警告し、双剣を抜くと、腕を振り回し、暴れ狂う巨体の上で、踊るかの様に敵の身体を切り刻む。そして、時折襲い来る豪腕を余裕の表情で避け、お返しとして一筋の切れ込みを入れた。

これ、完全にユーリのペースになっているわね。となると、さっきの警告も、余裕から来るものかしら。すごいむかつく。

むかついたので、弓を手に取る。私だって、戦えるということを証明するために。何よりも、自分の強さを誇示するために。

矢をつがえ、体内で電気を生産。その半分を電殻に溜め込み、二撃目の準備。そして、残った半分を矢に纏わせる。……既に壊れかけてるわね。やっぱり、特別な矢が必要ね…

……ふっ、今そんなことを考えても無駄だったわね。それじゃあ、あいつには死んでもらいましょうか。

今のあいつはユーリに夢中。こっちには全く気づいていない。だから、ゆっくりと狙いを定めることができる。

敵の胴体を狙い、弓を引き絞る。あいつの腹を撃ち抜いてやるわ。

敵が起き上がり、無防備な腹を見せる。今!

私は無防備な腹めがけて矢を放つ。腕も頭も全て、ユーリの方に向いている。防がれる心配はない。

矢は全身を纏う電気によって崩れながらも、まっすぐ相手めがけて飛んでいく。

矢は狙い通りに当たり、溜め込まれた電気が爆発を引き起こし、相手の胴体に大きな穴を作る。よし、これならだいぶ弱ったでしょ。ん?……あ、ユーリがなんか変な声を上げながら、吹き飛ばされてる。ぬわーって、何かしら?

 

「……ユーリに気を取られてたら、既にだいぶ再生されてるわね…速すぎない?」

 

ボコボコという音がして、そっちに目を向けてみると、既に腹の傷が治っていた。……最早、不死の領域ね…

二撃目を入れようと矢を手に取った瞬間、死者の声のような掠れた、底冷えするような声が聞こえた。

 

【ユルサナイ…コロシテヤル…】

 

ぞくりと悪寒が走った瞬間に、上には何も乗ってないのに、全身が上から押さえつけられたかのような感覚に支配される。これは…?

騒つく風にのって、嗅いだことのある臭いが近づいてくる。圧倒的な死の気配を纏って、私たちの元へと向かってくる。死が、滅びがやってきた。

上から強烈な視線を浴びせられる。私は一体、何がどうなっているのか気になり、上を見上げた。見上げてしまった。

 

彼は何の感情も出てないのに、見てるだけで怖気が走る表情をしていた。彼はこちらを見ているはずなのに、どこかここではない遠くを見ているようで…

 

視線が合った。空のような青藍の瞳は、煉獄の炎のような真紅の瞳に変わっていた。彼の瞳の奥に、惑い、哭き叫び、死んでいく人々の姿が映り込む。どこかの街が燃えていく様が、永遠に広がる荒野の様が、緑の甲殻に身を包んだ竜が倒れ伏す姿が、誰かの墓とそこに置かれた花束が、彼の瞳に映り込む。

 

瞬間、黒い龍の腕に、心臓を握られる。真紅の眼が、私の瞳を捕らえて離さない。身体が勝手に震え、喉が水を求め始める。自分は今、死を目の前にしている。

 

海がざわつき、地が軋み、空がひび割れる。破滅の象徴が、己の存在をこれでもかと、この場の全員に刻み付ける。

 

【オマエカ…】

 

ふと彼の視線が、怪物に向く。狂気と殺意と憎悪と憤怒と絶望に彩られた瞳が、殺すべき対象を見定める。助かった。本能がそれを確信する。そして、同時にあれは生きてはいけないものだと理解する。

彼が壁を蹴り、こちらに落ちてくる。彼が蹴った場所は彼の体温により、赤熱していた。

彼の両腕がボコボコと音を立てて、肥大化していく。外側に巨大な肉の杭ができあがり、それが黒く紅く鈍く輝く殻に覆われる。無骨にして、醜悪な罪の塊。

 

あの杭から、怨嗟の声が聞こえてくる。今まで彼に殺されたものたちの絶叫が、今まで彼を育ててきたものの慟哭が、私の精神を蝕んでくる。

 

彼の姿が揺らぐ。緑の殻に覆われ、全身に紅い棘を生やした竜、黄金の鬣を逆立たせ、怒り狂う獣、黒く滑らかで、艶やかな体毛に身を覆い、両腕の刃を見せつける竜、仮面を被り、刃物を振り回す小人、牙を生やし、そしてそれを見せつける四足の獣、緑色の毛に覆われた爪の長い獣、禍々しい紫色の甲殻に身を覆う怪鳥…

他にも多種多様な生物の姿が映るが、その全てが紅く黒くなり、目を紅く煌々と輝かせていた。まるで血に飢えたかのように。まるで殺すためだけに蘇ったかのように。

 

怨霊。ふとその言葉が脳裏をよぎる。そう、あれは怨霊。彼に取り込まれ、その中の泥に汚染された犠牲者たち。そして、新たな犠牲者を望み、血を求めて呻く死者たち。

 

亡者たちが緑の巨体へと襲いかかる。お前もこの一員になれと。お前もこの苦痛を味わえと。

下半身を爆発させ、敵の体に喰いつき、喰いちぎる。飛び散る肉片を喰い、血を啜り、骨を噛み砕いていく。醜い。その様がどうしようもなく醜い。私の体に付着した肉片のことなど、欠片も気にならなくなるほどに。

二本の杭は誰に命令されたわけでもなく、変異を開始し、そして途中でいつの間にか近寄っていた彼の体に取り込まれる。

私は再び彼の方に視線を向ける。既に彼は別の方へと顔を向けていた。一体、何を見ているのか気になり、そちらに視線を向ける。再生を開始していた敵の頭部が、そこにはあった。

彼の右腕がまたボコボコと音を立てて、肥大化していく。また杭を作り出す気だと、なんとなくわかった。

予想通り、彼の右腕にはさっきの杭ができあがった。ただし、二倍になって、所々に顔のようなものができあがって、そこから何かの呻き声が聞こえるようになっているけど。グロテスク極まりないわね。

彼は苛立たしげに舌打ちすると、まだ原形が残っている敵の頭部へと近づく。そして、杭を頭部へと押し付け、再び炸裂させた。

爆音が響き、衝撃に耐えきれずに弾ける杭から断末魔が上がる。敵の身体は全て怨霊に貪られ、そしてその怨霊の断片が飛散する。

 

【ハハ…ハハハ…!】

「ハハハハハハハハハハ!」

 

血肉の飛沫の中、彼は狂喜に顔を歪めていた。右腕が壊れているはずなのに、その痛みを全く感じていないかのように、笑っていた。

彼は口を三日月状に吊り上げ、目を裂けるほどに開き、敵を潰したことで、歓喜に打ち震える。

 

恐ろしい

 

そうとしか感じられなかった。圧倒的な強さは持っている。それは素晴らしいと素直に思う。でも、あれはそれを超えている。あれはその程度のものに当てはめてはいけない。あれは完全に

 

化け物なのだ

 

全てを拒絶し、鏖殺する化け物。今、自分が生きていること自体がおかしな存在。今の彼は

そういう存在なんだ。

 

【ニクイアイテノカラダヲノコスノカ?】

 

再び化け物の声が聞こえた。よくわからないけど、彼はあの植物を憎んでいるらしい。それもここまで狂うほどに。一体、彼の過去に何があったのか?私はそれがどうにも無性に気になった。

 

【ナニモノコスナ】

 

化け物の声に従い、彼は両腕を振るう。腕は壁に突き刺さり、おぞましい速度でエリア一帯を侵食していく。肉の壁により、穴が塞がれる。絶対に逃がさないという、殺意に似た意志を感じる。

肉の糸が蠢き、壁に付着していた血肉を吸収していく。敵を煉獄へと招待する。

完全に吸収すると、彼は腕を元に戻す。そして、満足げに頷くと、私の方を向いた。

 

「……………」

 

彼の瞳は青色に戻っていたが、つい反射的に化け物を見る目で見てしまう。いや…だって、さっきまであんなに大暴れしてたし…

彼は私の顔を見て、訳がわからないという顔をする。もしかして、さっきの記憶がない?

一応、聞いておきましょうか…

 

「レイン。それ、多分だけど、最後の一体」

「あ……………」

 

いや、私?それじゃないと思うんだけど…なに聞いてるの?しかも、何平然としてるの?また暴れるのかもしれないのよ?

羞恥と恐怖で、顔が赤くなり、汗が吹き出る。

しかも、あなたも今思い出しましたという顔をしてるんじゃないのよ。何、あれなの?あれがあれしてあれするあれなの?

あああああああああ、なんか何がなんなのか分からなくなってきたあああああ。

 

「別に問題ないけどね」

「え…?」

「!?」

 

混乱していると、隣からユーリの声が聞こえた…って、え!?………あなた、いつから隣にいたの…?

ユーリは私を見ると、ふっと鼻で笑った。なんかイラっとした。




・全身変化
特に利点はない。

・パイルバンカー
隙でかい、当たりにくい、重い、動きづらい、射出遅い、稀に自爆するという見事な産廃武器。ただし、威力は絶大。当たったら、勝ち確定と考えていい。当たったら。なお、合成素材はライト、ヘビィ、ガンランス、ランス、ハンマー、大タル爆弾などの爆弾。多分、今後の活躍はない。

・血肉吸収
触れた相手を吸収して、自分の一部にする。これを使う直前に体が伸びるが、別に伸ばす必要はない。なお、吸収できる相手はなぜか自分の体か、災生種のみ。他は無理。

・???
一種の暴走状態。使うと、身体能力が跳ね上がり、能力が最大で古龍と同等のレベルに引き上げられるが、記憶が削れる。全部の記憶がなくなったら…
攻撃を受けると、自動的に黒い鱗が生えて防御する。なお、使用した少し後に、凄まじい空腹に襲われる。

…………リスク付きとはいえ、これは酷い。あと、この暴走状態、あんまりなってはいけません。人から離れていっているわけですし、この作品のバッドエンドに直結するわけですから。
ああ、今更ですが、主人公の目的を明かします。
宝物を守りながら、狂気に人格を塗りつぶされるのを阻止して、復讐を遂げるのが、主人公の目的です。要するに、完全に狂ったらアウトです。バッドエンドです。基本的にそれは書きませんが、もしもの世界線で書く気はあります。バッドエンド嫌いな人は、読まないほうがいいと思います。
では、話したいこともなくなりましたし、執筆に戻ると致します。ご愛読、ありがとうございました。では、また1、2ヶ月後。
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