まずは序章です。
「姉ちゃん! しっかりしろ! おいっ! 姉ちゃん!」
体中に走る激痛、そして、真っ赤に染まった視界。
その中で、"青髪の少年"が涙を流しながら"私"にそう呼び掛ける。
「……ア……イク……?」
震える手を懸命にその少年に延ばすと、その子も私の手をぎゅっと握り返してくれた。
灰色の雲からポツポツと雨が降り始めて、私と少年を濡らしていく。
「誰かっ! 誰かいないのかっ!」
少年は叫ぶ。でも、"こんな所"で声を上げても誰も来ない事は分かってた。だって、
「……父……さんに……近づいちゃ……ダメ……みんな……殺されちゃう……」
回りは地獄。
斬殺された大勢の"ラグズ"の死体が、まるでゴミか何かのように転がっている。生きてるヒトなんてもう誰もいない。
何度も何度も叫んだ後、少年もやっとそれを悟ったのか、奥歯を噛み締めてうつ向いた。
「……くそっ! どうしたら……」
ポツポツとした雨は直ぐに大降りに変わって、私の息も、段々と弱くなる。
「大丈夫!大丈夫だから……だから…………死なないで……」
本当に必死に少年はそう叫ぶけど、その時、私の目はもうほとんど見えてなくて、その子が握ってる手の感覚もなくなって、自分が"此処で死ぬんだ"って事を覚悟した。
「……ミス……トを……お願い……」
「嫌だ!」
少年はブンブンと首を横に振る。
「いう事……きいて……おに……ちゃん…でしょ……」
「嫌だったら嫌だ! ミストは……ねえちゃんが……守れ……」
血だらけの私の体を抱き締めながら、その子は絞り出した声で言う。でも、もうその抱き締めれる感覚さえ私には残ってない。ただ、少年と同じように自分もボロボロと泣いてる事だけは理解できた。
死ぬ事への"恐怖"も勿論あったけど、それよりも"弟達"になにもして上げれなかった"後悔"の方が、ずっと大きかった。
「……ごめん……さよなら……アイ……ク……」
意識が白く濁っていく。
もう、この目が覚める事はない。
「姉ちゃん!! おい! おいっ!!」
必死に体を揺らす"アイク"のそんな声だけが、消えていく私の意識に最後まで響いていた。
デイン王国。
「……ん……あれ……もう、朝……?」
深々と雪が降り積もるデインの城下町。
その宿屋のこじんまりとした一室で、"私"は机につっぷしたまま、重たい瞼を擦りながら目を覚ました。
顔の下には開かれた"戦術書"がそのまま放置されている。どうやら勉強中に寝てしまっていたらしい。
「……うっ寒っ!」
あまりの寒さに目が一気に覚める。時計を見ると、時刻は6時を指した所。
この季節、デインの町は湖が凍る程に気温が下がる。いくら暖の効いた建物の中でも、こんな"あられもない格好"では風邪くらい引いても仕方ない。
ボサボサになった長い茶髪をとかして腰の辺りで一つにまとめ、"私"は腰かけていた椅子から立ち上がる。
「着替え 着替えっと」
下着姿からそのまま、窓際に吊るしておいた服にささっと着替える。
動きやすいよう大きくスリットの入った黒いロングスカートに、黒いタイツ。それから、これまた黒い皮製のノースリーブ、最後に黒い手差し、黒いブーツを履けば着替えは終了。
全身を"黒"で統一させた服装。ただ髪の毛だけは茶色で、完全な黒一色でもない。
ほとんど普段着といってもいい程の軽装だけど、一応、これは私の"戦闘着"だ。
まあ、戦闘着とは言っても、今は別に戦をしているわけじゃないんだけど。
「今日はいよいよ決勝戦……デインの将軍……どのくらい強いのかな?」
今、このデイン王国では"四駿"への挑戦権が掛かった国を上げてのトーナメントが行われている。
"四駿"とは、デイン国王の側近にして、この王国で"最強"の四人の将軍。
現国王アシュナードは、貴族社会を敷く他の国では異端で、強者であれば平民貴族誰それかまわず自分の側近に取り立てる。だから、勝てば一気に貴族へと成り上がれるこのトーナメントは、強者達にとってある種の"祭り"のようだ。国中から腕に覚えのある者が集まり、連日その腕を競い合う。
今日はそのトーナメントの決勝戦、同時に"四駿"との戦いが繰り広げられる日。
そして私は、その戦いを勝ち残った"挑戦者"という訳だ。
「相手はプラハ将軍……女の騎兵ね……フフ、まさか決勝
が女同士の勝負になるなんてね……」
試合の開始は午前9時。まだ時間はたっぷりある。
着替えたところで、私はさっきと同じように椅子に座り、対戦相手となる将軍の情報を整理した。
昨日の夜も、この相手とどう戦うかを考えている間にうとうとして、気付いた時には寝てたらしい。
「……相手の得意武器は……たしか"槍"だった筈……武器の相性は悪くないけど……やっぱり馬がない分こっちが若干不利かしら」
まあ、だからといって負ける程私は弱くないつもりだけど、相手は王国最強の4人の内の一人、油断は禁物だ。
『戦場では何が勝負を分けるか分からない。いくら強くとも、先に気を抜いた方が敗北する』と、私の"師"も口酸っぱく言っていた。
私の師は強い。
それも冗談ではないくらいに。
そんな師にボコボコにされながら、幼い頃から私は必死にその背中を追いかけてきた。
女の身でこのトーナメントを勝ち上がれたのは、間違いなくその"師"のおかげ。
それから実を言うと、私はこの国の人間じゃない。
本籍は隣の大国、ベグニオン帝国だ。
"師"はその中でも文句なしに最強の実力者。というより、最早アレは人間の限界を越えている気さえする……
「……失礼する……」
そんな事を考えてると、不意に部屋の扉がコン、コン、と規則正しくノックされた。
噂をすれば……
直後、その扉をガチャリと開けて一人の男性が入ってきた。
「……"カルナ"、起きているか?」
私の名前を呼ぶ、顔立ちの整った"見た目"20代の長身の男性。
この男こそ私の"師"、加えて10年程前、何もかもなくした身寄りのない私を拾い上げてくれた父でもあり、そして、私のたった一人の"大切な人"だ。
でも、
「ええ起きてるわよ……ふーん、今日はまた随分庶民的な格好ね……"ゼルギウス"」
椅子に腰かけたまま、私はむくれながら皮肉まじりに師を見上げてそう返した。
一般的なシャツにズボンと、一見するとただの民間人みたいだけど、実際、この男は全然そんなのじゃない。
『カドール伯ゼルギウス』
ベグニオン帝国宰相、ペルシス伯セフェラン様の右腕で、帝国軍"総司令官"。私の武術の"師"であり、同時に、本来なら"こんな所"に"こんな格好"で絶対にいる筈のない人間だ。
そんな彼が何故今このデインにいるのかというと。
「……貴方……"こんな所"に勝手に来ていいの? 任務は?」
「生憎、現在"この国の王"から任務は授かっていない……」
いつも通りの堅苦しい言葉使いでゼルギウスは答える。
彼は今、帝国の司令官でありながら、"四駿"として国王アシュナードの側近という立ち位置にもいる。でも、勿論彼が忠誠を誓っているのはセフェラン様のいる帝国だから、まあ今の彼はスパイみたいなもの。
でも、大事なのはそんな事じゃない。
「そ……悪いけど、用事なら後にしてくれない? 私は今忙しいの」
「……君はまだ怒っているのか? ……いい加減機嫌を直せ……何も告げずに任務に付いた事は謝罪する……だから、とにかく君は一旦ベグニオンに戻れ……今からでもまだ遅くはない」
「その話は聞き飽きたわ! 却下! セフェラン様には許可して貰ってるから!」
肝心なのは、その任務に"私を連れていかなかった"という事。
少し前、"コイツ"は私に一言も告げずにいきなりデインに赴任した。一応、総司令官の仕事でちょくちょく戻ってきてたみたいだけど、屋敷には一度も戻らず、勿論私にも顔一つ見せず、活動の拠点は専らデイン。
あまりに心配になった私が、『どうしたのか?』 とセフェラン様に聞いてみれば、『他言無用ですよ?』という返事と共にコイツの仕事内容を一部教えてくれた。
その情報を元に屋敷を飛び出してデインに潜入。今回のトーナメントを知ってエントリーしたら、先日、今度はコイツから私に接触してきたって訳だ。
でも、ようやく会えて喜んだのも束の間、コイツは二言目には『帰れ』だの『棄権』しろだの言ってくる。
こっちの気もしらないで……
機嫌の悪い私にゼルギウスが軽くため息をつく。
「……まったく……本当に、君は一度言い出すとこちらが何を言っても聞かないな……確かに"弟子"たる君に何も言わなかったのは私の責任だが、それにも全て理由があったからだ……にも関わらず、態々我が主を問いただしてまで追いかけてくるとは……一体何を考えている?」
「……っ……私の勝手でしょ!」
「そもそも君は"軍人"ではないだろう。幼い頃から日夜訓練に励んだからといって、録に実践経験のない君が"四駿"に挑戦するなど……」
「あー! もう! うるさい!」
コイツは試合の前に私に喧嘩を吹っ掛けにきたのだろうか。
確かに、私は今まで"軍人"としての訓練は受けていない。むしろ、この間までカドールの屋敷で養われていた身だ。
でも、私にだって引きたくない理由ぐらいある。
もう分かるかもしれないけど、私がこのトーナメントに参加した理由は、詰まる所ゼルギウスの側にいるためだ。別に"四駿"になりたかったからって訳じゃない。
まあ、10年越しのアピールさえしれっと流し続けるようなヤツだ。そんな私の気持ちも、この『ミラクル朴念人』には全然通じてないだろうけど。
「はぁ……」
なんだか情けなくなって、私は頭を抱えて溜め息をついてしまう。
ゼルギウスの興味は大きく分けて、『セフェラン様の意思』と『師を越える事』、そして『強者との戦い』が大部分をしめている。だから、私はそんな彼に少しでも振り向いて欲しくて、忙しいコイツに頼み込んで武術を習い始めた。まあ、この調子じゃまだまだゼルギウスの思う『強者』への道程は遠そうだけど……
彼にとっては、今の所私は所詮ただの"子供"程度にしか写ってないのだろう。
でも、
「……とにかく、貴方がなんて言っても私は"四駿"に挑む。 それは絶対に曲げない!」
バンっと机を叩きながら勢い良く立ち上がる。
此処で折れるわけにはいかない。
子供だろうと弟子だろうと、なんと思われても今は我慢する。
セフェラン様は言っていた。『この任務は長期化する』って。ふざけるな。そんな時間、私が放っておかれるなんて許さない。一緒にいれるなら、是が比でも"四駿"の座を取って見せる。
「…………」
ゼルギウスは動じない。直立不動のまま、私の目を見ている。
少しの間無言のにらみ合いが続く。
でも、最後には諦めたみたいに、彼は態と大きな溜め息を付いた後、私に背を向けて部屋の扉へと手を掛けた。
そして、
「……いいだろう……そこまで言うなら最早止めはしない。 君の好きにするといい……ただし……」
ゼルギウスはそこで言葉を一旦区切って、もう一度私の目を見た。そこにあったのは、睨み付けるような眼差しじゃなくて、親が子をみるような優しいもの。
「……"もう"死ぬなよ……カルナ」
そんな言葉を残して、ゼルギウスはバタンと扉をしめた。
私一人が残された部屋。
カチカチと鳴る時計の音だけが耳に付く。
「…………」
一応分かってる。アイツが私を心配してくれてる事くらい。だけど、私が欲しいのは子供を見るようなあんな目じゃなくて……
「ありがと、心配してくれて……でも……私は、貴方の"一番"になりたいから」
私は止まらない。
『ゼルギウスの妻になる』
それが10年前に"何もかも"をなくした私の、一番最初に誓った野望なのだから。
序章、読んでいただきありがとうございました。
時間軸的には、アイクが傭兵団に入る少し前くらいを想定しています。
主人公の容姿のイメージは、一言でいえば『女ソドマススタイルの暁ミスト』です。
以下、現時点の主人公の暁風ステータス画面です。
カルナ
HP 33 …… 火
力 15 …… 幸運 26
魔力 21 …… 防御 14+2
技 23 …… 魔防 17+2
速さ 22 …… 体格 7
移動 6
槍A
スキル 見切り 祈り
銀の槍
特効薬
騎士の護り
主人公らしくクラスはロードですが、『ゼルギウスに育てられた』だけですので、本人は別にベグニオン貴族ではありません。
運がぶっ飛んでる以外、ステータスは上級の中では普通か少し高いぐらいですね。
役割は前衛ですが、前衛にはあまり向いてないチグハグな能力です。