前回まで、作者側のミスで『ブラハ』となっていましたが、正しくは『プラハ』でした。
原作ファンの皆様には不快な思いをさせてしまったかもしれません。申し訳ございませんでした。
「くっ……アンタ……」
「ハァ……ハァ……私の……勝ちだ……プラハ将軍……」
プラハの喉元に
「ハァ……ハァ……」
私の体力はもう限界。足はプルプル震えてるし、手なんて大火傷で槍を持ってるだけでもつらい。服も所々が焼け焦げてるし、馬から落ちただけで実際ほぼ無傷の相手に比べたら、これが『勝利』なのかは結構疑問だけど……
まあ一応、相手を馬から落として武器も奪ってるから、『戦闘不能』にしたって事になるのかな?
「……………」
「……………」
私とプラハ、お互いがお互いの目を睨み付けながら、そのままの体勢が数秒くらい続く。
それからだんだんと私の呼吸も落ち着き始めてきた時、不意にプラハがゆっくりと口を開いた。
「……何故殺さない? アタシはまだピンピンしてるんだよ?」
「もう決着はついた……貴殿は武器を失い、愛馬からも落ちた……これではもう試合を続けられまい?」
今更だけど、こうして落ち着いてみるとゼルギウスの話し方はかなり恥ずかしい。いや、アイツみたいに似合ってればいいけど、断言出来る。私は絶対に似合ってない。
「……情けをかけたつもりかい?」
「これ以上は無意味だと言っているだけだ……」
「ハッ……戦場でそんな理屈が通用するものか! 殺らなきゃ殺られる……違うかい!」
確かに、一ミリでも槍が動けば有無を言わさずに勝てる状況だけど、私は命まで奪うつもりはない。甘いって事は一応分かってるんだけど、やっぱりこれが"民間人"である私の限界だ。
まあ、コイツの事は正直プスリと刺したいくらい気に食わないけど……
「……これはあくまで試合だ……戦場ではない」
「………チッ! この甘ちゃんがっ!」
「何とでもいうがいい……でも、とにかく私は貴方の命は取らない!」
何というか、端からみると見苦しい口喧嘩だ。
私も私で半分くらい口調が元に戻ってるし、プラハの方も戦ってる時みたいにあつくなってる。
彼女は私に"情けをかけられている"事が気に食わないのだろう。だから、自分から刺されには来ない。あくまで私が私の意思で殺さないと気が済まないらしい。
「つべこべ言わずにさっさと刺しな!」
「だからイヤだって言ってるでしょ! 死んだら『本当に何もかもなくなる』! 『貴方が貴方じゃなくなるのよ』! それくらい分かるでしょ!」
でも、残念だけど絶対に殺してなんかやらない。
というのも、実はもう一つだけ、私には人を殺したくない理由があるんだけど……まあ、今それは置いておく。
とにかく、私はコイツの意見だけは飲めない!
体の痛みも忘れて、私は真っ直ぐに叫ぶ。
「 貴方は『死ぬ事の怖さ』を何にも分かってない!」
「ッ!」
感情的になりすぎたせいか、ちょっと涙も出てきた。
私達の言い争いで、静かだった観客席がザワついてる。
でも、今はそんな事は気にもならない。
「………」
「………」
それからは再び無言の睨み合い。
さっきよりも更に険しくプラハが私を睨んでる。
涙で視界もぼやけるけど、こっちだって無駄な殺しをする気は本当にこれっぽっちもない。だから、私も負けないくらいに相手を睨み返した。
「…………」
「…………」
もうお互いがお互いを刺し殺すぐらいの目付きだ。
決着は付いてる。これは完全にプライドの問題。
そして、私はここでも折れるつもりはない。
そして、どれくらいの時間そんな睨み合いが続いただろうか。
すると、突然
「……ハァ……」
ブラハは一度大きなため息をついた後、今までの鬼のみたいな形相から一転、何か吹っ切れたみたいに、今度は目を閉じて静かに話し始めた。
「……思った通り……アンタはやっぱり"ただのガキ"だよ……チッ……こんな小娘に……このアタシが"負けたなんてねぇ"……」
「………えっ? 今……なんて……?」
さっきまで思いきり敵意を丸出しにしてたのに、いきなりしおらしくなられたら私の方が逆に戸惑ってしまう。
こっちが思わず目を丸くしてそう聞き返すと、向こうは逆に目を伏せて不機嫌そうに答えた。
「だから"負けた"って言ったんだ……槍を下ろしな……"降参だよ"」
「! えっ!? うそ……」
「……嘘じゃない……いいから早くしな! 私に二度も恥をかかせる気かい? 」
「……よ、よかった……ははっ……」
勝った……
彼女は今槍を下ろせと言った。それはこのプライドの勝負でも私が勝ったって事。
今の彼女には敵意も殺気も感じられない。
腹の立つ女だけど、やっぱり殺さなくて済んだ事には心の底からホッとする。緊張の糸が切れたみたいに、槍どころか、私はへなへなっと体ごとその場に崩れ落ちた。
静かな声だったけど、不思議とプラハのその声は会場全体へとよく通って、私がペタンと地面に座り込んだそぬ直後、
『うおおおおおおお!』
沸き上がる喝采。
ブラハが登場した時と並ぶくらいのものが、客席から一気に巻き起こった。
勝ったんだ……私……
さっきの言い合いのせいで、なんだかあんまり実感ないけど……
「っ!」
……とか言ってる場合じゃない。安心したら忘れてた痛みがまた振り返してきた。
コイツのせいで全身大火傷だ、たまったもんじゃない。
歓声の中でうずくまる私だけど、そんな中で、プラハは逆にスクっと立ち上がって私に背を向けた。
さっき転倒した時に、驚いて闘技場の隅に逃げた愛馬に合図を送って、こっちへと引き寄せながら彼女は口を開く。
「……アタシはデイン国王に忠誠を誓った騎士だ……負ける事は許されない……」
驚いた。礼儀の欠片もない人だけど、こんなヤツでも"忠誠"なんてものがあったのか……
でも、さっきの"殺せ"って言う潔さも含めると、もしかすると『態度』以外は案外騎士らしいのかもしれない。
さっきは騎士らしくないっていったけど、ちょっとは見直そうと思う……
「……だから……次はアタシが勝つ……『小娘』、アタシを生かした事、精々後悔するがいいさ……」
……前言撤回だ。やっぱりコイツは気に食わない。
最後くらい私らしく『バカ野郎』っていいたかったけど、振り返した痛みでもうそれどころじゃない。
その間にブラハは黒馬に股がって、拍手が沸き立つ中、振り替える事なくゆっくりと退場していく。
自分の槍を置いたまま。
「
ポツン残される私と魔槍。
そういえば、結局私はちゃんと名乗ってもなかったっけ。
プラハが居なくなってからもデイン国民の惜しみ無い拍手が私に贈られてるけど……悠然と立ち去るブラハと、地面に平伏すようにうずくまる私……
はぁ、勝ったっていうのに、なんだかこれじゃ完全にこっちが負けたみたいだ……
こうして大会は閉幕。
その後直ぐ、私の"四駿"入りが正式に決定し、ブラハはその任を解かれた。
しばらくは杖による怪我の治療で時間を取られて、町の宿に戻れるようになったのは夕方頃。
何はともあれ、これで私はゼルギウスの隣で働く事が出来るようになった。
それと、帰る前闘技場にいた兵士から、明日の朝一に王城に行くように伝えられた。どうにも、この国の陛下への謁見と、住む場所を城内へと変更するためだそうだ。
そして、
「はぁ……何だか、帰ってくるだけでどっと疲れた……」
……せめて代えの服ぐらい用意しとくんだった。
ブラハに貰ったフレイムランスを片手に、私はボロボロになった戦闘着で宿屋の玄関を潜る。
貧困層が比較的多いこのデインでも、今の私程の格好をしている連中は中々いない。更にこんな目立つ槍まで握っていては、もう完璧にただの"危ない人"だ。
大会で優勝したのに、人目を避けながらこそこそと帰る様は、正に惨めの一言だった。
まあ、幸いこの宿の主人達は私が大会出場者である事を知ってるから、ここまでくればもう大丈夫だろうけど……
「ただいまぁ……」
玄関を上がり、力なくそう言いながら自室の扉を開ける。まあ私一人の部屋だから、そんな事言っても返事なんて返っては来ない……筈なんだけど……
「……ほう、思いの外遅かったな……」
朝私が腰掛けていた椅子に座る大男。朝とは逆の構図だけど、私の身長が小さいせいもあって、座っているのに目線の高さがあまり変わらない。
なんで、コイツは私の部屋でくつろいでいるのだろうか。
「……ゼルギウス……なんで此処にいるの?」
「いや、そろそろ君が戻ってくる頃かと思い、先に部屋で待っていただけだが?」
朝と変わらない姿で、ゼルギウスは表情一つ変えずにそう言う。
確かに今朝『今は任務がない』とは聞いてたけど……まさか私の部屋で帰りを待ってるなんて考えてなかった。どうせ一日中何処かで訓練でもしてると思ってたけど……
あれ? というか"そろそろ戻ってくる"事が分かったって事は……もしかして……
「……み、見に来てたの?」
ほんの少しの期待を込めて私は聞いてみた。
すると彼は一度目を閉じて、ゆっくりと首を縦に振る。
「……カルナ、私は君を過小評価し過ぎていたようだ……最後の一連の攻防……そしてプラハ殿の隙を付いた奇策……見事な勝利だった……」
窓からから差す夕日の中でゼルギウスが僅かに微笑む。
その姿がなんだかすごく幻想的で、
「えっ!? そ、そんな! あ……あり……がと……」
ちょっと感動した。もしかしたら今顔が赤くなってるかもしれない。
ゼルギウスに誉められた事もそうだけど、私の戦いを見に来てくれてた事が何よりも嬉しいかった。だって、コイツの立場と任務的にそれは不可能だと思ってたから。
それに今のゼルギウスの言い分だと、これは私を認めてくれたって事でいいのかな?
この後労いの言葉一つでもくれれば、今日私がこれだけ頑張った甲斐にもおつりがくる程だ。
期待で気持ちが跳ね上がる。
「だが……」
「……えっ?」
でも、それは甘い考えだった。
ゼルギウスの表情が何時も通りのお堅いものへと変わっていく。そして、"それ"は始まってしまった。
「結論から言わせて貰えば、やはり君はまだまだ未熟だ……形式の定められた『試合』だからこその見事な勝利だが、あれが『戦場』だとすれば、プラハ殿も言った通り君の行動は唯の愚行だ……敵への情けは身を滅ぼす事に繋がる」
「……………」
「私が君ならば、あそこで迷わずプラハ殿の首をはねていただろう……でなければ……もし彼女が懐にナイフでも隠し持っていた場合、『戦闘不能』とは判断されず、逆に槍を払い除けて反撃に出る恐れがある……」
……私がバカだった。
当然のように始まる説教。
ゼルギウスはこんなヤツだ。誉めるところは誉めるけど、真面目すぎるから駄目だしにも容赦がない。
というか、誉めた部分よりもダメだしの方が遥かに長い。
……考えてみればそうだ。暇な時でも忙がしいコイツが、ただ私を誉めるためだけに部屋で待ってるなんておかしい。
この分だと、たぶん労いの言葉なんてない。
「……それに、実力においてもやはり相手の方が上回っていた……今回の勝利は君の"運"による所が大きい……戦いにおいてそれも必要な要素だが、まず将軍に求めれるのは『経験』と『覚悟』と『強さ』だ。君にはそれら全てが圧倒的に足りていない」
「……………」
火照っていた顔が面白いくらい急速に冷めていく。
甘い展開なんてなかった……今持ってる槍でコイツの顔面をつついてやろうかとも思ったけど、どうせ当たらない。ねじ伏せられて終わりだ。それに、今の私にはそんな気力もない。
「聞いているのか、カルナ……」
「……うるさい……バカ野郎……」
さっきプラハに言えなかった台詞をポツリと呟く。
"四駿"にはなれた。
でも、コイツに一人の女として認識されるのは、どうやらまだまだ先のようだ。
決勝戦終了。
以下、武器説明
フレイムランス
カルナ専用
威力12 命中80 必殺10 射程1~2
魔力依存、獣牙族特効
少し原作よりも強くなってる魔槍フレイムランス。
この小説では、以降レイピアポジションの専用装備です。
というか、原作だとタニス以外録に使えない武器ですね。
そのタニスも、低難易度だとレギュラー争いに残り難く、高難易度だと専ら『援軍』係。
ですので、実際この武器も輸送隊の肥やしになっていた方が多いのではないでしょうか。
この武器を持たせたいがためにプラハ戦をやったといっても過言ではないです。