私が新しい"四駿"の一人になって、10日程が経過した。
「……なんか……思ってたのと違う……」
夜、デイン城内に移された私室で、私は不満を溢しながらポフっとベッドに倒れこむ。
将軍の私室だけあって、町の宿よりもかなり広くて小綺麗けど、私の気持ちは現状下がりっぱなしだ。
というのも、
ゼルギウスにぶつぶつ文句を言われながらも、それを押し切ってこの立場についたのは良かったけど、私に待っていたのは忙しい将軍職の毎日だった。
まず、初日の朝にデイン国王アシュナードへの謁見。
その後すぐ"カルナ隊の編成"が始まって、その間、私は城内をひたすら歩き回って城の地形の把握。そして、それが終わったら今度は夜まで戦闘訓練。
夜は夜でさっぱり分からない軍の会議に出席して、結局その日寝むれたのは日付が変わった頃。
それ以降は、部下の顔を覚えるのに必死になりながら、朝から晩まで訓練と勉強の毎日。『将軍』といっても新人だ。まずはこの軍に慣れろということらしい。
休みなんて今のところ一回もないし、あの日以来ネヴァサの町にすら出ていない。国王からの命令だから文句も言えない。
今は平和な時代だし、将軍でももうちょっと自由が利くと思ってたけど……軍属を舐めてた……これじゃまるで監獄だ。
勿論、『ゼルギウスと一緒に仕事をする』という、私が四駿になった目的さえも今のところ果たされてない。
というか、そもそもアイツと城内ですれ違った事ないし、アイツの隊も見た感じ何処にもない。
一応聞くところによると、『全身を漆黒の鎧で固めた謎の騎士』が四駿にはいるらしいんだけど……
……うん、まあ、謎でも何でもなくどうせソイツがゼルギウスだ。
……ただ、何処で何をしてるのかは誰も分からないらしい……
ただ、残り二人の四駿、ブライス将軍とタウロニオ将軍は初日から会議で見かけて、それ以降、まだ付き合いは短いけど、『まるで娘のようだ……』と二人とも優しくしてくれる。四駿なんてプラハみたいなヤツしかいないって勝手に思い込んでたけど、あの二人は全く違って、本当に騎士らしい騎士だ。両方とも先々代の王から仕えてるだけって、厳格もあるし、部下からの信頼も厚い。
どちらも私と同じ槍使いだから、近い内にその槍術も見せてもらおう。アイツをギャフンと言わせる参考になるかもしれない。
まぁ、何処にいるかも分かんないんじゃ言わせようがないけど……
全く、せっかく頑張って此処まで来たのに……はぁ……もう意味が分からない。
「ハァ……もう寝よ……明日も訓練なんだし……その内、たぶん……きっと……一緒に仕事が……出来る……」
どのみち、此処まで来ちゃったらもう後には引けないか。今は流れに身を任せよう。
今日一日の疲れからか、そういって瞼を閉じると直ぐに、私は泥のように眠った。
そして翌日、
軍人の朝は早い。
日の出と共に起きて、軽く体を動かした後に朝食。
そこから戦闘着に着替えて、本格的な訓練の開始だ。
あっ、ちなみに今私が着てる服は、焼けちゃった元の戦闘着を参考に作られたオリジナル……とは名ばかりの、ほとんど前と同じ服。デインの刺繍がはいってるかどうか、くらいの違いかな……
「おはよう、えーと……みんな居るー!?」
デイン王城の修練場で、私は整列した100人程の"部下"の前に1人立って、みんなに聞こえるように声を上げた。
『はい!』
「よし! じゃあ、今から一体一の模擬戦を始めるけど、質問のある人ー!」
というか、一週間経っても、未だにこの『号令』には中々慣れない。
だって、大の男達を私みたいな小柄な女が取りまとめているのは、ハッキリいって違和感がものすごいから。
……まあ、これも将軍の仕事、ゼルギウスだってよくやってた事だし……仕方ないけど……
『いえ! ありません!』
私の声に、兵達は統制の取れた返事で返す。
今並べているのは、この間編成された私"直属"の兵士達。いうなら、私が自分の判断で勝手に動かせる私兵だ。
ちょっと言葉は悪いけど、他の将軍とは違って、"四駿"の位を持っている人達には、この私兵が"国から支給"される。
現国王の指示で、要約すると『お前達の使いやすいように好きに鍛えろ』と言う事らしい。
……流石は『狂王アシュナード』。実力者に対してはものすごく寛大だ……その分、弱者には非常に厳しいらしいけど……
始めは『大の大人が私の言うことなんて聞いてくれるのかな?』って思ったけど、この部隊での私の評判は以外と悪くないみたい。
聞いてみた感じでは、理由は主に2つ、まず、この部隊の半数以上が前任のプラハ隊の人達なんだけど、その時の彼女の部下への当たり方がとにかくキツかったらしい。訓練中に"誤って"死者が出るって事はザラで、兵士達は常々怯えていたそうな……
『それを思えば今は本当に楽しく業務に当たっています』と、休憩中部下の一人も言っていた。
……確かに、あの女ならそれくらいの事は平気でやるかもしれない……
それと後もう1つが、私自身がみんなの『癒し』だからだそうだ。
……うん……まあ……一応顔も含めて容姿は"それなり"だと思ってるし、城を守ってるデイン軍には他に女性なんて殆んどいないから、それも頷けない事はない……
……ただ、そう思ってくれるのは別にいいんだけど、私が訓練してる時、何名かの部下がこっちをチラチラと見てるのは……正直少し困ってる……なんというか……恥ずかしいから。
それに廊下でも、私の事をまだ知らない別の隊の人からいきなり声を掛けられたりもするし、これは少し対策を取らないといけないかも。
もしそんな現場を見られて、ゼルギウスに"有らぬ勘違い"なんてされたら……
……というか、逆に軍に慣れてない私にこそ、そんな『癒し』が欲しいと思うのはワガママなのかな……
後、肝心の"将軍としての実力"についてだけど、少なくとも、今までの訓練の中で私に攻撃を"当てれた"部下はこの中にはいないし、逆に私の槍を避けれた人もいない。だから、ゼルギウスはああ言ってたけど、その点については今の所特に誰からも不満は上がってないみたいだ。
「よし、みんな準備はいい? じゃあ、模擬戦……始め!」
『ハッ! 』
私の指示と同時に、広い修練場で兵達が二人一組で実戦式の訓練を始めた。殺傷能力の少ない訓練用の武器が、そこかしこでカン、カンという音を上げる。
でも、私はその中には混ざらない。だって初日で分かったから。それはたぶん、今のところ"あんまり意味がない"って。
「じゃあ……私は私の訓練っと……」
部下のみんなとは違って、私が取り出すのは本物の赤い槍。
そう、プラハから貰ったフレイムランス。
この魔槍を完璧に使いこなす事が今の私の訓練だ。
この一週間程で、一応それとなくコツが掴めてきてる。
まずは、神経を集中させて……
「はっ!」
こんな感じに"気合い"を込めると、槍が反応して炎がボウっ沸き上がる。
前に思った通り、やっぱり持ち主はこの炎の影響は受けないみたい。それで、これが基本の状態。そこから、
「はあっ!」
心の中で「行けっ!」て思いながら槍を振るうと、プラハがしたみたいな《炎の衝撃波》が飛ぶ。
結構アバウトな表現だけど、実際それで出てるんだから仕方ない。まあ、《炎の衝撃波》って言うのも長いから、一応《炎波》って呼んでおこうと思う。
これも、私の気力の入れ方で多少の強弱はつけられるみたいだ。
……で、次がその応用。
「やっ!」
ザクッと、槍の切っ先を地面へと突き立てて、そのまま力を込めて少し待つと……
「……来たっ!」
少し離れた先で、まるで火山が噴火するみたいに、地面をバンッと吹き飛ばして炎が一瞬立ち上る。
どうやら、『熱が地中を伝って、一定距離走ったところで爆発する』らしい。ポイントの制御が難しいけど、慣れれば奇襲には持ってこいの技だ。
これはそのまま《噴火》としておこう。
今のところ、この《炎波》と《噴火》しか私は出来ないけど、慣れてくればもっと色々な応用が効きそう。
……こんな感じに、ビックリするくらい便利な武器だ。
でも、これは誰でも出来る訳じゃないみたいで、試しに他の部下達にも持って貰ったけど、ほとんどの人は火の粉すら上がらなかった。一番良くできて槍がちょっと熱くなる程度。
……とりあえず、現状この槍をまともに使えるのは私だけみたい……でもなんだか、それはちょっと嬉しかったりする。
……まあともかく、デイン軍で働く以上、いくら平和とは言っても、そのうち街のゴロツキや盗賊団から市民を守るために出撃する事もあると思う。この槍は遠距離から火力を加減出来るから、使い方によってはそんな相手も殺さずに無力化できるかもしれない。
いくら悪党でも、簡単に命を奪いたくないから……
それからしばらく、私はフレイムランスの、みんなは模擬戦の訓練に励んで、丁度、開始してから一時間くらいが経った頃。不意に、修練場の入り口扉がガラガラっと開く音がした。
『なんだろ?』って思いながらその方向に目をやると、褐色肌の少女が、そこでペコリとお辞儀する。
「……カルナ将軍……訓練中失礼します……」
「あれ……"イナ"……どうしたの? まだ"授業"の時間には早いと思うけど?」
イナ。
このデイン軍で働く数少ない女性で、私に与えられた側近だ。見た目は同い年くらいだけど、『軍師』として、軍事に疎い私に『集団での戦術』や『隊の動かし方』なんかを教えてくれてる先生でもある。
基本的に『頭脳担当』だから、彼女が私達の訓練に参加する事はないんだけど……
「……いえ、陛下がお呼びです……至急、四駿の皆様を謁見の間に召集するようにと……」
「……全員って、ブライス将軍とかも? ……何かあったの?」
「詳しくは何とも……皆様が集まってから伝えるとの事です……」
国王からの初召集……言ってる側から街で何かあったのかな?
それとも、わざわざ四駿全員を集めるくらいだから、何か大きな発表とかかもしれない。
そろそろ休憩を挟もうかと思ってたところだし、まあ丁度よかった。
「そう、ありがとうイナ……取り合えず行ってみる、みんなは適当に休憩してて!」
『はっ!』
私は部下達にそう伝えて、足早に修練場を出る。
何があったか知らないけど、"四駿全員"ということは、今日こそ絶対にゼルギウスも居る筈。謁見の後にでも密かに捕まえて、今まで何をしてたのか全部教えてもらおう。
「失礼致します! カルナ、只今参りました!」
王城らしく重たくて大きな扉を開いて、私はそう言いながら"謁見の間"へと入った。
部屋の中はまだ昼前なのに薄暗くて、なんだか空気が重たくて少し不気味。
パッと見てみると、先に到着してたブライス将軍とタウロニオ将軍が、部屋の中心で膝と頭を下げている。
「来たか……」
その先には、玉座に深々と腰かけるこの国の王、『アシュナード』と、その傍らに直立する『漆黒の騎士』の姿。
……あれが、ゼルギウスのこの国での仕事着だろうか。
……結構かっこいい……
そんな事をふと考えていると……
「何をしている……其処に並ぶがいい……」
「は、はい!」
国王の言葉に、私は慌ててタウロニオ将軍の隣に腰を落として、二人と同じように頭を下げる。
……初日に謁見した時から感じてたけど、『狂王』って呼ばれるだけあって、やっぱりこの人の威圧感って物凄い。なんか、見ただけで怯むというか、本能的に勝てないって思ってしまうというか……
"ベグニオンの一個師団をたった一人で壊滅させた"っていうとんでもない武勇伝があっちの国に残ってるくらいだから、実際本当に強いんだろうけど……
「では陛下……そろそろ、我等をお集めになった理由をお聞かせ頂きたい」
私の二つ隣、プライス将軍がみんなを代表してそう口を開く。すると、
「フン……貴様らを召集したのは他でもない……今後の"軍事"についてだ……」
椅子に腰かけたまま、国王はそう返した。
……軍事? 10日くらい前の会議じゃ特に話題には上がってなかったと思うけど……私が四駿に加わった事もあるし、新しい方針か何かの発表かな?
でも、アシュナード王の言葉は、私の想像を軽く越えるものだった。
「では……今此処に宣言する……我と……貴様ら四駿を先頭に、明日の明朝……」
一瞬開く不気味な間、そして……
「デイン軍は……隣国"クリミアを攻める"!」
「……えっ?」
……今、何て言った?
クリミアを攻める?
ちょっと待って。落ち着け私、それってつまり……
「せ、戦争を仕掛けるおつもりですか!?」
私が聞きたかった事をそのまま、タウロニオ将軍が代弁してくれた。
そうだ、そんな事をすれば間違いなく戦争になる。
それに、なにより話が急すぎる。
確かにこのデインと、隣国クリミア王国はそんなに仲のいい国でもないけど、いきなり戦争を仕掛ける程険悪な雰囲気でもなかった筈。
……この王は一体何を考えているの。
そもそも私なんて将軍になって一週間だし……いやいや、それ以前に元も子もない発言だけど、私は戦いをするために軍隊に入ったんじゃない!
「その通りだ……奇襲を掛け、日没までに首都メリオルを落とす……」
「バカな……王よ、そこまでする大義とは、一体……」
驚きながらも大人しく膝をおってるブライス将軍とは対照的に、タウロニオ将軍は国王に向かって激しく声を上げてる。
初めて見た。普段は物静かな将軍があんなに動揺するなんて……まぁ、動揺してるのは私も同じだけど。
「フン、大義……? 貴様も知っていよう……"強い世界を作る事"こそ我の望み……この戦は、その第一歩となる……」
「……正気ですか……」
狂ってる……
正に『狂王』だ……あの将軍も呆然としてる。
当たり前だけど、私だって戦争はごめんだ。
戦争で倒すのは悪党じゃない。死にたくないとかじゃなくて、そんな普通の人達を殺したくない。
でも、多分それを国王に言ったところで、今のタウロニオ将軍みたいに一蹴されるのがオチだ。
なら、
「ゼル! ……いえ、そこの"騎士殿"は、どのようにお考えですか!?」
私は顔を上げて、国王の側に立つ『漆黒の騎士』に聞いてみる。
アイツは私と同じベグニオンのスパイだ。戦争なんて起こされたら、それこそ隣接する私達の本国にも影響する筈。
そんな事、あのセフェラン様が認める訳ない。
それにゼルギウスなら、最悪この国王にも"力"で対抗出来る筈……
と、淡い期待を込めて表情の分からないゼルギウスを見つめてみたけど……
「……王が戦を望むなら、私はそれに従うまでだ……」
「えっ! ちょっと! 貴方まで!? 」
ビックリする程あっさり裏切られた。
それどころか、
「……カルナ"将軍"」
「は、はい……」
凍りつくような『漆黒の騎士』の声。
兜で隠れていて見えないけど、今、間違いなくゼルギウスは私を睨んでる。見えなくたって声色で分かる。
「……貴殿は、『戦をする覚悟』もなく四駿の、"将軍"の座に就いたのか? 」
「えっ……そ、それは……」
「フッ……ならば即刻その立場を返上するがいい……怯える将に……兵を引きいる資格はない……!」
カキン、と、銀色に光る大剣を私に向けて……すごい他人行儀に、ゼルギウスは冷たくそう言い放つ。
そんな彼に……
「…………」
……私は、何も言えなかった。
それはただ単にゼルギウスが怖いってだけじゃなくて、本当に、その通りだったから。
私はただゼルギウスの隣に居たかっただけ。だから、人を殺す覚悟も、兵を率いて戦場に出る覚悟も録にしてない。イナの講義だって私は机上論程度にしか聞いてなかった。
そしてそれは、『戦争をする、しない以前の問題』
彼は前々から言ってた……『"覚悟"のない者が将軍になるな』って……それをこの場で改めて突き付けられて、今の私に答えなんて返せない……
タウロニオ将軍が戦争を否定する理由と、私が戦争を否定する理由は、たぶん全然違う。
私はただ……自分のためだけ……
「話は終わりだ……作戦の開始は明朝……各自……それまでに戦いの準備を調えよ……」
「待ってくだされ! 王よ!」
アシュナード王の声が響く。タウロニオ将軍が抗議してるみたいだけど、私は……
「…………」
戦争が起こるなんて考えてなかった。だから、甘い甘いって言われても、強いってさえ認められれば、それでいいって思ってた。
でも気付かされた。ゼルギウスに振り向いて貰うって言っておきながら、このままじゃそんな根本的なところでアイツに絶対認めて貰えないって……
その時はもうベグニオンの事とか、セフェラン様がどうとかは頭から飛んでて、
『戦をする"覚悟"もなく将軍の座に付いたのか?』
その言葉たけが、私の頭に重く響いていた。
この小説では、一応タウロニオはこの時点までは四駿として扱っています。
彼が四駿を抜けた具体的な時期は不明ですが、『アシュナードの暴政に反発し、彼の元で功績を上げる事を嫌ったため』とありますので、彼の脱退はこの後、ベウフォレスと入れ替わりに、といった感じでしょうか。
以下、主人公新規スキル
カルナ
スキル 噴火
1マス離れた敵に魔力ダメージ+1ターン行動不可。