最初に敵の侵入に気がついたのは警備担当のラバックだった。
いや、正確には最初はモデルZだが、最初に行動に出たのはラバックである。
「行き成り大量の敵!?しかもこんな近くに!?」
廊下を走りながら、ラバックはタツミや女性陣と合流を急ぐ。
今まで敵に近づかれることはあっても行き成りアジト付近に現れることは無かった。
驚く間も敵は与えてはくれないようで革製の服を着て、仮面をつけた男が天井を突き破って現れたのだ。
身構えるラバック。
「敵・・・・殺ス!!」
男の素早い突進をラバックは身を捻るようにして避け、糸を用いて首を絞め上げた。
ゴキッ!と豪快な異音を奏でる。
並みの人間なら即死。
「無駄よ」
ラバックの正面、捉えた敵の背後から、女性の声が響いた。
「もう中にまで入って・・・・・!?」
ラバックは革製の無駄に露出度の高い服装に鼻の下を伸ばしたが直ぐに一級危険人物だと理解する。
手にしているハルバート、ソレはZセイバーに類似している刃を持っている。
何時かカズマが言っていた事を思い出す。
“もしかするとロックマンが敵になるかもな”
女はロックマンなのか!?とラバックは驚きを隠せない。
「鼻の下伸ばしてる場合?変態Drの強化兵は無駄にタフ。アンタ、死になさいよ」
女が言うなり、首をへし折った男が無理やり攻撃を再開した。
「クソッ!」
ラバックが避けようとするが遅い。
男の鋭い爪がラバックの腹を抉る。
普通なら致命傷だが、しぶとさについてはラバックも負けていない。
「糸にはこんな使い方もあるって事!」
身体に何重にも巻きつけた糸で攻撃を防いだのだ。
「そしてぇ!」
器用に糸を束ねて槍を作り出し、再び突撃している男へ投擲。
「グハッ・・・・・ナントウイウ応用力ダ!」
今度こそ男の息の根を止めるラバ。
「俺は貸し本屋、糸の使い方なんて店の漫画に描いてあるのさ・・・・次はアンタだぁ!?」
投擲のポーズのまま、女に啖呵を切ろうとした刹那。
水色の半透明の刃が眼前に迫っていたので身を反らして避けるラバ。
「あら、良い反応。でも糸じゃ、水は捉えられないわね!」
ラバの眼前で、壁面が女ごと外に“打ち出さ”れた。
アジトの水源である裏の川に落ちた瓦礫が水柱を上げる中、壁にあいた穴からカズマが姿を現す。
「旦那!」
「ラバ、俺はアイツを斬る。後ろのは頼んだ」
暗闇に消えていく後姿、残されたラバは即座に逃げに転じた。
廊下一杯に広がり、這いずって来る敵の一団。
チラッと肩ごしに後ろを見ると意外と速い敵の一団が迫っていた。
「ウォォォォ!意外と速ぇ!?」
全速力で逃げるラバ。
そんなラバを飛び越える人影があった。
寝巻き姿のアカメである。
「私の後ろへ!」
ラバを庇うように前に出るアカメ、可愛らしいチェックのパジャマ姿で、手には村雨を持っていた。
「アカメちゃん!」
敵兵は一瞬のうちに切り捨てられ、ラバックは口笛を一吹き。
いかにしぶとくとも生きている以上、村雨の呪毒は有効である。
「敵ながら見事な腕前・・・・感服します」
敵兵の波が消えたかと思うと二人の側近を従えたトビーがラバックとアカメの前に姿を現した。
出来る。
トビーの態度は落ち着き、しかし隙は無い。達人のソレだ。
「我が名はトビー。アカメ殿に一騎打ちを所望する!」
トビーは両手、両足裏に刃を装備するや壁を蹴って、天井を蹴りさらに加速をつけて襲い掛かった。
対するアカメも跳び蹴りのタイミングにあわせ、村雨でカウンターを見舞う。
刃は見事にトビーの背に縦一閃の傷を刻むが、
「・・・・今の手応えは!?」
アカメの感じた手応えは人体のソレではない。
剣で打ち合ったような、鉄の感触。
「ふっ」
スタイリッシュの計算どおり、アカメにトビーは相性抜群であった。
「アカメちゃん!」
ラバも見ているだけではない。
加勢しようと駆け寄ると側近の二人がソレを妨げるように割って入った。
「こいつ等、邪魔!」
アジトのそばを流れる川は意外と深い。
川上に上ればコウガマグロが取れるポイントがあったり、手頃な深さの場所でシェーレやタツミは鎧泳ぎなど、暗殺者育成プログラムを行った場所だ。
「あらぁ♪」
「ぐっ!?」
そんな夜の水場・水中と言うフィールドで、カズマは苦戦を強いられていた。
「まさか、モデルLが相手とはね・・・・」
肝が冷えた。
カズマは浮力で思い通り動けない。が、女・エルはロックマンとしての姿を開放したばかりかまるで魚雷のようにつっ込んではハルバートを振るい、陸を目指したカズマを氷龍で妨げ、カズマを水中に縛り付けている。
「優しいじゃない?ゼロ。私のホームグランドに案内してくれるなんて」
「・・・・・・俺は基本女性に優しいよ」
『カズマ、手加減するな。アイツは・・・・』
そう、モデルZが苦手とする女性の中にヤンデレがある。
モデルとなった紅い英雄とモデルLのモデルとなった妖将は、一方的に英雄を好いて、戦う度に楽しげであったという。
そんな妖将の性格をそっくり受け継いだモデルLはイベントと言う名の戦い大好きっ子である。
モデルZもまた、紅い英雄が苦手としたタイプを受け継いだようで。
『戦闘凶のヤンデレという奴だ』
「意外な発見だね、モデルZはそっちの女が苦手か・・・・」
『茶化している場合か!』
カズマは帝具使いを相手にするのは別の感覚に囚われていた。
何故、水中なのに会話できるのはロックマン故なのか。
謎である。
アジトの壁を破壊する形で、タツミは外に躍り出た。
既にインクルシオを着用し、いつも訓練に使っている中庭に着地する。
溢れんばかりの敵兵をタツミは蹂躙していく。
その時だった。
「おう、出てきた出てきた。鎧の兄ちゃんの相手は、俺がするぜ」
背後からの声にタツミが振り返ると、そこには巨漢の男、カクサンが口元に笑みを浮かべて立っていた。
トビーにやや遅れる形で侵入を果たしたカクサンは、ちょうど飛び出してきたタツミと鉢合わせした形である。
振り返り、身構えるタツミ。
だが、カクサンが背中に背負っている物を見て、思わずタツミは目を剥いた。
「ッ その帝具は・・・・・・」
あまりにも見覚えのある帝具。忘れようとしても、忘れられる物ではない。
「フフ、良いだろ。万物両断エクスタス。ご機嫌な、俺様の帝具さ」
巨大なハサミ型の帝具は、間違いなく、亡きシェーレの帝具エクスタスである。
かつて、シェーレが使っていた帝具が敵の手にある。
その光景を見るだけで、タツミの脳は沸騰しそうなほどに煮えたぎった。
「それは、テメェのじゃねえ!!」
言い放つと同時に、タツミはカクサンに向かって飛び掛かった。
夜の川原、水面が激しく波打ち、一瞬だが、川が割れた。
その一瞬を突いて、カズマは水中から脱し、Zセイバーを盾に突っ込んできた氷の龍に喰らい突かれるのを阻止、川原に着地する。
「ヒャッハァ!」
対して、エルが水面から銛のように勢い良くハルバートを突き出して突撃していく。
着地のタイミングを狙った一閃をカズマは咄嗟にリコリルロッドを使って受ける。
「グッ・・・・・アアアアァ!!」
カズマが、右で氷龍を押さえ、左で砲弾のような加速と破壊力を得たエルを受け止める。
「水中じゃなくても、水辺なら私の独壇場なのよ?忘れたわけじゃないわよね!!?」
エルは、勝てると確信した。
スタイリッシュの思惑なんて知らないが、ゼロには間違いなく勝てると。
が、エルは見誤った。
静かに怒りを燃やし、不利な戦場から移動する瞬間を待っていたこの男の力量を。
「知ってる・・・・・が、お前を処理する・・・・・」
「状況分かってんの!?」
氷龍が砕け、片手で打ったチャージセイバーの勢いをそっくり鍔競り合うエルに向けるカズマ。
エルも身体を傾け、横に転がる形で一閃を避ける。
エルは避けられたと思っていた。
カズマの足元に落ちる自身の左腕を見るまでは。
「このっ!!」
切断面から銃身が現れる。
これはセリューにも施された人体改造だ。
追い込まれた局面になって初めてモデルLの意識は抑え込まれ、素体・エルとしての意識が仕込み武器を扱う決心をつけた。
「貴様は・・・・許さん・・・・!!」
「・・・・・やりなさいよ、ゼロ」
瞬間、間合いがゼロになった。
振り上げるZセイバーを視て一瞬声を漏らしたエルは、清清しい表情を浮かべて一閃を受ける。
最後の瞬間、モデルLの意識が前面に出ていたのか。
最後の一瞬、そう思うモデルZだった。
ドッ、グチャ。
肉塊から引き抜いた血が滲む掌をカズマは見下ろす。
セイバーの一閃で袈裟に切裂かれたエルの肉体から、“ある物”を回収したからだ。
赤黒い液体に塗れて居るが水色のライブメタルがその手の中には収まっていた。
『・・・・・・容赦ないわねぇ、女性には優しくしないよ!』
「いやいや、溺死させようとしたアンタに言われたか無いわ。」
手の中で文句を言うモデルLを持ちながら、カズマは踵を返す。
『そうそう、コイツの身体って人間爆弾なんだって』
「早く言ってよそういうの!!」
瞬間、カズマの悲痛な叫びは爆風にかき消される。
アカメとトビーの対決は、達人同士、白熱した物となっていた。
身体能力は、両者ほぼ互角。
しかしトビーはスタイリッシュの改造によって、脳など一部の重要器官以外は全て機械に置き換えられている為、村雨の呪毒を完全にブロックしている事に加え、全身のあらゆる場所に武器を仕込んでいる。
加えて、痛覚神経も除去されている為、いくら斬られようとも戦闘力が落ちる事は無い。
徹底的に「対アカメ」を意識した身体の造りをしているのだ。
これには、流石のアカメも苦戦を免れないかに思われた。
しかし、アカメも一歩も引かずに対峙する。幼少期から、帝国の特務機関で暗殺者として特別教育、今日まで多くの存在を葬って来た手練の殺し屋たる少女にとって、この程度の不利は何度も経験しており、今更慌てるには値しなかった。
相手が村雨の攻撃を封殺できると判った時点で、アカメは直ちに攻撃方法を切り換える選択をした。
一斬必殺ができないのなら、卓抜した剣技を恃みに刻み切るしかない。
ザシュッ!
トビーの腕が宙を舞った。
「一撃で葬れないのなら、こうやって刻んでいくしかない。」
アカメは言いながら村雨を構えなおす。
「相当痛いぞ!覚悟しろ」
「そんな感覚、私にはとうに存在していませんよ!」
対するトビーは、肩口の切断面から刃を出現させて不敵に笑う。
それでも勝敗は見えていた。
再び、トビーとアカメが刃を交える。
鍔競り合った一瞬、トビーの口から銃身が覗き、放つ。
刹那、アカメは僅かに頭を傾け、黒髪を銃弾が穿つだけ。
既にアカメはトビーの太刀筋を見切り、今度は残りの左を肘辺りから切断した。
「おおおおおおぉぉっ!!」
銃身を競りあがらせ、トビーはなおも諦めない。
「下ッ!?」
トビーが振り向ききった時、アカメはアクションに映る。
疾駆し、トビーの足を膝から切断。
バランスを崩すトビーの胸を背から槍が貫いた。
「おのれ・・・・横槍とは無粋なっ!」
トビーが睨む先には投擲姿勢を崩さずにいたラバックがいる。
「アジトと皆がやべーってのにのんびり観戦しているつもりはねぇよ」
ラバックの両脇には封殺された側近の巨漢の敵兵が二人。
時間は掛ったが、ラバックは無傷で封殺してのけたのだ。
「・・・・・・まあ、あのまま1対1で戦い続けていても、私の負けでしたがね・・・・・・・・・・・・」
諦念したように、トビーは呟く。
技量においてはほぼ互角だった。武装面では、むしろトビーの方がアカメよりも勝っていたと言える。
だが、戦闘は終始、アカメ優勢のまま推移した。
「教えてくださいアカメ。私があなたに劣っていたのは何ですか?」
「・・・・・・・・・・・・攻撃はとても激しかったが、反面、隙は大きかったと思う」
質問に対するアカメの答えに、トビーは納得したように笑みを浮かべる。
なるほど、それは確かに、と思った。
痛覚がない分、防御の必要性が薄くなっていた。
戦闘能力を上げる手術が、自分の首を絞めていたのだ。
観念したように跪くトビー、アカメは村雨を横なぎに振るってトビーの首を撥ねた。
振るった剣が、音を立てて折れ飛ぶ。
その様に、タツミは思わず目を見張った。
対して、対峙するカクサンは会心の笑みを浮かべている。
インクルシオを纏う事で戦闘力を上げているタツミだが、剣の方は、強化されたカクサ
ンの筋肉に当たった瞬間、耐え切れずにへし折られたのだ。
「肉を切らせてッ」
同時に、カクサンはエクスタスを取り出して振るう。
「骨を断ァつ!!」
「クッ!?」
挟み込まれる刃がタツミを襲う。
両側から迫る刃に対し、一瞬、身を翻すタツミ。
金属音と共に挟み込まれた瞬間、
刃は、タツミの右手首を掠め、僅かに血を滲ませた。
どっと、冷や汗がタツミを襲う。
インクルシオを纏っていなかったら、今の一撃で致命傷を喰らっていたかもしれない。
「む、良い反応だな。斬り落としてやろうと思ったのに・・・・・・・・・・・・」
感心したように呟くカクサン。
その間に、タツミは着地して体勢を立て直す。
しかし、カクサンの防御力は予想以上だ。剣で斬っても斬れない相手では、外から殴っても効果は薄いだろう。
加えてエクスタスの攻撃力までも備えて居る為、厄介極まりなかった。タツミの攻め手は封殺されているに等しい。
「折角固い鎧を持っているのに可哀そうにな。こっちはこの世の全てを斬る帝具。防御力なんぞ、無視だ無視」
そう言って、自慢げにエクスタスを掲げるカクサンに対し、タツミはギリッと歯を噛み鳴らす。
嘲笑うようなカクサンの姿を見るだけで、頭の中身が弾け飛びそうな怒りに捕らわれる。
「返せッ それはシェーレのだ!!」
突撃するタツミ。
エクスタスを掴み、そう叫ぶ。
叫ばずには居られなかった。
シェーレとの思い出を目の前の男は、土足で踏みにじる。
あの温もりを、笑顔を、彼女の優しさを、供に過ごした時間を!
「ああ?誰だよソイツは!!」
殴り飛ばされるタツミ。しかし、意外な人物に受け止められる。
「・・・・・・タツミ、シェーレを出迎えるぞ」
静かに、搾り出すような声が聞こえてタツミは振り返る。
「カズマ!その血は!?」
インクルシオの鎧は銀色、その肩を赤く濡らす液体にタツミは戦慄する。
カズマを傷つける相手が居たのかと。
「ああ!?エルの奴、仕留め損ねたのか。合流されちまったじゃないか」
「何時までチンタラやってのよ。カズマまで居て」
カクサンを挟むようにマインも合流する。
「俺は今ついたばっかなんですがね」
『アタシを力任せにフッ飛ばすからよ』
カズマを茶化すモデルL。
マインは静かにパンプキンを持ち上げて構える。
「・・・・・・さっさと片付けるわよ。敵がエクスタスを持っているってだけで腹が立つ」
静かな怒りを燃やすマイン。
対して、カクサンは嘲笑を向ける。
「『さっさと片付ける』だぁ? おいおい、今の状況考えて物言えよ。アジトが発見されて敵に突入されて総攻撃喰らってんだよ!!」
「だからこそよ」
嘲るカクサンに対し、あくまでも冷静な口調を崩さないマイン。
その事が、カクサンの癇に触れる。
「余裕ぶってんじゃねえよ!!」
エクスタスを振り翳して突進するカクサン。
タツミの、マインの前にカズマは歩を進めると口を開いた。
「・・・・・・・断ってみろ、貴様に出来るならな」
徐に挟み込まれる刃がカズマに迫る。
その中で、タツミはおどろくべき物を目にした。
「ぐ・・・ぎぃ!」
「どうした?ピクリともしないぞ」
カズマは鋏の刃を真剣白刃取りの要領で両手を使って止めてみせた。
シェーレの思い出を汚した事に沸点を振り切っていたのはタツミだけではない。
カズマも自制が利かなくなる程の怒りを感じていた。
かろうじてブレーキをかけたのはモデルZである。
「さぁ、処理される時間だ・・・・・・」
徐に、カズマはエクスタスの刃を万歳するように放り上げた。
「ぬわぁぁっ!?」
カクサンは、強化手術でインクルシオの攻撃も防ぐ強靭な肉体を手に入れた。
勿論、力も怪力と賞賛しても良いほどだ。
「さぁ、「撃て!マイン」」
エクスタスを持ち直し、呟くカズマの言葉にタツミの台詞が被る。
そして、パンプキンの銃身に溜まるハンパないエネルギーを目にしたカクサン。
それでも自身の防御力を信じていた。
「判ってる!!」
引き絞られるトリガー。
放たれるエネルギー弾によって、周囲は昼間のように照らし出される。
まるで、太陽が地上に出現したかのような光景だ。
「な、ちょっ、デカっ!?」
驚愕するカクサン。
だが、もはやどうしようもなかった。
放たれた砲撃はカクサンを飲み込んで、一瞬にして分子レベルまで解体していく。
断末魔の悲鳴を上げるカクサン。
やがて、その巨体は塵も残さず消滅する。
エクスタスをマインに渡すと、マインは優しく抱き占めた。
タツミも涙を堪えるように天を仰いでいる。
「お帰り、シェーレ・・・・」
マインが優しく呟いた。
振り返ると其処にはシェーレが居た気がした。
何時ものように笑顔で「すみません」と言った気がしたのだ。
『どうした?』
いぶかしむモデルZに「いいや」とだけ返答し、カズマも呟く。
おかえり、と。