戦況は、徐々にだがナイトレイド側が盛り返しつつあった。
各メンバーの奮闘により、チーム・スタイリッシュの戦闘員達は大半が喪失し、戦線維持が困難となりつつあった。
その事は、“耳”と“目”を通じて、スタイリッシュ本人にももたらされる。
「カクサンがやられました。トビーも先程・・・・・・既に歩兵も大半がやられています」
「あらやだ。流石に困ったわね」
ここまで抵抗されるのは、流石のスタイリッシュとしても予想外だった。
彼の計画では、この時点ですでにナイトレイドの半分は制圧している筈だったのだ。
しかし今だに、最初のトローマが上げた戦果以外、芳しい報告は上げられてこなかった。
もっとも、兵隊がいくら死のうと、スタイリッシュにとってはどうでも良い事だった。
どうせこいつ等は皆、元々は罪人として処刑されるはずの所を、減刑を条件にスタイリッシュの研究に協力する事を約束した連中である。
勿論、スタイリッシュには約束を守るつもりは毛頭なく、死ぬまで使い潰す気でいるのだ。
どうせ、代わりは掃いて捨てるほどいる。ここでナイトレイド達と、その帝具を手に入れる事ができれば、戦闘員全員を使い潰したとしてもお釣りがくるくらいだった。
エルは大変良くやった。
使い捨ての駒としては上場の戦果を上げている。
人間爆弾として、ゼロに大きなダメージを与え、手持ちの武器を半壊させたのだから。
『・・・・万物両断エクスタスを素手で止めるって凄い無茶をするわね!?』
しんみりと亡き仲間を思っているとカズマの無茶振りにつっ込むモデルL。
エクスタスの性能を良く知っているだけにモデルLは「コイツ自殺願望持ってるよ」と思ったほどだ。
『モデルL、コイツはこういう奴だ』
モデルZも最初の戦闘で思ったことだったので、諦めろと諭す。
「それ、ライブメタルか?」
カズマの眼前に浮いている水色の金属片を見て、タツミが呟く。
「そうだ。モデルL・・・・・で、あの月をバックにしているのはナンだ?」
カズマが指差すと其処には夜空に浮かぶ月の中に黒い異物が飛んでいた。
「ちょっと待って・・・・」
マインがパンプキン付属の照準用スコープを左目に装着、確認すると深くフードを被っ
た三人が確認できる。
最後の一人は、よく見知った人物。
「ボスだわ!」
「おお!! いいタイミング!! そしてズリィ!!」
拳を掲げて喝采を上げるタツミ。
そのタツミに、マインは不審な視線で見る。
「何でよ?」
「あんな格好良い物に乗って登場だぜ。俺も乗りてぇ!!」
「はあ? 前から思ってたけど、アンタのセンス、ちょっとおかしいわよ」
歓声を上げるタツミを見ながら、呆れた様子を見せるマイン。
どうやら、少年の感覚は少女には理解しがたい物があるらしかった。
『・・・・・大丈夫なのか?』
そんな二人を他所にモデルZはカズマを気遣う。
スタイリッシュ特製人間爆弾に至近距離で巻き込まれたからだ。
チェーン・リコリルロッド、シールドブーメランは破損、暫くは使えない。
ライブメタルは自動修復機能と言うものが備わっている。
人と同じで放っておけば直るのだが、その修復スピードは押して知るべき。
直ぐに直ったという訳にも行かないのだ。
武器は直るが、適合者を失えば補充が利かない。
今までも無理をしてきたカズマには確かにダメージが蓄積している。
「・・・・・少し不味いかな」
ロックマンの状態で何とか立っているカズマ、ロックオンを解除すれば忽ち倒れてしまうだろう。
それでもバスターショットを構え、警戒を怠らない。
仲間を死なせたくない・・・・もう、これ以上!
その一心で気力が身体を支える。
そんな三人を茂みから伺う人物が居た。
トローマである。
品定めは済んだのか、足に力を込め始めた。
「けひっ!可愛い可愛いお嬢さん・・・・背中ががら空きなんだよぉぉ!」
茂みから弾丸の如く飛び出すトローマ。
手にはナイフを持ち、その切っ先がマインを捉えようとしている。
「・・・チッ!」
ダメージで僅かに反応の遅れたカズマが舌打ちする。が、ナイフはマインを穿つことが無かった。
「さっきはよくもやってくれたな、この野郎ぉぉぉぉ!!」
既にライオネルによって変身し、身体能力強化したレオーネの攻撃力は強烈である。
並みの人間なら一撃で即し決定である。
トローマが死ななかったのは、彼がスタイリッシュによって、肉体を強化されているからである。
しかし、その改造は彼の命を救う事は無く、却って地獄へと引きずり込んで行く。
「グフォォォォォォ!?」
吹き飛ばされ、無様に地面を転がるトローマ。
その首をレオーネが掴み上げ、容赦なく締め上げる。
「ギ、ギギ・・・・・・苦しい・・・・・・助けて・・・・・・」
首の骨を折る勢いで締め上げるレオーネ。
凶暴な牙を剥いた獅子を前に、桂馬如きが敵う道理は無かった。
「私はなァ・・・・・・奇襲するのは好きだけど、されるのは大ッッッッッッ嫌いなんだよ!! 丈夫に強化されてるっぽいが、その分楽に死ねるとは思うなよ!!」
スタイリッシュ顔負けの外道セリフを吐くレオーネに、見ていたタツミとマイン、モデルLは揃ってドン引きする。
だが、
トローマは尚も反撃に出た。
「けひっ」
苦しそうに血を吐きながらも、笑みを浮かべるトローマ。
足の爪先から、仕込みナイフが出現。そのままレオーネに蹴り掛かる。
しかし次の瞬間、
向かってきた刃を、レオーネはとんでもない方法で受け止めた。
何と、トローマのナイフを、レオーネは歯で噛んで受け止めたのだ。
「こいつ・・・・・・さっきもこうやって・・・・・・」
驚愕に、目を見開くトローマ。
それが、彼のの最後の言葉となった。
レオーネはトローマの細い体を振り回すと、力づくで地面に叩き付ける。
地面が大きく陥没するほどの衝撃が、余すところなく
『あら、コレがトドメって情けなくない?モデルZ』
そんなモデルLの呆れた声音を聞き取ったタツミが大の字になっている
「カズマ!どうしたんだよ!?」
「いやぁ、すまん。
「あっ!気をつけろよ、獅子は簡単に止まれないんだぞ!!」
「詫びろよ!先ず詫びてくれよっ!!」
『これだけ大声を出せれば大丈夫か』
詫びれる様子も無いレオーネにつっ込むカズマ。
実際、これだけでダウンするほどのダメージを負っている辺り、スタイリッシュの技術力の高さがうかがえる。
そこへ、複数の足音が聞こえてきた。
「皆、無事か!!」
トビーを倒したアカメとラバックが歩いて来る。
「うぉ、旦那が満身創痍ってあのネェちゃんどんな化け物だよ!?」
驚くラバックに若干嬉しそうなモデルL。
何はともあれ、全員の無事が確認されたわけである。
その時だった。
周囲に一斉に気配が浮かび、同時に現れた戦闘員達によって、ナイトレイド達は包囲されてしまう。
緊張が高まる中、それぞれが帝具を、武器を構えて円陣を組む。
「まだ、残りがいやがったか・・・・・・」
「けど、こいつらで糸に反応してる敵は全部だぜ!」
ラバックがクローステールの様子を確かめながら言う。
主だった戦闘員は全滅。雑兵も殆どが撃退され、敵も壊滅状態と言う事だ。
あと一息で終わる。
そう思った時だった。
突如、タツミの傍らに立っていたアカメが、急に糸が切れたように、その場に倒れた。
「アカメ、どうした!?」
慌てて声を掛けるタツミ。
しかし、倒れたのは彼女だけではない。
ラバックが、マインが、レオーネが、カズマまでが、タツミの見ている前で、次々と倒れてしまった。
「み、みんな、いったいどうしたんだよ!?」
今立っているのはタツミだけ、この異常事態である事は日を見るより明らか。
「か、体が、急に・・・・・・・・・・・・」
しびれた体で、絞り出すように呟くマイン。
他の皆も同様だった。
急に体がしびれ、全く動かなくなってしまったのだ。
「この感じ、船の時と似た、まさか、また催眠か?」
龍船での戦いを経験しているタツミは、真っ先に同様の可能性を疑った。
あの時は三獣士の一人ニャウが、帝具の力を使って広域催眠を仕掛けてきた。その時と同じではないかと考えたのだ。
しかし、辛うじて意識を保ちながら、アカメは首を振る。
「いや、違う・・・・・・これは・・・・・・毒か・・・・・・」
アカメの予想は正しかった。
風上を陣取ったスタイリッシュが切り札を切ったのだ。
「インクルシオ以外効果絶大です。スタイリッシュ様」
“目”が強化された視力でその様子を偵察し、報告する。
散布された毒は、スタイリッシュの調合した中でも最凶の逸品である。
本来ならばスタイリッシュであっても使用を躊躇う程に巨力な代物なのだが、殺し屋であるなら、毒に対する耐性も強いであろう事を考慮した結果、使用に踏み切ったのだ。
応援に来たナジェンダは毒が散布されている内は手をこまねいて見ていることしか出来ない。
受けた被害と手に入る貴重な実験体、これで帳尻が合うだろうとスタイリッシュはほくそ笑む。
勿論、言うまでも無く、スタイリッシュと強化兵たち全員には、対応した解毒剤を投与済み。体内に取り込んでも、何も問題は無かった。
「本当は活きの良い
「さすがスタイリッシュ様!!」
「お優しい!!」
「しかも無臭で、私にも優しい毒です!!」
わざとらしく芝居じみた嘘泣きをして見せるスタイリッシュを、揃ってよいしょする偵察3人組。
彼等の中では、既に戦いは終わったも同然のように扱われていた。
だが、ここでスタイリッシュは油断した。
エアマンタ目掛けてゆっくりと飛翔するモデルLを見つけ損ねた事に。
タツミは、インクルシオの副武装・ノインテーターを出現させてにじり寄る雑魚一団と対峙している。
Zセイバーを杖代わりに立ち上がったカズマ、未だに体が痺れて自由に動けない仲間を一瞥する。
ラバックとマインに至っては完全に動けない状態だ。
守らないと。
タツミがそう思うのと殆ど同時に衝撃が襲い掛かった。
吹き飛ばされ、宙を舞う戦闘員達。
地を割る程の一撃は、包囲網を一瞬にして突き崩す。
「な、何だ!?」
誰もが驚愕する中でゆっくりと、もうもうと立ち込める砂煙の中で、
ゆらりと、人影が立ち上がる。
それは、長身の男性だった。
精悍な顔つきをし、鋭い眼光は全てを射抜くように放たれている。
頑健な体はまるで百錬の武将のそれであり、手には先端に分銅のような重しを備えた棍
が握られている。
だが、ただの人間ではない事は、見ればすぐに判った。
頭の両脇にから、まるで猛牛のような角が突き出している。その事が、精悍な男の外見を、よりシャープに引き立てていた。
「・・・・・・味方、だよな?」
レオーネが男に視線を送りながら、半信半疑に呟く。
目の前で、群がる敵を蹴散らしたのだから、一応は味方と判断する事ができるだろうが、しかし、相手の正体がわからない以上、油断もできなかった。
そして、もう一人男性に肩を並べる少女がいた。
歳は十代後半くらいで身長はラバックやタツミと同じくらい。
茶色い髪を後頭部で纏めたポニーテールの髪は肩口ぐらいまででネコ科を思わせる小ぶりで整った顔立ち。スレンダーだが、均整のとれたプロポーションを持つ、モデルのような外見の少女は右手に槍を持ち、左手には飛翔していったモデルLを持っている。
その槍は帝具、ソレは間違いなかった。
「そうだよ、挨拶は後回しだね・・・・・先ずは・・・・・」
少女が答え、スゥと深呼吸をした。
「おい、まさか・・・・・」
カズマはある可能性に思い至る。
敵として現れた妖将が、今度は味方になるのか?
その未来は少女の一声で確定した。
「ロックオン!」
ナイトレイドにモデルL参加です。