「な、何で小夜鳴先生が!」
小夜鳴が大型のスタンガンを手にこちらを見ている。
一体何故…?
一瞬俺は動揺したが先に行動を…
「おっと、全員動かないでくださいね」
「…っ!」
動けなかった。
小夜鳴は手に拳銃を持って照準を理子さんの後頭部に狙いを定めている。
…俺はあまり銃に興味はないがあの銃とても古いモデルだ。
変に刺激をして暴発されたらたまったものではない。
ん?
小夜鳴の後ろから二匹の犬…いやあれは狼だ。
それも近日俺が見た狼と同類の奴だ。
「ああ、前には出ない方がいいですよ。少しでも前に出れば襲うように教えていますから」
ちっ…どうやら瞬殺は無理なようだな。
近場ならいけたかもしれないがここからでは少し遠い。
コードキャストも時間がかかるから八方塞だ。
「まさか波岸さんが岸波君だったとは意表を突かれましたよ。しかもとても美人だったので困ったら女性として生きて行ったらいいと思いますよ」
「…ご意見どうも…」
なんだか複雑だ…。
そんなこんなしている家に狼が理子さんのワルサー二丁を器用に咥え屋上から投げ落とした。
「動かないでくださいね。この銃は三十年前に造られた粗悪品です。ちょっとした拍子でトリガーを押してしまうかもしれませんからね。私もこんなことでリュパン4世を失っても困るんです」
ブラドから聞いたのか?理子さんがリュパン4世ということを知っているのは少ないはず。
なるほど…潜入の前からばれていたのか…これは俺の失態だな、警備が厳重になったことをもっと考慮するべきだった。
「どういうこと?何でアンタが理子の本当の名前を知っているのよ!ま、まさか…アンタがブラドだったの!?」
「いいえ。私は彼ではありません。彼は今とても遠くにいるのですよ」
アリアはそれは本当かわからないと言った表情をしている。
なので俺は答えてやった。
「アリア。多分小夜鳴の言っていることは本当だ。あいつの目は嘘を言っている目じゃない。そこは信じてもいいと思う。」
「…。わかった。武偵憲章1条、仲間を信じ仲間を助けよ。それにアンタを疑うことはないわよ」
それにしてもこの短期間でこれほどまでにアリアに信用されるようになっていたのか。
少し嬉しいが今は気を引き締める。
「それにしても、そのブラドから理子のことも聞いて、銃も狼も借りて、そのくせ会ったことがないだなんて半月前はよくも騙してくれたわね」
「騙したワケではないんです。私とブラドは会えない運命にあるんですよ」
アリアが俺の方を見る。
その行動に対して俺は首を振る。
それに納得したのかアリアはまた小夜鳴の方をみる。
…それにしても俺は嘘発見器か何かか?
拳銃はいまだ理子さんの頭に付きつけられている。
なんとか…理子さえ助けたら……
小夜鳴の戦闘力はたいしたことはない。
人質さえいなければ銀狼がいても勝てる。
だが、ブラドがくれば人質と合わせてキンジ達がいても不利だ。
特攻をかける手もあるが…
「遠山くん。ここで君に一つ補講をしましょう」
は?
「補講?」
「君がこのリュパン4世と不純な遊びに耽っていて追試になったテストの補講ですよ」
おい、キンジお前ら何をしていたんだ…。
俺はそんな質問を息と共に呑みこみ話の続きを聞くことにする。
「遺伝子とは気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして……このリュパン4世は、その遺伝の失敗ケースのサンプルと言えます」
そこまで言うと、小夜鳴は倒れたままの理子の頭を蹴った。
まるで、汚物を蹴るように
「…おい、やめろよ」
ぐっと足に力をいれかけるが動けない。
俺が動くより確実にトリガーを引く動作が早いからだ。
動けないことを知ってか小夜鳴が続ける。
「10前、私はブラドに依頼されてリュパン4世のDNAを調べた事があります」
「お、お前だったのか…ブラドに下らないことを…ふ、吹き込んだのは……」
足元で理子がもがきながら男喋りでうめく
「リュパン家の血を引きながらこの子には」
「い…言、う、な…!お、オルメスたちには…関係…な、い…!」
「優秀な能力が、全く遺伝していなかったのです。遺伝学的にこの子は無能な存在だったんですよ。極めて希なことですが、そういうケースもあり得るのも遺伝です」
言われてた理子は俺達から顔を背けるように地面に額を押し付けた。
本当に聞かれたくない相手にそのことを聞かれた絶望的な表情
「…おい」
ああ、無意識に声質が低くなっているのがわかる。
不思議と俺は冷静であった。
その冷静な理由もよくわからない。
が、俺の心境はただ事ではないということは察することはできた。
「自分の無能さは自分が一番よく知ってるでしょう、4世さん?私はそれを科学的に証明したに過ぎません。あなたには初代リュパンのように一人で何かを盗むことができない。先代のように精鋭を率いたつもりでも…ほら、この通りです。無能とは悲しいですね。ねえ4世さん」
無能、4世という言葉を繰り返す小夜鳴の足元で理子は涙を溢していた。
喉の奥から絞り出すように泣いている。
小夜鳴は手元からキンジがすり替えたニセモノの十字架を取り出した。
「教育してあげましょう4世さん。人間は遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たない人間はいくら努力を積んでもすぐ限界を迎えるのです。今のあなたのようにね」
小夜鳴はその場に屈み、身動きが取れない理子の胸元から引きちぎるように青い十字架を奪いとった。
そして、ニセモノの十字架を痺れのせいで何の抵抗もできずにいる理子の口に押し込む。
「う! んん!」
理子が悲鳴をあげてのぞけるが小夜鳴は楽しそうに笑いながら
「あなたにはそのガラクタがお似合いでしょう。あなた自身がガラクタなんですからね。ほら。しっかり口に含んでおきなさい。昔、そうしていたんでしょう?」
背を伸ばした小夜鳴が、がすッと理子の頭を踏みつける。
「うう!」
「い、いい加減にしなさいよ!理子をいじめて何の意味があるの!」
耐えかねたアリアが叫ぶ。
「絶望が必要なんです。彼を呼ぶにはね。彼は絶望の詩を聴いてやってくる。この十字架も、わざわざ本物を盗ませたのはこうやってこの小娘を一度喜ばせてから、より深い絶望にたたき落とすためでしてね。おかげで…いいカンジになりましたよ。遠山くん。よく見ておいてくださいよ?私は人に見られている方が掛かりがいいものでしてね」
なんだ?何か小夜鳴の感じが変わっていく。
「ウソ…だろ…?」
キンジが絶句している。
これは…
「そうです、遠山くん。これはヒステリア・サヴァン・シンドローム」
やはりか…
キンジ以外の家系にも持ってるやつがいたとはな
「ヒステリア…サヴァン?」
アリアが眉を寄せているがキンジも俺も何も言わない。
「遠山くん。岸波くん。神崎さん。倉橋さん。しばし、お別れの時間です。これで彼を呼べる。ですがその前にイ・ウーについて講義してあげましょう。この4世かジャンヌに聞いているでしょう。イ・ウーは能力を教え合う場所だと。しかしながらそれは彼女たちのように低い階梯の者達による、おままごとです。現代のイ・ウーにはブラドと私が革命を起こしたこのヒステリア・サヴァン・シンドロームのように能力を写す業をもたらしたのです」
「聞いたことがあるわ。イ・ウーのやつらは何か新しい方法で人の能力をコピーしてる」
アリアの指摘に小夜鳴は首を小さく振る
「方法自体は新しいものではありません。ブラドは600年も前から交配ではない方法で他者の遺伝子を写し取って進化させてきたのです……つまり、吸血で。その能力を人工化し、誰からも写し取れるようにしたのが私です。君たち高校生には難しいかもしれないので省略しますが優れた遺伝子を集めることも私の仕事になりました。先日も武偵高で遺伝子を集める予定でしたが遠山くんたちが除いていたおかけで失敗してしまいました。狼に不審な監視者がいれば襲うように教えたのがあだになりました。特にレキさんの遺伝子は惜しかった」
なるほどな…あれにはそんな理由が…
アリアがぎりっと歯ぎしりした
「ブラド。ルーマニア。吸血…そう、そういうことだったのね。どうして気づかなかったのかしら。キンジ。白野。ナンバー2の正体読めたわドラキュラ伯爵よ」
ああ、それは過去の経験からわかっている。
「ドラキュラ?それは架空のモンスターの名前じゃなかったのか?」
キンジが言う
「違うわドラキュラ・ブラドは、ワラキア…今で言うルーマニアに実在した人物の名前よ。ブカレスト武偵高で聞いたことあるの。今も生きてる、って怪談話つきでね」
「正解です。よくご存じでしたね。四人ともまもなくそのブラド公に拝謁できるんですよ。楽しみでしょう?」
「デタラメだ!そもそも兄さんの力をコピーしたのならどうして理子を苦しめられる!」
ヒステリアモードは女性を守るものだ。確かにおかしい
「いい質問ですね。講師は生徒の質問に答えるのが仕事です。順を追って説明しましょう…むかーしむかし…」
どこまでもふざけやがって…
「この世には吸血で自分の遺伝子を上書きして進化する生物吸血鬼がいました。無計画だったらほとんどの吸血鬼は滅びましたが、人間の血を偏食していた一体ブラドは人間の知性を得て、計画的に多様な生物の吸血を行い強固な個体となって存在しました。しかし、ブラドは知性を保つために人間の吸血を継続する必要学生ありました。結果、ブラドには人間の遺伝子が上書きしてされ続けブラドはとうとう私と言う人間の殻に隠されることになりました」
ま、まさか…
そ、そうか!だからあいつは嘘をついて…
「隠されたブラドは私が激しく興奮したとき、つまり私の脳に神経伝達物質が大量分泌された時に出現するようになっていきました。しかし永い時が流れるうち私はあらゆる刺激になれ激しくは興奮できなくなってしまったのです」
なるほど、俺が小夜鳴がブラドではないのかと聞いて違うと言った時嘘をついていなかったということか。
同じ人物でありながら完全に別の人格である。
それならこれまでの質問で嘘を言っているわけではない。
つまり、俺が間違えていたわけではなかったということか。
「なるほどな。それでキンジの兄さんのヒステリアか?」
にい、と笑った小夜鳴は踏みつけていた理子の頭をもうひとけりした。
「……」
理子の口からニセモノの十字架が地面に落ちる。
「さあ かれ が きたぞ」
圧倒的存在感。
しかし、俺はこいつには負けられない。
こいつはただでさえ守るべきものを汚したのだ。
そんな奴に負けるわけにはいかない!
俺はこの後の戦いのために気を引き締めるのだった。
49弾終わりました。
パラノイヤ(偽)さん、島田響奏さん、ローレライの歌声さん感想ありがとうございます。
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