“古”の決闘者 作:笹もち
1-01 三度目の人生
肉体が滅びても魂は生き続ける。
どこかの有名なおっさんの言葉らしい。もちろん、俺はそんなことを信じないが自分の経験してきたことを思い返してみればそんな気もする。
俗に言う転生というものだ。
何を言っているのか分からないだろう。安心しろ、俺も自分で何を言っているのか分からないから。
一度目――若き神官の一人、神官アクとしての人生は終焉の名を持つ最高位の
彼の異能な力は自らの身に魔物を封じるという人の身でありながら高位なもの。逃げ出すことも出来ず死ぬその日まで修行の日々は続いた。成長するにつれて生涯を共に出来る愛する人を見つけてしまった彼は自らの宿命に抗おうと試みる。けれど時は既に遅し。来たる日がやって来た。能無しの神官共は役目を果たせと言い残し、さっさと逃げて行った。このまま自分も逃げてしまおうか。そうすれば無能な神官共、全ての人々を道連れにして死ねるとアクの脳裏を過ぎる。しかしアクがそうすることはなかった。
最愛の人だけはどうしても守らねばと。他がどうなろうと知ったことではない。アクは自らが従える
二度目は赤き竜の痣を持ちながら邪神に魅入られたアサニア・クレフォートとしての不遇な人生。光と闇の冥界を司る終焉の使者を身に宿した影響だったのだろう、赤き竜の痣を持ちながら邪神に魅入られた彼はシグナーでありながらダークシグナーだった。全ての性質を受け容れられる魂の器を持っていたが故の必然ともいえよう。
自らの運命を拒むシグナー達に運命を語らい、ある時はダークシグナー達に人を憎むなと諭したりと。記憶を引き継いでるアサニアは互いの気持ちが痛いほどに分かっていた。運命を拒み、人を憎む気持ちは神官としての役目を果たして死んだ自分が一番に分かりきっていたからだ。
残念にも思う自分も居た。世界を救った先にあるのは憎み憎まれの世になっていたこと。平穏を願う人々を殺し、争いの種を生み出し復讐という名の芽を育てる邪悪な連鎖。シグナーとして、またダークシグナーとして二つの異なる性質を持つアサニアは邪悪な連鎖を断ち切る為に自分にしか出来ないことを必至に考える。
考え抜いた結論は自らが世界の敵になることだった。シグナーとダークシグナーの双方、世界に住む全ての人々に自分を憎ませるというもの。全ての人々に自分を意識させるというのは途方も無かったが仕方ない。貧しき者には救いを。幸せな者は幸薄い者には幸せを分け与え。憎む者には慰めを。シグナーとダークシグナー、異なる性質の者達が互いに手を取る姿はアサニアにとってとても嬉しく見えた。その最期はシグナー、ダークシグナー達を相手に一人で決闘を挑んで敗北。誰も彼の真意を汲み取る者は居なかったという。
「何この結末。笑えない」
そうして迎えた三度目の人生。
食堂で焼き上がったトーストの味を噛みしめながら過去を振り返る
さすがに三度目はそんなことはなく、すくすくと育って今や立派な高校一年生である。過去に古代神官や村人Aでありながらシグナーとダークシグナーをしていた時とは比べられないほどに人生は明るい。
「何を一人でブツブツ言って泣いているんだ貴様は。気持ち悪い、飯が不味くなるだろうが」
「……? 誰でしたっけ」
ホットミルクに手を伸ばしながら隣を見やると如何にも俺様系なツンツン頭の男子が今にも胸ぐらを掴みそうな剣幕でこちらを見ていた。正直怖い。
どこかで見たことがあるような無いような気もするが今ここでは初めましてなような気もするので一葉は爽やかな笑みを浮かべて親指を立ててみる。
「は、初めまして……?」
「中等部で三年間同じクラスだったろう!? ク、クソッ!! 貴様までもがこの万丈目様を馬鹿にするというのかっ!!」
「……ははっ。冗談に決まってるだろ」
やばいやばい。後もう少しで中等部三年間を共に過ごした友人を忘れるところだった。いや既に忘れていた一葉は前向きに思考を切り替えた。
そういえば昨日の夜に万丈目がレッド寮の男子と
「取り巻きが居なくなったくらいで俺達の友情は冷めないから大丈夫だ、万丈目」
「忘れかけていただろうが!? チッ。どれもこれも全てあのドロップアウトのせいだ……絶対に許さん!!」
そう言い残して食堂を去る万丈目。
ふと何処からともなく周囲のオベリスク・ブルーの生徒達の声が聞こえて来る。『ブルーの誇りを汚したクズ』等や『ドロップアウトに負けたならアイツもドロップアウトだろ』好き勝手に言いたい放題だ。
デュエルアカデミア本校の高等部。オベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドのうち最も誇りあるとブルーの制服を纏いながらこの体たらく。他者を見下し、向上心の欠片もなく自らの誇りとプライドを守ろうとする姿は滑稽にしか一葉の瞳には映らない。
時代は変われど変わらぬ人々がいるのもまた事実。悲しきかな、人という生き物は。一葉はため息をつきながらホットミルクに口を付ける。
「
三度目の人生――
日本人特有の黒髪に淡い灰色の瞳、二歳ながらに将来は女の子を泣かせるであろうと断言出来る顔立ち。オムツを履いた二歳児はぷるぷると小さな両足を震わせて若芽のような細い手で顔を覆って、頬から伝う涙をゴシゴシと擦りながら表情をクシャクシャにしていた。
「
流石に三度目となればオムツに慣れる――と言えば嘘になってしまうけれど羞恥プレイの趣味はない。従って一葉はノーマルである。古代では布切れ一枚だったのだから文句は言うまい。
「ぶふふぁあああああああ!!!?」
一葉の人生の転機、というのは十歳の頃だ。
テレビ画面の向こうで『 フーハハハハハハッ !!』と高笑いする男の姿。生まれ変わっても変わることのない魂の輝きは偽れない。そう、かつての神官セトだと一葉は分かってしまった。鼻と口から盛大にミルクをぶちまけて驚いてしまったのは無理もない。
あんなに高笑いする姿は初めて見た。覚えている限りでは普段から顔を合わせる度に罵られていた気がする一葉はティッシュでテーブルを拭きながらかつての神官セト――今は海馬瀬人の豹変ぶりを見て心に何かこみ上げてくる。
『いくぜ!! 海馬ァ!!!!』
海馬瀬人に対峙するはかつてのファラオ――アテム。ではなく武藤遊戯。バトルシティ決勝トーナメントの映像はかつての神官アクとしての自分を思い出させるには充分だった。
二人の従える
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