“古”の決闘者 作:笹もち
デュエルアカデミア。オベリスク・ブルー寮の一室。神官時代には石畳の上で就寝、村人A時代には藁の上で就寝。今の高級感溢れるふかふかなベッドの寝心地は至高ともいえる。思わず涙が溢れる。朝の暖かい日差しと抱き枕とこのベッドがあればいつまでも寝られるだろう。きゃっきゃうふふな一葉は二度寝しようと寝返りを打つ。
一瞬でテンションがガタ落ちした。隣りで寝息を立てる黒い悪魔もとい幼女。長い黒髪に整った可愛らしい顔立ちはロリコンなる人種が好みそうな感じだが残念ながら一葉にはその気はない。それもただの幼女なら可愛らしく見えるが正体が自分の死の原因と直結しているなら話は別だ。
「おは……よ。……パパ」
「俺はお前のパパじゃないよ」
「…?」
なぜそこで可愛く首を傾げるのか不思議でたまらない。この幼女――もとい、ペラとは二度目の人生、アサニア・クレフォートとして転生した時から付き合いが始まった。付き合いというよりも呪いというべきか。一度目の神官アクとしての人生を終えた時に
村人Aであるアサニア・クレフォート時代もこの幼女のせいで彼女はおろか、一生童貞だったのは言うまでもないことだ。邪神に魅入られたのだって邪神と融合してるんだから魅入られて当然だと思うのは間違いだろうか。いや、間違いではないと一葉は断言出来る。
従って生涯を共にする嫁とはいえなくもないけれど必死に封印した最高位の
毎日起きたら横で終焉の使者が寝ているのだ。いつ冥界に連れていかれるのかヒヤヒヤしてたまらない一葉。魂の記憶が引き継がれている理由もおそらくは魔物と魂が融合した影響なのだろう。
目の前の小さな女の子が終焉の使者と言われてもピンと来ないがシグナー時代に一度共闘した時に混沌帝龍の姿に戻ったので心臓は止まりかけた。
「これ以上思い出したら心臓止まるから、デッキ調整でもしようかな」
「ん…」
「可愛く目を擦りながら混沌帝龍のカードを渡されても困るから」
デッキのシナジーに合わないのが切実。デュエルモンスターズというのはエジプトの魔物の石版を元にしているらしいので一葉にとってこれほど有利なものはない。
若かったとはいえ、神官アクとしてあらゆる魔物を相手にした経験は今でも決闘に生かされる。テキストが少し変われど、元は同じ。
「よし、出来た。デッキ調整は完璧」
「でき…た」
隣りを見やるとカードでドミノタワーを完成させて微笑むペラ。意外と手先が器用だなと思いつつ、一葉は寝間着から制服へと袖を通していく。昨日の食堂での一件は今の万丈目にとってかなりの精神的ダメージを与えたことだろう。謝って許されるかは分からないけれどペラを差し出せば許されるかなという考えが過ぎる一葉。
まあ差し出した後に自分の身に起こることを考えれば何も出来る訳もないのでとりあえず万丈目の部屋を訪れるのが無難と考えた一葉はペラを置いたまま部屋を出る。
「酷いなこれは」
万丈目の部屋のドアにはたくさんの罵詈雑言の紙が貼られていた。大方、プライドの高いブルー寮の生徒が万丈目の追い出しにかかってるのだろうと予想はつくが、大半は中等部から万丈目を嫌っていた連中の仕業ともとれる。
「万丈目、入るぞー。答えも聞かないで勝手に入っちゃうけど」
「オレは誇り……ある、オベリスク・ブルーなんだ……!!」
ドアノブを捻った瞬間に部屋から聞こえる地獄の底冷えするような声。隙間から覗いてみるとそこには目を血走らせながらテーブルで唸って頭を抱える万丈目の姿。昨日の今日なのに顔は酷くやつれて病的なオーラが出まくっている。
そうっと気付かれない様にドアノブを元に戻す。人という生き物はどうやら限りなく極限状態に追い込まれると魔物に匹敵するらしい。
「さーて……何しよう。まだ高等部上がってからあまり友達出来ていなからなあ」
「いつで…も…どきゅん」
「どきゅんの意味が分からないから離れようか」
いつの間にか背後から抱きついてくるペラ。これが普通の女の子だったら百倍は嬉しいだろう。まだ育ち盛りの小さな胸が背中にぶつかるのだから。この幼女の場合は成長しないだろうけれど。と考えていたらムスッとした顔でこちらを見てくるので考えはお見通しなのだろうな。
「兄貴ー!! 待ってくださいッス!!」
「待てるわけねーよ、翔!! 万丈目とはまだ決闘の決着はついてないんだからなっ!!」
デュエルアカデミアを散策していると水色の髪をした気弱そうな少年と茶髪のクセっ毛の強い活発そうな少年がこちらに向かってくる。一葉に戦慄が走る。茶髪の少年からとてつもない力を感じた。そう、これは――運命力。制服を見る限りではレッド寮の生徒らしい。ここで会ったのも何かの縁だ。
「――おい、デュエルしろよ」
小さい頃に見たアニメのキャラのセリフを見様見真似で再現してみる。このセリフは知らない人と友達になれる魔法の言葉らしい。一葉は決め顔で言葉を茶髪の少年に向かって指をびしっと決める。
ほら。それを見た茶髪の少年は嬉しいのか笑みを浮かべる。だが隣の水色の髪の少年は嫌そうな表情を浮かべる。何か不愉快になるようなことを言ったかと内心に思う一葉だが気にしないことにした。
「よし! 決闘者なら相手が誰だろうと挑戦を受けるぜ!!」
「あ、兄貴!! 相手はブルーだし、しかも会話が何かおかしい気がするッス!! それに今はブルーの生徒には目を付けられないよう……」
「ここで断ったら男が廃るぜ!!」
「……チッ。決闘馬鹿が…」
「? 翔、何か言ったか?」
「な、何も言ってないッス!!」
意外と水色の髪の少年は腹黒いことが分かった。人というのはやはり見た目に限らず怖い。舌打ちして地面に唾まで吐いてる。茶髪の少年、後ろを見てみようか。背後に下種がいるぞと言わずに一葉は心の中に留めておく。
「さっきまでデッキ調整をしていたんだ。デュエルアカデミアでの初決闘になるから、お手やわらかに頼むよ」
「おう!! 俺も今日は初の決闘だからなっ!! ワクワクするぜ!! あっ。俺の名前は遊戯十代、よろしくな!!」
「十代か、俺は紅一葉だ。よろしく」
【デュエル】
遊戯十代LP:4000
紅 一葉LP:4000
「…パパ。負け…る」
一葉の制服を引っ張りながら不吉なことを言うペラ。だがいつものことなのでスルーすることにした。先攻はどうやらこちらに決まったようなので決闘盤を構えて真剣な眼差しで十代に視線を向ける。
やはり運命力が高いと直感が告げる。引きたいカードを引ける、悪運が強いとも思えるタイプ。おそらくは世界の補正力なる不可視の力だ。
「俺のターン、ドロー!! カードを一枚セットしてターンエンドだ!!」
まずは無難にどのようなデッキなのか様子見をしよう。このカード一枚で様子見は十分に出来るはず。一葉は笑みを浮かべて十代へと視線を向けると十代も笑みを浮かべ返す。
「俺のターン!!」
十代がドローした瞬間に黄色いフルフェイスのモンスターが見えた。身体に纏わせるエレキは触れる悪を全て痺れさせる。十代のデッキには魔物が宿っているとは思わなかった一葉は楽しそうに十代のデッキに視線を走らせると凄まじい数の魔物のオーラを感じた。
それも全てが邪悪なものではなく、清く正しいオーラ。正義のオーラとでもいうのだろうか。
「これは油断したら……呑まれるな」
「一気に行くぜ!! E・HEROスパークマンを召喚!! さらに手札より融合を発動!! E・HEROバーストレディとE・HEROフェザーマンを手札融合!! 来い、E・HEROフレイム・ウィングマン!!」
【E・HEROスパークマン】
通常モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。
【E・HEROフレイム・ウィングマン】
融合・効果モンスター
星6/風属性/戦士族/攻2100/守1200
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
ソリッドヴィジョンが鮮明に二体のモンスターの姿を映す。悪を倒す正義の味方である戦士達を。身体からエレキを纏わせるモンスター以上に存在感を放つのはフレイム・ウィングマンだ。
赤と緑の融合。炎と風、風が炎の威力を増させて炎は風の力を借りる。融合という仲間の力を借りることによって強くなるモンスター達。
「バトル!! スパークマンでリバースモンスターに攻撃だ!!」
「リバースモンスターは見習い魔術師だ!! 見習い魔術師が戦闘によって破壊された時に効果発動!! 二体目の見習い魔術師を守備表示で特殊召喚!!」
【見習い魔術師】
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻 400/守 800
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
このカードが戦闘によって破壊された場合、
自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を
自分フィールド上にセットする事ができる。
「続きだ!! フレイム・ウィングマンで見習い魔術師に攻撃!! フレイム・ウィングマンは倒したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!!」
「――ッ!! だが二体目の見習い魔術師の効果は発動させてもらう!! 三体目の見習い魔術師を守備表示で特殊召喚!!」
紅 一葉LP4000-400=3600
後攻一ターン目とは思えない展開力。
これが正義の味方の力か。だがこちらもまだ力を見せていない。相手が全力で向かってくるなら、こちらも全力で答えるまでだ。