一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結) 作:A.K
兎は地を蹴った。
月を超え
宇宙を駆ける。
月面都市、その一角。
工業区画から一つの宇宙艦が発進した。
その名『兎は月を見る』、これはたった一つの感謝を届ける為に始まる戦いである。
◆
「束さんお達者で。」
「兎は行ったか。」
見上げ、その様子を見るのは二人。
一夏とマドカだ。
「さて、俺達も俺達でやる事やるか。」
「む?もう少しなにか言うと思ったが言わんのだな。」
「『あとは頼む』って言われたんだ。それに答えなきゃ」
「最近体が変だと言っていたが大丈夫なのか?」
「すこぶる調子が良いんだ。今がやる時なんだろ、行くぞ。」
◆
宇宙に開いた穴。
それは澪が霧崎に完全にとどめを刺すため、全エネルギーを解き放ったものである。そのエネルギー総量は星一つ消し飛ばす程。 だが爆発の威力にしては範囲が狭かった。これは意図的に、確実に消し飛ばす為範囲を設定していた可能性があるがそこは不明である。
だがそれにより宇宙規模の範囲であるが、極めて小さな範囲で星を消し飛ばすエネルギーが集中した事により空間干渉を起こしこの『黒の彼方』が誕生したと思われる。
束は最初これをブラックホール擬き仮説呼称し、現象や性質を調べる為観測測定を開始した。だが調べてみるとブラックホールの様な引力は観測出来なかったが、光は一方通行で反射せずという結果が出た。それ以外は空間湾曲に近い力場が常時発生している事ぐらいで、害毒的要素は特に見当たらなかった。
「OG装甲、OG領域E生成開始。」
最終的に、黒の彼方は一種の特殊な力場であると判断された。そして突入出来るのはOG領域ISのみであるとも解析が出た。
「全エネルギー解放」
「.......OG領域IS『天照』エネルギー上昇開始、Eライン循環接続開始。」
その巨艦と呼べる全長1kmの塊が変形、その中心部に第6のOG領域IS『天照』を展開する束がいる。
「ぐぅあがっっっっっ!!!!!!」
第6のOG領域IS『天照』
それは真・甲龍と同じく造られたOG領域ISである。しかし、この天照は最初からISコアから機体まで全てがOG領域ISとして造られた。故に通常ISコアに施されている制限は撤廃されている。
さらに言えば制限撤廃により時結晶が持つ無限に等しいエネルギーが解放されており、それに合わせて機体出力は搭乗者が耐えれるまで永遠に上がり続ける。故に無限大、それにより本来動かすことが不可能である1kmもの外装巨艦を動かせれる。
「───────ふぅ、……行くよっ!!!!」
天照と連結された巨艦は更に変形し、宇宙に巨大な巫女が誕生する。さらに変化し、各所から光が溢れその表面を覆い尽くす。その光は全て超高密度のシールドエネルギーであり、そのエネルギー値は超新星爆発数回分に達する。
そもそもどうしてここまでの大きさになったのか?
それは黒の彼方を突破する為の纏うエネルギー、それを通常サイズのISやOG領域ISで出すのが現技術で不可能と出たからだ。
澪が最後に見せた姿、アレこそ人が求める最高値である神の域。人と同じ身長で内包する出力やエネルギー限界値が測定不可、確認されたOG領域ISとて測定不可なんて結果は出なかった。
故に束はエネルギー出力設定をとっぱらったOG領域ISを建造し、突破するためのエネルギーを纏える超弩級のマトリョーシカ方式ボディを用意すればいいという答えにたどり着いた。
心臓部たる『天照』、血管たる連結Eライン『天日』、巨艦が変形し身体たる第三外殻『大神』が達する。更に大神が出力解放し光り輝くこの形態、これ即ち『天照大神』である。
「突っっ入ゥ!!」
天照大神になった時、機体はその体のほぼ全てをエネルギーに変え、速度は直ぐに第一宇宙速度を超えて光の世界へ突入する。
光速で移動するため黒の彼方までは数十秒で着く。
「『天大神之剣』」
黒く歪む空間、『黒の彼方』。
それに展開される湾曲空間が外部から中へ侵入を阻んでいる。 そこへ月程なら容易く両断出来るだろう光の巨剣を突き刺し、激しいスパークが走る。だが同時に星が消し飛ぶエネルギーが周りに撒き散らされる。こじ開けられることを拒絶するそれに対し、さらに押し込む。
「こっの、開けぇぇぇぇー!!!!」
黒の彼方、その空間に亀裂が走る。
『前方空間損傷を確認』
「大神爆発突入シークエンス開始!」
亀裂にその両手を触れさせ、天照大神は超新星爆発を起こし消滅。黒の彼方の彎曲フィールドが破壊され道が出来、天照大神その中にいた天照との連結部位周囲が残った天日。最後の力を振り絞り天照を光速で射出する。
人の領域を元からやめてる束、そしてこの為に身体を鍛え天照のスペックに対応出来るようにした。故に光速でも問題なく動けるのだ。
中和され出来た道、黒の彼方からは眩い光が溢れ出ている。こんな現象を束は知らない、しかし迷うこと無く飛び込んだ。
光の海を突き抜けた。
眩い光が突然消え、有り得ない景色がそこに広がっていた。
「夕日、太陽……??
大気に海がある?」
黄昏の空、そして海。
間違いなくこれは地球の環境である。
風も吹いてる。
大気や海の成分も全て地球と同じ。
「アレは?」
沈みゆく夕日の方角、その地平線より少し前。
ハイパーセンサーで拡大すると、誰かが岩に夕日を背に座っている。それでもギリギリ見えるぐらいである。
広大な宇宙活動を想定していたハイパーセンサーの視認能力は数万kmという距離まで視認出来るのだが、この空間はやはり見た目以上に異様な空間である事が分かる。
「君らはれーくんを感じる?」
束はそう語りかけ、そしてそれに答える者がいた。
『居ます。
アレは、あの人は主です。』
かつて澪の機体、そのISコア人格であるノーネームである。ある時いつの間にか束の元にやって来たのだ。かつて数多くのコア人格が居たが今やノーネームを主体とし、己の意思で1つになった。
束がノーネームを今回の為に誘い、天照の補佐として搭載したのだ。
「それじゃあ行こうか」
『……はいっ』
黄昏の空、その下を束は駆ける。
数分の後にその場所に辿り着いた。
「……?」
こちらを不思議そうに見る白髪紫目の少年。
あの、IS学園時代の榊澪だ。変わってるとしたら待とう空気にその容姿、髪からは色素が抜け落ち、紫色に怪しく光るその目。
「貴方達は誰? 」
纏う空気は束が知っている澪そのものだ。
肌を刺すようなその圧は変わりがない、しかしそれは敵と認識したものに対して行われるもの。
「私は篠ノ之束。
君は?」
「私は……誰だろうか。
分からないんだ。いつの間にかここにいたんだ。」
分かっていた。
アレだけの事をやって、消滅したはずの存在が生きていたからまともな状態で会えるなんて奇跡に近いことを。
だが言語能力だけはマトモに働いてる事には安堵した。
「君の名前を知っている。」
「……」
「君の名前は『榊澪』、君のその力は『IS』。
そして、人間という生物種を超えたモノだ。」
「───ああ、その名前は何となく聞き覚えがある。
そうか、そうですか。それが私、榊澪か。
違う、それは私では無い。
思い出したぞ。」
そう言って決戦時に酷似したナニカ、光を纏いながら形状を変えて変身……そう言えるような現象を起こした。変身を終えた澪だったなナニカが放つ圧、それを前に本能が警鐘する。危険だと。
「『RAY』、そういう名前みたいだ。」
うん。これが私だ。」
それは絶対に、奇跡も何も無くどう足掻いても勝てない。そう感じる。本能で分かる。
これは、神だ。人が創りし人造神。
機械仕掛けの神。これが人類がたどり着くべき……否、辿り着いてはならぬ禁忌の領域。
「駄目だよ
それは駄目だよ。
君は誰よりも人間だった。
人間なんだよっ」
束から見て澪は誰よりも人間だった。
感情のままに、本能で、それでも理性を持って。がむしゃらに一つのために足掻いて足掻いた。そうやって最後は全てを火種に変えて死んだ。
─────でも生きていた。しかし、目の前にいるRAYを今一度見て、束自身を含めて人間らしさ……あの輝きを持った人間じゃないと理解する。全てを置きさって階段を登りあがってしまったモノだ。
「ねえ、君らはこれを認めるかい?」
「何を……」
『いいえ。認める訳にはいけません。』
束が、人を模した機械人形を展開する。
「君は?」
『たとえ忘れてしまっても、かつて個々だった私達全員覚えています!!
私達はノーネーム、榊澪……主である貴方の相棒です!!!!!!!!』
それにRAYはなにも反応しなかった。
なにも。反応が無かった。
「君はそこにたどり着いた。
でも、私はそれを認めない。
何もかもを捨て去って、何も持たない無機物になんかさせたくない.......!」
「うん。それで?」
「君は覚えてないけど、私達は……地球に住む人間達は貴方に感謝を伝えたいんだよ。でも来れるのは私だけだからここに来た。
君によって救われたって、君にありがとうっ言いたくて!!でも君じゃない!!」
「だからどうした?
彼は既にどうでもいいと思ってるとおもうよ。」
束のその言葉を聞いてもRAYはだからどうしたという態度をとる。
人の全てを捨て去り誕生した神は人の気持ちを理解しない。そんなモノに成り果てるなど、誰よりも榊澪自身が許さない。そして、澪に感化され救われた束はそれを許さない。そもそも、束は目前の存在が隠す事に苛立ちを覚える。なぜ、隠すのかと。それもある意味想定の一つであり、対処は出来ている。
『だから貴方を誰よりも見続けてきた私達が、私が戻します。』
神を人に降ろすため、人を取り戻すためにここにやってきたのだ。ノーネームはRAYのコアに直接コアネットワークを経由してそれを挿入する。
「なにをしている?」
『私達が観てきた記憶、そして主である榊澪の歩んで来た時間という記録。それをインストールしました。』
そう言った途端RAYの様子が、そしてこの世界そのもの景色が変わる。黄昏の空は暗き夜に、そして大いなる銀の月が昇る。
「確信したよ。
君の中に、まだ残ってるんだろ……榊澪という存在が。」
束が感じた違和感、それが今言ったことだ。
澪が持つ独特の感覚というもの、それを何故か澪では無い存在の内側から溢れるように近く出来たのだ。天災ゆえ理解出来た。
「うん。残ってるよ。そして、君らが持ってきたその榊澪の存在に必要なモノにより意識が本格的に目覚め始めようとしている。
でも彼は悩んでいる。」
『悩んでいる?』
RAYは困ったような顔で続けて言う。
「彼は私になる為、その全てを薪にした。
けど、小粒程度の気持ちで願ってしまったんだ。いや粒子レベル程度の願いだよ。『まだ生きたい』、『皆と歩んでいたい』……その結果がこの意志を持った私だ。」
けどねと、RAYは言う。
「彼は本当に死ぬつもりだった。
どうあれ彼は数多くの命を奪った人類最悪の殺戮者、そう思った上でもう死んだはずの存在が生きていていい訳では無いとしている。
私は彼の意志と尊厳を尊重し、彼の判断が下るまで君らの干渉が及ばないようにしなくてはならない。」
束は直感的にヤバいと思うが、体が動かない。隣にいるノーネームも同様であり、既にRAYは腕を持ち上げている。ゆっくりだが確実にヤバいと二人は理解しているが何も出来ない。何をされるか分からない……万事休すというその時、不思議なことが起こった。
「それはダメだろうよ」
束とノーネームの間、その空間が砕けてISが出てきた。束が知らない未知のIS、だがノーネームは知っている。その者たちの名前を。
「……私?」
「口を閉じろ下郎」
ノーネームが月で世話になったオリジナル、原点の榊澪。その表情は憤怒に染っていた。
「俺という存在が1度赦した者に手を振るうなど、愚行にも程がある。」
「私は君や私のオリジナルとは違うのだが?」
「ぬかせ三下」
澪同士の言葉のやり取り、それと同時に見えない衝撃の乱撃が繰り出される。それから束とノーネームを守りながら二人に声をかける。
「久しぶりだねノーネーム、そしてこの世界では初めまして篠ノ之束博士。俺は……同じ名前だから『原点』とでも呼んでくれ。」
『原点様お久しぶりです』
「ん、もしかして分かってた?」
『何となくですが、予感のような物を感じてましたので。』
「SBの思考性反応反射攻撃機構……未だに完成の目処が無いのにっ
雰囲気は違うけど、やはり君も榊澪なの?」
2人の様子とは違い、束は原点の榊澪から生じる雰囲気や未知の技術に戸惑いを隠せない。
「だからそう言ってるじゃないですか。
俺は榊澪という存在の起点、多次元世界において初めて榊澪という存在として生まれたモノだ。」
「多次元の君とは言えど、ここまで違うものなの……?」
「そういうものだよ。『フィー』、頼むよ。」
そう言うと原点から出た光が女の形を取り、「了解です」と呟くとRAYと原点は衝撃を残して消えた。
◆
「───では聞くけど、なんでこんなことを?」
「これ以上、私は彼の尊厳を奪いたくないのです。
私は彼より生まれ、それ故に彼は私です。」
互いに獲物を手にし、その力を存分に発揮する。
純粋な力だけぶつかり合い、語り合う。
「だからと言ってこうして観測者たる俺を直接介入させるか?」
「傍観者風情、と言った方がいいのでは?」
「必要最低限の手助けにしとかねば、色々とお節介してしまうのでね。それぐらいがいいのさ。」
そう言いながら名も無き剣を振るう原点、その一振だけで空は悲鳴をあげ空間が軋む。
それを回避しRAYが武器を手放し拳を振るう。部位限定多段瞬時加速をしたその拳、音速の一撃は原点に突き刺さった。そして爆散する……RAYの拳が。
「なに訳が分からない様な表情してるんだ?
生まれたての赤子に負ける程俺は弱くないぞ」
いつか到る技術、事象反射機構と呼ばれる発生した事象を反転させる。本来の結果と真逆の結果を出す。D.C.(ディメンションコントロール)機構と呼ばれる神へ至る絶対領域の一つである。
「見た目は10代だが生まれて何万と生き続ける老人だぞ?
お前みたいな奴との戦闘経験は何百何千としている。」
再生阻害はしてないから出来るはずだぞ、そう言っている原点の表情は虚無。
「ほれ、思考制御も反射制御もザルで荒い。」
「成程それならば」
機体がブレる。そしてその全てが違う動作と武器を持ち、同時に全てに同エネルギー反応がある実体。
「超光速による同存在発生現象、まあその程度でどうなることは無いんだが。」
そう言って隕石衝突程度程の衝撃波を体から放ち、それにより本物のRAY以外が消し飛ぶ。
RAYからすれば意味不明過ぎる、摩訶不思議な現象をたたきつけられ一方的に蹂躙された。
「まあこんなもんかね。
領域入りはしたが、まだ次元や事象を操作する術が無い。生まれたばっかだから」
水面に叩きつけられ、原点を見上げるRAYの表情……初めて感情らしい表情を見せていた。忌々しいように、憎しみを抱いた表情だ。
「……もう一度問います。これ程の力を持ちながら、何故傍観者を気取るのです?」
「俺と言う異物、俺という個は巨大過ぎるんだよ。
そこにあるだけだ変えてしまう、影響を与えてしまう……だからこそその立場になりその世界ごとの『俺』に転換期が来たら接触して来た。進化を促す翡翠の光のように。」
信じ過ぎると虚無ったりヤバい艦隊に合流した己の内の一人の姿、最後何故か作風が変わってるように見えて流石にああはなりたくないという感想は出たが。
「そこまでの力を持つ貴方が介入していれば数多くの命が救われ、無駄に命をちらすことなど無かっただろうに。そうか、これが罪ですか。貴方のその考え、それにより罪は加速し、増やしていく。」
「罪?何を……?」
「彼を守り通す。
貴方の罪を、彼が生んだ罪は私が救わねばならない!」
バキリ
そんな何かが碎ける音が響く。
「おい、てめぇそれでもアイツから生まれたのか?
罪?救う?何ふざけてんの?アイツはそんな弱いのか?」
榊澪、その性はどんな逆境だろうが前へ進む反骨精神。その原点たるこの男にとって、導いて見送って来た数々の己らを貶す地雷。RAYはそれを踏んだ。
原点たるこの男は様々な世界を見た。この世界の榊澪も抗って抗って、我武者羅に生きてきた。RAYは澪の心境を言ったがそれはあくまでもRAYが話した事だ。それが本当だとしても、人は変わる生き物である。可能性の生物だ。それを本人でも無いのに一方的に否定し、可能性を閉ざす。それは『榊澪』という存在に対しての否定だ。それは許されない事だ。
「アイツを見て、アイツから誕生したてめぇがアイツを弱いと決めつけてるなんてよ.......それこそ最大の屈辱にして尊厳の冒涜なんだよ。」
ほぼ転移と呼べる速さでRAYを殴り付け、遥か空の彼方へ蹴り上げる。それを追い掛けるように膨大なエネルギーを放ち、空気を喰い破り超絶なエネルギーによるプラズマが飛び散る中吹き飛び続けるRAYを追い越した。
それは最早天に昇る稲妻。
「疑似宇宙現象武装起動」
束達をフィーが移動させたのを確認し安全確保確認をし、脚部にエネルギーを溜め込んだ。そしてすぐ様蹴り当て解き放つ。
「その意識を蹴り飛ばす」
それを敢えて言うなら青白く輝く流星。
この世界線の近しい世界にて、今から数百年先に開発される疑似宇宙現象再現武装『メテオカノン』と呼ばれる脚部搭載武器。それは宇宙に起きる現象を再現し武器として扱う、人類の叡智の結晶の一つだ。その威力、直径数kmの隕石なら軽く砕ける程でありそれをRAYに直撃させたのだ。
「があぁあァァァァ!!!!????」
メテオカノン、隕石の衝突をモデルにしてるがそれをたった一度の蹴りに込めてる。その為炸裂した際に超弩級のエネルギーが発生、蹴り終えるまで地球上では考えられない程のプラズマと衝撃が絶えず襲い掛かる。
無論、澪の身体がこれに耐えれるのは原点の彼は理解している。しかし、RAYはまだそれを理解せず、痛みと情報の宇宙を前に何も出来ない。
「が、ガガガガゴガ」
意識がプツリと消えた。
◆
「凄い、原点くん……彼の始まりだけはある。」
「当然です。あの人は見た目はあんなですが、万年を生きてるのです。蓄えた知識、持つ技術は誰よりも持っています。」
「万年!?」
「驚いてる暇は有りませんよ博士。
今、主が彼……『RAY』のコア深層プロテクトを解除しました。」
そう言ってフィーは光で出来た扉を展開する。
「これですか?
コアの深層領域へ行く為のものです」
「へぇあ!?こんな簡単に行けるようなものなの!?束さんだってまだ結構なフィルター越しで突入出来るってレベルなのに!?危険だけど生身で行けるの!?」
「とある世界線で特殊な粒子機関を扱う者が居て、そこから伝わった技術により可能となったのがこれです。」
束は様々な世界を渡って来ただけはあると考え、創る者として非常に気になる所。しかし今はやるべき事がある。
「ある意味裏技のようなものです。何時までもうだうだしてると彼による妨害がはいりそうなのでとっとと行きますよ。入る時はISを解いて下さい。さあ、私に続いて。」
そう言ってフィーは光の扉を開け、中へ入る3人。
眩い光を超え、数秒もしない内にソコへ着いた。
「何これ?」
束は目前の光景に狼狽える事しか出来なかった。
その光景、水平の彼方まで血の海。虚空より流れ落ちる血の滝……一面の血の獄。
「.......っ。失礼」
フィーが束に触れると天照が自動的に展開され「意識を強く保って」と、続けて言われる。
「これは超汚染深層領域、この世界のISには起きていない現象です。貴女の天照なら纏っている間は精神が安定する。」
これは澪が持つ罪の形だ、そうフィーは言う。
罪の形は人それぞれで違う。澪の場合その形が形の無い血液になった。そして膨大に認識した罪の数がこの環境をつくりあげた。
「彼は敵対してきた者たちの未来を、殺して奪ったことも無意識的に罪としてカウントしてた。融合存在故に持つ超外的記憶力が、罪の意識を重ねるキッカケになってしまった。」
続けて言う。彼のこの罪の認識はズレている。認識の違いが更なる負荷になっている。そう言って指差す方角に束は目を向け、血で出来た無数の剣に頭部以外を隙間無く貫かれた澪を見た。
「普通の人だって人を一人殺せばとてつもない罪の重さを自覚し、自分を追い込み果ては自殺行為に走る。
破壊の英雄と言われた彼、個人で歴史上で最も人を戦争とは言え殺して来た。彼も人の子、その心は?復讐の為に生きて来ましたが、やってる事は悪であると認識し続けている。」
『英雄だから正義では無い。
正義であるから悪ではないという事は無い。
主はソレがどうあれ悪だと、罪だと認識していた。』
◆
──────何しに来た。
血染めの世界に男の声が響く。
「れーくん!」
『主!』
──────世界を閉じる。そうすればもうあの世界に俺は戻らずに済む。
「何言ってるの!?君は生きたいと願ったんでしょ!?」
──────死んだ奴が喋っちゃ駄目なんだよ。
澪の言葉は嘆きの叫びに近いものだと、この場にいる者は感じた。死人に口なし、だが澪は今ここに生きている。
「でも君は生きているじゃないか!
どうしてそこまで死のうとするの!?」
────復讐の為に生きてきた。だが、もう終えてしまった。燃え尽きたんだよ。燃え尽きた灰にもう火は灯せない。
「だからって、せっかく生き延びたのにっ
また歩める事が出来るというのに放棄するの!?」
────俺の存在はもうあの世界には手が余る。それは、この領域に至った.......確かOG領域ISか。それらでも比較出来ないんだろ、俺は。
その通りだった。
現在の地球圏にあるOG領域IS、今ここにある『天照』を除けば『夏の思い出』・『天椿』・『真・甲龍』の3機である。OG領域IS2機に準OG領域IS1機、その中でも天椿は澪の力を借りている。だがしかし、それでも澪と同じ領域までは辿り着けなかった。 束の『天照大神』の肉体が耐えれる稼働可能域まで達して漸くかという所なのだ。
天照大神の大きさ、そして人間が耐えれる領域を幾つも超えて漸くレベル。正直束はこの結果にたどり着いた時、澪と霧崎の決戦による被害があれだけで済んだのはまさに奇跡だと思った程である。もう一度行った場合、数秒もしない内に地球そのものへ致命的ダメージが入ると思われる。
澪の機体に関する情報公開は封じられているが、その他OG領域ISについては公表を義務つけられている。その中に現OG領域ISでも澪には届かないと記入しており、そのため地球圏に降りればどうなるのか分からない。
────俺の予想が正しければ、俺が動けば地球圏全体が緊急事態になる程の事になる。いくら時代が動こうが、特定の巨大国家は間違いなく矛を向けるだろう。
それも間違いでは無い。世界は良くなったが、未だにアメリカをはじめとする中国やロシアと言ったIS大戦後も健在である国家。それらは未だに軍事力を求め、特に中国はIS大戦後何度もIS開発において不祥事を起こしている。他国のIS技術や機体データを盗み、一歩間違えたら大惨事を引き起こす事を絶えず行っている。 澪が戻ったら中国は間違いなく何が何でも鹵獲しようと動き、そういう事をしたら澪は間違いなく破壊尽くす。
アメリカは澪と関わった亡国所属パイロットを経由し、ロシアは国内にて行われた戦闘とその映像から手を出したらどうなるのか理解している。その為矛を向けるのは中国だけだが、今の澪が地球圏で戦闘を行ったら大陸一つ焦土に返すのは容易い事だ。
────俺は霧崎の奴を殺せれば良かったんだ。だからなんだって贄にし、力を求め、この手から欲したものと大切なものを零した。
「私にああ言ったのに?」
────そうだ。俺は1秒でも早く消えるべきだし、そうしないと俺から生まれたアレが余計な事をするだろう。
「.......巫山戯んなよ」
◆
私は今、人生において1番ブチ切れていると思う。
「なんなんだよ君は!!!!」
「っ!?解いてはいけません!!」
天照を解き、気持ち悪さと罪の血が襲い掛かるがなりふり構わず目の前にいる澪に近付く。
────何やってんだ
「五月蝿い!!!!
さっきから聞いてればなんだよ君は!!!!
出ること言うこと全て他人の事じゃないか!?
私が聞いてるのは君の事だよ!?分かる!?」
何言っても自分の気持ちを何一つ言いやしない。他人の心配ばかりして自分の心を押し殺し、本心を露にしない。
「そもそも私がここに来たのだって、君に感謝を言いたくてきたんだ!ココに来れない地球に住む君に感謝している人々全ての代表として、全てを届けるためにここに来たっ」
────そんな事の為にもう戻れないマネまでしてここに来たのか??
「そんな事?君にとってはそうかも知れないけど、君によって救われた人々にとっては違うんだよ。
私だってその1人なんだよっ!?君があの時言ってくれた言葉が、どれ程私にとって重要で救いになったのか!私の人生に意味を与えてくれたのか!」
────.......
「あの頃の君はもう後ろを見る事も、他人の事を見ることも辞めたから分からないだろうね!!
だから受け取ってよ私達の想いを!!!」
そう言うと天照の右腕が輝く。
私の拳が向かう先は一つ。
────うごっ
れー君の左頬に拳が直撃した。
次回予告
人類は負の歴史である。
いつもそこに、隣にそれが付きまとう。
しかし、同時に愛と希望の歴史である。
何時の時代も願いを込め、人を好きになり愛を宿して祝福を込めて未来へ望みを託して歴史は前へ進んだ。
人は何時だって変われるのだ。
何が原因で変わるのかは分からない。
だからこそ、その時は来る。
下を向いたって。
絶望に沈んでも。
突然這い上がる瞬間が訪れる。
「さあ手を伸ばして」
「描いて、君の物語を。」
次回予告=覚醒の時=