宇宙戦艦ヤマト0章   作:アルテミス2012

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いにしえの艦隊

 西暦2197年2月1日、国連宇宙軍総省では人事異動が行われ、各部署は少々混乱していた。新人事は総省長官は極東管区行政長官と兼任する藤堂平九郎、地球艦隊総司令長官に沖田十三大将、火星宙域までの空間防御総司令長官に土方竜大将、参謀本部長に田中虎鉄がそれぞれ就任した。

 大佐に就任した古代は沖田総指令長官に呼ばれ事務室に入った。

「古代大佐、入ります。」

古代は部屋にはいり敬礼をして、沖田にうながされソファーに座った。

「古代、前回の闘いは見事だった!国連宇宙軍総省が手放さないはずだ。」

「総司令長官、ありがとうございます。私も沖田・土方提督の用兵術を身を持て勉強させていただきました。先日の戦術会議のご無礼をどうかお許しください。」

「かまわん。実は今日呼んだのは他でもない。貴官に極秘命令を受けてもらうためだ。」

「極秘ですか?」

「うむ。貴官はこのまま九州鹿児島指令区に飛んで、真田大佐と同行すること。

これが命令である。」

古代は沖田の真意を理解できない様子だが上官の命令は絶対なので、そのまま受けた。

「それとこれを貴官にわたす。出張中見ておくように。以上だ。」

沖田は古代に記録媒体をわたした。そこには何が入っているのか検討もつかいない。しかし重要なものであることは確かだった。

 古代は沖田の執務室を出たあと参謀本部にいる牧野大佐の執務室によった。

「忙しいか?牧野。」

「おう!古代!昨日付けで参謀本部戦略・戦術部の作戦専任参謀に任命されて大忙しだよ。」

「そうか!お前は作戦立案が得意だらな。いま沖田総司令長官に呼ばれて、九州鹿児島指令区に飛ばされたよ。」

「ええ!マジかよ?俺はてっきりお前が極東艦隊の司令官に着任すると思っていたぜ?」

「軍人であるいじょう、命令は絶対だからな。」

「そうか!しかしお前の評価はかなり高いはずだが?」

「反抗心旺盛な部下はいつの時代でも嫌われるものだよ。出る杭は打たれるってな。」

「いや、古代、それは違うぞ。昨日、総省に辞令を受け取りに行った時、土方大将と偶然に会ってな。その時、土方・沖田両大将はお前を次期地球艦隊の司令官に任命することを決定していると言ってたぞ?」

「それはお前の聞き違いだろうよ。ただ極秘命令をうけた。」

「なに?それを早く言えよ!」

「すまん。宇宙軍総省は何か極秘のプロジェクトを進行させているはずだ。お前、参謀本部付きになったんだから探ってくれよ。」

「いくらお前の頼みでも、これは難しいぞ。」

「たしかにな!じゃ俺はもう行くよ!」

「ああ。いつ帰ってくるんだ?」

「さあ?行ってみないとわからん。ともかく連絡はいれるよ」

「わかった。気をつけてな!」

「ありがとう。お前も仕事に殺されるなよ。軍人だからシャレにならないからな。」

 古代は牧野に別れをつげて宇宙軍の定期便が発着する空港に向かう途中、自宅に立ち寄った。そこには国連宇宙軍高等学部を卒業した弟の進が待っていた。

「兄さん、お帰り!」

「進も帰ってたのか?」

「うん!ところで出張?」

「ああ!九州だ!」

「そっか。兄さんも忙しいね。」

「まあな、宇宙軍は今や人手不足だからな。」

「ところで兄さん話があるんだ。」

「仕官大学の進学か?おれは反対だぞ!」

「うん、だけど人手不足なんでしょ?俺も兄さんみたいに宇宙に出てみたいんだ!」

「進、戦争なんかろくなもんじゃない。お前は軍人にならず別の道を歩むべきだと思うが?」

「兄さんだって軍人じゃないか?俺たちの両親を殺したやつらと戦いたいんだ!」

弟の進は高等学部を主席で卒業し、人手不足の民間企業からヘッドハンティングを受けていた。しかし兄と同じように軍人の志を強く持っていた。この古代進が近未来において地球の英雄になることは、この時点で誰も予想はできなかった。

「進がそこまで言うなら仕方無いな。わかったよ、仕官大学に行け。そのかわり卒業するまで頑張れよ。仕官大学は高等学部と比べようもなく厳しいぞ!」

「ありがとう。兄さん!」

 古代は自宅をあとにして、空港に到着した。定期便の発進まで一時間近くあったので沖田から渡された記録媒体を宇宙軍仕官専用のパソコンで見ようと電源を入れた時、緊急警報が鳴り響いた。

「緊急警報、緊急警報!現在、冥王星から発射された遊星ミサイル10基がコリジョンコースの軌道にのって地球に進行中!総員防御システム体制に入れ!」

古代はパソコンと記録媒体をカバンの中に押し込み、シェルターに入っていった。

「くそ!10基とは大量に送り込んできたな。艦隊戦で負けたからロングレンジ爆撃に変更したか?」古代は防衛軍総省に連絡をとろうとしたが、逆に土方から古代に連絡が入った。

「こちら土方だ。今どこにいる?」

「はい!横田空港です。」

「そっか。貴官はそのまま戦闘機に乗り、空間防衛隊と合流せよ。」

「了解しました。沖田総司令長官の命令はどうしますか?」

「私の方から伝えておく!甲格納庫に戦闘機が配備されているから急げ!」

「はい!」

古代はすぐさま横田空港の甲格納庫に出向き、戦闘服に着替えスクランブル発進をした。

そのようすを沖田と土方はパネルを通してみていた。

「古代の指揮官耐久テストか?」

「ああ、若い世代に引き継がなければならないからな。どれだけ冷静に判断できるか?だ。」

「さすが土方、厳しいな。」

「そんなことは無いさ。俺たちの世代の方が厳しかったじゃないか?それにどうやら国連宇宙軍仕官大学の学長の兼務発令をうけそうだ!」

「ほんとうか?人手不足も深刻だな。さきの大戦で高級仕官が相当数戦死したからな。」

「そうだ。だから古代クラスの幹部候補生を早急に育てなければならない。」

「そうか、空間防御総司令長官と兼務は大変だな。敵は艦隊戦で負けていらいロングレンジ攻撃いシフトしたからな。」

「学長と言っても一日2時間の講義だけで、それに仕官大学と空間防御司令部は歩いていける距離だからな。」

パネルには横田空港から三十機の戦闘機が飛び立っていくのが映っていた。古代大佐の戦闘機は宇宙軍の最新鋭戦闘機で宇宙空間にも対応できるエンジンを備えていた。

 三十機の戦闘機は中国管区から発進した十機の戦闘機と合流し、コリジョンコースの軌道で待機した。古代機率いる最新鋭戦闘機隊は地球圏内を離脱し、一気に月軌道まで達した。

「こちら古代、空間防御総司令長官から全軍の指揮権を命令されている。全機戦闘体制に入ると同時に三日月隊形をとれ!」

「こちらアルファー隊、右に展開します。」

「こちら中国隊、左に展開します。」

「こちらブラボー隊、左い展開します。」

この様子を空間防御司令部で沖田と土方は見ていた。

「三日月かあ。なかなかやるな。」

沖田はあらためて古代の戦術センスの良さを認識した。

「このあと、遊星ミサイルを何発撃墜できるかな?」

土方は三日月では十発のミサイルは打ち落とせないと読んででいた。

 遊星ミサイルは火星軌道を越えていよいよ月軌道に接近してきた。

「近接レーダーに捕捉!全機戦闘開始!」

最新鋭戦闘機軍は接近してきた遊星ミサイルを接近攻撃を行い、見事な連携プレーで一時間で全て破壊した。

「ようし、作戦終了!全機帰還せよ。」

古代機を中心に全機無傷で帰還し、歓呼の嵐で出迎えられた。その足で空間防御司令部に報告しに行った。

「古代大佐入ります。」

「うむ、任務ご苦労であった。」

土方は初めて古代に労をねぎらった。

「ありがとうございます。今後の指示をお願いします。」

沖田は沈着冷静に任務を遂行したことを高く評価した。古代は極東管区の超極秘計画の幹部第一号として認定された。

「古代大佐、・・・」

沖田が次の命令を伝えようとした時、全管区に緊急警報が鳴り響いた。

「緊急警報、緊急警報、火星観測基地より入電、冥王星基地より大量の破壊兵器が打ち出された模様。現在確認作業を急いでいる。」

「こちら空間防衛司令部の土方だ。火星観測基地に告ぐ。速やかにデーターの分析を行え」

「了解しました。」

この警報を聞きつけた、藤堂長官と田中参謀総長が司令部に入ってきた。

「土方君、沖田君、どれくらいの規模なのかね?」

「藤堂長官、敵はどうやらロングレンジ攻撃を本格的に切り替えてきたと推測されます。」

「うむ。私はこれより国連本部で会議がある。沖田君、土方君後を頼む。」

藤堂長官が部屋を出ていこうとした時、火星観測基地から第2報が入った。

「こちら火星観測基地、分析結果を申しあげます。超大型ミサイル20基、恒星間弾道ミサイル35基、遊星ミサイル60基が発射されました。地球到達予定時間はあと297時間後です。」

「了解した。引き続き観測を続けてくれ。」

土方が火星基地に対して引き続きの観測強化を命令した。その後沖田は国連本部に出向く藤堂長官に意見具申をした。

「藤堂長官、例の問題を速やかに解決できるよう心からお願いします。」

「ああ。了解した。ともかく防衛システムを頼む。」

その話を聞いていた古代は秘密プロジェクトの存在を確信したが、内容までは聞けなかった。

「土方長官。極東艦隊の出動許可をお願いします。」

すかさず沖田がそれを拒否した。

「だめだ。極東艦隊は先の大戦で修理が始まったばかりだ。古代大佐。緊急命令である。貴官はただちに九州鹿児島司令部に赴け。」

「はい!緊急命令を謹んでお受けいたします。」

古代は納得のいかない表情を浮かべながら司令室を出た。

「沖田さんや土方さんはなぜ九州鹿児島司令部を重要視しているのだろう?」

そうつぶやきながら再び横田空港から軍輸送機で九州に向かった。

そのころ九州鹿児島司令部では緊急警報を受け、警戒レベルを上げた。

「真田司令官。対空防御システムはいつでも稼働できます。」

「うむ。ところであと30分後い輸送機が到着する。そこに宇宙軍総省から派遣された古代大佐が乗っている。迎えに行ってくれ。」

「了解しました。」

副官が出たあと真田は超極秘資料を出して、目を通していた。軍輸送機が鹿児島に到着し、そのまま司令部に向かった。古代は軍輸送機の中で沖田から渡された記録媒体を見ていた。内容は西暦200年代中国の三国志や1900年代の第一次・第二次世界大戦の記録であり、特に戦術・戦略論が特化していて用兵論に基づく詳細な解説が並べられていた。特に三国志の赤壁の戦いや、日本海大海戦、ミッドウエイー海戦等学ぶべき事が多く、士官学校や大学では教えてもらえてないものばかりである。古代は半分しかみておらず九州滞在中に全て見るつもりである。古代は司令部に到着し、そのまま真田の部屋を訪れた。

「真田、久しぶりだな。お前のおかげで第2次火星沖会戦は負けずに生きて帰ってこれたよ。」

「おお古代、あれが役に立ったか!お前が生きて帰って来てくれただけで嬉しいよ。」

「ありがとう!ところで沖田長官から極秘命令で来たんだが・・・」

「そうか!それは後でゆっくり説明するから、対空戦闘を手伝ってくれないか?」

「わかった。じゃ司令室に行こう!」

古代と真田は司令室に入り状況を確認した。

「敵攻撃目標の計算は出たか?」

「はい、極東管区は10基の遊星ミサイルが着弾します。」

「よし、総員迎撃準備、αミサイルを装填せよ。」

真田が総員に命令を下した。そして古代は真田に戦闘機の準備が整っているかを尋ねた。

「真田、俺が戦闘機に乗り迎撃をする。」

「だめだ。敵の長距離ミサイルは最新鋭で、戦闘機の火力では歯が立たない。」

「対空防御システムだけでは守れんぞ!」

少し間をおいて真田が出撃の許可を出した。

「よし、お前に最新鋭戦闘機の試験飛行を兼ねて貸してやる。ただし、搭載するミサイルは超小型レーザー水爆ミサイルだ。取り扱いを間違えると大変な犠牲を起こす!」

「わかった。借りるぜ!」

古代が測定班に正確な位置を出すよう指示した。

「古代大佐、あと200時間後に月軌道を通過します。データーを送信しておきます。」

「よし!緊急発進だ!」

「古代、この5人を連れて行け。」

真田は士官学校を卒業したばかりと思える5人を連れていくよう指示した。

「おいおい、こいつらまだ訓練生だろ?飛行訓練をまともに受けてないだろう?」

真田はすかさず反論した。

「この5人は先月、宇宙軍高等部飛行科を優秀な成績で一年早く卒業して、ここで毎日訓練を受けている。お前の弟お進君と同期だ。連れて行って損はない。」

「なるほど、飛行科は特殊で飛び級が認められているからな。それだけ優秀だってことか?」

古代は整列している5人の前に進んだ。

「俺は古代大佐だ。これからお前らの訓練の成果をみてやる。いいか!実戦は訓練と比べものならんぞ!俺はお前らが窮地に立たされても助けん。自分の命は自分の腕と操縦で守れ!一時間後に甲格納庫に集合!怖気づいたやつはたった今辞表を提出しろ。わかったか?」

「はい!了解しました。」

全員敬礼して解散した。

「少し厳しすぎやしないか?」

真田が若い戦闘員を思いやり抗議をした。

「ふん、それくらいの覚悟がなければ、あの巨大な敵に立ち向かえない。ところで各管区の防御システムも正常に作動しているのか?」

「おそらく大丈夫だろう!ただ中国、ロシアはわからない。」

「そうか!ともかく極東管区に直撃する10基は破壊してくる!」

そう言って古代は司令室を出て甲格納庫にむかった。

 

 そのころ国連本部では緊急の首脳会議が開かれていた。この会議では、計画変更の懸案を延々に話しあっていた。

「極東管区の提案はあまりにもリスクが多すぎる。計画変更を認めない。」

中国管区行政長官江 民萬は不快感たっぷりに発言した。

「江長官の発言に私も賛成だ。種の保存は未来の地球にとって当然なすべきこと。ノアの方舟作戦を遂行すべし。」

北米管区行政長官マイロンタワーは中国を支持した。しかし、EU・東南アジア、オーストラリア、南アフリカの管区行政長官は極東の計画変更を支持した。

「北米と中国の発言は正論である。ノアの箱舟神話は洪水が終了したあと地球に住めた。しかし今回は地球を脱出したあと、あての無い旅が続く。移住先の惑星が見つかっていない段階では無謀すぎる。」

「ほぉ、オーストラリアは先の火星沖会戦で極東艦隊に救われたからな。その恩返しというわけか?」

江行政長官は皮肉たっぷりに批判した。

「まあ、皆さん。各行政区代表の意見は理解できました。この超極秘計画は国連預かりということでどうでしょうか?」

北米と中国は反論せず黙っていたが、他の行政区は賛成した。

その時藤堂と事務総長のところにメモが渡された。

「各行政区長官の皆さん。ただ今、宇宙軍総省から緊急連絡が入りました。敵のミサイルが土星を通過、その数120基以上で過去に例のない規模のロングレンジ攻撃を行ってきました。」

事務総長の緊迫した報告に会場はどよめきと悲鳴があがった。

「藤堂長官!指示をお願いしたい。」

「皆さん、宇宙軍総省は各管区に非常攻撃態勢を発動します。対空防御システムの即時稼働>各管区行政長官は現場に帰っていただき各管区司令部の司令に基づき行政処理をしていただきたい。」

国連事務総長と宇宙軍総省長官の指示で各管区の行政長官は全員急いで帰っていった。その後、藤堂と事務総長は事務総長執務室で今後の対応を協議した。

「事務総長。この新計画は70%も進んでいます。あと戻りはできません。北米と中国は極東からの提案という一点だけで反対しているのです。事務総長権限でこの新計画を進めていただきたい。」

「わかった。権限を使い新計画を進める。」

「お願いします。国連宇宙軍の解体再編の件も同時並行でお願いします。」

「その件は大丈夫だ。しかし藤堂君今さらだが、本当に信頼できるのかね?」

「沖田、土方両長官は全面的に信じています。私も信じています。」

「わかった。新計画の責任者は君だ。全力で取り組んでくれ。」

「ありがとうございます。」

そう言って藤堂は極東管区に向かった。そのあと、事務次長はのパウエル(北米)が入ってきた。

「事務総長、中国・北米以外の行政長官の意見は正しいと思います。どうか非常時大権を発動し新計画へのスムーズな変更をしてください。」

「なるほど、それで軍部独裁政権を作ろうというのかね?」

「なぜ非常時大権が軍部独裁政権になるのか?私には理解できません。」

「うむ。非常時大権はシビリアンコントロールを無効とし、最高権力者即ち国連事務総長が軍を統括する。その時に何が起きるか?全ては歴史が証明している。私は非常時大権の条項をむしろ削除し、軍部を完全に独立させて軍お最高責任者は事務総長の代理人としたほうが、職務を遂行するうえで効率的であると考える。今のシステムは軍の行動に対して議会の承認を得ないと動けないこととなっている。このような状態の時に非常時大権を使うのは得策だが、歴代の事務総長が非常時大権を封印してきたのはその矛盾を感じていいたからだ。」

「軍部の独立ですか?その方がもっと危険ではありませんか?軍部が暴走しかねません。」

「次長、13日戦争から150年以上も経っているのに、また大国主義が勃興している。次長の出身国である北米や中国、ロシアは新国際連合の建国の初心を忘れているようだ。私の任期はあと2年。次の世代も地球ですごせるようにすることが私の仕事だ。」

事務象徴は落ち着いていたが、その言葉は力強く、パウエルに反論する余地を与えなかった。

「パウエル君、現時点をもってCプランを発動する。」

パウエル次長は事務総長の顔を凝視したまま、無言だった。

藤堂と田中は特別専用機の中で「プランC」の発動を知った。

「田中君、いよいよ本当の非常事態宣言を事務総長が発動した。大至急、軍の再編・解体案をまとめてくれ。極東に帰ったら緊急の軍務会議を開催する。」

「わかりました。早速手配します。」

田中はコントロール通信室に向かった。藤堂はすでにこれから起きる人類の未来について思いを馳せていた。たしかに専用機の下にある光景は海ではなく干上がった海底である。元の地球に戻す計画は本当に信用できるのか?藤堂にはまだ迷いがある。

 特別専用機は横田基地に入り、そのまま宇宙軍総省の会議室に入った。そこには連絡を受けた将官級の幹部がそろっていた。藤堂と田中は着席しタブレット端末を操作した。

「諸君、忙しいところ緊急に集まってもらったのは、国連事務総長が緊急非常事態宣言「プランC」を発動した。」

幹部全員が動揺を隠せず驚いた表情を浮かべていたが、沖田と土方だけは目を閉じて腕を組んだままだった。藤堂は全員の顔を見まわし引き続き発言した。

「したがってこの会議を終了後、速やかに組織の改編を行う。概要は田中軍務長が今、全員のタブレット端末に送った。この内容について議論してもらいたい。」

10分経っても沈黙が続き重い空気がはりつめていた。それを察知した土方が質問をした。

「国連事務総長の真意はいったいどこにあるのか?この内容によれば軍のトップは事務総長の代理人として軍の全権を掌握するとなっている。国連と軍を切り離すことによってデメリットが多く生じてくるのではないか?」

これに対して田中軍務長は

「今までは軍事行動や軍予算など、全てが国連安保委員会の承認を得なければならなかった。しかし今度は事務総長の決済だけで済む。そのためにも最高評議会と評議会を設置し、国連のチェック機関は残るので軍部と国連の切り離しでは無いという見解である。」

「なるほど、安保委員会の承認を無くすだけでも軍事行動は特段に早くなる。最高評議会のメンバーはどのような構成になるのか?」

この問いに対しては藤堂が答えた。

「最高評議会は国連事務総長、地球防衛軍長官、地球防衛軍参謀総長、地球艦隊総司令長官、地球防衛軍空間防衛総司令長官の5名である。また、評議会は国連事務総長を除く4名である。最高評議会は全ての最高決定機関であり、作戦立案や、軍務関係は評議会で決定し最高評議会に提案する形となる。」

幹部全員が納得したように首を縦に振った。しかし何故国連宇宙軍から地球防衛軍に組織改編するのが480時間後なのかは誰も質問はしなかった。それはここに集まった最高幹部の誰もが「プランC」の本当の目的を知っていたからである。

「わかりました。それではただちに作業に入ります。」

沖田の一言で会議は終了し、各々解散していった。幹部が出ていったあと評議会のメンバーとなる藤堂、田中、沖田、土方は残った。

「藤堂長官、お疲れ様でした。ようやく新計画がスムーズに動きそうです。」

沖田は藤堂に感謝を述べて。

「いや、沖田、土方両長官の熱い思いが伝わり事務総長が決断したのだ。君たちの成果だよ。」

「ありがとうございます。新計画は80%まで完成しています。あとは次の使者の来訪を待つことになります。」

この会話にたいして土方が口をはさんだ。

「次世代の幹部候補生の育成も喫緊の課題です。480時間後の最高評議会の開催を早めてもらえませんか?」

藤堂は非公式な形であるのなら可能であると答えた。4人はその後2時間にわたり新組織への移行問題を話し合っていた。

 新型戦闘機を整備していたのは、古代の地元の先輩で鹿児島司令区技術司令官である赤川中佐であった。

「赤川さん、お久しぶりです。」

「おお、古代、いや失礼しました。古代大佐殿!」

「やめてくださいよ。今は2人だけなんだから古代でいいですよ。」

赤川は恐縮した態度で了解した。

「これが最新鋭の戦闘機ですか?」

「うむ。古代がこの戦闘機のテスト飛行してくれるそうじゃないか?」

「はい、真田にいわれて・・。今までとどう違うんですか?」

赤川は胸を張るような仕草をし、戦闘機のエンジン部分が見えるパネルを開き古代に説明しはじめた。

「この戦闘機は宇宙空間用の戦闘に開発されたものだ。今までの技術とはまったく違う技術が使われている。エンジンを組み立てるのに苦労したよ。」

「そうなんですか。たしかに今まで見たことのない形状してますね。真田が考案したんですか?」

「だと思うんだが、俺も詳しいことは知らない。真田大佐もこのエンジンを組み立てる時には一緒にいてもらったよ。」

「そうですか。どれくらいの飛行距離をなんですか?」

赤川はボディーを叩きながら自慢げに説明した。

「うーむ。この戦闘機は火星までの往復できる。いままでの戦闘機は月基地までが精いっぱいであり、空間防衛の観点からすると月基地に重点配備をしている。その分地上配備は手薄気味だ。この戦闘機は画期的で大量生産される準備も整っている。」

赤川と話し込んでいるうちに背後に訓練生が整列しているのに気がついた。

「ほお、逃げ出したやつはいないな!よし、これから作戦を説明する。」

古代はタブレット端末で迎撃フォーメーションを説明した。それは訓練生にとって初めてのフォーメーションで、しかも取り扱いが非常に難しい新型レーザー水爆ミサイルを使用する。

「いいか!このフォーメーションはオーソドックスだ。基本中の基本だが宇宙空間では全く異なる可能性が大きい。従って臨機応変に対応せよ。何か質問あるか?」

一人の青年士官が一歩前に出て質問した。

「古代大佐、この陣形は理解できました。しかし、これでは極東管区に定められているミサイルしか対応できません。」

「そうだ、全てを迎撃することは不可能だ。空間防衛総司令部の指示は各管区の防衛システムで対応する事としている。したがって、我々はこの陣形でいく」

「納得しかねます。古代大佐、私たちは国連宇宙軍です。全ての力を結集させ迎撃すべきと考えます。」

青年士官は顔を真っ赤にして古代の言葉にかみついた。これにたいし古代はいつになく冷静に対応した。

「貴様の言う事は当然だ。しかし現在の地球にはまともに戦える戦闘機を持っているのは極東とルナシティーだけだ。他の管区の戦闘機や戦艦は使い物にならん。したがって、最大限の迎撃システムを稼働しても全ては破壊できない。」

「そんなに戦力が不足しているのですか?」

横にいたもう一人の青年士官がつぶやいた。

「そうだ。ところで貴様らの名前を教えてもらおうか?」

二人とも名前を名乗るのを忘れていた。最初に質問したのは短髪で精悍な顔をしている「加藤三郎」で次に質問したのは「山本結城」である。

「失礼しました。鹿児島司令区第一飛行隊所属、加藤三郎少尉であります。」

「ほお、貴様が加藤か!貴様の名前は国連宇宙軍にも轟き渡っているぞ!」

古代は皮肉を込めて云った。加藤は士官学校高等部の飛行科で2年の飛び級をした持ち主で、卒業戦闘シュミレーションで歴代最高得点をたたき出した持ち主である。加藤が記録を破る前の最高得点者は古代守で、その当時はこの記録は永遠に破られる事は無いと言われていたが、たった5年で記録を塗り替えられてしまった。

「あ!はい。」

加藤は返答に困り敬礼して下がった。そこに緊急連絡が入った。

「古代大佐!真田司令官から緊急連絡です。」

整備士が急いでコムリンクを渡した。

「古代だ、どうしたか?」

「古代、すまんが至急ルナシティーに向かってくれ。中国ロシア北米が隠し持っていた戦艦を出撃させた。」

「何!?あいつら何を考えているんだ!」

古代は怒りを通り越して呆れてしまった。

「よし、これからルナシティーに向けて緊急発進する。総員準備せよ」

了解しました!」

 

 

その頃国連本部と宇宙軍総省は、中国、ロシア、北米の行動の対応に追われていた。

「事務総長、やはりやつらは移住専用の大戦艦を隠し持っていましたな。」

「うむ、藤堂君の云う通りになった。プランCの発動は人類の未来にとって正しい選択であることが証明された。プランCはそのまま遂行する。」

国連事務総長は藤堂が密かに手配していた保安警備隊に出動命令を出し、各管区の弁務官事務所を押さえた。そしてパウエル次長をも拘禁し、この時点でヤマト計画は正式に発令された。

 この状況を知った田中、沖田、土方は行政長官室に押し掛けた。

「藤堂長官、これはクーデターですか?それとも事務総長の暴走ですか?」

田中は怒りを込めて発言した。田中はヤマト計画には慎重であり、どちらかと言うと移住派であった。

「諸君、本日付けをもってヤマト計画が正式に発令された。プランCは反ヤマト計画派を一掃するのでは無い。この非常事態に国家主義を主張する管区を整理する必要があると考えた。」

沖田と土方は困惑の表情を隠しきれなかった。3分ぐらいの沈黙が続いたあと土方が口を開いた。

「国連は共和政治を捨て、事務総長の独裁政治を確立することですか?」

「土方君、共和政体を破棄したのは北米、中国、ロシアだよ。彼らは大型の武装輸送宇宙船を隠し持っていて逃げだしたのだ。プランCはヤマト計画終了時点で破棄される。この間の非常時大権と思って欲しい。」

その言葉に沖田が反応した。

「なるほど、プランCはヤマト計画を推進するための手段ですか?」

「沖田君、事務総長はヤマト計画に人類の未来を託したのだ。」

「了解しました。これでヤマト計画の進行を早めることができます。私たちは軍の仕事を一段と努力します。藤堂長官は国連とのパイプを一層強めてください。」

沖田は立ち上がり土方と一緒に部屋を出て総合司令センターに向かった。

「何か云いたそうだな。」

「沖田、俺はまだ納得できん。非常時大権はタブーなはず。ヤマト計画を国連安保委員会の承認も無しに発動することに違和感を覚える。」

「俺たちは軍人だ。政治に首を突っ込みすぎると北米や中国の二の舞になってしまう。藤堂長官と事務総長を信じようではないか!」

土方は返答せず前を見つめて黙々と歩いていた。そして二人が司令センターに入った時、副官から20機の飛行隊が緊急発進したことを知らされた。

「飛行隊の目的地はどこか?」

「はい、ルナシティーで次の指示を待つとのことです。」

「次の指示?」

土方は首をかしげた。暴走気味の古代がなぜ次の指示を待つのか。

「沖田、どう思う?」

「訓練生を率いているから無理はしないのだと思うが?」

「そうか?古代らしくないな!」

「まあ、古代もそれだけ成長したのだろう。古代はヤマト計画のリーダー的な役割をしてもらわなければ・・・」

 ルナシティー、それは地球が宇宙にフロンティアを求めた時の前線基地として2112年に建設された。その後、拡張工事が行われ2140年代に月面基地からルナシティーとして行政管区に昇格した。ルナシティーは70%のテラフォーミングが施され、地球と同様の気候を保持していた。西暦2188年、第一次火星沖会戦の最終局面で敵が放った超大型プロトンミサイルがルナシティーを直撃し、75%の破壊を招いてしまった。かろうじて残ったのは北区画だけで国連宇宙軍は北区画に司令センターと観測所を設置した。最高責任者は沖田、土方の後輩である当麻准将である。ルナシティーに到着した古代達は、早速当麻准将を表敬訪問をした。

「古代大佐以下5名は鹿児島司令区を発進し、ただ今到着しました。」

「うむ、ご苦労である。まあーかけたまえ。」

古代と訓練生5人は指示されたソファーに腰掛けた。そして当麻准将から意外な言葉をきいた。

「古代大佐、ルナシティーに駐留している戦闘機50機、戦艦3隻全てを出撃させる。この作戦行動は君が指揮を執りたまえ。」

「私がですか!?」

古代は驚きの表情を隠し切れなかった。

「そうだ。君に指揮を執ってもらいたい。」

古代は2分ほど沈黙したあと口を開いた。

「わかりました。しかしルナシティーには私より階級が上の人がいると思いますが?」

「ああ、いるとも。君は実戦経験豊富で指揮能力が高く、今次の作戦には適任であると私が判断した。不服かな?」

「いいえ、謹んで命令に従います。」

「うむ、早速準備にかかってくれ。」

古代達は敬礼して司令官執務室を出た。その後、当麻は地球の空間防衛司令センターに連絡を入れた。

「こちらルナシティー司令官の当麻である。大至急土方総司令長官につないでくれ。」

この通信を受けた直後に土方と沖田が司令センターに入ってきた。

「土方だ。何かあったか?」

「土方長官、お久しぶりです。ルナシティー司令部は敵のロングレンジ攻撃に対して、全艦出動する事を決定しました。承諾をお願いします。」

「うむ。全艦出動するにあたって基地全体の防衛システムは正常なのか?」

「はい。万全です。」

「当麻准将なら安心だな。とこれで攻撃隊の指揮官は誰か?」

「古代大佐です。」

「ほお。貴官も思い切った判断をしたな。」

「土方長官や沖田長官ほどではありません。」

当麻は土方、沖田の構想を理解していた。

「わかった。全力で取り組んでくれ。」

「はい。ところで逃亡した北米、中国、ロシアの船が攻撃を受けたらどう対処しますか?」

当麻は防衛行動には消極的な考えであったが、この件にかんしては軍独自の判断は困難であると思っていた。

「逃亡船の件にかんしては、国連の判断となるから藤堂長官に判断に委ねる。」

「了解しました。それでは作戦行動に移ります。」

「うむ、頼んだぞ。」

ルナシティーからの通信が終了したあと、土方は中央のパネルに目をやった。そこにはロングレンジ攻撃のミサイル、北米、中国、ロシアの逃亡船、そしてルナシティーの戦術板が写っていた。土方は中央の司令長官デスクに上がっていく時に「当麻の判断は正しいがルナシティーの司令官である以上、もう少し独断性を持っても良いと思った。」

 

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