フェイル   作:フクブチョー

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第十罪 感謝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しイライラしながら店のドアに背を預ける。クラムの料金を払うと、ファンの体格に合わせるための微調整をするとの事で少し時間が出来た為、アレックスの店を出た後、タエの買い物に付き合わされる事になった。

目的は単なる買い物。ファンにクラムを贈ってやり、チェルシーにはナイフを贈った。自分だけ何もない事にヘソを曲げたタエコに何か買ってやる約束をしてやったのだ。

アレックスの店はほぼ武器専門であった為、雑貨類は置いていない。アクセサリーが幾つかあったけどゴテゴテしていてはっきり言って趣味が悪い品ばかりだった。

ロープやスリングが欲しかった俺はしばらく商業地区を歩く事にし、その間にタエコに買ってほしい物を決めろと言い置いた。旅の雑貨を揃え、とある物を購入し、あらかじめ決めておいた集合場所でタエコ達を待った。が、一向に来ない。

痺れを切らしたフェイルは探しに出る。女三人揃うと姦しいというのはよく言った物で騒がしい女の集団は目立っていた為すぐに見つかった。驚いた事に普段口数の少ないファンやタエコまで頬を紅潮させ、アクセサリーを見ている。

 

声を掛けようかとも思ったが、珍しい楽しそうな彼女らの表情に自然と心が暖かくなり、もう少し待ってやる事にした。

 

………………そんな優しさを見せたのが間違いだった。

 

軽く半刻は経ったがまだ決まらない。エディの買い物はそこまで長くなかった。戦闘以外に興味が低かったからか、それとも同行している俺が素っ気なかったからか、今となっては真実はわからない。見積もりが甘かったのは否定できない。我慢していたが遂に声をかける。

 

「タエ、まだ決まらないのか」

 

「ッ……師父。いつからそこに?」

 

俺の気配に気づかなかった事に驚いたのだろう。この女にしては珍しく動揺を表情に見せて狼狽える。

いつまでもヴァリウスと呼ばせるわけにはいかないのでほかの呼び方をしろと命令したところ、師父に落ち着いた。響きは悪くないので気に入っている。

 

「半刻程前だ。いい加減戻らねえとババラと入れ違いになる。まだ決められねえってんなら俺が決めるぞ」

 

「はい!是非お願いします!」

 

ガバッと俺の手を掴んで見上げてくる。なんだ、こんな事ならサッサと声かければ良かった。

 

「え〜〜!タエコずる〜!」

 

「………………抜けがけ」

 

「違う、機を見るに敏と言って欲しい」

 

「お前らにはもう買ってやっただろう。また今度だ今度」

 

雑貨屋に入り、アクセサリーを見る。イヤリングやペンダントなど色々あるがどれも戦闘で邪魔になりそうだ。食指が動く品はあまりない。

 

ーーーーん?

 

紅い石があしらわれている鉄の棒が目に入る。簡素だが美しい。何かよくわからないので手に取った。

 

「コレは……カンザシ?聞いた事ない名前だな」

 

「師父。それは東方の髪留めだよ」

 

「ほう、お前の故郷の品か。誰に聞いた?」

 

捨て子だったタエコにはアクセサリーの知識など皆無だったはずだ。ババラが教えたとも思えん。もちろん俺も教えてない。

 

「チサトが前に教えてくれた。女が付けるアクセサリーだって」

 

なるほど納得した。改めてカンザシを見てみる。

紅い石は何かの華を模している物らしい。髪留めならば戦闘にも邪魔にはなるまい。

 

店主に渡し購入する。値切って銅貨2枚で済ませた。半泣きだったが構う事はない。この手の雑貨屋は値切ってナンボだ。

 

「ホラ、大事に使えよ」

 

手渡したが、受け取らない。訝しげにタエコを見ると縛っていた髪を下ろし、俺に背を向けた。

 

「畏れ多いけど……師父が縛ってくれないか?」

 

「構わんがお前、色気づいたな」

 

苦笑しつつ長い黒髪をかきあげ、纏めてやる。その時何度かうなじに手が触れる。頬を染めて"んっ”と悩ましげな声をあげる姿が色っぽい。

そのまま慣れた手つきで髪を編み込み、カンザシを差す。カンザシを使って髪を作ったのは初だけど、女の髪の手入れをしてやった事はガキの頃含め、数え切れないほどある。エディやチサトなど俺が抱く女にはなぜかロングが多い。まあどちらかというと俺の好みがロングなのもあるのだろう。一夜を過ごした後、乱れた髪を手入れしてやるのはいつも俺の役目だった。

 

「よし、こんなモンだろ」

 

セットした髪が崩れないように軽く頭をはたく。タエコがサッと俺に向き直る。

思わずほう、と息を吐いた。

濡羽色に僅かに見える銀と紅がよく映える。アップに纏めた髪も良く合っている。首から上だけ見ればまるで高貴な身分の御姫様(おひいさま)のようだ。髪一つで女は化けるな、と改めて実感した。

 

「いいじゃないか。綺麗だぞ。黒には銀と緋がよく似合う」

 

「ありがとう、師父」

 

頬を紅らめ、俯く愛弟子が可愛い。頭を撫でてやると腰のあたりに衝撃が来る。目の端に茶色が翳ったのは気づいていた。

 

「先生!次は私もだからね!私リボン欲しいな〜〜!」

 

「………いいなぁ」

 

ファンはタエコを羨むというより、俺に抱きつくチェルシーに向けて羨望の瞳を向ける。ファンはここまで素直に自分の気持ちを表す事が出来ない。良くも悪くもファンは奥ゆかしい。欲が無いと言った方がいいだろうか?

 

ーーーーチェルシーくらいにはあってもいいんだけどな。

 

無能の欲深ほど面倒な物もないが有能の無欲もまた厄介だ。対価を求めない人間は二心を疑われる。欲は人生の薬味のような物なのだ。多すぎると食えた物ではないが、適量であれば人生(料理)を素晴らしく味付ける。

 

「戻るか……」

 

買った雑貨を纏めて、背中に背負う。抱きついていたチェルシーを引っぺがし、ファンへと視線をやる。

 

「………………ファンちゃん、何してんのチミ」

 

少し目を離した隙に屋台へとへばりついていた。先程まで無かったからどうやら移動型の食い物屋らしい。塩水で冷やした鉄鍋の中で生クリームに牛乳と砂糖を混ぜて作った氷菓子を販売している。店の名は甘えん坊というようだ。筆で書かれたと思われる暖簾が掛かっている。

 

「い、いえ別に!初めて見る食べ物だなぁと思っただけで!」

 

「なにそれ!おいしそう!」

 

「見た事ない……」

 

吊られて2人の弟子も屋台に物欲しげな顔つきでへばりつく。瑞々しい輝きを放つ白い氷菓子に女三人は夢中になっていた。

 

「お前ら……みっともないからやめてくんない!俺がちゃんと食わせてないみてえじゃねえか!」

 

食欲がなかろうと腹一杯まで食わせてやっているというのに本当に失礼な連中だ。深夜の危険種の狩りの苦労を小一時間説明してやろうか。

 

「先生のご飯って肉とか魚とか小麦ばっかじゃん。こういうのは食べさせてもらってないよね〜」

 

ビキッと音が鳴るほどフェイルに青筋が立ち、ゴィンとチェルシーにゲンコツの音が鳴る。確かにフェイルの料理は美味なのだがガッツリ系ばかりではある。女子としては不満なのも分かる。

しかし四人分の食い扶持を一人で稼ぎ、料理を作っているフェイルに対してこの態度は殴ってしまっていいだろう。

 

「はぁあーーーっ!はぁあーーーっ!」

 

相当痛かったらしい。膨れ上がったタンコブを抱えて地面をゴロゴロ回っている。

 

「ハァ……オヤジ、それくれ。3つ」

 

「はいよ」

 

銅貨を三枚渡し、円錐型コーンに詰められた氷菓子を手早く3つ作る。手つきは慣れたもので瞬く間に出来上がった。

 

「ほらよ、溶ける前に食っちまいな。その代わり、今日の昼飯はそれだぜ、いいな?」

 

「はい、いただきます」

 

「師父、ありがとうございます」

 

「せ、先生……私にも……」

 

横たわりながらも腕を必死に伸ばし、氷菓子を受け取ろうとする。地面に叩きつけてやろうかとも考えたが、食い物を粗末にする訳にはいかない。クリームの先を俺が舐める。

 

「あーーーーっ!!」

 

「………………ほう、コレは珍味」

 

エディとの付き合いで甘味は何度か口にしているけれど、こんなに冷たく、甘い菓子は初めて食べた。帝都で売れば、コレはスイーツ界で革命を起こすかもしれない。

 

2人の弟子も同じ感想に至っているらしい。基本無表情のこいつらが目を丸くし、しげしげと白い氷菓子を見つめている。

 

「どうだ、美味いか?」

 

「………………驚嘆に値する。今まで生き残ってて良かった」

 

「そこまでか……」

 

「先生!もいっこ買って!私の分!」

 

「お前はコレだ」

 

ぐわしと親指と人指し指でチェルシーの顎を掴み無理やり口を開ける。そしてそのまま残った氷菓子を丸々一気に放り込んでやった。

放してやると暫く咀嚼し、額を抑える。冷たさが頭に来たんだろう。アレは痛い。

 

「どうだ美味いか?」

 

「つへはふてあひなんてわはんないはほ(冷たくて味なんてわかんないわよ)!!」

 

「悪い、何言ってるかわかんねえ」

 

唇を真っ青にしてフェイルに噛みつくチェルシーを焔の狼はケラケラ笑い、2人の黒髪の乙女もクスクス忍び笑いを漏らす。フェイルにイジメられる率が高いのはダントツでチェルシーだった。

 

「ほら。本当にもう戻るぞ。時間切れだ」

 

「はい」

 

「覚えておいてくださいよ先生!帰ったら絶対この埋め合わせしてもらいますからね!!」

 

「ん?リアクション芸人は熱湯じゃないと成り立たない?ああ、悪かったな。次はアッツアツのコーヒーをストローで飲ませてやろう」

 

「絶対やりませんからね!!このドS師匠ーーー!!」

 

背中から愛弟子の怒りと楽しさが混ざった叫びが聞こえる。タエコは俺に対してよくそんな事が言えるなぁと感心し、ファンは苦笑をもらしている。

そして気がつくと俺も笑っていた。挑戦的な笑みでも、嗜虐的な笑みでもない。心から愉快と感じての笑顔だった。

 

ーーーーそんな笑い方なんざ忘れたと思ってたのにな……

 

自嘲するようにもう一度笑みをこぼす。この笑みは何度か覚えがあった。しかし笑みに込める感情は三年前とはまるで異なる。

 

ーーーーありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。次回は舞台がようやくラクロウへと移ります。それでは感想、評価お待ちしています。挿絵に関してもお願いします。
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